さて俺は放課後名も知らない男子生徒達に体育館裏に呼び出されたわけなんだが、まあ俺への罵詈雑言が酷いこと酷いこと。
「ヒキタニの癖に零菜に馴れ馴れしくしやがって。零菜さんが迷惑してんだろうが」
と不良っぽい奴が凄めば、
「貴方如きが暁さんに近づくなんて馬鹿なんですか、自分の立ち位置を理解してるのですか? 勘違いにも程がありますよ」
インテリ眼鏡擬きがこちらを見下し、
「あんたが零菜ちゃんに付き纏ってるのは自明の理。お前の報復が怖くて零菜ちゃんがみんなの告白を断ってるのはわかってんだぞ」
特に顔に特徴がない男子生徒が吠え、
「ストーカーなんて男として恥ずかしいとは思わないのか! 」
無駄に熱血漢な奴が大声で叫ぶ。
どうやらこいつらの中では俺は零菜につきまとうストーカーとなっているらしい。彼らが言ってることは事実無根なので否定しようとしたがどうも話が通じない。言い訳云々と言われる以前にそもそもこっちが言ってることを理解していない様子。
どうしよっかなーと、げんなりしながら話に付き合ってるが、話に出てくるのは聞くに堪えない痛々しい妄想ばかり。
『零菜は本当は自分に惚れている』、『零菜は優しいからお前の悪口を言わない』、『自分と零菜は前世で恋人同士』、『零菜がヒキタニに抱きつくのは脅されているから』etc。
舞い上がっているのか知らんがお前らに一言。
ひょっとしてそれはギャグとして言っているのか!?
自分に酔ってる輩が芝居がかった口調でわけわからんクソ寒い台詞を吐く姿とかマジでドン引きなんですが。
目の前の奴等が本当に気持ち悪すぎて鳥肌が立ってきた。洗脳されてんじゃねェかと疑ってしまうくらい話が通じねェよ。なんなのこいつら。
どう拗らせたらこういった考えにたどり着くのか些か興味があるが、おそらくあっち側にいったら戻ってこれなさそうだ。
「おい、びびってないで素直に謝ったらどうだ! 」
「ここまできて認めないとは情けないですよ陰険男」
心底帰りたいと思ってると、不良と眼鏡のまさかの追い討ち。
特にこの二人の口から出る妄想は意味不明かつ気持ち悪く、それを延々と聞かされた俺のSAN値をガリガリと削っていた。
「ちっ、根性無しが」
「こんな奴と同じ学校なんて恥でしかありません」
「暁さんが可哀想だとは思わないのか! 」
どうやらこいつらは俺が震えてると勘違いしたらしい。
心底うぜえんだけど……これ、もう我慢しなくてもいいよな?
「ハッ。マジで面倒くせぇなこの気持ち悪いナルシスト共」
それまで黙ってた俺がいきなり毒を吐いたことに彼らは一瞬唖然としてたが、すぐに瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にさせる。
「なっ! てめえふざけてんのか! 」
いち早く我に返った不良っぽい奴が俺の胸倉をわし掴んで唾を飛ばしながら怒鳴りつける。普通の学生ならその形相とドスの利いた声にびびってしまうだろう。現に一緒に俺を責めてた奴らも怒号にびびって顔を強張らせていた。
ただ俺は『なんかうるさい奴』としか感じなかったが。
「ふざけてんのはてめぇらだろうが。こちとら薄ら寒い三文寸劇を見せられたんだ。大体こっちが黙ってりゃ捏造どころか意味不明な妄想ばっか話しやがって。俺はストーカーなんてしてねェし、お前らの言ってることは全部的外れなんだよ。自分に酔うのも大概にしやがれ」
俺に言い返されるとは思わなかったのか、どストレートな言葉に奴等はビシリと固まった。
マシンガンのように文句を口から出すと、何故か気分がスッキリしたことで思ってた以上にストレスが溜まってたことに気がつく。何故だ?
「てめえぇぇぇぇぇ!!! 」
ぼーっとしてたら不良っぽいのが激昂して拳を振り上げる。
他の奴等は暴力沙汰までする気はなかったのだろう。全員がそいつの行動に呆気にとられて身体が硬直していた。おいおい、せめて止める素振りくらいは見せろよ。
「チッ……」
ストーカー疑惑があるまま素直に殴られて事態が表沙汰になるのは得策ではない。
ストーカー疑惑が事実と異なるこいつらの妄想だとしても数の暴力ってのは非常に厄介だ。こちらがどんだけ正論で否定しても向こうを支持する数が多ければ俺みたいなボッチにストーカーのレッテルを簡単に貼ることができる。
それにもし零菜本人が否定しても周囲から『暁さんは優しいから相手を庇ってる』と勝手に解釈されて意見を封殺されるのが目に見えている。
……あれ? 俺、詰んでね?
でもこんな奴に殴られたくはない。俺は胸倉を掴まれてるだけで両手が自由だ。胸倉を掴んでいる奴の腕を右手で剥がして、左手で拳をパシッと受け止める。この間、わずが〇・五秒。
「え……」
簡単に両手を封じられた不良っぽい奴が信じられないというような表情でこちらを見ている。力が入らないのかぽん、と軽く両手を押すとそのまま尻餅をついた。
俺が殴られると思っていた周りの奴等も唖然としている。やっぱり素人からすると不良を簡単に無力化した俺は異質なのか、その目には明らかに恐怖の念が刻まれていた。
「しっかし、ただの正当防衛でびびられるとはちと予想外だな」
もし俺が本気だったらその手首握り潰してたというのに。
生憎こっちは攻魔師を志してからずっと地獄のような修行をこなしてたんだ。ちょっと喧嘩慣れしてる素人なんかに後れをとらねえよ。攻魔師志望の過適応能力者をナメんな。
「ひぃいいい! 」
ちょっと凄むと、さっきまでの迫力はどこに消えたのか不良は情けない声をあげた。腰を抜かしたのか尻餅の体勢のまま腕を必死に動かしながら俺から逃げるように地面を這う。
他の奴等はそんな不良の様子を信じられないという風に見ている。足をガクガク揺らしながら。
さてストーカー疑惑は本当にどうするか。今回はこいつらの暴走だと思うが、零菜が人気者な分絶対同じようなことが起きるはずだ。この規模なら俺が我慢するだけだからどうってことはないが、事態がエスカレートすれば最悪クラス全員から断罪(笑)されるかもしれない。特に正義感の強そうな葉、は……葉なんとかとその取り巻きとかに。
「つっても零菜が俺の婚約者って話しても絶対誰も信じねえよなぁ…… 」
それに(仮)だし。
「あっ、はっくん。ここにいたんだ……ってなにこの状況? 」
ひょっこりと体育館の角から姿を現したのは零菜だった。