モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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第五章 誇り高き狩人
ペンダントに誓う


 ジンオウガの狩猟から数日後。

 ディンに連れられ、朝早くからヤマトは加工屋へと足を運んでいた。日課である早朝の修行を終え、朝食をもぞもぞと食べている最中に唐突に現れ、「いいから早く来いよ」と急かされて来た為、あまり乗り気では無い。昇り始めた太陽がやけに眩しく、清々しいはずの空が無性にムカついた。

 

「おいディン、こんな朝早くから何があるって言うんだよ?」

 

「いいから待ってろって!」

 

 先程からずっとこの調子だ。普段からこの時間には起きている為眠いというような感情は無いが、ここまで何も知らされずに朝早くから連れ出されたら友人であれど多少の不可解な感情は抱くものである。尚、呼び出した本人であるはずのディンは加工屋の主人と共に奥へ引っ込んでしまっており、ヤマトからすれば声だけが聞こえる状態である。

 流石にそろそろ声を荒らげて呼んだ意図を問いただそうとしたその時、ディンが奥から勢いよく現れた。

 

「じゃーん!!」

 

 ──その姿は、今まで観ていた彼とは少し違った。具体的に言うなら、防具が一新されていたのだ。

 見覚えのある碧色に、所々あしらわれた勇猛な白い毛。差し色に使用されている赤が、その防具の高貴さを際立たせている。紛れもない、以前四人で戦った雷狼竜ジンオウガの素材を使った防具──ジンオウシリーズをディンは装備していた。

 

「……おお」

 

「おおってなんだよ!もっとびっくりしろよな!お前が最初だぞ、俺のこの新しい防具見るの」

 

「いや、かっこいいのはかっこいいんだが……」

 

「だが?」

 

「……ちょっと、悔しい」

 

 全身を覆う碧の鎧はお世辞を抜きにして見ても格好のいいものであり、あの恐ろしく強かったジンオウガの素材を使っている以上、その性能も折り紙付きであることは容易に推察できる。その防具一式は実際ディンには似合っていたのだが、それが逆に少しヤマトには悔しかった。格好いいものを先に取られた、という心は、男子共通なのである。

 

「……まあ、俺にはその防具は合わねえからな。スピードが命だし、その防具重そうだし」

 

「まあ、軽くは無いな」

 

「だろ?……だから、やっぱりお前がそれを着てる方がいい。うん、似合ってるぜ、ディン」

 

 半ば自分に言い聞かせるように呟くヤマト。そんなヤマトに向かって、ディンは何かを放り投げた。

 

「あとこれ!お前にやるよ」

 

 投げられたそれを空中でキャッチする。手にしたそれをよく見ると、それは──小さなペンダントだった。

 

「……なんだこれ?」

 

「ペンダント。よく見てみろよ」

 

 言われた通り、ヤマトはペンダントを凝視する。そして、とあることに気がついた──意匠が施されている、三つの石のようなアクセサリ。

 

「これ、もしかして」

 

「お、気がついたか?」

 

 石のような三つのアクセサリは、どこか見覚えがあった。一つは狗竜と呼ばれるジャギィ種の鱗のような色。一つは陸の女王と呼ばれしリオレイアの鱗のような模様。そして一つは今ディンが身に付けている防具と同じ、碧色。

 

「初めてお前と狩猟した時のドスジャギィ、初めて四人で狩猟したリオレイア、そして今回のジンオウガ。その時の鱗を加工してもらったんだ、俺とお前の絆の証にな」

 

 どこか遠い場所では、絆石っていう石を通して絆を確かめ合うこともあるらしいぜ、と続けながらディンは自慢げに鼻を鳴らした。ペンダントが風に揺れて、鱗の石同士がカランと音を立てる。

 

「お前、これを渡す為に最初に俺に見せたのか?」

 

「へへっ、まあな」

 

「……ありがとな。大事にするよ」

 

 ヤマトは少し照れくさそうに笑いながら、その場でペンダントを首から提げた。珠のように何か付けているだけで効果を発揮するようなものではないが、少しだけ強くなれた気がした。

 

「でも、なんで急にお前がこんなもの作ろうと思ったんだ?そういう柄じゃないだろ」

 

「お前俺の事なんだと思ってるんだよ……誇り高き狩人は友達に感謝のしるしを渡すもんなんだよ」

 

 ドンと胸を叩きながら胸を張るディン。しかしすぐにおちゃらけた雰囲気は消え、ほんの一瞬、真剣な空気が二人の間を包んだ。

 

 

 

「……俺さ、もうすぐベルナ村に帰るんだ」

 

 

 

「……今、なんて?」

 

 

 

 時が、一瞬だけ止まった。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「元々俺は龍歴院のハンターで、このユクモ村近辺の生態調査の為にこっちに送られてきたんだ」

 

 場所は変わり、ディンの住まい。そう遠くないうちに、空き家となるであろう場所である。

 

「ユクモ村近辺は基本的にジンオウガ以外に危険なモンスターはほぼいない、そのジンオウガも滅多に顔を出さない。そういうこともあって、新人の俺でも問題無い、レベルアップにも繋がるから行ってこい〜!って感じで送られてきてな。まあ、だから勿論いずれはベルナ村に帰ることは決まってたんだけど……」

 

「まあ、俺もそれは解っていたとはいえ……結構、急なんだな」

 

「ああ。本当はもっとここに滞在している予定だったんだけどな。色々と事情が変わった」

 

「事情って?」

 

「アマネさんが見たっていう未確認のモンスターの存在と、リオレイアやナルガクルガ、ジンオウガみたいな強力なモンスターが立て続けに渓流に出現したって事実だ」

 

