RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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初投稿です。長文乱文誤字脱字凄いんで注意。

2017/01/19
見直し&修正しました。

2022/04/04
文体、表現修正。


【第一章】初めての世界と、終わらない一日
第一話 誘われた錬金術師


 ──時空に干渉する力を持つという星晶獣ヴァシュロン。姿を見た者は、この世から跡形もなく姿を消してしまうとされ、伝承の中で畏怖の象徴とされてきた。

 

 所謂"神隠し"の正体とも呼ばれるヴァシュロンによって異世界に飛ばされてきたミラ=マクスウェルは、元の世界に戻るために途中で知り合ったグラン達一行と原因である星晶獣ヴァシュロンを追い詰め、今まさに対峙していた。

 

 

 

「はぁぁぁァァッ!!」

 

 四大精霊の力を取り戻したミラの力を筆頭に、グランも後を追うように追撃をかける。カタリナ、ラカム、イオ。そしてカリオストロがその援護に回った。

 

「ようやく相手の底も見えて来たな、――とォ!」

 

「あぁ、それもこれもミラ殿の力のお陰ではあるがな」

 

 鳴り散らされる破裂音。繰り出される氷撃。

 ラカムとカタリナが熟練のコンビネーションを見せながら軽口を叩く。

 

「みんな、協力感謝する。だがあと少しで片が付く。それまで私に力を貸して欲しい」

 

 ミラの周りを舞う精霊達が思い思いの輝きを放ち、美しい光の軌跡を残しながらヴァシュロンにダメージを与え続けていく。見目の美しさに反する一撃の重さに空に浮かぶ鎧のような魔物、ヴァシュロンが怒号を上げ、怒りのままに一行へと自らの力を開放する。

 手に持つ巨大な剣が振りおろされれば簡単に岩が砕け、飛び散り、地面が割れる。破壊的なまでの魔力を纏ったそれはあまりにも強力無比。食らってしまえば人間などひとたまりもない。

 

 だが歴戦の騎空士達は動じない。そして倒れない。

 巨大な魔物との戦闘、災害と言った数多の艱難辛苦をかいくぐって生き残ってきた彼らにとって、この程度の攻撃は日常茶飯事。魔物の強力な一撃を冷静に避け、そして空いた隙をぬって確実にダメージを蓄積させていく。

 ヴァシュロンの形勢は時が経つにつれ悪くなっていき、やがて致命的な隙を晒すまでになる。そして、そんな絶好の機会を見逃す騎空士達はこの場には居なかった。

 

「っしゃぁ! グラン、やっちまえ!」

 

「――――ッおおおぉぉぉぉッッ!!!」

 

 捨て鉢のヴァシュロンの一撃をカリオストロの錬金術が吹き飛ばす。掻い潜ったグランが懐へ潜り込み、渾身の斬撃がヴァシュロンを切り裂いた。一撃はヴァシュロンにとって致命的であり、またその光景を見た誰しもが勝利を思い描いた。当然ながら一撃を放ったグランでさえも。しかし、

 

「よしっ!」

 

「馬鹿ッ、油断すんなグランっ!!」

 

 警戒を解くのが早すぎた。

 

 斬り伏せられたヴァシュロンは崩壊する体のまま最後の力を振り絞り、亜空間への道をこじ開けていた。命を振り絞った、捨て鉢の一撃。憎き敵を1人でも多く倒そうと、目の前で油断するグランを宙空に浮いた暗闇が取り込もうとする。

 それに気付かぬグランが光のない穴に放り込まれそうになった瞬間、いち早く気付いたカリオストロが呆けるグランを吹き飛ばした。そして彼女もまた、こじ開けた亜空間から遠ざかろうと試み――

 

 

 ――亜空間から伸ばされた無数の黒い手に捕まった。

 

 

「な――ッ」

 

 その手を、その足を、その首を、その腹を。黒い手はカリオストロの痩躯を掴み、凄まじい力で亜空間へと引きずりこもうとする。咄嗟に自身の切札である「ウロボロス」を展開しようとするが、彼女の口を手が塞ぎ、展開する事も出来ない。せめてものと無詠唱で放った土の槍や礫が、光を全く透さない黒い手を1つ、2つと剥がしていくが、手は更に2つ、3つと増えるばかりで、少女の抵抗を意に介さない。どころか瞬く間に増えた手達はいよいよ持ってカリオストロの全身に群がった。その頃には既に体の半分が亜空間に放り込まれており――

