もうひとつのサンシャイン!! 【完結】 作:Kohya S.
「いよいよだね」
千歌は地区予選の会場となるホールを見上げた。
「とうとう来たね」
果南が隣に立つ。
東海地区の予選の舞台は名古屋だった。ドーム球場にはおよばないものの、一万人は入るホールでおこなわれることが、ラブライブ人気をあらわしていた。
予選は午後からだが、千歌たちは事前の打ち合わせやリハーサルのため、早めに到着していた。浦の星女学院の生徒たちはあとから鞠莉の用意したバスで来ることになっている。
「緊張するずら」
「ルビィも……」
「ここから緊張してたら、いくつあっても足りないわよ。緊張禁止!」
「そういう善子ちゃんも、足が震えているずら」
「こ、これは武者震いよ」
とうとうここまで来たんだ、と千歌は思う。
秋葉原のときは0人だったけど、こうして予選に参加できる。それだけでもすごいことかもしれないけど……せっかくだもん、予選、突破したいな!
「千歌さん、スピーチの準備はばっちりでしょうね」
右手を小さく握りしめた千歌に、ダイヤがたずねる。
「うん、昨日、梨子ちゃんと曜ちゃんと、しっかり練習したよ。まかせといて!」
「期待しておりますわ」
微笑むダイヤ。曜は親指を立ててみせ、梨子はうなずいた。
「それじゃあみんな、Let's go!」
鞠莉がびしっと会場を指さした。
Aqoursのメンバーは広い会議室に案内された。すでに三分の一ほどの席が他校の生徒たちで占められていた。
千歌たちは空いている席に座る。各席には書類と緑茶のペットボトルが置かれていた。
だんだんと部屋はうまっていった。各グループとも明るくおしゃべりしているが、千歌にはただよう緊張感が感じられる気がした。
東海地区の参加グループは24グループ。そのうち上位3グループが本選に進める。
やがてひとりの男性が部屋の端に立った。スクリーンにラブライブのロゴが映し出される。
「みなさん、おはようございます」
元気よく答える生徒たち。
「今日はわざわざお集まりいただき、ありがとうございます……」
その男性は今日の予定を説明していった。大きくは午前中にリハーサル、午後に本番という流れになる。
またイベントは二部構成で、一部では各校の学校紹介、休憩をはさんで二部でライブだった。
「すでにお知らせしていますが、各校の学校紹介は制服でおこない、最大一分です。配信の都合上、これをオーバーするとその時点でカットされます」
千歌は梨子、曜と視線をあわせてうなずきあった。
「各グループの発表順、演奏順は、先日お伝えした通りです」
順番は予備予選の成績にかかわりなく、主催者の抽選で決められていた。Aqoursは強運ぶりを発揮したのか、最後から二番目を引き当てていた。
学校紹介とライブ映像は編集で結合され、後日ネットで配信されるが、生配信も同時におこなわれる。その意味で順番も重要だった。
神様も味方してくれてるよね。きっといける。そう千歌は思う。
「それでは、いったん控室に荷物を置いていただき、十時にステージにお集まりください」
生徒たちはばらばらと席を立った。
リハーサルではまず学校紹介の順番を確認していった。ただ、実際にスピーチをおこなうことはできなかった。
続けてライブのリハーサル。各グループとも数分の持ち時間で、ステージの広さや照明の位置――いずれも事前に連絡はあったが、現地で見るのとはどうしても異なる――を確認していった。
Aqoursのメンバーたちもステージに上がった。
「ふえー、広すぎずら」
花丸は周囲を円形にかこむ観客席を見渡していた。
「ほら、ずら丸、緊張禁止!」
たしかにいままでに踊った秋葉原のイベントや、予備予選にくらべると桁違いに広い。
でも、と千歌は思う。最初の……三人しかいなかった体育館のほうが、ずっとずっと怖かった。あのときもなんとかなったんだから、きっと今回も大丈夫。
千歌はあたりを見渡す。みな真剣に互いの位置を確認したり、広さを歩数ではかったりしていた。梨子も曜となにか話している。
うん、今日は、ちゃんと九人いるから。
「それでは、通しで試してみますわよ」
ダイヤの合図で、Aパート、Bパート、サビをそれぞれ踊ってみた。
「うん、円形だからちょっと特殊だけど……練習した通り、いけそうだね」
果南が満足そうに話した。
Aqoursは次のグループにステージをゆずった。
休憩時間には弁当が控室まで届けられた。ごく普通の仕出し弁当だったが、「本物のアイドルみたい!」とルビィはいたく感心していた。
イベントの開始時間が近づきメンバーたちは化粧をして準備した。
司会の挨拶につづいて、第一部の学校紹介が始まった。千歌たちは控室で待つ。ステージのようすはモニターに中継されていた。
μ'sからの伝統だろうか、それぞれが抱えている悩みや課題について紹介する高校も多く、千歌は
あっ、私たちよりも、ちいさな高校もある……。
そっか……みんな、全国でこうやって、それぞれ輝いてるんだ。それぞれの夢に向かって……。μ'sや
だから今日も、精いっぱいやろう!
