サイドストーリーかわいかった。
昨日のヨハネ社長宅訪問から一夜が明けた。
いろいろ話した結果、学校では普通の女子高生として、学校外ではヨハネ社長として辣腕を振るうことになり、僕は学校で社長としての顔を出てこないように制止する仕事を任されたわけだけど・・・
ヨハネ社長、今日学校来るかなぁ?
教室の時計を見ると、すでに始業10分前。
入学したばかりということもあるのか、クラスメイトはほとんど登校してきている。が、、ヨハネ社長の姿はまだ見えない。
そんな授業前ギリギリの時間にポケットの携帯が震える。
家族はこんなタイミングで連絡してこないだろうし、まさか、と思って携帯を開く。
『屋上に来てほしいんだけど、来れますか? 津島善子』
そのまさかだった。
こんなギリギリのタイミングで屋上って・・・
でも久々の登校となるとやはり勇気がいるのかもしれない。
社長も意外と普通の女子高生メンタルをしてると昨日わかったばかりだ。
僕は簡単に返事をして、ダッシュで屋上へ向かう。
※※※※
『屋上に来てほしいんだけど、来れますか? 津島善子』
昨日教えてもらった波多くんの携帯にメールを送信してから、わたしは頭を抱えてのたうちまわる。
こんな授業直前に屋上に呼び出されても困るに決まってる。
そもそも呼び出しておいてなんだけど、とくに用事があるわけでもない。
ただなんとなく、よくわからないけど呼んでしまったのだ。
「うわーん!わたしバカ!?さっさと教室に向かうのよ、津島善子!普通の女子高生になるんでしょ!?」
自身を叱咤して教室に向かおうとするも、やっぱり足は動いてくれない。
やっぱり、怖い。
クラスのみんなが久しぶりに学校に来たわたしをどう思うのか。
うまくクラスに馴染めるか。
普通の女子高生になれるか。
不安すぎて、あのまま堕天使グッズに溢れた部屋に閉じこもっておけばよかったとさえ思える。
「・・・もう帰ろうかな・・・ん、メールだ」
不安で心が折れたその時、手に握っていた携帯が震える。
表示されていたメッセージは一言。
『行きます』
「・・・これで多少なりとも落ち着くあたり、わたしも単純ね・・・」
不安がなくなった、なんて間違っても言えない。
それでも、どこか安心できた気がする。
ほんと、助けられてばっかり・・・
「ちゃんとお礼言わないと・・・あと、今日から学校での堕天使封印に協力してもらうわけだし、そのお願いも改めて・・・あ!そういえば昨日わざわざ家まで来てもらったのに交通費も渡せてないし!バス代だって結構かかるのにぃ〜・・・!わたし迷惑かけすぎ・・・」
「ヨハネ、どうしたんですか?」
「きゃあ!?」
「あ、すいません。驚かすつもりはなかったんですけど・・・」
突然横から声がして思わず悲鳴をあげてしまう。
波多くん、いつの間に屋上についていたのよ・・・今の独り言聞かれてないわよね?
「い、いつからそこに・・・?」
「へ?今来たところですけど・・・」
「わ、わたしの独り言、聞こえた?」
「いや、聞こえなかったですよ?それより早く教室に行かないと遅れちゃいますよ?」
「う、うん・・・」
って、このまま教室に入ったらお礼言うタイミング逃しちゃう!今言わないと!
「あ、あの・・・ありがと」
「?すいません、聞こえなかったんですが・・・」
「うえ!?あ、あ、ああ、よく来てくれたわねリトルデーモン!って言ったのよ!」
うわー!!わたしのバカー!!なんで素直にお礼のひとつも言えないのよー!!
ヨハネは封印!封印なんだからっ!
