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月明かりが照らす街中を駆ける二つの影。
そしてその影を追うように走る人影があった。
「こいつで間違いないか?」
『おそらくは間違いないと思います。総隊長。どうしますか?』
「…ひとまずは俺に任せろ」
『イエス・サー』
一旦通信を切るとルインは脚に力を入れてさらに加速する。
「止まれ!貴様何者だ?」
「…っ⁉︎」
低く轟くような声で呼びかけられ逃走者は一瞬だがこちらを振り向き追跡者の顔を確認した。
「っ!」
逃走者は一瞬でも振り向いたことを後悔した。相手が自分を見ている目は鋭い眼光を放ち逃走者は威圧感で心臓が押しつぶされるような感覚を覚えた。
「貴様…?この国の人間じゃないな」
「くっ!」
ルインが言った言葉を理解したかはわからない。ルインが喋っているのは自国の言葉の英語でありその彼の見立てだと逃走者は少なくとも英国系ではなかった。
「これは…ここで捕らえるべきだろうな」
逃走者はルインの追跡に気づき走り出した。
その上明らかな警戒心と敵対心を少なからず感じ取ったルインはここでの捕獲が先決であると判断した。
「ベン、リーナ囲め」
『イエス・サー』
ルインの後方から二つの影が飛び出し逃走者の退路を塞いだ。
「チッ」
逃走者は懐からCADを取り出すとそれをリーナに向ける。
一番脱出しやすい道を選んだ逃走者の考えは間違っていない。
しかしそれは彼がいなければの話だ。
「くらえ…!」
リーナが構えをとると同時に魔法構築が始まり起動式が展開される。
「てめぇ俺の仲間に何してんだ?」
「なっ⁉︎」
ルインがそう言うと構築されていた起動式が破壊された。
《マギカ・デストラクション》
自分自身のサイオンを凝縮し相手の起動式の一部を穿つ様にし魔法式を破壊する魔法。
一般よりも多くのサイオンを保有している者しか使えない高等技術であり現在それを使えるのはUSNA最強のルインだけだ。
「クソガッ!」
魔法が使えないと見るや男はCADを投げ捨て
懐から何かを取り出した。
それは闇に紛れその形を認識させるを困難にした。
ルインは知覚系魔法を使用してそのものの大体の形をつかんだ。刃渡り十数センチの先端が鋭利な刃物だ。
「マズイ…!」
異変に気付いたルインが少し遅れてベンが動き出す。
ベンが感じたのはそれから微妙に感じられる魔法因子。直感的に危険と悟ったのだ。
「死ねっ!」
逃走者はそれをリーナに向かって投擲する。
ルインが気付いた異変はベンとは異なり《マギカ・デストラクション》を使用した際に自分に向いていた殺意がリーナに移ったのを敏感に感じ取った。
「っ⁉︎」
飛ばされてきたそれを避けようとするがそれは急に煙幕を噴き出しリーナの視界から消えた。
「させるか!」
ルインはかろうじてリーナとそれの間に入り知覚魔法でそれの存在を感知し完璧なタイミングで柄を握りそれを防いだ。
「ベン!煙を払え!」
「ハッ!」
ルインが指示を飛ばすとベンは素早く風を起こし煙を吹き飛ばした。
「総隊長!追いますか?」
「いや…深追いはしなくていい。手がかりはある」
ルインは先ほど逃走者が投擲した武器をベンに見せる。それは大体ルインが認識通りだったが一つ違ったのはいくつもの穴が空いていたところだ。
「ここから煙が噴き出したのでしょうか?」
「多分な…それにこの武器…日本の“ニンジャ”と呼ばれた者が使っていた“クナイ”だ」
「日本…ですか」
日本とUSNAは事実上友好な関係ではあるがその実は腹の探り合いをしているようなものだろうとルインは思っている。
「スパイでしょうか?」
「さぁな…とりあえず今日は退くぞ」
「イエス・サー」
「それでリーナ…なんで何も話さないんだ?」