「そろそろ移動、お願いします」
スタッフから声がかかった。
「はーい!」
千歌が代表してこたえる。メンバーみんなが、はげますように千歌に微笑んでみせた。
「みなさん、こんにちは!」
千歌が話し始めた。九人はステージに横一列に並び、千歌が中央だ。
「私たち、静岡県、沼津の内浦というところから来ました、浦の星女学院スクールアイドルグループ、Aqoursです!」
全員で一礼する。千歌は続けた。
「私たちの浦の星女学院は、年々、生徒数が減って……廃校の話が、持ち上がっています。……まるで、μ'sみたいですよね」
千歌が肩をすくめると、観客からも笑いが上がった。
千歌は微笑みを浮かべながら続ける。
「……内浦は、すごくいいところです。きれいな海があって、みかんがたーくさん取れて、街の人もみんな優しくて……でも、どうしても、すこしずつ人は減っています」
千歌は言葉を切った。
ちょうど正面、中段のあたりに、浦の星女学院の横断幕がかかっていることに千歌は気づいた。胸が熱くなる。
観客席は静かに続きを待っていた。千歌は口を開く。
「……私たちががんばれば、入学生が殺到して、学院が存続する……そんなことは思ってません。あ、もし、そうなれば嬉しいけど……」
頭をかく千歌。隣の梨子と曜はうなずきあった。
「だからせめて、私たちは内浦のことをもっと知ってもらいたい、浦の星女学院という学校があったことを、みんなに知ってもらいたい。そう思っています。だから今日は、精いっぱいがんばります!」
千歌たちメンバーは姿勢を正す。
「よろしくお願いします!」
全員でそういって頭を下げた。
観客席からの拍手はことのほか温かいように、千歌には感じられた。
第二部が始まった。
メンバーたちはステージ衣装に着替え、あらためて化粧をととのえて待った。
控室から確認するそれぞれのグループのパフォーマンスは、予備予選よりもさらにレベルが高かった。どのグループが通過してもおかしくない、そう千歌は感じた。
千歌はごくりと唾をのんだ。
「私たち、通用するのかな……」
曜が不安そうにもらす。
「うん、みんながんばってる。きっと、私たちよりも練習してるチームも、たくさんあるわ」
なまじそれぞれのグループのことを知ったせいか、梨子の顔もくもった。
そのとき、重い空気を吹き飛ばすように鞠莉が明るくいった。
「ええ、どのチームも、シャイニーよね! でも、Aqoursは負けてないわよ!」
「そうだね、どこよりも楽しんでる。その自信はあるよ」
「そうですわ」
にこりと笑う果南とダイヤ。
「お姉ちゃん……」
ルビィはそんな姉を見て嬉しそうに微笑む。
「オラも、楽しみずら」
「今回、ずら丸の作詞だもんね。いい曲になったと思うわよ」
「えへへ、ありがと、善子ちゃん」
「今日も大勢、堕天させてあげるわ。ラブライブに降臨よ」
いつの間にか重苦しい雰囲気は消えていた。千歌はほっとする。
「Aqoursのみなさん、そろそろでーす」
スタッフが顔を出した。
千歌たちはステージ裏に移動した。スタッフからタイミングについて、もう一度指示があった。指示を終えるとそのスタッフも下がっていった。
千歌は小声で話す。
「いい、みんな?」
うなずく全員。
「さあ、行くよ!」
円陣を組み、L字型に開いた右手の指を、全員でひとつの輪にする。
「ゼロからイチへ!」と千歌。
人差し指をイチの形に。
「アクアッ!」
千歌の掛け声に全員が続く。
「サーンシャイーン!」
声とともに指を天に向かって突き上げた。
ちょうど前のグループの曲が終わった。
「つづいては、浦の星女学院、Aqoursです。曲は『MIRAI TICKET』……どうぞ!」
アナウンスにこたえて、千歌を先頭に、メンバーたちはステージへ向かった。
全員がまぶしいような笑顔だった。
