モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

59 / 61
凍土と魔術師

 

「ホットドリンク飲んだか?」

 

「ああ」

 

「自分で調合した元気ドリンコも持ったか?」

 

「ああ」

 

「よし、じゃあ狩猟開始(クエストスタート)だ」

 

 狩場、凍土にて。

 ヤマトはロックスと共に眠狗竜ドスバギィの狩猟に赴いていた。当然、これもロックスがヤマトに課した修行の一環である。

 今回ロックスがこの眠狗竜の狩猟を修行の一環として選んだのは当然理由がある。まず一つは先日調合を学んだ際にヤマトが作った元気ドリンコ。その効果をその身体で経験させることだ。二つ目に、ドスバギィは渓流には現れない、という点。ヤマトはユクモ村のハンターである為、基本的に渓流に現れたモンスターを狩猟するクエストを受注することが多い。無論、この凍土でも数回狩猟経験はあるが、渓流に比べて凍土での狩猟は圧倒的に「慣れていない」のだ。上位ハンターになれば、様々な狩場で臨機応変に狩猟をする必要がある為、敢えて渓流意外の狩場を選んだのである。

 

「ちなみにヤマト、ホットドリンクの調合に必要な素材は覚えてるか?」

 

「え?あー……とうがらしと……にが虫?」

 

「正解。ちなみに今俺達が飲んだのは調合製では無く店売りのやつ。ちょっと醤油の味がしただろ」

 

「あー……言われてみれば」

 

 バギィの索敵中であろうと、ロックスの調合クイズは止まらない。ヤマトも狩猟に置いて必要不可欠な道具の調合素材は覚え始めている。それを上手く調合出来るかどうかは、また別の話ではあるのだが。

 

 口の中にほんのり残るトウガラシの辛味とロックラック製ホットドリンク特有の醤油の風味を感じつつ、凍える大地を歩く。吹雪のような荒々しい風に視界が遮られるが、神経を研ぎ澄ませて鳥竜種の影、鳴き声を探す──

 

 

「…………見つけた」

 

「え、マジで?俺まだ見つけてないんだけど」

 

 

 ──先にバギィの群れを発見したのはヤマトだった。とは言ってもバギィの影を視認した訳でも、鳴き声を聞き取った訳でもない。遠くにある命の気配を察知したのだ。先のジンオウガとの戦いで、ヤマトの感覚は更に鋭く進化しつつある。

 

「この先、数までは正確に解らないが……間違いない。バギィだ」

 

「モンスターもびっくりな感覚神経してやがるなお前……これでも俺、ガンナーだから狩猟対象の気配察知は普通のハンターより出来るはずなんだが……」

 

 レウスSシリーズを見に纏い、ライトボウガン「神ヶ島」を背負ったロックスは遠距離からの狙撃でモンスターを狩猟する、シルバのようなガンナースタイルだ。遠方から攻撃する為、モンスターの気配を察知する能力や、視力聴力に関しては剣士ハンターよりも優れていると自負していたが、ヤマトの超感覚には敵わないらしい。

 

「まあいい、見つけたなら上出来だ。親玉のドスバギィがいるかどうかは解らんが、ドスバギィを狩猟する時に邪魔されても厄介だ。狩りに行くぞ」

 

「押忍。……ロックスさん、俺はどう動いたらいい?」

 

 ヤマトはこの狩猟で初めてロックスとチームを組む為、ロックスの狩猟スタイルが解らない。そもそもライトボウガンという武器がどのように立ち回るかすら知らないのだ。まずは自分がロックスの邪魔にならない立ち回りをする為、自分の立ち回り方をロックスに聞くのは当然と言える。

 しかし、ロックスの回答は普通のハンターであれば「当然」とは言えないものだった。

 

「あー、好きに動いていいぞ。俺は絶対誤射しねえし、多分だけどバギィだけならお前に傷一つすらつけさせねえから」

 

「……は?」

 

「だから、いつも通り動け。俺もお前がどんな立ち回り方するかは知らねえけど百パーセント合わせて援護してやる」

 

