RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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滅茶苦茶待たせました。

おっさんイベが入ったと聞いて堪らずプレイして、
おっさんの良さを再認識したので
ここから二章終わりまでノンストップで送ったり送らなかったりします!


第二十四話 絞り出された珠玉の知恵

 屋敷に来てから5日目の朝。

 1回目にスバルが死亡した屋敷での4日目を乗り越え、新しい朝を迎える事は出来たのだが、それを素直に喜ぶことが出来ない現状になっていた。

 

 現在、ラム、そしてスバルにカリオストロはまたも屋敷のある一室に集まっている。

 

 三人はキングサイズベッドの前に囲むように立っており、ベッドのすぐ傍にはベアトリスが。そしてベッドの上には健やかに眠るレムの姿があった。

 レムの顔色は穏やかそのもの。吐息も安定し、容態こそ大事なさそうに見えたが、取り囲む面々の顔色は厳しい。

 

 傍らに佇み、レムに手を翳して何かを探っていたベアトリスが瞑っていた目を開けると、その動向を固唾を呑んで観察していたラムが堪らず問いかけた。

 

「どうでしょうか、ベアトリス様」

 

「……」

 

 ラムの問いかけにベアトリスは逡巡し、一度開きかけた口を閉ざす。

 だが彼女の切なる視線に負けて、ゆっくりと口を開いた。

 

「……正直な事を言わせて貰えば、お手上げかしら。

 外傷はないし、マナの巡りはそれこそ平常時と同じで問題ないけれども、コイツに掛けられた呪いの量が半端ではないのよ。

 ――このままじゃ解呪はできないかしら」

 

「っ」

「ちょ、ベアトリス!」

 

 彼女の答えに飛びついたのはスバルだ。

 スバルはベアトリスの前に踊り出ると、眉根を寄せながら訴え出る。

 

「何とか、何とかならねえのか!?

 俺の呪いは本当に片手間程度で解呪出来たんだろ?

 それこそふーって、息吹きかけるだけで!」

 

「お前の時と状況が違いすぎるかしら。

 お前が噛まれたのは一箇所。コイツの場合は全身、複数個所、数え切れないくらいなのよ。

 ウルガルムにかけられた呪いがコイツの中で複雑に絡みあって、解くことも出来なくなってる状態かしら。……ベティーにはどうする事も出来ないのよ」

 

「そんな……!」

 

 

 話は前日夜まで遡る。

 カリオストロが自身らの秘密を話し、レムが起こっている異変を解決するために村へと繰り出した後。ラムが共感能力によりレムに異常事態が起こった事を知覚、ふらつく体で助けに行こうと意気込むその様子にスバルはもとより、カリオストロも仕方がないと重い腰をあげて村へと向かった。

 

 そしてラムの先導の元に村へ進めば、そこでは村人達が右往左往しているのが見て取れた。

 何があったかと1人に聞けば、案の定子供達が噛まれた――のではなく、子供達が行方不明になったのだという。

 想定と違う出来事に、更に険しくなる一行の表情。

 三人は魔物の住まう森に飛び込み(当然スバルが同行する事を渋ったカリオストロが居たが、説き伏せられてしぶしぶと同行を許可したとか)、ラムの千里眼を用いて奇跡的にレムの居場所を突き止める。

 

 その場所に居たのは巨大な倒木の前に陣取り、血まみれになって孤軍奮闘するレムの姿だった。

 あの夜のように角を生やしたレムは、多数のウルガルムと思われる巨大なドーベルマンのような犬達に囲まれており、美しいメイド服を血に染め、数多の傷を負いながらもその場でウルガルムを退治し続けていた。

 

 すぐさまその輪に飛びこんだラムとカリオストロ(とスバル)。

 ラムが風魔法で犬を切り裂き、カリオストロが土魔法で串刺しに見舞い、数分で犬の輪を退治する事が出来たが…、レムはその様子に安心しきったのか、その場で倒れてしまった。(ちなみにスバルも棒切れで戦おうとしたが、何故か魔獣のヘイトが高くて囮代わりにしかならなかった)

