RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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お仕事忙しくて遅くなりました。辛い。つらたん……。
Stay Aliveを聞いて心を落ち着ける日々です。(震え声)


第十六話 守るべき意志

「どういうつもりだ」

 

 夕食後、宛てがわれた客室で話し合うカリオストロとスバル。睨みつけるカリオストロに対し、ゆっくりと息を吸って気を落ち着けたスバルが、真摯な眼差しを向けて話始めた。

 

「カリオストロが俺を心配してくれてんのは分かる。だけど俺とカリオストロがここで食客になったら得られる情報も減っちまう。なら前と同じ流れを辿って、出来る限り俺も探ってみるつもりだ」

 

「そんな事最初から分かってんだよ。だがな、お前がわざわざ働かなくても情報は得られる。自分から虎穴に入って虎に食われる必要はねえだろうが」

 

「いいや、ここに虎はいねえよ。居るのは可愛いメイドと、生意気な子供と、ピエロ、そして俺の推しだけだ」

 

 目の前の餓鬼(スバル)が縋る、甘っちょろい根拠。それは理詰めで考えるカリオストロにとっては到底理解出来るものではない。カリオストロは舌打ちすらも隠さず、語気を強めて問い質し始めた。

 

「お前……まだ、レムとラムを信じてる。とか言うんじゃねえだろうな」

 

「あぁ。信じてる」

 

「甘っちょろい考えは飽き抱きだ。いい加減にしろ。お前にも分かってるだろろうが、一番の容疑者がその二人だって言う事は」

 

「……まあな」

 

 言葉尻小さく、しかし首肯するスバルに、だったら!と捲し立てようとするカリオストロ。しかしそれを遮るようにスバルが強い論調で告げる。

 

「だが、確たる証拠がある訳じゃないんだろカリオストロ。あいつらが俺を殺したって言う証拠はよ」

 

「当事者の情報を聞かずに、そんな事言い切れる訳ねえだろうが。……じゃあ聞くが、あの時のお前は、鑑みるに睡眠中で、気付いたら戻っていた。そこまでは間違いないな?」

 

「あぁ、気付いたら一日目に逆戻りだ。正直寝る前も特に違和感もないし、人影があった訳でもなかった。あったとしたら、デート前でただテンション上がってちょっと寝付けなかったぐらい。レムとラムもその日は別に怪しい素振りもなかったぞ」

 

「何か屋敷で変なものを見たり、知ったりしなかったか?」

 

「ないない。俺が屋敷で見たものって言ったら可愛いエミリアたんの私服と、ラムの蔑む目とレムの笑顔と、パックを人知れずもふもふするベア子、あとロズっちの全裸だ」

 

 全く参考にならない。カリオストロは腕を組んで頭を垂れた。しかしながら容疑者は必ずどこかにるのだ。スバルを考え直させねば、また同じ二の舞になってしまう。

 

「……であれば今考えられるのはやっぱり暗殺ぐらいしかねえ。容疑者で可能性が高いのは、さっきも言ってるがレムかラム。そして死因は毒殺か、寝込みを忍び寄って殺害の2つだ」

 

「ありえねえ。ラムもレムもそんな事しねえよ」

 

「いい加減にしろ。そう言う根拠のない台詞がオレ様に響くと思ってんのか。信用? 信頼? 大いに結構だがな、勝手に絆されて勝手に自分の首締めてたら世話ねえぞ」

 

 反抗的な目を思わず向けるスバル。しかしそんな目を向けられてもカリオストロはその口を止めなかった。

 

「あぁそうさ。確かにお前の言うとおり確定じゃあないし、あくまで推測でしかねえよ。ただ可能性が高いってだけで、お前を殺害する動機もメリットも今は見当たらねえ。だけどな、万が一ってのはあるんだ。オレ様は前も言ったよな? "常に最悪の更に上を想定しろ"ってな。言いたい事は『リスクに自分から頭を突っ込むんじゃねえ』って事だ。リスクに頭を突っ込んでいいのは、それを解決出来る力を持つ奴だけだ」

 

「……」

 

 説教じみた説明を受けても、スバルは理解はしたが納得はしていない顔だ。カリオストロは大きくため息をつくと、今度は諭し始めた。

 

「これだけは言っておく。オレ様はお前のやりたい事を片手間で手伝ってやるとは宣言はしたが、自分から死地に赴こうとする馬鹿を手伝うつもりはない」

 

 しかし……思う処はあるのだろう。しばしの沈黙の後、カリオストロはこう付け加えていた。

 

「ただ……今回は特別だ。お前があれだけ大見得を切っちまったら今更撤回もまずい」

 

