Fate/Grand Order 終結戦雄界戦 WW2   作:MRO

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アバンタイトル

 193X年、世界は再び戦争に呑み込まれつつあった。

 あらゆる国が国益のために全てを賭ける世界大戦。人類史において、ただの二度のみ記録されるその二回目に。

 世界を包む開戦にラッパは吹かれない、鏑矢が放たれることもない。

 合図など無くとも、各国指導者達は最早きっかけを待つのみと理解していた。国境付近での小競り合いはもちろん、前回のオーストリア皇太子のような要人の暗殺、果ては外交文書のすれ違いでさえ世界にはその“きっかけ”となり得たのだ。

 なにが原因だったかなどもはや誰も理解してはいない。ゆえに回避のしようもない。

 

 繰り返すが、世界は迎えつつあったのだ、新たな世界・時代の幕開けとなる世界大戦を。

 そして当事者たちの知り得ないところではあるが、人類史最後の英雄大戦を。

 

 

 

 が、それを阻まんとするものが現れた。

 阻むといっても戦争を防ぎ、平和を世界に齎そうなどという意味ではない。むしろ全くの逆で、彼らは時代を巻き戻したかのような装備・戦闘方法をもって、新時代の引き金を待つ世界へ宣戦布告したのだ。

 そう、彼らが阻んだのは戦争ではない。むしろ全くの逆で、開戦は早まり、戦火はより広範囲へと及んだ。

 ならば、彼らは一体なにを阻もうと言うのか。少なくとも、全く予期しなかった形で新たな大戦を迎えることになった世界に、それを知る由は無かった。

 

 

 

  ◇

 

 

 男が壁に向かい佇んでいる。正しくは、壁に貼られた細長い島国の地図を見つめている。その顔には苦悩と疲労の色が濃い。そしてその表情が欧州の島国(ブリテン)とは違い異民族の侵略を許さなかったこの国が、今初めて蹂躙の屈辱を味わおうとしているという事の深刻さを表している。

 夥しい数の勲章をぶら下げた軍服が本来の華やかさを失っているのも、それが原因だろう。

 この部屋も同じだ。美しい紋様のカーペットに楢の無垢材の長机は、本来はこの部屋が幕僚や外賓の会談のための一室である事を十分に証明している。

 しかし机の上の見事な陶芸品や造花は片付けられ、色とりどりの大きな窓ガラスには厚くカーテンが垂れている。部屋を照らすガラス細工の照明もどこか光が弱まったように見えた。

 

「参謀総長、定刻となりました」

 

 部下の声を聞いた男は、ゆっくりと出席者の方へと向き直る。振り向いた顔がいたって冷静を装っているのは、部下たちを不安がらせまいという上官としての気遣いなのだろうか。

 ゆうに三桁はいる出席者だが、男の様に多くの勲章を付けていることから皆かなり高い階級の軍人なのは間違いない。幾らか空いた席があるがそれは男の想定内なのだろう、欠席者を確認することなく口を開く。

 

「うむ。それではこれより、第一回特例会議をはじめる。」

 

 言い終わると同時に一つ手が挙がる。

 

「なんだね」

 

「一つよろしいでしょうか。この会議には中将以上の者は皆集まると聞いていました。まだ揃っていないようですが?」

 

「言い忘れていたか。そのつもりであったが、既に前線の指揮を執っている者や輸送作戦を遂行中の者が現場を離れることはできないとのことだ」

 

 返答から事態の深刻さを読み取ったのか、発言者は質問を続ける。

 

「なんと、もうそれ程の規模になっているのですか……」

 

「その報告を先ずはしようか。参謀本部は樺太北部に奴らが出現したのを確認後、動かせる師団を幾らか投入した。しかし、敵の想像を絶する猛勢と戦闘能力に圧倒され、北海道はほぼ制圧された。…………本土上陸も時間の問題だ」

 

 これ程の大敗の報告は予想外だったのだろう、居並ぶ将官にどよめきが広がる。

 

「敵は銃器もろくに持たない旧式に過ぎる軍と聞いています! 得体が知れぬとはいえその程度の武装の軍に敗れたのですか!」

「もしや敵軍には兵器が効かぬ、という噂は本当だったのですか?」

「なにを馬鹿なことを! 敵は妖怪などではない、人間なのだぞ」

 