 ヤマトの脳裏に過ぎる、傷だらけになって帰ってきたアマネの姿。思えばあれがアマネとの邂逅だった気がする。そしてリオレイア、ナルガクルガ、ジンオウガ……全て、ヤマトも相見えてきた強敵達だ。

 

「早い話が、新人の俺が太刀打ち出来るような状況じゃなくなっている可能性が高いって話だ。勿論、俺も報告書でチームハントでジンオウガを狩猟した、ってことは送ってるが、ここから先の生態調査は上位相当のハンターでないと厳しいんじゃないか、って話らしい」

 

「上位ハンター……アマネや、ロックスさんレベルってことか」

 

「ああ。特にロックスさんは龍歴院の方にも顔が利くらしく、暫くはロックスさんが俺の代わりに危険な生態調査を続けてくれるらしい。俺は龍歴院のあるベルナ村に一旦帰って、そっちの方でまた龍歴院ハンターとして動いてほしい、ってことだ」

 

 確かに、ディンは凡そ新人ハンターとは思えない程の実力を身に付けている。だが、それでもあくまで「新人とは思えないレベル」でしか無いのだ。危険だと思われる生態調査に一人で出向くことが出来るほどの、つまりは上位ハンター相当の実力を持っているかと言われれば、残念ながら首を横に振る他無いだろう。無理もない、上位ハンター等、全世界のハンターの中でもトップクラス、ひと握りの存在でしかないのだから。

 そして、その龍歴院の判断におそらく間違いはない。

 

「……寂しくなるな」

 

「なんだよ、そう思ってくれるのか?それこそお前、ヤマトらしくないじゃねえか」

 

「お前は俺のことをなんだと思ってるんだ……?」

 

 にしし、と快活に笑うディン。

 

「本当はまだあまり言っちゃダメなんだけどな?龍歴院の上の人達もまさかチームハントとは言え、飛竜種やジンオウガを倒せるほどに俺がレベルアップしたとは思ってなかったらしくてな……ベルナ村に帰ったら、今後の上位ハンター選考も視野に入れて龍歴院のトップハンター達のチームに入れさせてもらえるらしい。将来有望株だから、色々学べってさ」

 

「本当か!?」

 

「ああ、本当さ。俺はなるぜ、誇り高き上位ハンターに」

 

「……すげえじゃねえか、ディン。俺も負けてられないな、これは」

 

 上位ハンター、という名前そのものにヤマトはあまり興味が無かった。だが、アマネのその強さをその目で見て、あの強さが上位ハンターか、と衝撃を受けて。そして、目の前にいる友が、ライバルとも言える友が、将来的にそれを見据えて戦うことになっている。

 

「……俺も目指すぜ、上位ハンター」

 

 気が付けば、ヤマトはそう口にしていた。

 こいつには負けたくない。

 こいつがベルナ村に帰ったとしても、お互いに上位ハンターとなれば、何処かまた大きな世界の小さな狩場で、出会うことがあるかもしれない。背中を合わせることがあるかもしれない。

 

 アマネに追いつく為に。

 ディンと肩を並べる為に。

 

「このペンダントに誓うよ」

 

 初めて、「負けたくないから強くなりたい」と思った。

 

「……それで、いつ帰るんだよ?まさか明日なんて言わないよな?」

 

「そんなに早くねえよ、ただ一月以内には迎えの飛行船が来ると思う」

 

「そうか……リーシャやシルバにはもう言ったのか?」

 

「まだだ。このジンオウシリーズだって見せてないんだぜ?……てかあいつら、最近二人でいること多いと思わねえ?」

 

「そうか?……まあ、言われてみればジンオウガを狩猟してから距離は近くなったとは思うが」

 

「だよな、だよな!……出来てたりして」

 

「まさか」

 

「ははっ、まさかな!……俺さ、リーシャにもシルバにも会えて良かったと思うし、四人でチームが組めて良かったなって思うんだけどさ。やっぱり、一番最初にこの村で仲良くなれたのが、ヤマトで良かったなって思うよ」

 

「どうしたんだよ、急に」

 

「だってさ、俺達同い年じゃん?ハンターになった年齢も一緒でさ、実力も同じくらいだったわけじゃん」

 

「ガンランスと太刀じゃ実力を測るのは難しいだろ」

 

「まあまあ。だからさ、俺はやっぱりお前に置いて行かれたくなかったんだよ。お前、朝早くからめちゃくちゃ修行とかするじゃん?すげえかっこいいなって思ったし、同時に焦ったりもした。ある意味、お前って俺の思う「誇り高き狩人」だったからさ。……だから、俺も強くなろうと頑張ったんだぜ。ヤマト、お前がいたから俺は強くなれたんだ」

 

「……今日はとことんどうした?そんなこと言うなんて、柄じゃないだろ」

 

「お前こそ。どうしたよ、柄じゃないような顔しやがって……ぐずっ」

 

「うるせえな、鬼の目にも涙っていうだろ」

 

 二人の顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。ヤマトにとっても、ディンにとっても。初めて、同年代で同性の同業者の友だったのだ。

 

「……今日、泊まっていけよ。まだ昼どころか朝だけどさ。今日は二人で飲もうぜ」

 

「お前飲めないんじゃないのかよ」

 

「うるせえ。飲むんだよ、今日は」

 

 集会所でも酒は飲める。たとえ、狩りの前でなくとも、或いは狩りを終えた後でも。

 

 しかし、今日は二人だけで飲みたいのだ。

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