今日のために花丸と梨子が作った曲だった。衣装は白を基調としたタキシード風で、曜がデザインし、ルビィや果南などほかのメンバーが手伝って仕上げた。
メンバーたちは円形のステージをうまく使って踊った。どこからみても、どこもが正面になるように――。
曲にあわせて会場は盛り上がった。浦の星の応援席は青いサイリウムで統一されていてよく目立った。ただ、それだけでなく、会場全体が浦の星を応援してくれている――そんな気が千歌にはした。
間奏、千歌は思わず叫んだ。
「みんなーっ、いっしょに、輝こう!」
大きく振られるサイリウム。会場全体がすこしずつ青く染まっていった。
次の千歌のソロから、最後のサビへと曲はつづいた。会場の盛り上がりは最高潮に達して――全員の大ジャンプのあとのポーズは、ぴたりと決まった。
われんばかりの歓声のなか、無我夢中で歌っていた千歌は我に返った。
私、どうしてあんなこと、いったんだろう。でも……輝けたのかな、私たち……。
いつまでも鳴りやまない拍手が答えだった。
夏休み最後の日。
鞠莉たちは部室に集まっていた。いよいよ地区予選の結果発表が迫っていた。
ノートパソコンの前には鞠莉が座り、メンバーはそのまわりで思い思いの姿勢で待っている。
「あー、気になるよー」
千歌は頭を抱えた。
「落ち着いて、千歌ちゃん」
梨子が優しく背中をたたく。
「そうですわ。泣いても笑っても、もう結果は出ているのですから」
そういうダイヤの手元の扇子は、裏表が逆だった。
「あーもう、気になるなあ。ちょっと走ってくる!」
「果南さん、いまから出たら間にあわないよ」
曜がとめる。
「じゃあ体育館でいいや!」
果南は部屋から出て行った。
「受かりますように、受かりますように……」
善子は黒いマントに身をつつみ、
「部室で火を使うとあぶないずら」
「今日だけは、許してあげようよ」とルビィ。
「来たわ!」
鞠莉の声に全員がまわりに集まった。果南も駆け寄ってくる。
鞠莉は東海地区の結果へのリンクをクリックした。いつもよりもずっと遅く、じりじりとページが表示されていく。
「……第一位、ウィローズ」
はあっとため息がこだまする。
「第二位、イーズーエクスプレズ」
ごくり、と唾をのむ音がした。
「そして……第三位、ア……」
「ア……?」
「アカフクエンジェルス……ですわ」
部員たちは落胆の表情で、ばらばらに床や机に突っ伏した。
「ダメか……」
千歌の小さな声が聞こえた。
ん、でもね……。鞠莉は内心でそうつぶやき、別のウィンドウをクリックする。
そこには学校説明会への応募状況が表示されていて――15人が参加を希望していた。
しっかり、ゼロがイチになったわ、千歌っち。
パタン、と扇子を閉じる音がした。
「結果は残念でしたが……。今日も練習、やりますわよ。……
「はいっ!」
ダイヤの言葉に全員が唱和する。
鞠莉は、メンバーたちの顔に、吹っ切れたような輝きを見たのだった。
同時刻、北海道札幌市。市街からすこし離れた山の手に立つ高校。
Saint Snowのふたり、
まわりには大勢のスクールアイドル部員が控えている。
「来た」
聖良がつぶやく。
北海道地区予選の結果ページが開く。通過グループはわずかひとつの狭き門だが、Saint Snowは予選を突破していた。
パソコンをのぞき込んでいた部員たちから歓声が上がった。聖良はかすかに笑みを浮かべた。
喜ぶ部員たちを尻目に、すぐに東海地区予選の結果へ移る。
ページが開くと、聖良の顔がくもった。
「当然の結果だわ」
理亞が吐き捨てるようにいった。
聖良は別のウィンドウを開く。そこではAqoursの「MIRAI TICKET」が再生されていた。
今回はおよばなかったか、と聖良は思う。次はどうなるかな……。
聖良はなぜか、自分たちをA-RISEに、Aqoursをμ'sになぞらえてしまうのだった。
ふたりはじっと動画を見続けた。
翌日、始業式。