 

 

「カリオストロッ!!!」

 

 

 拘束されたカリオストロが最後に見たのは。

 

 駆け寄るカタリナ、ラカム、イオ、ミラの姿と。自分の名前を叫び、こちらに必死に手を伸ばす、信頼する団長の姿だった。

 

 

「グラン」

 

 

 錬金術師が伸ばした小さな手は、何も掴むことなく空に掻き消えた。

 

 

 

 

 § § §

 

 

 

 

 ――次にカリオストロの視界が開けた時には、そこは見知らぬ街だった。

 

 燦々と照らす日の下には数え切れないほどの様々な「見たことのない」種族が、各々の目的の為に行動している。

 アルビオンより雑多だが、アガスティア程発展していないなと町並みに感想を抱いたカリオストロは、頭を掻きながら身体の確認を行う。

 

 両手をぱたぱた、両足をぷらぷら。

 身に着けた装備品と、大切な魔道書を確認。

 全身に軽く魔力を流して、魔法の使用有無の確認。

 最後にかるーく、身だしなみのチェック。 

 ――全てOK。

 

(……体、動く。錬金術も。ウロボロスも使えるな。持ち物とかはあの時のまま変わらずか)

 

 まずは一安心。ひとつ息をついて心を落ち着けると、次は現状の確認を続ける。自分に一体何があった? あの時自分は何をされた?

 

(オレ様はヴァシュロンの作り上げた亜空間に落ちてしまった。いや、あの亜空間から現れた手によって強制的に放り込まれた)

 

 生物ではない。しかし魔力でもない。闇より黒くて()()()()()()()のする手の群れ。纏わりついた謎の手の感覚を思い出すだけで冷や汗が流れる。あれとヴァシュロンは別物であると何故だか直感的に理解出来た。星晶獣にあそこまで「人間くさい」強烈な思念を持つことは出来ないと思えたからだ。

 

(……しかし、ここは一体どこなんだか。ヴァシュロンの亜空間に引きずりこまれたって事は十中八九、元の世界じゃあないだろうが……文化レベルは似てるしな)

 

 道の往来で棒立ちしていたカリオストロは思考を止めずに歩みはじめ、人ごみに紛れて町並みを観察していく。

 

 全身を毛で覆われた猫の顔をした女性が、

 人間の女性と普通に会話をしている。

 フル甲冑の騎士が道の端であくびをしている。

 人間の子供と、垂れた犬耳を持つ亜人が

 追いかけっこをしている。

 四足歩行の大きなトカゲが引く幌つき馬車が大量に、

 そしてひっきりなしに往来している。

 

 亜人と人間が寄り添う事が当たり前であり、そんな市井の様子は非常に活気に溢れていたが、やはり自分の知る世界とは何かが違うと違和感を覚えてしまう。きょろきょろとお上りの様に辺りを見渡しながら進むさなか、視界の片隅にとある店を見つけると、彼女はその店へと歩みを進めていく。

 

(……一縷の望みに賭けて確認して見るしかないよな)

 

「ねぇおじさんっ☆ 美味しそうなリンゴだね☆」

 

「あん? なんだぁリンゴって。リンガだよコレは」

 

 街をあてもなく進んだ先に団長の相棒であるトカゲが好む「リンゴ」を売る青果店があったので、早速店主と思しき男に声をかけて見たが、結果として自分の中で別の世界であるという可能性が上がる事になってしまった。内心で舌打ちしながらカリオストロはめげずに話を続けていく。

 

「へぇ~そうなんだ☆ 私の地元だとこの果物、リンゴって言うんだよ~?」

 

「一体どっから来たか知らねえが、俺の認識もルグニカ王国の認識も昔っからリンガだよ」

 

 ルグニカ王国。これまた聞いた事もない国名に更に可能性が上がる。ふぅん、ルグニカ王国ね。とカリオストロが口の中で反芻させていると、青果店の男が口火を切った。

 