 不貞腐れながらも最後に付け加えた一言に、スバルも苦笑しながら頭を下げた。

 

「……ありがとよカリオストロ。けれど俺は持論を変えられねえ。絶対にラムとレムがこんな事をするとは思えないんだ。だから……今度はあいつらが無実だっていう証拠を絶対集めてやるぜ」

 

「オレ様を説き伏せられるほどの確かな証拠を集められるなら、喜んで受け取ってやるよ」

 

 

 それから。二人は今後の方針と注意点を話し合い始めた。

 

 カリオストロは前と変わらずベアトリスから知識の蒐集を続けていく。しかしスバルは前と同じく働くものの、無意味な"探り"を入れるのは必要な時以外禁止とカリオストロに言い渡された。

 

「……ってオイ。折角前と同じく働けるのに能動的に調べなくていいのかよ?」

 

「素人の探りなんてあいつらにゃバレバレだ。無目的に嗅ぎ回れば嗅ぎまわるほど怪しまれて、お前の首が締まるだけだ。オレ様が機会を作るまでは余計な探りは絶対に入れるんじゃねえぞ」

 

 事実ラムとレムはその立ち振舞とマナの巡りからしてただのメイドではないとカリオストロは既に気付いていた。彼らがロズワールから監視を命じられている以上、スバルが何かしようとすれば直ちに怪しまれることだろう。

 

「……これでも学芸会じゃ木のフリとか割りと絶賛だったんだぜ?」

 

「ふーん☆ じゃあベッドの上で一週間以上寝転がり続ける、怪我人のフリをしてもらおうかなっ☆」

 

「よし、次行こうか!」

 

 方針として他に上がったのは、スバルは極力一人にならないこと。レムやラムと二人きりになるのは特に注意すること。何かあったらカリオストロを頼る、居なかったらエミリアやベアトリスに助けを求める。ピンチになったら大声を上げて助けを求めること、etc...etc...

 

「――死んだフリは下策だ。やるならみっともなく命乞いが一番いい。相手もしばしの時間をくれるだろうからな。失禁までして泣き叫べば更に相手は時間をくれる確率が高いあぁそれから反撃とかはここ一番だけにしておく事。それから…」

 

「ほんっっとうに、おかんだよなカリオストロって!? 分かった! 分かったからそこまでで良いって!」

 

 持ち前の心配性と世話焼きが重なり、カリオストロの口は回りに回る。懸念事項の嵐に巻き込まれたスバルは堪らずストップをかけていた。止められたカリオストロはまだ言い足りなさそうだったが、代わりにポシェットからあるものを取り出し、スバルへと渡していた。

 

「お守りだ。持ってけ」

 

「……今度はメロンソーダじゃねえんだな」

 

 渡されたのは以前渡されたキュアポーションと同じ形の紫色のポーション。だが、そのポーションは前のものよりかは遥かに小さい。透き通った紫はまるでエミリアの目みたいに美しい。思わず目を奪われていたが、横合いからの説明ではっと現実に引き戻される。

 

「お前に回復薬を渡しても回復する前に死ぬからな。だったらお前を死に難くするものを渡す」

 

「……ごもっともだけど、これも土壇場ですぐに使えるかって言ったら微妙じゃねえか?」

 

「故に、自動発動型のものだ」

 

 カリオストロは説明する。この世界に来る前に研究してた代物で、体のどこかに身に付けておくと、攻撃を受けた時に自動で割れてお前を守る薄い膜みたいなのが短時間だけ発動する。更に一時的に筋力が上昇するし、毒などの状態異常も一度回復する」

 

「すげぇ!? バリアに攻撃アップに状態異常回復!? これがあれば一時的に俺も強キャラに!?」

 

「言っとくが自動発動型にしたせいか性能は良くねえぞ。膜はお前が死ぬであろう攻撃を、死にかける程度の攻撃にするだけ。筋力の上昇はお前の筋力が精々ちょっと強くなる程度。状態異常も一時的に和らぐだけで、全部治す訳じゃねえ。そして持続効果も約10秒で終わる。発動したらすぐ様逃げないと、お前はどの道死ぬ羽目になるからな」

 

「……うわぁ、ですよねぇー」

 

 だがそれでも非常に有りがたい事には変わりなかった。そして就寝の時間であるため今日の報告会はお開きになった。カリオストロは部屋を後にしようと扉を開けた所で……ふと振り返る。

 

「そういえば聞いてなかったな。スバル、外出したときの事を聞かせろ」

 

「あぁ、レムと出かけた時のことか? つっても特に変なことはねえぞ。レムと一言二言会話したり、途中でこけたり、村のガキ共に群がられたり、あとは子犬に噛まれたぐらいだ」

 

 カリオストロは思案する。確かに特徴的な出来事ではない。それでも、もしかしたらと思いながら詳しい話をスバルへと聞いていく。

 

 レムに失礼な言葉を投げかけたか?

