「なんだ……俺んちってウチが買い取ったマンションに住むってことか」
「あれえ、もしかして本当にはっくんの家に下宿するって思っちゃった?」
「そ、そんなわけねえって」
零菜の衝撃発言に目玉が飛び出るかと思ったが、よく話を聞くと俺の家に泊まるのではなく親父の会社が所有してるマンションに住むことになったという。いやよく考えたら留学生とはいえ一国の皇女を一般人それも男の家に住まわせるなんて普通あり得ないよな。しかも父親はあの古城さんだ。絶対阻止するに決まっている。
「それにしても……親父の買ったマンションってこんなんだったか?」
親父の会社がこのマンションを買い取ったのはたしか一、二年前のこと。地元企業の雪なんとかっていう会社が所有していた新築マンションを親父の会社が新しいビジネスの一環で買い取ったんだが、そのときはごく普通の新しい高級マンションだったはずだ。
だが今はどうだ。帰り道に零菜が住むというマンションまで送ってみてみたらマンションは一年前の頃と比べて全くの別物に化していた。
まずマンションの景観が違う。最初のときもそこそこ階数があるマンションだったが今目の前にあるのは明らかに以前より階数が増えているしそもそもデザインが全く異なっている。マンションはより六本木にありそうなより高級感溢れるデザインになっていて地方の高級マンションからセレブが住んでそうな超高級マンションにグレードアップしている。しかもセキュリティーは見た感じ暁の帝国製の最先端技術が搭載されているぞ。暁の帝国製のセキュリティーなって本土でもなかなか見ねえんだが。
「もはや魔改造じゃねえか。元の住人はどうしてだよ」
「さあ? 家賃とか値段は変わってないとは聞いたけど。でもおじさまが近くに作った新しいマンションに引っ越した人が結構いたって話は聞いたよ。あっちの方がコストの割に見栄えがいいんだって」
「なにやってんだ親父ぃ。なんか元の住民の人に申し訳なくなってきたわ」
◇◇◇◇◇
「今日は色々なことがあったけど、はっくんは昔と全然変わってなかったなあ」
シャワーを浴びながら数年ぶりに再会したはっくんの印象を振り返る。
どこか達観してるようで、実は心の内が熱く、ちょっぴり不器用だけど誰よりも優しさをもっているはっくん。
久しぶりに会ったはっくんは昔の記憶に残っているはっくんと比べて年相応に成長していて、身長も完全に抜かされていてはっくんの顔を見るには見上げなくていけなくなってしまった。昔は私の方が大きかったはずなのになんか悔しい。
でも成長したはっくんは少し大人びていた。再会した当初は目つきがちょっと悪くなっていて昔と雰囲気が違っているようにみえた。だから話しかけるまでもう昔のはっくんはいないんじゃないかって不安だったけど、いざ話しかけたら私の知っているはっくんがそこにいた。もちろん昔のはっくんのままではなかったんだけど、それでも昔のはっくんの面影が色濃く残っていたのは嬉しかった。
私とはっくんの関係は私たちが物心がつく前から始まっている。古城くんとはっくんのパパは昔からの友人で大人になってからはビジネスのパートナーとして頻繁に交流がある。そのときにお互いの子が同い年だということではっくんのパパがはっくんを暁の帝国に連れてきたのが私と彼の最初の出会いだ。結構小さい頃の出来事だったので当時のことはあまり覚えていないけど、古城くんやママたちから聞いた話によると私ははっくんのことをすこぶる気に入ってたらしい。
それまで屋敷の敷地内が主な遊び場だった私からしたら本土からやってきたはっくんの存在は目新しいものに映ったのだろう。気づけば私ははっくんと一緒にいることが当たり前になっていて、屋敷の中を探検したりおままごとにつき合わせたり毎日がとても楽しかった。この頃のはっくんは好奇心旺盛な元気な子で探検のときは率先して私の手を引いていろんなところへ行ってたなあ。そしてはっくんが本土に帰るときは毎回ふたりとも号泣して古城くんたちを困らせてたっけ。
私たちが小学生に上がる頃になると前ほどはっくんと会う機会が減りつつあった。多分はっくんが私の遊び相手だった期間が終わって互いに学校という交流の場をもつようになったのが理由だと思う。そのあたりは古城くんたちが話し合って決めたことで、今こそ納得はしてるけど当時は古城くんにかなり当たっちゃったのは悪いと思ってる。それでもはっくんは小学校中学年まで夏休みの間こちらに遊びにきてくれた。
でも、はっくんが暁の帝国に遊びにきてくれたのがそれで最後だった。
はっくんが来なくなった理由は正直に言うと御役目御免だった。
古城くんの友人の子供でしかない彼が皇族の住む屋敷にいられたのは彼が私の遊び相手として抜擢されていたからだ。特に暁家には姉妹はいるものの兄弟がおらず、また私と同年代くらいの男の子が近くにいなかった。そのため小学校に上がるまで警備が厳重だったときの遊び相手としてはっくんは必要とされていた。だから私が小学校に上がる時点で本来お別れするはずだったらしいけど、私たちの仲が良すぎたからなかなか言い出せなかったみたい。古城くんにそのことを言われた日、私は泣きながら古城くんと多分口喧嘩してしまって暴言も出てしまった。初めての親子喧嘩だと思う。その日は泣きながら寝たけど時間が経つにつれて次第に受け入れることができるようになった。
でも私は最後に別れた際にはっくんと交わした約束を忘れることはなかった。だからはっくんが暁の帝国を訪れなくなった後もはっくんの動向を年に一度以上報告させていた。小学生が疎遠になった幼馴染を監視って、自分でも気持ち悪いと思うけど当時の私にとってそれほどはっくんの存在は大きかった。だってはっくんは私の初恋の相手だったから。でも私の行動に古城くんも罪悪感があったのか私のこの行動に口を挟むことはなかった。
だからはっくんのいる高校を特定してそこに留学できたたし、はっくんの雰囲気が変わった事情も知っている。本人には一応報告書云々のことは言っているけど、まだはっくんには言えないこともあるのも事実。
「でもやっぱり報告書越しからより生のはっくんの方がいい……」
明日には色々と噂になるかもしれないけど、はっくんと同じ空間にいれるならそれもいいかもね。