「んで嬢ちゃん。立ち話も悪くねえんだがリンガ、一個ぐらい地元の味と比べて見たらどうだ?」

 

「ん~☆ タダなら考えてあげてもいいけど~☆」

 

「可愛い嬢ちゃんだけど、それじゃうちも商売上がったりだ。出来るなら購入してくれるとありがたいもんだがな」

 

 軽口を聞く親父は丸々と赤く熟れたリンゴ……いや、リンガを手の中で弄ぶ。男の体温で温まったリンガは食わねえぞ、と脳内で悪態をつきながらも、カリオストロは懐から銀貨を取り出して、男に見せびらかした。

 

「見たこたねぇ銀貨だが……なんのコインだ?」

 

「おじさん知らないの~? これはねっ、うちの地元の~………記念コインっ☆」

 

 知らねえよ! とノリよく突っ込む男に「おじさんと会ったのも記念だし、記念同士でリンガと交換っ☆」などと言って、カリオストロは渋る男を持ち前の可愛さと板についたぶりっ子で押し切って交換させた。

 

「ったく、嬢ちゃんの可愛さをそうやって有用に使われちゃ、こっちの家計が苦しくなっちまぁ!」

 

 そう言いつつも良い笑顔で、()()()()()()()()()()()()()()()()を手で弄ぶ男。対してカリオストロも同じくいい笑顔で貰ったリンガに齧りついた。

 

「ところでおじさん、聞きたい事があるんだけど、いーい?」

 

「あん?仕方ねえな……んで、何だよ嬢ちゃん」

 

「騎空艇って知ってる?」

 

 

 

 

 結論から言えば男は騎空挺の存在を知らなかった。

 ソレに似てるものも見たことがない(飛竜なら居るそうだが)と言った男にカリオストロは礼を言い、再び街を歩き始める。コレほど発展してる街で、その住人が騎空艇を見たことないという事は、自分の知る世界ではありえない。

 

 更に、人通りの多い道をリンガを齧りながら歩くカリオストロが辺りを見渡せば、ヒューマンは居ても、自分の世界で一般的である小柄な種族ハーヴィンも、痩躯で耳と尻尾が生えた種族エルーンも。男性は大柄、女性は小柄の種族ドラフもいない。代わりに居るのは全身が毛で覆われた獣人や、鱗を露出させる蜥蜴人等々。極めつけに看板に書かれているのは、天才を自称する自身でさえ見たことのない言語。

 

 間違いない。ここ異世界である。カリオストロはそう確信した。

 

(まずったな。この世界にもヴァシュロンが居ればいいんだが崩壊直前までボコっちまったからな……。下手すると帰れない可能性も……いや、諦めるのはまだ早い、可能性は可能性でしかねえんだ)

 

 思わず漏れるため息を噛み潰し、彼女は頭の中で冷静に、今後するべき方針を立て始める。求めるのはヴァシュロンの目撃情報。そして当分の活動拠点。その為には誰かしらの権力者に手っ取り早く自分の力を見せつけて、パトロンに仕立てあげるのが良いだろう。幸いにも自分にはそれを可能とする力を持っている。

 

(オレ様の可愛さと錬金術があればそれくらい容易いだろう。それに、今頃あいつもきっと俺様の事を探してる筈だ。あぐらを掻いて救助を待つなんて真似出来るか? 嫌だね。必ず戻るから大人しく待ってろよ、グラン)

 

 と内心で考えた所で、あの団長が大人しくしてる筈がないよなぁと一人納得し、苦笑する。そうこうしてカリオストロが決意を新たにしていたのだが、その直後。対面から人を掻き分けて誰かが走ってくるのが分かった。いや、掻き分けているのではない。まるで忌避するかのように人が勝手に()()()()()()

 程なくして人ごみの中から現れたのは、まるで雪のように白い少女だった。輝く銀髪を持ち、全身を白い装いで固めた少女は、美しくも強い眼差しを携えてこちらに向かって走ってきており――

 

 

「ごめんなさい、ちょっとそこ通るわね!」

 

 

 ──彼女はこちらを一瞥することなく、そのままカリオストロの横を通り抜けていった。

 

(……。なんだアイツ)

 

