船に乗り、港へ帰って来た二人。すっかり夜も更けているが、港は酒を肴に騒ぐ漁師達で賑わっていた。
「今から村まで帰ろうにも竜車が無いわね、多分」
一度ベースキャンプに戻って軽く手当てをしてから船に乗った為、時間はかなり遅くなっている(クエストの制限時間は余裕たっぷりだった)。この時間からユクモ村まで乗せてくれる竜車を探すのは不可能だろう。
「どっかで宿でも取るか?」
「あら、真面目ね。私は朝まで飲むつもりだったんだけど」
そう言いながら目を動かし、美味しそうな酒、ご飯を探すアマネ。ヤマトはまじかよ、と溜息を付きながらユクモノカサを取り、首からかけた。
「……あんま財布に余裕がある訳じゃねえから。安くて美味い店、紹介してくれよ」
その言葉を聞いてアマネの目が輝いた。一人で飲み歩くより、二人で飲み明かす方が楽しいに決まっている。
「いい所があるの、ビールが安くてご飯が美味しいとこ」
歩くこと五分少々。如何にも飲み屋通り、といった通りのうちの一軒に入ったアマネとヤマト。中はかなり明るく、席もかなり埋まっている。客の殆どは地元の漁師だと思われるが、中にはヤマトやアマネの様に武器や防具を携えている者もいる。恐らく、いや、確実に同業者だ。
「おお、アマネちゃん!なんだ、ロックスとは別れたのか?」
「違うわよ、彼はただの同業者。席空いてる?」
「おお、空いてるぞ!好きなとこ座ってくれや」
店主らしき男がひょこっと顔を出し、アマネと軽く話をする。それを見る限り、アマネがこの店の常連であることが解る。アマネとヤマトは奥のテーブル席に腰掛け、ウェイターにビールを二つ注文した。
「港の居酒屋はどこも魚が美味しいのよね、お酒が進む進む」
「帰り、竜車だからな。飲み過ぎんなよ」
間もなくビールが運ばれ、そのついでにアマネが幾つか食べ物を注文した。ウェイターがペンを走らせる。
「さて、ロアルドロスの狩猟成功を祝いまして……」
「「乾杯!」」
ジョッキをぶつけ合い、ビールを口に運ぶ二人。狩猟を終えた自分へのご褒美であり、自分から自分へ送る成功報酬。喉を通る冷たいビールは、ある意味回復薬よりも体力を回復させてくれるのだ。
暫し無言でビールを呷る二人。すると食べ物が幾つか運ばれてきた。サシミウオのカルパッチョ、ポッケ野菜のサラダ、丸鶏の唐揚げ。キノコと山菜の炒め物もある。
「ほら、ご飯も来たわよ」
そう言いながらサシミウオのカルパッチョを頬張るアマネ。新鮮な魚と玉葱、そして酸味のあるソースが絡み合う。この店で必ず最初に食べるメニューだ。
ヤマトはポッケ野菜のサラダを箸で一つかみし、口へ運んだ。寒い気候の中、強く育った野菜は普通の野菜よりも甘みがあり、果物ドレッシングがその味を引き立てる。成程、確かにこれは美味しい。アマネが推す理由も理解出来た。
「美味い」
「でしょ?結構安いのよ」
アマネが注文していた料理はやはり海鮮系が多かった。そしてその一つ一つが新鮮であるため、どれも絶品だ。
「この鮭、美味いな」
「あ、私が食べようとしてた最後のヤツ……」
二人はしばし料理に舌鼓を打ちながら、喧騒に紛れていた。
腹も膨れ、皿を軒並み空にした頃。おかわりのビールが運ばれ、二人は二杯目を呷った。
「前の怪我した時は家まで送ってくれてありがとね」
「気にすんな。俺も今回の狩りで助けてもらってる」
「それもそうね。……でも貴方、そろそろ防具は変えた方がいいわよ。ユクモシリーズは軽くて動きやすいけど、ロアルドロス級のモンスター相手だと防具の役割をあまり果たせない」
「ああ、今回の狩りで実感はしたよ……ただ、他に軽い防具って何があるのか解らねえし」
