モンスターハンター 〜舞い踊る嵐の歌〜   作:亜梨亜

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 モンスターハンターXXが発表されましたね。ブレイブスタイルかっこいいなぁ……


孤島を照らす太陽

 エリア5でのロアルドロスとの戦いは熾烈を極めていた。

 

 ヤマトが比較的安全である背後から尻尾を、アマネが注意を引く為に正面からロアルドロスを攻撃する。ロアルドロスも正面のアマネに向かって引っ掻き、噛み付き、水球を放つ。時たまヤマトが邪魔なのか尻尾を振るう。アマネは勿論のこと、ヤマトも次第にロアルドロスの攻撃を躱すことに慣れ始め、二人共大きなダメージは受けずに立ち回っていた。

 しかしヤマトは少しずつ自分の動きが鈍ってきていることに薄々気付いていた。あの水球を受けた時に身に着けている防具がびしょ濡れになっているのだ。ユクモシリーズは鎧というよりは道着。水を吸ってかなり重くなっており、普段よりスタミナが削られる。更にそんな濡れた道着を着ているのだ。先程から体が冷えている。

 

「クッソ……!」

 

 対するロアルドロスは、頭は冷えて怒り状態ではないようだが、疲れている様子が全くと言っていいほどない。竜車の上でスタミナが多いモンスターだとは聞いていたが、あれだけ剣撃を浴びせていてそれでもあの動きというのがヤマトには信じられなかった。

 それでもダメージは通っているはずだ、と信じながら太刀を振るうヤマト。しかしその太刀を振る速度も少しずつ落ちてきている。

 

「クソッ……!」

 

 それでも無理矢理腕を上げ、太刀を振り下ろす。しかし、その攻撃はロアルドロスの尻尾に当たらず、地面を叩いた。足下の水が跳ね上がる。

 

「!?」

 

 尻尾に攻撃が当たらなかった理由。それはロアルドロスが尻尾を振り上げたからだ。そしてロアルドロスが尻尾を振り上げた理由。それはヤマトを吹き飛ばす為である。ヤマトはすぐさま回避に移ろうとした。が、

 

「ガッ……!」

 

 完全に回避し切れずに足に攻撃を受け、転んでしまう。当然のようにまたもや水浸しだ。

 

「ヤマト!!」

 

 アマネがヤマトが転んだのを見て咄嗟に双剣を仕舞い距離を取り、アイテムポーチを探る。そして手のひら大の玉を思い切りロアルドロスの眼前へ放り投げた。

 瞬間、辺りを途轍もない光が包んだ。投げると玉の中に大量にいる光蟲が驚き、一斉にとんでもない光を発し、モンスターの目を眩ませる道具、「閃光玉」だ。転んだヤマトを追撃しようとしたロアルドロスの目を眩ませる目的で投げられたそれは、見事に役目を果たしていた。

 

「んなもん持ってるならもうちょい先に使ってくれても良くねえか……?」

 

 転んでいた為目を潰されずに済んだヤマトはロアルドロスの状況を見て閃光玉を使ったことを理解し、ふとボヤいてしまった。

 当然ながらそんなボヤきはアマネの耳には届いてはいない。目が見えず、あたりをキョロキョロしながら適当に尻尾を振り回しているロアルドロスはアマネからすればカモでしかない。全力で走り出し、両手の剣を抜いてまたもや連撃を浴びせる。ヤマトも重い体を必死に動かしながら、動き回る尻尾をなんとか斬りつけていった。

 

 そしてロアルドロスの目が見えてきた頃、変化が訪れた。

 鬣が萎んでいる。そしてロアルドロスの口からポタポタと涎が滴り始めたのだ。ロアルドロスの鬣は水を貯め、その水で攻撃をする。その水が切れ始めると鬣が萎むのだ。更に涎が垂れているということは、驚異的なスタミナを誇るロアルドロスにもとうとうスタミナ切れが訪れているということだ。

 

「やっとかよ……!」

 

 ロアルドロスは一度スタミナを回復させたいのか、エリア5から移動しようとし始めた。それを追おうとするヤマト。しかし、アマネはそんなヤマトに待ったをかけた。

 

「おい、なんで……」

 

「いいから」

 

 そうこうしているうちにもロアルドロスはエリア5を離れてしまった。恐らく何処かで水浴びをして水を貯め、スタミナ源を確保するのだろう。そうなるとまた厄介になるのは目に見えている。だからこそヤマトは追いかけ、確実にダメージを与えるべきだと考えたのだ。