 思わず目で追ってしまうくらい目立った彼女を、周りの住民達も奇異の目線で見ていた。ただ、何となく自分と違う視線の温度に小さな不快感を感じてしまう。その不快感から抜け出そうと先を急ぎ――しばらくしてカリオストロは時間をかけることなくとある人物に出会う事が出来た。

 

「ねえねえ騎士のお兄さんっ☆」

 

「ん、なんだ?」

 

「えっとね~、実は迷子になっちゃって……ここがどこか分からないのっ☆」

 

「ふむ、迷子か……分かった。こっちに来なさい。お父さんかお母さんとはぐれたのかい?」

 

 カリオストロが目指した先は、警備兵の詰め所だった。彼女は文無しで土地勘もないうちは然るべき場所で保護を求め、情報も得るべきだと判断したのだ。若い兵士に連れられて奥の部屋に行くと、彼はカリオストロに水を一杯用意して事情を聞き始めた。

 

「実はお父さんもお母さんも、既にいなくって……たまたま変な魔物に襲われて命からがら。気付いたらこの街に居たの☆」

 

「あぁソレは済まない事を聞い……ちょっと待って欲しい、魔物かい? この近くに魔物が? お嬢ちゃん怪我はないかい?」

 

「怪我はなかったの……でもぉ怖くて必死に逃げてぇ……☆ この近くかは分からないけど、兎に角凄い魔物だったの☆ 空飛ぶ鎧みたいな感じで~…☆」

 

 媚び媚びな感じで説明する少女に兵士はたじろぎながら照れる。見た目は完璧な美少女であるカリオストロは街でも、いや数多の国でも中々見かけない程のレベルの造形美を誇っている。たじろくのも当然であろう。

 カリオストロはそんな自分の武器を前面に押し出しながら、ここぞとばかりにヴァシュロンの特徴を説明する。怪しまれない程度に、詳細は除いて、外見程度の説明だけに留め、似たような魔物はいないか聞いてみたが残念ながら確認されていないという。やはりそう簡単には行かないかと内心舌打ちしながらも、カリオストロは表情を変えずに話を進めていく。

 

「……ありがとう。大変だったね。さて、キミは一体どこから来たんだい? よければ元の場所まで送ってあげたいが……」

 

「ポート・ブリーズって所☆」

 

 ポート・ブリーズか。と反芻する兵士だが、やはり思い当たりがないようで、王国の地図をその場で広げ、探し始めた。カリオストロもわざと兵士に体を近づけさせながら地図を覗き込もうとすると、兵士は露骨に照れ始める。

 

「この辺りだと思うんだけどなぁ…☆」

 

 すすっ

 

「そ、そうか。この辺りの小さな村なのかな? この地図もそこまで正確という訳ではないからなぁ…ハハハハ」

 

 すすすっ

 

「ねぇ兵士さん、もしよければ何だけど~…☆ 私、実は知り合いもお金も何もなくて……心細いからぁ、兵士さんの家に泊めて欲しいなぁって……☆」

 

 すすすすっ、ふぅっ

 

「!!!」

 

「ねぇねぇ、駄目~……?」

 

「い、いや流石にキミを私の家で止めるのはその……わ、悪くはない案と言えるがっ、私は男一人暮らしで……」

 

 自分の武器を惜しみなく使って寝床を確保しようとするカリオストロに、既に陥落一歩手前までに落ちていた若い兵士。

 

 

「その役目、もしよければ僕が担ってもいいかい?」

 

 

 ――だが、二人の間に凛と通る声が割って入れば、少しおかしくなっていた空気も霧散してしまう。つい先程まで感じなかった気配にカリオストロはヒヤリとしながら振り返った。

 

 燃えるような赤毛に、輝く蒼い相貌、異常なまでに整った顔立ち。そして腰に下げる業物と思える騎士剣。そこに立っていたのはまさしく騎士然とした男で、カリオストロは元の世界で知り合った、パーシヴァルという青年を咄嗟に思い出していた。

 

「こっ、これはラインハルト様っ!」

 

「畏まらなくてもいいよ、今日の僕は非番だ。少し用事を済ませに此処に来ただけでね、盗み聞きして申し訳ないけど話は聞かせて貰ったよ。キミは心穏やかで居られなさそうだし。彼女、しばらく僕の家で預からせて貰っても構わないよ」