「まあそりゃ来てくれって言われたら行きますよ」
「う、うん・・・あの、うれし、かったよ?」
「!な、なら、その、よかったっす・・・」
※※※※
ヨハネ社長を教室に連れて行き、どうにか間に合った授業の最中、ヨハネ社長の言葉が頭を巡る。
『あの、うれし、かったよ?』
そして、恥ずかしそうに頬を染め、少し上目づかいにこちらを伺うヨハネ社長の仕草。
その、なんだ・・・かわいかった。
そこまで考えて頭をブンブンと横に振る。
いかんいかん!ヨハネ社長は上司!僕は部下!
職場恋愛反対!なんていうわけでもないけど、こういうのはしっかり線引きしないと!
仕事は仕事!プライベートはプライベート!
まあ僕の場合はプライベートも仕事だけど・・・
そう、仕事といえば今の僕の仕事はヨハネ社長の堕天使を抑えること。
さっきは授業ギリギリだったから堕天使が出る間もなかったけど、問題は休み時間。
クラスのみんなもきっとヨハネ社長に話しかけるだろうし、ここで堕天使化してしまえば普通の女子高生からは大きく遠ざかってしまう。
いくつか作戦は用意してあるし、大丈夫だとは思うんだけど・・・
キンコーンカーンコーン!
「ん?もう時間か。日直、号令を」
いろいろ考えている間に授業終わりの鐘がなる。
先生にしたがって日直が号令をかけると、クラスの女子たちがヨハネ社長のもとに殺到し始めた。
女子高生ってパワフルですね・・・おじさんびっくり。
いや、おじさんって年でもないけど!
「津島さん、学校来たんだね!」
「あ、う、うん!みんなよろしくね?」
よしよし、まずは当たり障りのない普通の会話だ。
「津島さんって、名前なんだっけ?」
「えー、ひどいなぁ!確か・・・よ、よ、ヨハ・・・」
おっと!?いきなり危ない話題を突っ込まれてるけど!?
ヨハネ社長はどう返す!?
「よ、善子だよ!わたしの名前は津島善子!!」
「あ、うん。そ、そうだよね?」
セーフ!
あまりの勢いに若干ひかれてる感じもするけどセーフ!
「善子ちゃんって何か趣味とかあるの?」
「えっと・・・占い、とか?」
「へー!よかったらわたしのこと占って!」
「うん!いいよ!」
うんうん、いい感じいい感じ!
心配しなくてもクラスのみんながうまく声をかけてくれてるから、ちゃんとクラスに馴染めてる!
このままどんどん仲良くなっていってくれれば・・・
「今準備するから少し待っててね?」
ん?占いってそんな準備がいるものなの?
ヨハネ社長がゴソゴソとカバンをあさりはじめる。
って、なにその黒い布らしきもの!?
これはカバンの外に出させたらマズイ気がする!
「あー!津島さん!そういえば!」
「!?」
僕は勢いよく席を立ち、大きな声をあげる。
クラスの注目がこちらに集まり、ヨハネ社長がカバンをあさる手も止まる。
う、うん、恥ずかしいけど作戦通り・・・
「朝、担任の先生に津島さんを職員室に連れて行くように頼まれてたんだったよ!」
「え、そんな話・・・あ、ああ!そうなの!?そ、それじゃあみんな、占いは後でね!」
「う、うん・・・」
もちろんそんな話はありはしないし、口裏合わせもしていなかったけど、ヨハネ社長はこちらの意図を察して教室の外について来てくれた。
危ない危ない・・・
「と、止めてくれて助かったわ・・・あのままだったら、わたしの黒魔術占いセットがクラスのみんなの目の前に・・・」
「やっぱり・・・なんで持ってきちゃったんですか?置いてきたらいいのに」
「フッ、あれは堕天使のアイデンティティ。あれがないと私は私でいられない・・・」
「堕天使化しちゃってますよー?」
「はっ!?」
ある意味ブレないヨハネ社長に突っ込みを入れながら、もちろん職員室に行くでもなく、校舎を適当に歩いていく。
これは・・・やっかいな仕事になりそうだなぁ。