暁の約束   作:Rosen 13

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その4

 結論から言うと、俺は暁いや零菜の偽婚約者役を引き受けた。所詮俺は婚約破棄を前提とした、零菜の本命ができるまでのつなぎ役にすぎない。今後のことを考えると自分でも安請け合いした気がするが、零菜の心底ホッとした様子をみてこれも仕方ないと割り切る。面倒事に巻き込まれたくないと考えてる一方、俺なんかにまで頼ってきた零菜を見捨てるような真似はできなかった。

 

 

 

 

 そして翌日の昼休み。

 

 

「はっく~ん、お昼一緒に食べよう! 」

 

 

 菓子パンが入ったビニール袋片手に教室を出ようとすると、零菜は俺の腕をとり自分の腕を絡ませた。さっそくスキンシップ激しいな!

 

 

「はぁ……外でも構わないならいいぞ」

 

「私ははっくんと食べられるならどこでもいいよ」

 

 

 クラス中からの殺気が俺に集中するが、零菜は気にすることなくむしろ見せつけるように俺に身体を預けてより密着させてくる。

 

 

「……零菜さん? ちょっとくっつきすぎじゃないでせうか?」

 

「ん~? 何か言ったかな~? 」

 

「……確信犯め」

 

 

 もし、その不相応に育った豊かな双丘が腕にダイレクトアタックして俺の理性がガリガリ削られちゃってんだよと正直に言ったらどいてくれるだろうか、いやセクハラになるから言わないけど。

 でもスタイル抜群の美少女に密着されて理性を保たなければならないって思春期真っ盛りの男子高校生には酷な話じゃね?

 腕に押しつけられるむにっとする柔らかいナニカについて考えないようにしながら早歩きで廊下を進んでいく。そうでもしなきゃ強度には自信がある俺の理性すら崩壊しかねない。

 しかし周囲に俺達が婚約者だといってないとはいえ、仲の良さをアピールするにしても少々過剰じゃないだろうか。

 

 そんな苦行が数分続いたがなんとか目的の食事スポットに到着した。理性がやばかったけど正直感触は最高でした。

 

 

「へぇ~、結構いい場所だね 」

 

「だろう。景色もいいし昼休みなら人気もない。教室に居場所がない俺にとっては最高のスポットだ」

 

「うわぁ……自分で言って悲しくならない? 」

 

 

 っていわれても正直悲しいとか虚しいとかそういう感情は全く湧かないんだよなあ。昔は悲しいとか感じてた気がしてたけど、ここ数年は慣れたのか何も感じなくなった。

 

 

「はっくん……あっ、そうそう。はっくんが婚約を受けたことは昨日ママと古城君に話したよ」

 

「そっか。でも相手が俺って古城さん達に何かいわれなかったのか? 」

 

「あー、うん。それなんだけど……」

 

「なんだか煮え切らないな。もしかして偽婚約(・・・)のこと反対されたのか? 」

 

「ううん、そんなことはないよ。ただママから誠意を見せなさいっていわれた。ところではっくんの方は婚約のこと誰かに話したの? 」

 

「一応親父には零菜の偽婚約者になるかもって伝えたな」

 

「あれ? 妹さんとかにはいわなかったの? 」

 

 

 何故お前が小町のこと知ってるのかというツッコミはしない。昨日分かったことだが、こいつガチで俺の個人情報を網羅してやがった。何で家族関係どころか俺の尿酸値まで把握してんだよ。無垢な笑顔で俺のパーソナルデータを全て答えはじめた時なんか寒気がしたわ。でもそれ以外は極めてまともなんだよな。そのせいかあまり関わりたくないって気持ちにならない。普通なら零菜の行動ってストーカーなんだろうけど。

 

 

「あいつは口軽いからそんなこといえねえよ。でもお袋は親父経由で知ってるかもな」

 

 

 親父はただ『そうか』としか言わなかった。賛成なんだか反対なんだか知らないがこの件は俺に任せるつもりなのだろう。

 

 

「ま、あとは零菜に相手ができるまで時間に任せるしかねえけどな」

 

 

 小さく呟いた言葉にほんの少し、胸がチクリと痛んだ気がした。

 

 

 

 それから数日後、少しずつクラスに馴染みはじめた零菜のまわりには人が集まるようになった。初日の一件が後を引いてたとはいえ、元々明るく社交的な彼女がクラスの人気者になるのに大して時間はかからなかった。

 だがトップカーストに躍り上った零菜はクラスメイトと話す回数は増えても、休み時間や昼休みになると相変わらず俺に過剰なスキンシップをとり続けている。

 おかげでクラスの奴らからの嫉妬やら憎悪が籠った視線が絶えることなく俺に降り注ぐ。零菜は時折心配そうにこっちを見ているが、正直大した負担ではない。だが零菜がクラスの人気者になったことでちらほら妙な動きをする奴らが増えてきたのは懸念材料だ。噂ではもう何人も零菜に告白して玉砕してるらしい。零菜が誠意ある断りをしてるおかげでトラブルは起きてないようだが、振られた鬱憤が暴発するのも時間の問題かもしれない。念のため零菜に注意しておくか。

 

 

 

 だがその行動が原因で俺の懸念は的中してしまう。

 

 

「オイ比企谷、てめえなんかが暁さんに近づくなんて生意気なんだよ」

 

「ストーカーなんて最低だね」

 

「どうせ弱みを握って無理矢理従わせてんだろ、暁さんを解放しろ」

 

 

 顔も知らない男子生徒数人が俺を恫喝している。いずれこうなるって予測してたからこの事自体は大して驚いていないが、

 

 

「体育館裏に呼び出しって漫画の世界だけじゃなかったんだな」

 

 

 しかも目の前には明らかに不良っぽい奴もいるし。総武高校って一応進学校だったはずなんだけど。

 

 

 さて、どうしようか。

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