 

「……どちらさま?」

 

 カリオストロの問いかけに兵士が驚くも、ラインハルトは動揺する事無く微笑みをたたえながら向き直り、丁寧に跪いて挨拶をした。

 

「自己紹介が遅くなって済まないね。僕の名前はラインハルト。ラインハルト・ヴァン・アストレア。しがない一人の騎士です、お嬢さん」

 

「……ご丁寧にありがとうラインハルト☆ 私の名前はカリオストロって言うの、よろしくね☆ ……と・こ・ろ・で~、お兄さん本当に良いの?」

 

「構わないとも。僕の家は数人で使うには持て余す程でね、空いた部屋が一杯あるから好きに使えると思うよ」

 

 カリオストロはこの数瞬で目の前の騎士に自分ですらも底知れぬ、強大な何かを感じたが、持ち前の仮面を被って何とか平然を装って返事をすることが出来た。

 

(どうやら有名な騎士のようだな。幸先いいというか、出会ったこいつの底の見えなさに嘆くべきか。何であれ今は少しでも切っ掛けが欲しい……付いていくしかねえな)

 

「ありがとう☆ それじゃあラインハルトに甘えさせて貰うねっ☆」

 

「身よりも当てもない女性を野放しにさせるのは騎士道に反すると教えられたからね。どうぞ遠慮なく、カリオストロ」

 

 

 

 § § § 

 

 

 

 幾分悔しそうな顔をした兵士を残して、カリオストロはラインハルトについていく事になった。

 

 彼に連れられるがままに馬車に乗り、夕方になる頃には間違いなく豪邸といえる大きな屋敷についており、あれよあれよと言う間に豪勢に持て成された。豪華絢爛を体現した持て成しを受けたカリオストロは、とんとん拍子に良い相手に巡りあえた自分の豪運に内心テンションをあげながらも、見た目どおりの淑女らしい振る舞いで歓待を受けた。

 

「素敵な夕食に、お風呂まで本当にどうもありがとうラインハルトっ☆ その上で聞くけど~、どうして私を預かろうと思ったの? カリオストロが~あんまりにも可愛かったから?」

 

 時は既に夜更けにさしかかっている。夕食を頂き、更に湯浴みまで頂いたカリオストロは、現在ラインハルトの部屋を訪ねており、彼のベッドに腰掛けながら職務中であるのか机に向かっているラインハルトにそんな事を尋ねた。彼は一旦作業を止めると丁寧にこちらに向き直り、口を開いた。

 

「勿論それもあるし、昼に言った理由が大部分だね。当てもない女性に野宿させるなと父に教わったものだから」

 

「ふぅん、本当かな~☆」

 

「会ったばかりで信用ならないというのも分かるし、キミにとって都合が良すぎて不安になるのも分かる。が、こればっかりは信じて欲しいと言うしかないね」

 

 カリオストロが部屋のベッドの上から体を乗り出し、見透かすようにラインハルトをじっと眺めていると、ラインハルトは困ったように手を上げて降参だと笑った。

 

「正直に言えば――そうだね。女性云々はもとより、キミが気になったから声をかけたのは違いないよ」

 

「あれあれっ☆」

 

(こいつロリコンかよ。ま。オレ様の魅力の前ではどんな奴でもメロメロか。世界一カワイイってのも困りもんだな!)

 

「何せ、キミの体があまりにも人間そっくりだからね」

 

 

 

 

 

 

 浮かんでいた笑顔は貼り付いた絵のようになり、カリオストロは自然と腰を浮かせ、警戒心を最大まで高めた。

 

「……どう言う。意味かな?」

 

「一度見ただけでは分からなかったが何度か他の人と見比べると分かる。その体自体が作り物だという事がね。精霊が入っている訳ではない、しかし魂が確かに入っている。とても興味深くてね」

 

 『あぁ。別にどうこうするつもりはないよ、警戒させて済まないね』と付け加えるラインハルトは、実に自然体。その様子にカリオストロは呆れを隠さず、ベッドから浮かせていた腰を落として座り込んだ。

 

「普通はそこでカリオストロを捕らえたり、その場で処断するものじゃないかな~☆」

 