たいくつな校長の話が終わり、教頭があとを引き継ぐ。
「これから、教室に戻ってホームルームのあと、今日は終わりになります。みんな、いつまでも夏休み気分を引きずらないように。では、解散」
教頭がステージから降りると、二年生のなかから千歌がたったとステージに駆け寄り、ぴょんと飛び乗った。
本来なら放課後に校内放送を入れることになっていたのだが――。
「また、千歌さんったら、ああやって私物化して……」
鞠莉の横でダイヤがあきれたようにつぶやく。
「まあ、いいじゃない。式は終わってるし」
鞠莉はウインクする。
「えー、みなさん。Aqoursです。先日、ラブライブの地区予選に参加して来ました! 結果は、知ってると思うんだけど……」
千歌が話し出した。
「残念だったね」「よかったよ」と生徒たちから声があがる。
「ありがとう! それで、結果報告会を、今日の放課後、ここ体育館でやります! よかったら、みんな来てください」
ぱらぱらと拍手が上がった。
「ついでに、未発表の新曲もやります! 高海千歌でした!」
千歌はステージから飛び降りて、二年生のところへ戻る。梨子と曜が、千歌に話しかけるのが見えた。
生徒たちは教室へと去っていく。
「へーっ、新曲だって」「ちょっと楽しみじゃない」
そんな声が聞こえ、鞠莉は嬉しくなった。
放課後、体育館のすぐ隣の部室に集まった鞠莉たちに驚きが待っていた。
「ちょっと、これ、どうなってるの……」と梨子。
体育館は、全校生徒の人数をはるかに超えて満員になっていた。どう見ても高校生ではない大人や子供の姿もある。校庭からは車の音が聞こえてきた。
「わ、私にもわからないよ」
千歌が首を振った。
「千歌、ごめん!」
よしみ、いつき、むつの三人が部室に入ってきた。
「Aqoursの新曲、っていうことで、生徒たちが、家族を呼んだみたい。そこから芋づる式に広がっちゃったらしくて……」
部員たちは顔を見あわせた。
こんなに、広がってたのね。私たちのところから始まった輪が……。
鞠莉は全員を鼓舞するようにいう。
「いいじゃない、せっかくのchanceよ! 聞かせてあげましようよ、とびっきりシャイニーな、私たちの曲を!」
「うん!」
千歌が大きくうなずいた。
鞠莉たちは千歌を中心にステージに広がった。
千歌が話し始める。
「みなさん、わざわざ来てくれて、ありがとうございます。名古屋地区予選は、残念ながら、合格できませんでした」
しんみりとした空気が流れた。
「でも、みんなのおかげで……浦の星のみんなや、街のみなさんのおかげで、あそこまで行くことができました。応援、ありがとうございました」
まばらな拍手が始まり、やがて体育館全体を包んだ。
その拍手は鞠莉の心を温かくつつんだ。
きっと千歌も同じだったのだろう。ぺこりと頭を下げてから続ける。
「今回は結果を出せませんでしたが、私たちは、走り続けます。輝きに向かって……だから、これからも応援、よろしくおねがいします!」
ふたたび大きな拍手が上がった。
千歌っち、大きくなったね、と鞠莉は思う。これなら、廃校もなんとかなるかもしれないわ。私たちに、できなかったこと……。
それになにより、千歌っちにはお礼をいわなきゃ。もしあのままだったら、私と果南、ダイヤはずっと……。
鞠莉はあふれそうになる涙を懸命におさえた。
「今日は、新しい曲をご紹介します。まだまだ振り付けも完璧じゃなくて、衣装もできていないけど……本選のために用意していた曲です」
千歌は鞠莉たちメンバーを見渡した。全員がうなずく。
「この曲で、私たちは、次のラブライブを目指します! 聴いてください! 『君のこころは輝いてるかい』!」
お読みいただきありがとうございました。ラストはやはり、この曲で締めたいと思いました。
つたない出来ではありますが、ご感想、ご評価等、お待ちしております。