  →全く。逆に笑いながら談笑した程度。

 

 こけた時、場所や打ちどころが悪かったりしないか?

  →小石につまづいて土の上で転んだだけ。被害は膝擦りむいた程度。

 

 子供の中に怪しいやつはいなかったか?

  →全員無垢過ぎて疑うことすら烏滸がましい。鼻水はなすりつけられた。

 

 その子犬は何か怪しくなかったか?

  →頭部がハゲてたぐらいで普通に可愛かった。

 

 

 

「……ありがとよ。全く参考にならなかった」

 

「そっちから聞いといて酷い感謝だな!?」

 

 

 

 § § §

 

 

 

 時は二日目昼。昼食後に宛てがわれた客室で一人机に向かうカリオストロの姿があった。彼女は備え付けられているメモ用紙に黙々と羽ペンで、今回の件を書き連ねている。

 

(スバルを殺した理由。……それは一体なんなんだ?)

 

 浮かぶ動機は、「他陣営の間者かもしれないから」程度しか今のところはない。けれどもスバルの話と動きを推測するに間者である振る舞いも見せていないだろうし、一番の容疑者であるレムやラムとの関係も良好だという。それがどこまで信じられるかは分からないが、カリオストロ自身も殺す事はまずないと考えていた。

 仮にも陣営の重要人物の恩人を殺す事はメリットが少なく、デメリットがあまりにも大きすぎる。それが考えつかぬほど彼女達、いやロズワールは浅慮ではないだろう。 早とちりをした上での衝動的な殺害? そこまで考えると可能性は多岐に登ってしまい、考えきれない。

 

 ふぅ、と一息ついたカリオストロは、頬杖を突いてメモをゆっくりと眺め始める。そして「外的要因」と書かれた場所をくるりと黒で囲った。

 

(仮にもし、レムやラムが犯人ではないとしたら……ベアトリス。あいつも容疑者だ。もっと言えばパックだってな)

 

 だがベアトリスは禁書庫以外に重きを置いているとは思えないし、そもそもがあの性格だ。スバルをぶっ飛ばすことはあっても殺すことはないと思える。パックだってそうだ。あいつはエミリア以外に興味なさそうであり、気に食わなくて殺すなら出会って速攻殺していそうだ。なら、

 

(この屋敷に存在するまだ見ぬ存在……いや屋敷外にいる存在……か? はっ。ますますスバルを殺す理由が考えられねえな)

 

 片手で弄んでいた羽ペンを墨壺に入れると、ん~~~っと可愛らしい声をあげて背伸びをする。そして傍らに置かれた紅茶を飲もうとして、それが空だと気付いた時――控えめなノックの音が聞こえてきた。

 

「カリオストロ様、よろしいでしょうか」

 

「ん……☆ どうぞ~☆」

 

 カリオストロは書いていたメモを、ベアトリスから仮り受けた本──

ちゃっかりとベアトリスから再度の契約を済ませていた──に"雑"に滑り込ませると、部屋に招き入れた。

 声の主はラムだった。恭しく礼をしながら入室した彼女はトレイの上にティーポットとお茶菓子を乗せ、カリオストロの側へと近づいてきた。

 

「お茶のお代わりと、お茶菓子を用意しました」

 

「ありがとう~☆」

 

 慣れた手つきで空いたカップに透き通る紅梅色の液体を注がれると、湯気と芳醇な香りがカリオストロの鼻孔を擽った。お茶菓子は市松模様のクッキーのようで、カリオストロは早速と紅茶とお茶菓子を口に運んでいった。

 

「んっ……んっ……はぁ~☆ 美味しぃ……☆ 紅茶もそうだけど、このクッキーもほんのり甘いのが幸せ~…☆ ありがとうラム、丁度紅茶が切れてた所だったのっ☆」

 

「見計らった訳ではありませんが、丁度タイミングがよろしかったようですわ。……あら。その本は?」

 

「あ、これ~? ベアトリスから借りたのっ☆ 手慰みに何かいい本ないかな~って思って☆」

 

 カリオストロがラムに見えるように本を掲げると、この国の言語で「ルグニカ王国童謡集(上)」と書かれていた。実はこの錬金術師、数日で既にイ文字とロ文字を習得し、ほとんどの本を"読む事だけなら"出来るようになっていた。ラムはそんなカリオストロに少し驚いている様子だった。

 

「ベアトリス様から、お借りしたのですか?」

 

「うん☆ 貸してって言ったら遠慮なく貸してくれたよ~?」

 