「生憎、僕は研究に生きる魔法使いではなく、法に生きる騎士だからね。法がカリオストロを罪と見なさない限りは捕らえる事はないよ」

 

「……もしかして、カリオストロみたいな人って結構居るのかな? だからそんな自然体で居られるとか……」

 

「だったら良かったんだが、残念ながらキミのような娘は今まで一人も見たことがない。だからこれは……そうだね、僕の単なる好奇心がキミに声をかけたって事だね」

 

「……」

 

 ほんのり考え込んで、そのような答えを真面目に答えるラインハルト。そんな彼の様子に敵愾心が薄れたカリオストロは、一つため息をついて部屋を後にしようとする。

 

「送っていくよ」

 

「平気だよラインハルト☆ 宿と飯を貰った恩もあるし――とりあえずは今の言葉、信じてあげる☆」

 

 返答に苦笑するラインハルト。それは年頃の少女を軽くあしらっているような態度で、カリオストロの高いプライドをいささか傷つけた。故に、彼女は挑発的な言葉で目の前の男をからかおうとしてしまう。

 

「あ。そうそう☆ すぐに恩を返す方法があるね☆ ――ねぇねぇラインハルト、今日はぁ、カリオストロと一緒に寝てくれる?」

 

 体をすり寄せ、自分で考えた一番魅力的に見えるポーズでラインハルトを誘う。ラインハルトはきょとんとした顔でカリオストロを見つめていた。

 

「あれれ~☆ ふふふ、固まっちゃってるよ? ラインハルトは~、カリオストロみたいな女の子は、嫌……?」

 

 気を良くしたカリオストロがラインハルトの傍に近寄って顔を覗き込むが、彼は()()()()()()()()()()()()()()で、何一つとして反応がない。

 

「……も~☆ 流石に反応ないと寂しいんだけど~……なっ!?」

 

 固まる眼の前の男に業を似やした直後、あの甘ったるい香りとともに世界が一瞬で灰色と黒に色褪せ、自分の意志に反して体が。世界が、過去へと巻き戻り始めた。

 

 人々は後ろ向きに進み、拡散した音が口に収束し、胃に収まった物が元の空間、元の形に戻る。馬車が逆進して、鳥は地面に向かって飛翔し、夜が夕方に傾き、夕方が昼に変わっていく。

 

 人々が過ごした一日が、全てが元通り()()()()()()()になって行く。

 

(ふざけんな! なんだよこれは!? 時の逆行!? 世界の理そのものを弄ってやがるのか!?)

 

 不可思議な世界の中、カリオストロは抵抗する事も出来ずに逆行をその身でもって体験していた。不思議な事に時を逆行しているというのに、自分の意識だけは明確に残っていた。

 

 心臓が血液を送り戻す感覚。汗が自分の皮膚に潜り込む感覚。取り入れたものが全て排出され、排出されたものが全て吸収されるという感覚は筆舌に尽くしがたく。また五感の全てが逆の感覚を伝えるという未知なる経験はカリオストロの意識に不快感だけを残していく。それは実際は刹那の時間だったかもしれないが、カリオストロにとっては永遠にも思える長い時間に感じた。

 

 

 カリオストロは不快感の中自分が歩んだ一日を見せつけられた上で、目の前で無に帰されるという拷問を味わい続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――気付けばカリオストロは燦々と日の照る道を歩いてる所まで戻っており、世界が元の歩みを思い出した時には蓄積した不快感からその場で膝をついてしまう。

 

「お、おい嬢ちゃん平気かい?」

「日差しに当たりすぎたのかしら」

 

「へ、平気平気~☆ うん、ちょっと日差しにやられちゃって~…☆」

 

 心配する通行人を何とか誤魔化すと、口元を抑えながら日陰の方に移動し、不快感を押し隠しながらも冷静に思考する。

 

(世界を対象にした、逆行魔法だと……? ありえない。どういう力だ……こんな規格外な術、聞いたことも見たこともねぇ。星晶獣でもこんなのは容易に実現出来やしないだろう……一体どうなってやがるんだ)

 