 机を叩く者、立ち上がり質問を飛ばす者。厳粛であるはずの席が、明らかにされた戦報により喧騒に変わる。

 敵軍の本土侵略。この島国が有史以来一度として許さなかったことが、今目前に迫っているのだから仕方ないのだろう。

 

「静かにし給へ。ここからが本題なのだぞ」

 

 それでもやはり軍の上に立つもの達だ。男の一言で落ち着きを取り戻す。もっとも、混乱や焦燥で染まった表情まで落ち着かせることはできなかったようだが。

 

「……それでは本題に入る。もはや噂となり広まってしまったようだが――その通りだ。敵軍には銃、爆薬といった兵器がほとんど効果がない。多少痛がる程度で斃れも怯みもせずに向かってくる。かつてない敵だ。それゆえにこうして諸君らを集め、迎えるであろう本土決戦に備えようとしているのだ」

 

 告げられたのは、あってはならない真実。今度は皆騒ぐような真似はしない。憶測を飛ばしあった先ほどとは違い、確定した事実を前に覚悟を決めて迎えるべき戦いに思案を巡らせているのだろう。

 しかしそれは真実崩壊の序開きだった。人類が血に塗れながらも築き上げてきた戦いの技術、ひいてはそれを取り込み磨き上げられた文明そのものの。

 そして物理的な話で言えば、日本軍の高級軍人が集うこの会場の。

 

 爆裂音と衝撃が建物中に響き渡り、動揺する室中に鬨の声が雪崩れ込んだ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「この時代の将とはこれほどにも脆いのか……。これも時代の移り変わりというやつなのだろうな」

 

 先刻まで日本軍指揮系統の最高部だった者たちの屍を前に、紫槍の男はひとりごちる。

 男のきらめく金の長髪に整った顔立ちが、撒き散らされた死体と血、そして闊歩する武骨な兵たちで満たされた部屋で異彩を放っている。

 今回この男は騎士の長としてではなく、一人の戦士として召喚された。そのため純粋に武を競う一騎打ちも期待していたのだろうが、残念ながらそれは望めそうにないようだ。

 

「将がこれでは残った兵士も推して測るべき、というやつか……。しかしライダーめ、こんな超遠路の行軍をこの私に担当させるとは。道中敵に全く見つからなかったあたりは流石だが、疲労で私の輝きが翳ってしまう」

 

 疲労が蓄積するような存在ではないはずだが、男は不満そうな顔で愚痴をこぼす。

 

「ライダーが美しい女将軍なら喜んで酷使もされようが……あの様な生真面目マンではなぁ」

 

 男は喋り続けながら、合いの手を求めるように周りの兵士をチラチラ見ている。しかし恐ろしく嫌われているのか、はたまた

 ()()()()()()()()()()()()()なのか、兵士達は反応する素振りすら見せずに黙々と槍で屍を突いて回っている。生き残りなど一人も許さないつもりなのだろう。

 先程までの猛り、戦闘に興じていた様とは打って変わって機械的に作業をこなす姿には、どこか生命を感じさせない異質さがあった。

 話し相手など期待出来ないとわかっているだろうに、溜息一つついた後、男はまた独り言を始めた。

 

「この任務もサーヴァントを三騎も下に付けてくれると言うから楽になると思っていたが、うち二騎がバーサーカーとは……」

 

「あら、(わたくし)のような美麗なる貴人に不満があるのですか、ランサー?」

 

 ところが、突如として男に言葉を返すものが現れた。開いている扉から一人、明らかな場違いが姿を見せる。

 確かにランサーと呼ばれた男は部屋の中で目立っていた。しかしそれはあくまで「目立っている」だけであり、その屈強な体つきはランサーが周りの兵士と同じ武の人であることを物語っている。

 

 それと比べて今現れた少女はあまりにも「場違い」なのだ。十歳前後に見えるか細い体を体重の数倍ありそうな重厚かつ艶やかな和装で覆い、きめ細かく手入れされた黒髪は腰の辺りで束ねられている。

