「感じます・・・精霊結界の損壊により魔力構造が変化していくのが。世界の趨勢が天界議決により決して行くのが。かの約束の地に降臨した堕天使ヨハネの魔眼がそのすべてを見通すのです!すべてのリトルデーモンに授ける!堕天の力を!」
ピロリン!
パソコンが放送終了の音を鳴らし、わたしは決めポーズを解いた。
時間は午後3時。こんな時間からネットで生配信している女子高生なんてわたしくらいなものだろうか・・・。
なにやってるんだろう・・・わたし。
「は~・・・なんであんな自己紹介しちゃったんだろ・・・」
脳裏に浮かぶのは入学初日の自己紹介。
『堕天使ヨハネと契約して、あなたも私のカンパニー、リトルデーモンになってみない?』
「うあ~!!学校いけないじゃない!・・・でも、ひとりだけリトルデーモンになりたいって追いかけてきてくれた人もいたのよね・・・」
ピンポーン!
ぼんやりとたそがれていると不意に玄関のチャイムが鳴った。
時間的に幼馴染の花丸が学校のプリントを届けに来てくれたのだろう。
「・・・ずら丸にも申し訳ないことしてるわね。って!わたしまだ配信用の衣装じゃない!?服着替えないと玄関出れないし!・・・ま、いっか。相手はずら丸だし、すぐに中に入ってもらえば」
わたしは配信用の堕天使衣装のまま玄関に向かい、扉を開ける。
普段なら絶対にやらないこの行為だけど、あまり待たせるのも花丸に悪い。
そう思っての行動がさらに勘違いを深めることになるとは、この時のわたしのは知る由もなかった。
※※※※
ヨハネ社長の幼馴染だという国木田さんにプリントを届ける役を代わってもらい、沼津にあるヨハネ社長の自宅にやってきた。
マンションの部屋の表札には津島。そのインターホンを前に深呼吸をする。
なんといっても社長の自宅だ。
そんなところに訪問するなんて前世の会社員生活でもやったことがない。
粗相のないように身だしなみを確認。それからここに来るまでに考えておいた口上も頭の中でなぞる。
・・・よし、いざ!
ピンポーン。
その機械的な音からややあってヨハネ社長が玄関から出てくる。
「あー、ずら丸?プリントならそのうちまとめて学校に取りに行くから・・・って波多くん!?」
「社長・・・?その格好は?」
用意しておいたセリフも吹っ飛んで、気になってしまったのはヨハネ社長の格好だ。
黒を基調としたドレスのような服、しかも背中の部分に羽までついている。
はっ!これはまさか株式会社リトルデーモンの制服!?
僕まだ支給されてない!!
「フッ・・・この衣には下界に散らばる魔力を効果的に集めると同時に、天界の追っ手の目を欺くための・・・って!うちの前でこんな話させないで!?とにかく中入って!!」
「うぇっ!?お、おじゃまします」
ヨハネ社長はグイと僕の腕を掴んで家に引っ張り上げる。
会社のことは外で話さない。企業秘密や情報保護の観点から見れば当然のことだ。
思わず聞いてしまったこととはいえ迂闊だった。
「・・・それで?どうしてうちに来たの?」
「実はこのプリントを届ける仕事を国木田さんに代わってもらったんです。ヨハネ、あれっきり学校に来ないですし、連絡先も知らないですし」
「うっ・・・悪かったわね、リトルデーモン・・・」
「なんで学校にいらっしゃらないんです?評判は確かによくなかったですけど・・・」
「・・・やっぱり通じないのよ。高校生になってまで堕天使なんて」
玄関に立ったままにヨハネ社長はぽつりぽつりと話し出す。
「あなただって思うでしょ?意味わかんないでしょ?」
「・・・まあ理解できてるかと言われると、微妙ですけど・・・」
「今更学校に堕天使ヨハネの居場所はないのよ。もっとこの世界はリアルに出来てるの!」
「・・・・」
「魔力もサタンもルシファーこの世のどこにもいないのよ!」
「・・・・」
「天界も堕天使もリトルデーモンだって!どこにもないんだから!」
「そんなこと、ないですよ」
「わたしの言ってることわからないのに、よく言えるわね・・・?」
「確かにほとんどわからなかったですけど・・・でも確実に言えることがあります」
「なにを・・・?」
「リトルデーモンはいますよ。僕はリトルデーモンでしょ?いきなり解雇なんて困りますよ」
「は・・・?」
そう、僕はリトルデーモンなんだ。
ほとんど仕事もせずにわずか一週間で解雇なんて笑えない。なかったことにされちゃ困る。
ヨハネも社長といってもまだ高校生。ここは精神年齢的に年上の僕がばっちり経営戦略を!
「堕天使の居場所が学校にないからなんですか!だったら学校は新たな市場開拓のチャンスです!それにターゲットを学生に絞る必要もありません!学校がダメなら別の場所での広報活動も視野に入れてですね・・・!」
「し、しじょーかいたく・・・?こーほーかつどー・・・?」
「とにかく!諦めるにはまだまだ早いってことです!トップは堂々とやりたいことを言えばいいんですよ?それを実現させるために僕みたいなリトルデーモンがいるんですから!」
「やりたいこと・・・?」
「そうです!ヨハネのやりたいこと、話してください!そのために僕は働きます!」
※※※※
「ヨハネのやりたいこと、話してください!そのために僕は働きます!」
わたしのやりたいこと。
わたしのやりたいことってなんだろう・・・?
リア充に、普通の女子高生になること?それは間違ってないけど、間違ってる気がする。
普通の女子高生になるためには堕天使も、リトルデーモンも捨てなくちゃならない。
それって・・・ここまでわたしの力になろうとしてくれているリトルデーモンを、波多くんを裏切るっていうことと同じだ。
「わたし・・・決めれないよ」
「決める?」
「やりたいこと・・・それを叶えたら、別の大事なものまでなくしちゃう」
「じゃあ両方叶えましょうよ!」
「そんな無茶・・・!」
「そんな無茶をどうにかするのが仕事ってもんです。さ、遠慮なく、欲張って、やりたいこと全部言ってください!」
「わ、わたし・・・普通の女子高生として学校に行きたい!でも、堕天使も捨てたくない!」
口にしてみれば簡単なことだ。
結局わたしはどっちにも憧れてるってことなんだろう。
普通に友達とおしゃべりして、帰りに寄り道して、なんでもないことに笑う普通の女子高生、津島善子。
天界から追放され、多くのリトルデーモンを虜にする堕天使ヨハネ。
わたしはその両方をつかむことができるのだろうか。
※※※※
普通の女子高生になりたいかぁ。
ヨハネも社長でありながらも女子高生。ただの女子高生として学校に行きたいっていう気持ちもあるだろう。
苦労、してるんだなぁ・・・。
でも解決策は案外簡単だ。
「なら、学校にいる間は普通の女子高生らしくしていれば大丈夫じゃないですか?」
「それはそうだけど・・・わたし、油断するとすぐに堕天使が顔を出しちゃうのよ。最初の自己紹介もそれで失敗してるし・・・」
「その気持ち、わかります!」
僕も休みの日だって、寝ているときだって仕事のこと考えてたもんなぁ。
「じゃあ堕天使が出そうになったら僕が止めますよ!」
「そんなこと、できるの・・・?」
「もちろん!リトルデーモンに任せてください!」
「・・・ありがと」
「へ?今なんて言いました?」
「こ、これからもこのヨハネのために働きなさいって言ったの!リトルデーモン!返事は?」
「はい!」
そして次の日、ヨハネ社長は津島善子として学校にやってきた。