 そして直後。一行は彼女が囲まれてしまった理由を知る事になった。

 

 なんと彼女の背後。倒木のうろに当たる部分に行方不明になっていた子供達がいたのだ。

 子供達は全員ぐったりとしており、手や足に噛み傷がひとつずつ存在。マナを吸い取られていたのは明白だった。

 三人がかりで子供達とレムを抱えて脱出する一行に対して、追いすがる魔獣達。何故かは分からないが特にスバルを執拗に追いかけまわしてくるのだが、カリオストロの力のお陰で、何とか無事に森から抜け出すことが出来た。

 

 そうしてレムと噛まれた子供達を一旦屋敷で預かって、傷の治療及びベアトリスが呪いの解呪を施す事になったのだった。

 その結果、子供達は無事に解呪に成功したが――

 

(レムは噛まれすぎて解呪出来ない、か……。

 ちっ、呪いは正直専門外で手が出せねえ。呪術に精通してるマギサやらアンナが居れば解けなくもないんだろうが。――外傷や病気くらいなら何とかなるんだがな)

 

 腕を組みながらレムを見下ろすカリオストロ。

 ちなみに、レムの怪我を治したのは彼女である。

 一部どころか全身に痛々しい傷を負ったレムを、カリオストロはその場で事も無げに治癒して見せて面々を驚かせた。とはいえ直す前から鬼化したレムの体は自己治癒を始めていたので、治療すら要らなかった可能性もあるが――

 

「それじゃ、それじゃもうレムはただ死を待つしかないというんですか――!」

 

「……」

 

 今にも泣き出しそうな声色でベアトリスに詰め寄るラム。

 そんな悲劇のシーンの中もカリオストロは考えることをやめない。

 

(あー、それかあれだな。一旦レムを分解して再構成してやれば片付くんじゃないか?

 ……いや。駄目か。人間ならまだしも、鬼族の構成なんて把握も出来てねえ。

 魂を別の物質に移し変えるぐらいならまあ何とかだが。……あん?)

 

「……オレ様の可愛さを今更再認識してんのか?」

 

「ちがっ、お前こんなシリアスな場面でよくそんな事を言えるな……っ!?」

 

 気付けばスバルがこちらをじっと見ており、思ったことを話すと彼は小声で叫ぶという器用な真似をし始めた。そして改めて、すす、とカリオストロに近寄ると小声で話しかけ始める。

 

「それより……」

 

「言っておくが、オレ様を頼っても無駄だぞ。

 根本的にこちらの世界の知識が足りてないし、呪術はオレ様の専門外――加えて、この世界が向こうの世界の法則と同じかどうかも分からないんだ。むしろ失敗して酷くなる可能性の方が大きい」

 

 ぼそぼそと小声で反論するカリオストロに、出鼻をくじかれたスバルはがっくりと項垂れる。

 

「……無敵の錬金術も、こっちの世界じゃ無力かー」

 

「むっ、錬金術は万能だけど全能じゃねえんだよ。

 その気になりゃ世界を紐解く事だってやって見せるが、それも知識の蓄積あってこそだ。

 トライ&エラー気にせずにやっていいっつーんなら別に構わねえけどな」

 

「世界を紐解くってまた大層な事を言うな……ちなみに、やった場合の成功確率は?」

 

「1割。物言わぬ骸が出来る可能性が6割、よく分からない生物が出来る可能性が3割だな」

 

 何をするつもりか分からないけど、やめよう。他の方法を探そうと強く頷いたスバル。

 そこにベアトリスの声が重々しく響いた。

 

「――方法はなくはないのよ。

 呪いとは言ったものの、これは奴らにとっての食事そのもの。

 食べる側が命を落としたら、食事は中断されるのが道理かしら」

 