 その姿はまさしく雅な姫君、といったもので間違ってもこんな血生臭い戦場に居ていいものではない。

 ただ、彼女から発せられる尋常ではない魔力と()()()()()()流れる水が、彼女がまた違う意味で周りと異なる存在だということを感じさせている。

 

「いやいや、貴女のような美麗かつ可憐な貴人の騎士ができることは光栄だとも、アヴェンジャー。私の不満はバーサーカー二人の方。貴女のような美幼女は、むしろ私にとって護るべき姫君。私の戦いに必要な人だ。……あ、かといって私に、素敵な騎士様、的な恋心は抱かないように。美と美の出会いは悲劇を生むのでね」

 

 アヴェンジャーと呼ばれた少女の顔が呆れた、といったものに変わる。

 

「それはあり得ないので心配する必要はありません。…………あと幼女扱いは止めなさい」

 

 話しかけてしまったのは失敗だったか、とアヴェンジャーは思いつつも、立ち去るわけにいかず話を続ける。

 

「ですがバーサーカー二人はどちらも大英雄格に相応しい能力。戦闘では私よりも役に立つでしょうに」

 

「と思うだろう? だが騎士団長として言わせてもらえば、制御困難な猟犬なんてとても戦力とは呼べない。 戦いでは一番槍として駆け回り、宴会では的確なツッコミで私の冗談に華を添える。 優秀な騎士とはそういうものだ。 ――――あと女性関係のトラブルを起こさなければ尚良いかな。 ハハハ、冗談だよ、少し陰口的なね」

 

 アヴェンジャーの顔に少し軽蔑の色が混ざる。

 

「……あなたが生前優秀な部下に恵まれていたことはよくわかりました。ところで、こんなところで立ち話をしていてよいのですか? 他にも仕事があるのでは」

 

 話を切りたくて仕方ないといった風なアヴェンジャーの適当な一言。しかしどうやらその通りらしく、ランサーの顔が「やってしまった」という表情で固まる。

 

「図星ですか。早く終わらせてきなさい」

 

 ランサーの硬直と反対に、アヴェンジャーの顔に心なしか解放感のようなものがひろがる。

 

「あー、これはしまった。一番大事なことを忘れていた。これも貴女との会話が楽し過ぎたせいかな」

 

「あなたが呆けただけですよ」

 

 もはや完全にイタイものを見る目であるが、ランサーは気にしない。

 

「ハハハ、これはキツイ! 老いる前の美しく聡明な私のはずなのだがな」

 

 そんな軽口を叩きながら扉へ向かっていたランサーだが、すれ違いざまに振り返る。発せられたのは先程までの会話とは違う、鋭い声。

 

「しかし――――よいのかな? 貴女の復讐の対象を、私が殺ってしまっても」

 

 ランサーの伏せられた目から感情を読み取ることはできない。しかしその真剣な声と内容は、アヴェンジャーにさっきまでのあしらうような態度を許さない。

 

 だが、

「ふふ、なにを勘違いしているのですか? あの者のような一個人を殺す事が私の復讐? ――――断じて違います。私が消さなくてはならないのはあの者の奥に隠された、その威の大元。 あのような非力な端くれではありません」

 

 アヴェンジャーの顔に浮かぶのは、この歳の少女が作れてはいけない残酷な笑み。

 うねりを増す禍々しい魔力とその歪んだ口元に気圧されたのか、はたまた思うところがあるのかランサーは押し黙る。しかしそれも一瞬で、またすぐに顔を前に向けて歩き出す。

 

「ここの兵達は貴女に任せる。――――それでは私は頂きに行くとしようかな。この国の皇の首を」

 

 そう宣言する声にもう鋭さはない。かわりに噛まれた唇と槍を強く握るその指は、しかしアヴェンジャーの目に入ることはなかった。

 

 

 

  ◇

 

 

 

「ふむ、練度自体は悪くない。いや、むしろかなりよく訓練されてると言っていいな」

 

 ランサーがアヴェンジャーと別れてさほど時間は経っていない。しかしランサーの周りには、先程の会議室と同じように軍人の屍が転がっている。日本で最も不可侵なその場所も、ランサーにとっては敵の拠点の一室でしかなかった。