「そうですか、であればカリオストロ様はとても強い運をお持ちの方なのでしょう。ベアトリス様は普段は扉渡りと言う力で、私達ですらこの屋敷のどこに居るかさえも分からないのですから」

 

「えへへへ~ありがと~っ☆ 私ってツイてたんだっ☆」

 

「えぇ。とは言え一度会ってしまえば頼み込めば貸していただけると思いましたが。気難しそうに思えますが、同時に素直になれない可愛らしいお方だと思っています」

 

「……結構ズケズケ言うんだね☆」

 

「出会えないので、面と向かって文句も言われませんから」

 

 それでは失礼しますとトレイを持って下がろうとするラムの足を、カリオストロの問いかけが止めた。

 

「ラムに聞きたいことがあるんだっ☆ ここって~、今ラムやレムしか働いていないの?」

 

「はい。この屋敷を私とレムで管理しております」

 

「こんなに広い屋敷なのに、二人だけってのが凄いよね~☆ 昔はもっと居たりするのかな? それと、二人はいつ頃からここで働きだしたの?」

 

「私達ですか? 私たちは物心ついてほとんどすぐにロズワール様に雇われました。雇われてからずっと、ここで働かせて頂いております。他の方は……昔他に一人いらっしゃられたようですが、それ以外は存じておりません」

 

「そんなに小さい頃からほとんど二人で回してたんだ~☆ すごいすごいっ☆ ここで働きはじめた切っ掛けはロズワールの親戚だから?」

 

「いえ。とある出来事からありがたい事にご縁がありまして、それにより」

 

 そこまで聞いたカリオストロは変わらぬ表情で、変わらぬ口調でラムへと質問を続ける。

 

「ふぅん~それって~☆ ラムやレムが人ならざる存在だから?」

 

 

「――そ、れは」

 

「分かるよ? 貴方達って他の人間と比べると何かが違うもん☆ ロズワールが二人を雇ったのって、案外二人が持つ力を珍しいと思って雇ったりするのかな? アレほどお金も地位もある人だもん、そうじゃないと子供二人召し抱えるなんて物好きなこと……しないよねぇ~☆ あれ、もしかしてその物好きだったりするのかな? 道化師みたいなメイクしてるしっ☆」

 

「――」

 

 無垢な表情と相反する、あまりにも明け透けで、悪意を感じる質問は普段のカリオストロを知るものであれば「らしくない」と評したであろう。しかし此処には普段を知る者はおらず、さしもの問いに表情を失ったラムの姿だけがあった。

 

「ねぇ、参考にラムとレムの種族を教えてよ☆」

 

「――」

 

「参考にするだけだってば☆ 言いふらしたりはしないよ~? ここだけの話にするから、ねっ☆」

 

「……大変申し訳ありませんが」

 

「ふ~ん……☆ 駄目なんだっ☆ じゃあいいよ~だ☆ ラムの代わりに、レムに同じこと聞いて――」

 

「――()()()

 

 圧力を感じる語気が、カリオストロの二の句を縫い止めた。そしてどこか敵意すら感じる視線を受けていることに、カリオストロは今気づいたと言わんばかりに、白々しく笑顔を見せた。

 

「……あっ、ごめんねっ☆ カリオストロついつい好奇心強くて、色んなこと根堀葉掘り引いちゃうのっ☆ 聞いちゃいけなかった事だったら本当にごめんなさいっ☆ この話はなかった事にしてっ☆」

 

「……こちらこそ。いち使用人がお客様に大変失礼な態度を取ってしまい申し訳ありません。それでは私は改めて、失礼します」

 

 ラムは先程よりも気持ち素早く。部屋を後にする。瞬間。彼女の視線が偶然にも机の上に置かれた本からメモのような紙片が飛び出しているのを捉えたが、特におくびにも出さずに、静かに扉が閉まった。

 

 

 

 

 部屋は再度静けさを取り戻し、カリオストロは暖かな紅茶を口につけ、ほぅ、と一息ついた。

 

「……種は蒔いた。これが保険になるかは分からねえが。少なくともアイツだけが狙われるこたぁねえだろ」

 

 ソーサーに紅茶を置くと、本から少し飛び出した紙片を指で元に戻すのだった。

 

 




《紫色のポーション》
本作オリジナル。
カリオストロの技、ファンタズマゴリアの自動発動版。
本来は攻撃力20%UP 防御力20%UP、連続攻撃UP、状態異常1つ回復と割りと強いのだが、自動発動にしたせいで大きく劣化している。

《レムとラム以外に働いてた人》
フレデリカという人物。
Webだとケモい。
アニメだとめっちゃ美人。ケモい方がいいよなぁ?

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