 

「服、重いんでしょ。ちょっとでも乾かすわよ」

 

 そう言いながらアマネはポーチに入っている細々とした部品を取り出し、組み立てていく。そして長めの鉄の棒に生肉をぶっ刺し、組み立てた装置の上に乗せた。

 肉焼きセット。ハンターの必需品だ。モンスターの生肉を焼く為に使われる装置で、数十秒焼くだけで生肉がこんがりと焼ける程の火力が出る。

 

「肉焼きセットの炎で服を乾かすわよ、あと砥石で太刀研いだ方がいいかも」

 

 アマネはヤマトが服の重みで満足に戦えないことを見抜いていたのだ。ロアルドロスと戦う前まで本当に強いハンターなのか半信半疑だったヤマトだが、今は完全に考えを改めていた。

 チームハントなら仲間の状況を確認することは普通なのだろうが、初めて共に狩りをするハンターの好調、不調を見抜けるハンターはそういない。更になぜ満足に戦えていないのかの原因まで見抜くのだからアマネは相当な実力者だろう。しかも彼女はそれを見抜きながらロアルドロス相手に一歩も引かずに大量のダメージを与えているのだ。更に彼女に目立った大きな傷は無い。

 

「テッテレ、テテテテッテレ、テテテチャカチャンチャカチャン……」

 

 今目の前で肉を焼く時にこんがり焼く為のタイマー代わりとなる曲を口ずさむ彼女は、本当に強いハンターなのだ。

 

「上手に焼けましたっと。どう?乾いた?」

 

「そんなすぐには乾かねえよ。……体は温まった。サンキュ」

 

「いいのよ、お礼なんて。……どう?初ロアルドロス」

 

「正直むちゃくちゃ強え。アンタが居なけりゃもうネコタクシー使ってる」

 

 ヤマトは率直な感想を述べた。予想しているよりずっと強い。まだ渓流の中型とも大型ともつかないモンスターしか狩ったことのなかったヤマトにとってはかなりの強敵だった。

 

「ふふ、そうね。でも大丈夫。アナタの攻撃はしっかり効いてる筈よ」

 

「だといいんだがな。……肉、冷めるぞ」

 

 ヤマトの言葉を聞いて「あ、やば」と呟き肉にかぶりつくアマネ。その光景を見ると、今この空間がついさっきまで大型モンスターとの生死を賭けた戦いが行われていた場だということを忘れてしまいそうであった。

 アマネが肉に夢中になっている間に、ヤマトは太刀を砥石で研ぎ始めた。何発か弾かれたりしているのだ、斬れ味が少し落ちていてもおかしくない。ヤマトは太刀を研ぐと共に、自分の集中力も研ぎ澄ませていった。

 

「ご馳走様。研ぎ終わった?」

 

「ああ、念の為の応急薬も飲んでる。万端だ」

 

「オッケー、行こうか。エリア2で水浴びしてる筈、一気に決めに行くわよ」

 

 荷物をまとめエリア2へと向かう二人。ロアルドロス戦、第二ラウンドが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人がエリア2に到着した時、ロアルドロスは既に水浴びを終えていたのか、膨らみきった鬣と共に二人を威嚇した。それはスタミナの回復を意味している。

 

「さて、ここから本気で行くわよ」

 

「今までは何だったんだよ」

 

「常に本気よ、私は」

 

 先程の小さな休憩時間を挟んだからか、ヤマトも軽口を叩くことが出来るくらいには回復していた。文字通り第二ラウンド。二人と一体は同時に走り出した。

 ロアルドロスの突進を咄嗟にヤマトは右、アマネは左に躱す。左右に分かれた獲物のどちらを狙うか、ロアルドロスは一瞬迷った。そして狙ったのはヤマト。前脚の爪を振り上げる。それを見た瞬間、ヤマトは尻尾側へ回避。振り下ろされた爪は届かずに空を切り、ヤマトの反撃の一撃は尻尾に綺麗に決まった。

 そして間髪入れずにアマネが鬣を斬り裂く。ロアルドロスは呻き声を上げながらアマネに注意を向け、噛み付こうとするもすぐにアマネは後ろに引き、ガチン!という歯の音しか聞こえない。

 

「ギァァァアア!!!」

 

 痺れを切らしたのか、ロアルドロスが怒りの頂点に達した。そして何を思ったのか急にエリア2を縦横無尽に適当に走り回り暴れ回り、至る所に水球を放ち始めた。近付くことが出来ず、動きに規則性が無い為、攻撃を躱すことに精一杯だ。