 ただ、ひとつ違う点はこの部屋の中央奥には巨大な椅子が置かれてあることだ。

 そして恐怖のあまりかその椅子から立つこともできない男。本来なら日本で最も神聖な彼に、ランサーは穏やかに告げる。

 

「騎士として。いや、一人の男として彼女(アヴェンジャー)にあまり大きな業を負わしたくないんだ。あっさりと殺されてもらうよ」

 

 淡々とした口調だが、込められるのは百戦錬磨の殺意。

 次の瞬間にはこの国の最高権力者は物言わぬ死体へと変わる。同時に信仰の対象でもある彼の死は、本腰を入れた反撃を画していた日本を瞬く間に崩壊させるだろう。

 そう、彼こそランサー達が最も消したがっていた者であり、日本がなんとしても逃さなくてはならない者だった。

 将官達の死が軍の指揮系列の死を意味するなら、彼の死は国の信仰の死を意味するのだ。

 

 間を置かず、紫の槍が無慈悲に眉間へと迫る。この一撃で、真実この国は敗れ去る。

 そうして、この世界を支えている柱の一つが折られるその時――――突如突き出された()()()()()()が紫槍を弾いた。驚愕の表情のランサーだが、反応は間に合わない。今度は体勢を崩したランサーの眉間へと、意表をついた槍が疾る。

 だがランサーは一つの物語が作られるほどの騎士。すんでのところで体を反らして刺突を回避し、そのままバク転のような形で距離をとる。

 

「ほう、油断はなかったはずだが――」

 

 そうランサーが声を掛けた先には、どこから現れたのか一人の戦士が皇を護るかのように立ち塞がっている。

 

「気配遮断のアサシン、はたまた私と同じ槍のランサーといったところかな」

 

 確かに今現れた戦士がサーヴァントである事は疑いようがない。

 真っ黒の肌に獣皮の腰布を巻いただけという出で立ちは、どう見てもこの国の人間ではない。なによりその威風は、まだ青年に見える肉体から発せられるにしては明らかに年不相応である。

 ランサーが感じたのは荒々しいまでの王威。それは民を力で統べ、戦いに身を投じ続けた暴君ともとれる者が持つ王威である。少なくとも二十歳程度の青年が身に纏えるものではない。

 つまりそれは目の前の戦士が、全盛期の肉体に晩年の記憶を宿すサーヴァントであることを示している。

 

「そう言うお前は分かりやすいな。無駄に煌めく金髪と顔に、率いるケルト人の戦士。そして襲撃時から時折見せる親指舐め。――――フィン・マックールで間違いないな」

 

 槍を構えたまま戦士が放った最初の言葉は、あろうことかランサーの真名看破。世界中に名が知れ渡っているサーヴァントにとって、真名を知られるということはそのまま弱点を知られることにつながる。

 故に出会い頭に真名を知られたランサー――フィン・マックールは、大きなアドバンテージを取られたことになる。

 しかし彼に動揺はない。それどころか笑みをその顔に広がらせている。

 

「どうした?その笑みは余裕のつもりか?」

 

「いやいや、そんなつもりはないさ。ただ嬉しいのさ、若い姿の(この)私も後世に残ったのだと知れてな。それに――」

 

 瞬間、笑みは消え、代わりに確かな気迫が放たれる。

 

「君はここで討ち取られるんだ。真名が知られようが関係ない――その首級、フィオナ騎士が団長フィン・マックールが貰い受ける。譽れとせよ!」

「取れるものならな!」

 

 二人は同時に床を蹴り、紫の槍と獣牙の槍が激突する。互いに探り合い程度の一撃なのだろう。それでも強大すぎる力の激突に、木張りの床が軋み、硝子の照明が音を立てて砕け散る。

 初撃は互角。故にその衝突は繰り返される。一合、二合、三合…………未だ椅子から立つことができない皇、つまり一般人から見れば速すぎる彼らの刺突は、まるで紫と牙の面に見えるだろう。

 だが、当の二人は数秒撃ち合う間に気付いている。視界に占める紫の割合が多いことに。早くも獣牙の槍は押し込まれ、受けの形に入っている。

 どうやら純粋な槍術においてはフィンに大きく分があるようだ。

 