 そう言うとロックスは腰に着けている小さなポーチの留め具を外した。そしてポーチを開き、中の留め具を更に外す。するとポーチは瞬く間に腰に沿うように展開され、隠されていた八個のポケットが露となった。カラクリのようなポーチにヤマトは目を丸くする。

 

「んあ?これか?俺が開発した弾薬ポーチ。弾の種類毎に収納出来て、そのどれもが片手で取り出せる。取り出した後も片手で……ほら。元通りコンパクトに折り畳める」

 

 弾薬を数個取り出し、展開されたポケットを瞬く間に収納する。そしてライトボウガンを構え、中に弾を装填した。戦闘態勢は整った、と言わんばかりにリロードの音がガチャリと鳴る。

 

「……さあ、いつまでそうやって驚いてんだ。いくぞ」

 

「お、押忍」

 

 ロックスの「百パーセントお前に合わせる」という発言や、ビックリ箱のような弾薬ポーチに少し驚いてフリーズしていたが、すぐに脳を切り替えて感覚を研ぎ澄ませる。氷よりも冷たい空気の中で、少し汗ばんだ手で背中の太刀の柄を握り──狩人は、気配の先へ一直線に駆け出す。

 冷たい風が肌を刺す感覚に慣れ始めた頃、バギィの群れが気配だけでなく完全に視認できた。と、同時にバギィも自らを狙う殺気に気付き、ヤマトの方を見て威嚇行動を始める。

 

 そして──ヤマトの太刀が、射程範囲内に入った。

 

 

「──疾ッ」

 

 

 抜刀と同時に振り下ろされる神速の刃。最初の一撃は、何があっても逸らさない。たとえそれが小型で、すばしっこい鳥竜種であったとしても。

 振り下ろされた太刀はドスバギィの頭蓋を叩き斬り、一体を問答無用で黄泉へ送る。それと同時にヤマトを囲い込む残りのバギィの群れ。その数は凡そ八体程だろうか。ヤマトはすぐさま太刀を引き、肘を畳んで何処からの強襲であろうと最短距離で反撃、受け流しが出来る形を作る。

 いつも通り動いていい、とロックスが言うのであれば、ヤマトが取る行動はただ一つ。この数が相手なら初撃を受け流し、隙が出来たバギィから確実に一撃で葬り去るだけだ。囲い込んだ形を崩さずに縦横無尽に跳び回るバギィ一体一体の気配を、感覚を研ぎ澄ませて感じ続ければいい。そして最初の攻撃を──

 

 ──背後から感じる、「イレギュラー」の感覚。

 

「……っ!?」

 

 咄嗟に振り向いたヤマトが見たのは、背後のバギィが「突撃」の姿勢ではなく、「催眠液」を口から飛ばそうとしている姿勢を取っていた瞬間である。

 ヤマトにとっての鳥竜種とは渓流に生息するジャギィのイメージが強く、「鳥竜種は囲い込んでから突撃の形を取ってくる」という先入観で動きを組み立てていた。催眠液は受け流そうが、その身に付着した時点でアウトである。ヤマトは一瞬で身体を捻ろうと足を引こうとした瞬間──

 

 

 ──睡眠液を放とうとしていたバギィが、吹き飛んだ。

 

 

 一瞬、ヤマトも、そしてバギィも何が起きたかを理解出来なかった。ヤマトが一瞬身の危険を感じたその時には、その危険は消えていた。

 

 

 

「安心しろ!お前はお前のやり方でいい!催眠液が怖いならその素振りした奴は俺が全員撃ち抜いてやる!!」

 

 

 遠くから聞こえたのは、ロックスの声。先程のバギィが吹き飛んだのは、ロックスがピンポイントで狙撃したのだ。ヤマトは先程言われた、「バギィ程度だったらお前に傷一つすら付けさせねえ」という言葉を思い出す。

 

「……押忍!!」

 