ヤマトはジョッキを口につけ、軽く傾けた。よく冷えている。
「モンスターの素材で作れる防具は、どれも見た目より軽いわよ。例外もあるけど」
ボルボロス、ウラガンキンとかね、と例外のモンスターを挙げながらアマネは自分のハンターノートを捲る。
「特に軽いのはナルガクルガとかだけど……これはヤマトにはまだ早いかな」
「……まあ、考えてみるさ」
そう言いながらヤマトはまだ皿に残っている酒のつまみを食べる。
「そういやお前のあの動き、なんなんだ?モンスターを踏んでジャンプしたり、上に乗ったり……」
「ああ、あれね。私が編み出した空中戦法。貴方こそなんかすごい斬り方してたでしょ」
「あれはとある武術の応用だ。覚えさえすりゃ誰にでも出来るさ」
「いや、あんなの私だって初めて見たわよ……そういえばヤマトはどうしてハンターに?」
アマネもまだ残っている酒のつまみに箸を進める。つまみが無くなった。
「ユクモ村にハンターが少ない、ってのが理由。どうせなら村の役に立てる方がいいだろ。アマネは?」
そう言うヤマトの目は嘘をついているように見える。少なくともアマネの目にはそう映った。しかし、あまり詮索するつもりも無かった。
命を賭けてモンスターを狩る、途轍もなく危険な仕事なのだ。何か特別な理由があってハンターをしている者も沢山いる。その理由を話したくない者も今まで何度も見ている。
「私はお父さんがハンターだったからかな。その姿に憧れて私もハンターを目指していた」
「意外と普通だな。……武器も親父さんと同じなのか?」
「普通で悪かったわね。お父さんの武器は大剣だったわ。私には重くて無理」
大剣「だった」。アマネがそう言ったということは、アマネの父は既にハンターでは無いのだろう。引退したのか、はたまた……死んだのか。それを聞く勇気はヤマトには無かった。代わりに無くなった酒のつまみを注文する。
「ハンターになってそこそこ歴はあるんだろ?なんか、聞かせてくれよ。狩りの話」
アマネの父について考えていても仕方がない。そう思ったヤマトは話題を変えた。実際、あんな出鱈目は戦法を使いこなす実力者の話には興味があった。
「いいわよ。そうね……じゃあ、折角だし私が初めてロアルドロスを狩りに行った時の話をしましょうか」
喧騒に紛れ、二人の狩人は朝まで語り合った。
早朝、とある竜車の上。
「うええええ、気持ち悪いぃ……」
「お前マジでバカだろ、マジで」
朝まで語り合った二人は、当然ながら相当な量の酒を飲んだ。アマネもヤマトも酒にはすこぶる強い方なのだが、アマネが軽く酔っ払い、「アタシが払ってやるわよぉ!!」の叫び声と共になんと居酒屋での料金をアマネが全払い。そして竜車か探しているうちに酔いが醒めてきたらしいのだが、竜車は何せ揺れるのだ。案の定気分を悪くして、吐きそうになっているのだ。
「てかヤマト、あんた私と同じペースで飲んでたわよね……うぇ、何で大丈夫なの」
「酒にやたら強くてな」
「羨ましいわ……」
顔を青くしてぐったりしているアマネと全く同じペースで飲んでいたヤマトはというと、驚く程普通の顔をして竜車に乗っている。とんでもなく酒に強いらしい。
「もうちょいで着くから吐くなよ?」
「努力するわ……」
既にユクモ村の名物である温泉の湯気が遠くに見え始めている。村まであと少しだが、アマネの限界もあと少しである。
「早くぅ……着いて……うぅ」
あと一話で第一章も終わり。この章ではもう狩猟は......無いかな。
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