「どうした、さっきの言葉は虚勢だったのか?」

 

 激しい打ち合いを続けながらも、そんな声を掛けるフィンの顔には余裕の色が見える。

 油断しているわけでも、手を抜いているわけでもない。ただこのまま打ち合えば、確実に自分が勝つ。そういう意味での余裕。

 加えて、

 

「そんなに疲弊した体で、この私と渡り合えると思ったのか?」

 

 フィンの言葉通り、戦士は激突前から消耗していたようで、すでに大きく息が上がっている。そんな状態でランサーに該当する英霊の中でも、かなり上位の槍術を持つフィンを相手取るのは、どのような英霊でも厳しいだろう。

 

「そんな防御じゃ穴だらけだぞ、こことかなッ!」

「チィッ!」

 

 とうとう紫槍が獣牙の守りを弾き、戦士の体へと到達する。

 肩を掠った程度だが、獣牙の戦士は仕切り直そうと思ったらしく、後ろへ跳び下がる。

 しかし逃すフィンではない。後退を予期していたのだろう。すぐさま距離を詰め直し、着地の瞬間を狙い渾身の一撃を放つ。

 直撃すれば即死。防御が間に合っても大ダメージは避けられない一撃に、未だ跳躍中の戦士は唇を噛む。

 

 そして、激突の瞬間―――ー

 

「『悪しき竜、屈し改めよ(イェロ・コルセオ)』!」

 

 フィンのものでも戦士のものでもない、凛とした女性の声が響き渡る。

 同時に戦士を貫くはずだった紫の槍は、主人の体諸共突如現れた黒い帯でがんじがらめにされていた。

 

「助かった」

 

 そう声を掛けた先にいたのは一人の女性。

 使い古した白のローブで体を覆い、フードで顔の半分ほどを隠している。フィンを拘束した能力から見て取れるように、彼女もサーヴァントであることは疑いようがない。

 

「無茶をしすぎです。宝具を使いっぱなしのそんな身体でまともに戦えるわけないでしょう。アーチャーの指示を忘れたのですか?」

 

「第一優先は皇の救出。敵サーヴァントとの交戦は避けろ、だろ?戦わざるをえなかった、というやつだ」

 

 うんざりといった顔で答え、縛られ転がされているフィンへ視線を戻す。口にまで帯が回っているフィンは、声を発することもできないでいる。

 

「で、こいつはどうする?かのフィン・マックールだ。ここで確実に討っておいた方がいいと思うが」

 

 息を整え、身動きの取れないフィンに止めを刺そうと槍を向ける戦士。しかし女は首を横に振る。

 

「いえ、その真名が本当なら私の宝具はそこまで効果を発揮できていないはずです。恐らくすぐに破られます。不用意に近づくのは危険ですよ」

 

「じゃあ今のうちに逃げるか……おい!お前もいつまでも座ってないでさっさと逃げるぞ」

 

 突然大声で呼ばれたことで、椅子の皇は我に帰る。

 

「な……どこの誰ともしれぬそちらに朕の身をあずけよと言うのか?」

 

「時間がない、さっさと行くぞ」

 

 いうがいなや獣牙の戦士は皇を脇に抱え窓から飛び降り、女もそれに続く。

 

 間を置かず帯を破ることに成功したフィンが後を追う、しかしもはや三人の気配は残り香さえなかった。

 

「ふぅ、参ったな。まさかの任務失敗とは……我が主になんと詫びたものかな?」

 

 状況に不釣り合いな朗らかな声で一言そう呟くと、フィンもまた部屋から消え去った。

 

 たしかに皇を逃したという点ではフィンは失敗しただろう。ただこの襲撃で、日本はその戦闘力を大きく失った。それは建物中に残された将官達の屍と、受け手が死んでもなおも鳴り続ける電話が物語っていた。

 

 しかし今この時から、戦争は日本対謎の軍勢にサーヴァント対サーヴァントの構図が加わることになった。

 

 ここに人類史最後の英雄大戦は、未来を賭けた戦いとして幕を開けた。

 

 

 

 

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