「ほんと悪いわね……またおぶってもらっちゃって」
「背中に吐かなけりゃもういいさ。帰ったら水飲んで寝ろよ」
竜車がユクモ村に到着した頃、アマネはリバース、までは行かなくともほぼ限界だった。歩くことすらおぼつかなく、結局初めて会った時と同じく、ヤマトがアマネをおぶって家まで送る、という展開になっているのである。
以前も通った橋を渡り、落ちていく紅葉を眺めながら、ゆっくり歩く。以前は傷に響かないように、とゆっくり歩いていたが、今回は背中に吐瀉物がかからないようにゆっくり歩く。
「ここ真っ直ぐだったか?」
「あー……うん、そう……あら?あの子」
「んあ?……あ」
ボーッとした目でアマネが見つけたのは、ヤマトの幼馴染みであるリタだった。ヤマトも気付くが、手は塞がっているから手を振れない。おーい、と声をかけることにする。声に気付き、振り向くリタ。ヤマトを見るや否や走ってヤマトへ近づいていく。
「あ、ヤマト!!おかえ……」
しかし、その足はヤマトがおぶっているアマネを見るや否や止まった。
「ヤマトのバカ!死んじまえっ!!」
そして途轍もない速度で走って逃げ出すリタ。それを見て何となく察したアマネと、呆然としているヤマト。紅葉は相も変わらずヒラヒラと落ちている。
「……なんなんだ」
「あんた、結構鈍感なのね……」
アマネを家に帰して、一人家までの道を歩くヤマト。日はかなり昇っており、人通りもかなり多くなってきている。
この時間から今日の稽古をするのは無理だな。リタはなんであんな怒ってたんだ?そういや完了報告はしたけど報酬はアマネがヤバイからまだ貰ってないんだっけ。
体はかなり疲れているはずなのだが、頭の中はかなり動いている。防具、また見に行かねえと。
頭の中でそれ程色々なことを考えていたからだろうか。
「……」
そこにいたリタに気付くのが遅れてしまった。
紅葉は相も変わらずヒラヒラと落ちている。
「……家まで行っていい?」
相当怒っているトーン。ヤマトはその理由が解っていないが、逆らってはいけない気がした。
「……おう」
二人で、並んで歩く。
紅葉は相も変わらずヒラヒラと落ちている。
空は青い。本日のユクモ村は晴天らしい。
「……怪我は?」
「してない……って言っちゃ嘘になる」
「強かったんだ、ロアルドロス」
「ああ。アマネがいなけりゃヤバかった」
「……そう」
なんでコイツはこんななのよ。
リタの心の中は暴風雨である。
しかし、ヤマトの言葉が正しいのであれば、アマネがいなかったらヤマトは大怪我をして帰って来ていたかもしれない。帰って来なかったかもしれない。ヤマトは良くも悪くも平等であり、鈍感なのだ。色眼鏡で物事を見るような男ではない。つまりヤマトの言うことは事実なのだろう。そう思うと、アマネに対する感謝の気持ちも生まれてくるのだ。
リタの心は暴風雨である。
「痛む所、ないの」
「ハンター御用達、回復薬はすげえぞ。傷の回復がメチャクチャ早い」
ハンター御用達。その言葉すらリタの心をモヤモヤさせる。
私はハンターではない。アマネはハンターである。ハンター御用達の回復薬の効果を共感することすら、彼女には出来ないのだ。
紅葉は相も変わらずヒラヒラと落ちている。
「……機嫌悪いな」
「……別に」
ぶっ倒してやろうか、コイツ。
「……その、なんだ」
「なに」
「いつも悪いな。心配かけて」
「……」
唐突に言われた言葉。思わずヤマトを見たリタの顔は紅潮していたが、ヤマトはそんなリタの顔を見てはいない。彼も素直に言うのが少し恥ずかしかったのか、ヒラヒラと落ちる紅葉を見ていた。
リタの歩調が少し速くなる。鼓動も共に。
「……疲れてるでしょ。朝ごはん作ってあげる」
「サンキュ。悪いな」
「それくらい全然いいよ」
さっきの言葉で機嫌を直したことを悟られないように、わざとぶっきらぼうに答える。
リタの心に晴れ間が差した。
やがてヤマトの家が見えてくる。おそらく彼の家に大した食材は無いだろう。少しでも私のあげた野菜が残ってたらな、美味しいもの作れるんだけど。
それを確認する為にヤマトより先に家に入る。
そして家に入った時に思い出した。
まだその言葉をきちんと口にしていない。
「おかえり。……無事でよかったよ」
やっとの自宅、という思いがあるのだろう。少し疲れた表情で家に入ったヤマトは、投げかけられたその言葉に笑みを浮かべた。
「ただいま」
リタの心は快晴である。
「後で温泉行こっか」
「おう」
紅葉は相も変わらずヒラヒラと落ち続けている。
「良かった、野菜割と残ってる」
その日の朝食は彼女にとって、特別な、特別な…
今回はかなり少なめですね......前と繋げることも考えたんですが、アマネとリタで分けたかったので。
次回からは第二章。キャラもどんどん増やしていきたいと思います。
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