リーナはそこから直接戻るのではなく他でもないルインに呼び出されていた。
「…おっしゃる意味がわかりません」
あくまでもリーナは自分がなぜ呼び出されたかわからないという態度をとる。
ルインはやれやれと言わんばかりにこめかみを抑えている。
「大方の予想はついている。さっきのことだろ?」
「っ……はい。私はあの時ルインさんやカノープス少佐のように動けませんでした…」
「そうだな。相手からもお前が一番舐められていた」
「…はい」
ルインは隠すことなくはっきりとリーナに告げた。リーナの顔からは悔しさが滲み出ている。
「仕方ない…で済ませるつもりもないがお前の働きには及第点ぐらいはつけてやれる」
「え…?」
「俺もベンもかなりの速度で追跡していたんだがしっかりとついてこれた。さらには急な連携にいい動きを見せてくれた。仮にもスターズトップツーである俺たちとだ」
ルインの言うことは最もだ。
リーナは今日ルインの補佐として着任したわけで連携の確認や作戦もなしに行ったにもかかわらずその指示についてきた。
「初めてにしてはよくやってくれた」
リーナの艶やかな金髪に優しくルインの手が伸びる。
一瞬身体を強張らせたリーナだったがルインは気にしなかった。
「…えっ…?」
「頑張ったな」
ルインは優しくその髪を撫でた。
リーナは呆気にとられて状況を理解していない。
「え、あっう、うぅ〜」
リーナが緊張しながら顔を上げるとルインに優しく微笑みかけられ顔を赤く染め俯いてしまう。
「あ、あの…ルインさん…そろそろ」
「ん?あぁ悪い…ついな」
ルインは慌ててリーナから手を離す。
リーナも気を取り直すように咳払いをした。
「そ、それでルインさん。これからの行動は?」
「ん?あぁ俺は日本に行こうと思う」
「?何故わざわざシリウスである貴方が?」
リーナの言うことは最もだ。
何かあるならルインが出向かなくても他の人間がいくらでもいる。
さらに言えば今回の件で実際に日本に行く必要性はあまりない。
「確かに俺が出向くことでもないかもしれんな。だからと言って上に頼むわけにもな。どーせ適当な人材を送り込まれて成果はほとんどなしで終わりだろうな」
つまりルインは自分で行けば確実に何かを得られるということを確信していた。
「今回の件に関しては俺とベンそれともう一人くらい人員が欲しいところなんだが…」
ルインは悪い笑みを浮かべリーナのことを見る。そしてリーナもその笑みの理由を理解していた。
「どうするリーナ?」
「……行きます!」
リーナはルインの補佐官としてではなく自分自身の意志で決めた。今回の件で確かにルインから及第点はもらった。しかし彼女自身はそれに納得していなかったのだ。
これはルインがそんな雰囲気を察しての行動だったが今のリーナに気づく余地はなかった。
「あっ…あのひとつ聞いてもいいですか?」
「いいぞ」
「ルインさんにはアテがあるんですか?」
確かにあてが何もないのに行動するのは浅はかというものだ。
無論そんなわけはなくルインには一つだけ“ニンジャ”についての心当たりがあった。
「アテはあるぞ。どれだけ認知されているか知らないがある人物が“シノビ”をやっているらしい」
「その人物はわかっているのですか?」
「ああ。本当かどうかはわからないが」
ルインは一枚の写真を取り出した。
今回の件について事件を聞いた時に密かにこの人物のことが頭に浮かんでいた。
「資料にあった魔法はいわゆる古式魔法。おそらくこの国のものじゃないと思ってな。俺の知る限りの古式魔法使いを調べてヒットしたのが…」
ルインはリーナに写真を見せる。
その写真には少し細身の髪を剃り上げた男が写っていた。
「この人物は?」
「日本で有名な忍術使いの…九重 八雲だ」