 しかしその水球が乱れ飛ぶ中、ロアルドロスに向かって全力で走り出す何かをヤマトは見た。鬼人化状態のアマネだ。攻撃を正確に躱しながら、確実にロアルドロスとの距離を詰めていく。

 そしてロアルドロスが少し疲れたのか暴れるのを止めた途端、鬣から大量の血が噴き出し、アマネは既にロアルドロスから離れていた。一瞬の内にどれだけ攻撃を浴びせたのだろうか。鬣が所々剥がれ落ちるようになっている。

 

「グォォォア!!」

 

 アマネを狙うのは得策でないと感じたのか、標的にヤマトに絞るロアルドロス。その巨体を跳びあがらせ、ヤマトに向かって突進を繰り出してくる。

 しかし、ヤマトの集中力はここで最大となった。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

 ロアルドロスが着地する前に地面スレスレを走り抜け、ロアルドロスの下を潜る。そしてロアルドロスが着地した時にはヤマトは背後をとる形になっていた。そして己の錬気を解き放ち、一回転して尻尾を斬り裂く。太刀の必殺技とも言える、鬼刃大回転斬りだ。

 

「まだまだァ!!」

 

 回転で崩れた姿勢のまま、更に太刀を振るうヤマトのその姿勢は、自然と腰が引かれる形になっていた。「太刀」の必殺技ではなく「ヤマト」の必殺技が炸裂する。その一撃は吸い込まれるように尻尾に向かっていった。

 

 ズパァン、という気持ちのいい音が響きながらロアルドロスの尻尾が斬り飛ばされた。今までヤマトが与えてきたダメージは、無駄ではなかったのだ。体の一部が吹き飛んだ痛みに、ロアルドロスは思わず体をくねらせ倒れ込んでしまう。

 

「行けっ!アマネ!!」

 

「言われなくとも!!」

 

 無理な姿勢で攻撃をしたヤマトはそのまま地面を滑り、華麗に転ぶ。それとすれ違うかのようにアマネが本日何度目かの鬼人化状態で突撃、そしてやっと立ち上がったロアルドロスを踏み付け、飛び上がりながら回転、双剣を振りまくる。ロアルドロスの背中から大量の血飛沫が上がり、アマネの頬が紅く染まる。ロアルドロスは予想外の上からの攻撃に怯み、アマネに隙を見せた。

 

「ヤマト、追撃準備よろしく!!」

 

 そう叫びながらアマネはなんとロアルドロスの背中に乗り、武具の素材となるモンスターの毛や鱗を剥ぎ取る為のナイフを突き刺し、ロアルドロスを攻撃し始めた。なんとか振り落とそうとするロアルドロス。それを無視して攻撃を続けるアマネ。

 ヤマトは本日何度目かの驚きに襲われていた。あんな狩猟法、見たことも聞いたこともない。モンスターを踏み付けて跳躍し、モンスターの上から攻撃。そして隙を見せたら上に乗り、ナイフで突き刺す。出鱈目にも程がある。

 

 やがてロアルドロスの方が我慢比べに敗北、足をもつれさせ転んでしまった。驚きはしたがこのチャンスを逃すヤマトではない。研ぎ澄まされた集中力は太刀筋に現れ、面白いように斬撃がロアルドロスの肉を裂いていく。

 

「これで……止めだっ!!」

 

 横一文字に振り抜かれる太刀。進行方向へ引かれる腰。その一撃は、怒涛の攻撃を受け弱っていたロアルドロスを葬るには十分すぎる一撃だった。

 

「やった……か?」

 

「ええ、やったわ」

 

 迸る水流のようなモンスター、ロアルドロス。それを初めて狩猟したヤマトの心の中は歓喜や頑張った、という達成感ではない。「生きていた」という安堵だった。目の前で息を引き取ったモンスターは俺を狩ろうとした。俺はこのモンスターを狩ろうとした。そしてその結果、俺が生き残ったのだ。

 

 そしてアマネという実力者がいなければおそらく勝てなかったであろう強敵に、感謝と尊敬の念を込めてロアルドロスの素材をナイフで剥ぎ取り始める。

 

 ロアルドロスが水浴びをしていたであろう、小さな滝。そこには、孤島を照らす煌びやかな太陽の光が反射していた。まるで、二人のハンターと一体のモンスターを照らすように。




 水獣ロアルドロス戦、終了。

 第一章はもう少し続きます、お付き合い願います。

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