「げっ、零菜……」
「げっ、じゃないでしょ。偶然友達がはっくんが体育館裏に向かったのを見たっていうから来てみればさあ」
いかにも呆れてますというように腰に手を当ててやれやれと溜め息をつく。周囲を見渡してみると腰を抜かした不良とそれにビビってるその他、そして俺。あれ、これって傍からみたら俺が加害者っぽい?」
「んー、事情知らない人がみたらそうなりそうだけど、どうせはっくんが絡まれたのを返り討ちにしたんでしょう」
「うん、まあ、その通りですはい。あれ、俺もしかして声に出てた?」
「バッチリと」
うわあ、マジかよ恥っず。これ聞かれたのが零菜じゃなかったら『うわっアイツ一人でぶつぶつ何か言ってるよきっもー』とか言われたり思われたりするやつじゃん。
「ち、違うんだ暁さん!」
俺が悶えているとガクガク震えていた男子学生の一人が声を上げた。
たしかあいつは俺をストーカーだと決めつけていたやつだったな。俺がどれだけ否定しても、あいつの頭の中では比企谷八幡=ストーカーの図式が完成してるようで全く会話が成立しなかった。
「僕は暁さんのためを思ってヒキタニに暁さんに付き纏うのはやめろって話してただけなんだ! それなのにヒキタニは僕たちに暴力を……」
「……はあ? なに適当なこと言ってんだ」
こいつは何を言ってるんだ? 先に手をだしてきたのは向こうだし、そもそも俺は殴り掛かってきたのを防いだだけで暴力は振るってねえ。事情を知らない零菜に事実と違うことをあたかも本当のことのように宣い、いかにも自分が被害者ですって振る舞うとか質が悪いにもほどがあるだろ。
「ええっ、はっくんが付き纏ってるって? むしろ付き纏ってるのは私の方なんだけど」
「こんな状況でもヒキタニを庇うなんて暁さんは優しいね。でもそんなこと言わなくても我慢する必要はないんだよ」
「「はあ?」」
男の言葉に思わず俺と零菜の声が重なった。
「いや我慢とかじゃなくてね。本当にはっくんは私のことを付き纏っていないから、だからこういったことはやめてくれないかな」
「そんなにヒキタニのことが怖いのかい? 大丈夫、僕らは暁さんの味方だよ」
駄目だ。こいつの頭の中では俺が零菜に付き纏っていることが確定事項になってやがる。つまり俺の付き纏いが前提にあるため、どれだけ零菜が否定してもこいつの中では零菜が優しいから付き纏いを我慢してると解釈してるから全く話にならん。
最初はわざと自分の都合に良いようにわざと事実を曲解して話してると思ったが、もしかしたら素で歪んだ認識をしてるかもしれない。どうも思い込みが激しい様子だから案外的を得ているような気がするが、当事者からしたら気味悪いったらありゃしねえ。しかもさっきまで尻餅ついてビビってた癖に零菜がでてきた途端に態度が急変するし、他のやつらもそれに同調してるから余計に気味が悪い。
「はっくん……ちょっとこの人たち怖いかも」
零菜もやつらの異常さに気がついたようで完全に引いている。
「こういうやつらは事実よりも自分たちの主張が正しいって盲信してるからな。まともな説得は無理だと思うぞ」
俺の言葉に零菜は露骨に顔をしかめる。転校初日から多くの友人をつくったことから零菜は社交的な性格だということがわかっていたが、やはり零菜の性格でも駄目なやつもいるようだ。というか顔も知らないやつから勝手にイメージを押し付けられてきたら誰でも好意的に振る舞えないだろう。
正直俺一人だったら後で陰口を叩かれようとも連中の戯言を無視するつもりだったが、零菜が絡んでるとなるとそうはいかない。俺が泥をかぶれば解決しそうにみえるが、零菜は反対するだろうし下手に問題になれば後が面倒になる。
「ったく、零菜が違うって言ってんのにいつまでも自分たちの妄想を垂れ流してんじゃねえよ」
「「「な、なんだと!?」」」
連中は一瞬気色ばんだが俺が睨むとすぐにヒッと短く悲鳴を上げた。俺を体育館に連れ込んだときは俺のことをひ弱な陰キャだと思ってたからあれだけイキってたのにちょっと脅かせばこのザマだ。
「ど、どうせ、そ、そうやって暁さんのことを怖がらせて付き纏っていたんだろう!? この卑怯者め!」
「だから違うっていって「ごめん、はっくん。ちょっといい?」……あ、ああ」
こころなしか零菜の声が冷たい。というかなんか物理的に少し冷えている気がするんだが。
「あのさあ、さっきから違うって言ってるのに本当になんなの? 私とはっくんのこと知らないで好き勝手なこと言ってさ。実際にあなたたちが言ってることなんか起きてないし、はっくんの悪口もやめてよね。正直言って本当に迷惑だから。もう行こ、はっくん」
「お、おお。そうだな」
結局零菜の圧に押された俺は零菜の口撃に呆然と立ち尽くしたままの連中を放ったままそのまま学校を後にすることになった。
そしてその帰り道。
「ごめんね。なんか変なことに巻き込んじゃって」
「いやあれは零菜も被害者だから気にすんなって」
今回の件は零菜に何の落ち度はなく、悪いのは暴走したあいつらだ。おそらくあいつらは零菜のファンで零菜との距離が近い俺が危険人物に見えたのかもしれない。その気持ちもわからなくはないが、だからといってやつらにやられたことを許すつもりはない。まあ、でも零菜本人に迷惑だからやめろって言われて意気消沈してたから特に仕返ししようとは思っていない。というか面倒だから関わりたくないのが本音だ。
けれどもし俺に逆恨みして何かしでかそうとしてきたその時は。
「ちょっと痛い目に遭ってもらうかもしれないな」
「うん? 何か言った?」
「何でもねえよ。そういえば零菜ってどこから通ってるんだ?」
「えっ、はっくんちだけど」
──────え?