 先日まで戦っていた時空を操るヴァシュロンがまるで子犬のように思える程の異能。それは今まで戦ってきたどんな相手よりも、どんな災害よりも得体が知れない物だった。

 そして今までと違って困難を共にしてきた頼れる団長も、その団員達もこの世界に誰一人として居ない――つまり、この困難を一人で打破しなければならないのだ。

 

 項垂れた顔を上げた先には、何も知らない人々が二度目の一日を刻んでいる。

 

 

 彼女が無意識に握りしめた片手は何も掴めなかった。

 

 




時系列的にはおっさんがリンガ売り到着の後にスバルがリンガ売りの所に行く感じです。
ラインハルトの話し方とか難しい。



《カリオストロ》 出典:グランブルーファンタジー
本作の主人公。CV丹下桜の世界一可愛い☆天才美少女錬金術師。
昔は男でなおかつ病弱だったが、死に物狂いで錬金術を学び、持ち前の才能と努力の結果真理に辿り着く。そして自分の身体を健康な身体(素体)に移し変えることに成功しほぼ不老不死に。
その際、素体に自分の趣味を反映させて美少女になったとか。
馬鹿が嫌い。男をその美貌でどぎまぎさせたりするのが好き。天才で可愛い自分が大好き。
よくぶりっ子になるけどすぐ素が出る。
ちなみに天才ぶりとその力の凶悪さで一時期(数百年くらい)封印されてたりもした。

《ミラ=マクスウェル》 出典:テイルズオブエクシリア
四台精霊を従える、テイルズオブエクシリアの主人公の1人。
星晶獣ヴァシュロンによりグラブル世界に飛ばされて、偶然出会ったグラン達に助けて貰う事に。
バリボーなボディ(けしからんスタイル)の女性であり、CVみゆきちな人である。

《グラン》 出典:グランブルーファンタジー
グランブルーファンタジーの主人公。騎空団と言う、いわば傭兵団の団長をやってる。
名称と性別はユーザーによって変更できるが、男キャラを選んだ時はデフォルト名として「グラン」になる。
スマホゲー特有のモテモテ主人公でもある。

《ヴァシュロン》 出典:グランブルーファンタジー
テイルズコラボイベント「交差する運命の物語」より、イベントボス。
見た目は空に浮かぶ巨大な鎧が剣を持ったような存在。大きい。強い。
時空の裂け目を作って誰かを異世界からさらってくるのが得意。
グラブルクロスオーバーでは便利すぎるボス。

《黒い手》 出典:Re:ゼロから始める異世界生活
リゼロの主人公スバル君が好き過ぎて異世界から連れ去ってきちゃう、はた迷惑なお方。今回は何故かカリオストロを連れてきた。
凄い甘ったるい香りがする。(カリオストロ談)

《ウロボロス》 出典:グランブルーファンタジー
カリオストロの相棒であり、真理を解き明かした証とも言える竜?(虫)
語源からして己の尾を噛んで環となったヘビもしくは竜をさしているためか、己を飲み込まぬように口や体に杭が打ち込まれているらしい。

《リンガ売りのおっちゃん》  出典:Re:ゼロから始める異世界生活
果物とかを売る、妻子もちの気のいいおじちゃん。
おじちゃんマジセーブポイント。

《アガスティア、アルビオン》 出典:グランブルーファンタジー
グラブル世界にある街……というより島の名前。
グラブル世界は地続きではなく、空に浮かぶ島が散在する世界。
そのため、空を飛ぶ船である「騎空艇」で人々は島を行き来している。
空の下に落ちたら誰も戻って来れないと言われている。

《騎空挺》 出典:グランブルーファンタジー
グラブル世界では一般的な空を飛ぶ船。
騎空艇は移動や輸送と色々な場所で活躍しており、その世界では知らない人がいないくらいである。その船を拠点とする傭兵集団を騎空団と言ったりする。

《ファータグランデ空域》 出典:グランブルーファンタジー
グラン達一行が主に活躍している空の一帯の事。

《ラインハルト・ヴァン・アストレア》  出典:Re:ゼロから始める異世界生活
王国に仕える剣聖の家系で育った、まごうことなき剣聖。
イケメンで性格も良く、リゼロ世界の超絶チーターでもある。
その強さはカリオストロでも勝つ事は不可能といえる。

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