 ヤマトは再度太刀を握り直し、七体のバギィ相手に今度こそ一切の油断や先入観無く構える。一瞬で意識外から一体の同胞が狩り取られたというのに、バギィは案外気にした様子も無くヤマトを囲い込んでいる。そして今度こそ、正面のバギィがヤマト目掛けて突撃した。ヤマトは太刀の峰を使ってそれを掻い潜るように受け流し、囲いから上手く抜け出す。そして背中ががら空きとなったバギィ一体を斬り伏せようと太刀を振りかぶるが……すぐさま両脇から一体ずつバギィが飛び出してきていることに気付き、足を引いて後ろに下がる。その瞬間、パシュンという乾いた音が響き、左から飛び出してきていたバギィが絶命した。その事に気付いたヤマトはすぐさま足を入れ替え、先程引いた一歩をもう一度踏み直す。そして右から飛び出してきていたバギィの喉元を一撃で突き刺し、そのまま振り払った。これで残るは五体。後ろをがら空きにしてしまったバギィはまだ今から狙える。そう判断するや否やヤマトは一歩目から全速力で踏み込み、四つめの命を狩りに向かう。

 再度鳴らされる、パシュンという音。二体のバギィの足元が狙撃され、弾が着弾すると共に地面を覆っていた氷と雪が飛び散る。その氷と雪がバギィ二体の目眩しとなり、走り出すヤマトの迎撃を不可能にした。その甲斐ありヤマトは一瞬で背中を見せていたバギィを一刀両断。いつの間にかバギィの数は半分以下になっていた。

 

 ──その時、ヤマトの感覚が何か巨大な気配の接近を知らせる。同時に、ロックスの声が聞こえた。

 

「ヤマト、来たぞ!ドスバギィだ!」

 

 その声に振り向くと、確かに吹き荒れる風の向こうにバギィよりも数回り大きな巨躯の鳥竜種──ドスバギィの姿が視認出来た。周りには取り巻きのバギィも数体いるらしい。今しがた戦っていたバギィ達も親分の登場を察知したのか、そちらの方へ走って向かっている。

 

「ドスバギィが相手だろうと関係ねえ、お前は動きたいように動け!バギィは俺が全部処理してお前をサポートする」

 

「押忍!…………参る」

 

「グォォォァォ、ァォオッ、コッ、ゴォア!」

 

 巨大なトサカは王者の印。凍土を荒らす鳥竜種の王。近付いてくる巨体に、少しの恐怖を覚える。冷たい風が原因ではないと明らかに解る、背筋の悪寒。然れど、その感覚は忘れてはいけない。たとえ上位ハンターになろうとも、その上の高みに辿り着こうとも、この「命を懸けている」感覚だけは忘れてはいけない。その感覚が、狩人を「人」足らしめているのだから。

 

 そしてその恐怖、悪寒に打ち勝つ為に、ヤマトは一歩を踏み出すのだ。

 

 周りの取り巻きには気にせず、一直線にドスバギィへ向かう。視界の端で、数匹のバギィが爆発で吹き飛ばされるのが見えた。恐らくはライトボウガンの徹甲榴弾だろう。そのお陰でドスバギィに辿り着く前にバギィ達がヤマトに飛び掛ることは出来なかった。

 

「っらァ!」

 

 横一文字に太刀を振り抜く。バギィとは違い、その巨躯、硬い鱗は一撃で身を引き裂く迄には至らない。ドスバギィは怯むこと無く大口を開け、鋭利なキバでヤマトを噛み砕こうとするが、ヤマトはすぐさま後ろへ引き、ガチンという歯がかち合う音が凍土に響く。一直線に走っていようが、ヤマトが前のめりになる事は無い。

 少しずつ、ボルテージが上がっていく感覚を感じる。更に研ぎ澄まされていく感覚。少しずつ支配下に置く殺意のコントロール。

 強者を相手にすればする程、ヤマトの秘められたテンションは上がっていく。

 

 そのヤマトのボルテージは、少し遠くにいるはずのロックスにも伝わっていた。

 

「面白い奴だねぇ……俺もサポートしがいがあるってもんだ」

 

 そう呟きながら放たれた徹甲榴弾は、一気にバギィ達を吹き飛ばす。

 上位ハンター、ロックス。共に狩猟した経験がある者は皆口を揃えて「まるで自分が強くなったのではないかと錯覚する程に狩猟がやりやすかった」と言う程のサポート能力と狙撃能力を持ち合わせたライトボウガン使い。

 

 

 又の名を──魔術師。彼の砲口から放たれる弾丸は魔術のように、味方の動きを活かし続ける。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。