今から二十数年前。あるひとつのニュースが当時の世界を震撼させた。それは、
ーー魔族特区だった絃神島が世界最強の吸血鬼『第四真祖』の
当時、絃神島は世界から破壊されそうになっていたが、第四真祖が島を守るために自分の国としたのだ。
初期は色々とゴタゴタがあったようだが、今や暁の帝国は世界の最先端をいく先進国となっている。特に科学面に関しては世界一になるまで成長していた。
ほんと、昔と比べて随分と進歩したよな。
◇◇◇◇◇
俺こと比企谷八幡は自分で言うのもあれだが平凡とは言い難い人生を送ってきた。
まず俺の両親が平凡ではない。お袋は千葉県有数の名家のお嬢様で、親父は貿易関係の会社それも大企業の社長をやっている。
親父の会社が大企業なのはある取引相手の存在が大きい。それは暁の帝国の皇帝一家。つまり会社は第四真祖とその家族達と直接交易しているのだ。親父が言うには親父は元々絃神島の人間で第四真祖とは友人同士だったらしい。細かいことは知らん。
そういうことで俺は物心がつく前からしょっちゅう親父に連れられ暁の帝国を訪れていた。
だが親父は仕事だ。ずっと俺のそばにはいられない。そのことを案じた親父はとんでもないことを言い出した。
「八幡を古城の子の遊び相手にしよう」
友人とはいえ皇帝にそう言ったのだから、今でもこのことを聞くと親父の無鉄砲さに頭が痛くなる。
皇帝こと暁古城さんは自分の子供が女の子で俺が男だからと反対してたようだが、どうやらその子供が俺と同い年だったことと妃が賛成したこともあって、結局遊び相手になることを許した。
その日々のことは今も鮮明に覚えている。親父と共に帰るたびに二人してよくぎゃん泣きしてたっけ。二人で遊んでたら気づけばもう一人加わってたこともあったっけ。
親父曰く、俺達はとても仲が睦まじくて古城さんが悔しそうにしてたらしい。
彼女とは長い付き合いだったが、俺達が小学校に上がってから会う機会はどんどん減っていき、小学校中学年を最後に会うことがなくなってしまった。
あの時の別れ際、二人でした約束は成長した今でも忘れることはない。
その後、俺が天然の異能力者である
俺の能力は『
俺が過適応能力者だと分かると、周囲は未知への恐怖から俺から距離を置きはじめた。最初は一部の保護者だけだったが、やがてそれは子供達へと波及していく。
「なあ、」
「来るな化け物! 」
それまで普通に話してた相手からも避けられたことは小学生の俺にはかなり堪えた。
それから俺は死に物狂いで能力を使いこなして、親父のツテで過適応能力者になった時から目指していた攻魔師の訓練を受けたりした。
過適応能力者になった時から学校では孤立し、完全なボッチだったが俺は訓練にのめり込むことでそれを気にしないことにした。
小学校、中学校でボッチだった俺は高校でもボッチから抜け出せることはなかった。高校は過適応能力者への偏見はなかったが、入学式当日に事故に遭い、退院した時にはすでにグループが出来ていて俺に入る場所はなかった。
◇◇◇◇◇
季節が巡ってまた新しい春が訪れる。
俺は高校二年生になったが何も変わらないと思っていた。この日までは。
「えー、突然ですがこのクラスに海外から留学生が転入してきます」
始業式の日、HRで担任がこう言ってきた。
「でも先生、集会では何も言われませんでしたよ」
「それはその子にギリギリまで内緒にしてほしいって言われましたので。でも日本語が堪能なのでコミュニケーションには問題がありませんから安心してくだい」
先生からの説明で安心したのか、さっきまでの騒然とした空気から、
「来るなら美少女っしょ」
「えー?やっぱイケメンでしょ」
「そしたらはや×りゅ!? キマシタワー! 」
とイケメンやら美少女やらクラス全体が浮かれはじめた。まあ、ボッチの俺には関係な……
「失礼します」
俺の思考が止まる。その声はわずかに聞き覚えがあった。
声とともに入ってきたのはスタイルの良いセミロングの美少女。あれだけ騒いでいたクラスがシーンと静まり返る。
だが静かな教室とは対照的に俺の心臓の鼓動は忙しく動いていた。
「初めまして、暁の帝国から留学してきました暁零菜です。よろしくお願いします」
ぺこりと礼儀正しくお辞儀する姿にクラス全員魅入られていた。俺も彼女から視線を外すことが出来なかった。大人びていたが、かつての懐かしい思い出の顔がそこにあった。
「……あっ」
何も反応しないクラスメイトを不思議に思いながら顔を上げた彼女と目が合ってしまった。
彼女は一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔なる。
「えー、彼女の席は……って君?」
彼女は先生の話を無視してこちらに歩いてくる。
俺はなるべく視線を下に向けて彼女の顔を見ないようにする。
期待するな。これは俺の独り善がりだ。向こうが覚えてるはずがないんだ。
かつて裏切られた過去が俺の心を苦しめる。心の苦しさに思わず目をつぶってしまう。
やがて彼女の足音が止まる。……やっぱり覚えてるのは自分だけか。惨めな思いに襲われるが、面に出さないよう今まで鍛えてきたポーカーフェイスで必死に耐える。
「『大きくなったら、また会おう』。あの時、こう約束したよね」
彼女の声が目の前から聞こえる。
ゆっくり顔を上げると、彼女はどこか儚い笑顔で俺の顔を見つめていた。
もう心は苦しくなかった。
「そして俺は『今度は零菜からこいよ。俺はいつでも待ってるからな』って答えた」
俺の答えを聞いて、零菜の儚い笑顔が花が咲いたような満面の笑みに変わる。
「久しぶりだな、零菜」
「うん。久しぶり。ようやく会えたよ、はっくん」
彼女との再会であの時から止まった時間がゆっくりと動きはじめたと、そんな気がした。