「……!」

「おぉ!……あー……」

「……」

 

 ベアトリスの出した答えに、三者三様の反応を返す一行。

 だが全員がその回答に付随する共通の問題点を即座に見抜いていた。

 

『果たしてあの広漠な森の中、レムに噛み付いた犬を虱潰しで探し回って倒す事が出来るのか』

 

 一番気を揉んでいるラムもその回答に今以上に美しい顔を歪ませている。だがそれでも悩んでいられないのか彼女はすぐ様部屋から出ていこうとする。

 

「ちょ、待てってラム!」

 

「……離して下さいお客様」

 

 スバルは急ぎ去ろうとするラムの肩を掴み、移動を拒まれたラムはスバルを肩越しに睨みつけた。

 

「宛もなく森に入って一体どうするつもりだ?

 そんな事したって、絶対達成出来ない……っつーかレムの方が武闘派だって言ってたよな!?

 そんなレムがやられたって言うのにお前が単身で入ってもただ返り討ちになるだけだろ!」

 

「確かにあの子の方がラムより強い。だからと言って指を咥えてレムを見殺しにしろと? そんな残酷な事、私には出来ません。

 レムは私にとっての大切な家族――世界に一人しかいない、かけがえのない妹。そしてラムはその姉です。目の前に解決の糸口があるのなら、それがどんな内容であれやり遂げて見せます」

 

 向き直り、自身の思いの丈を真正面から伝えるラム。

 双子として生まれ、カリオストロ達は知らないが一本角というハンディキャップを負いながらも二人で支え合い生きてきた二人。

 魔女教に襲撃されてからも。屋敷に勤め始めてからも。ラムは妹であるレムを慈しみ、レムは姉であるラムへと縋った。――常に互いを思いやり、仲良く過ごしてきた。

 それはこれからも変わらない。いや、変わらせない。

 角を切られ、妹より遥かに弱くなろうとも。自分の立場は姉なのだから。

 

「落ち着け! 別にレムを見殺しにしろって言ってるって訳じゃねえよ。

 もうちょっと作戦が必要だって言いたいだけだ」

 

「作戦も何も……森に入って探す他ないでしょう。

 一体何を企てろと? 焼畑よろしく森を全域焼いて全滅させるなんて言わないで頂戴」

 

「そんな物騒な事考えてねえよ!?

 ――いや、それがな。いーい手段があるんだ」

 

「……」

 

 半信半疑、どころか一信九疑ぐらいの眼差しでスバルの言葉に耳を傾けるラム。

 一応止まってくれた事に安堵するスバルに、一体どういう手段を考えついたんだと嫌な予感が止まらないのはカリオストロだ。

 この少年はつい半日前、レムやラム達を助けたいと意気込んでいた。情に厚いのは結構だが、そんな彼自身は猪突猛進で行き当たりばったりなきらいがある。果たして誰もが納得する策を練れるのだろうか?

 否、絶対に否。コイツは絶対に自らを省みずに身体を張る何かを考えつく。

 眉目を細めてまじまじと下手人を見つめていると、彼はその手段を口に出した。

 

「この策を使えば多分、探さずとも魔獣をおびき寄せる事が出来る。

 そう、昨日の夜に分かったがこのナツキ・スバルの体質を使えば魔獣が「ダメだ」――はい?」

 

 案の定である。

 カリオストロは提案した内容を食い気味に却下し、却下された当の本人は唖然とした顔をこちらに向けていた。

 

「どうせお前の案は自身の魔女の残り香を餌にした囮だろう?

 駄目だ。却下だ。認められない。

 折角助かったって言うのに何でまた命張ろうとしてやがるんだテメェは」

 

 スバルが何故か魔獣に狙われやすいのはカリオストロも昨日の時点で気付いていた。

 それは本人が非常に目立ち、鬱陶しいから……という理由ではなく。自分たちにはなくてスバルにはある体質が原因であろうとスバル本人はもとより、彼女にも判断がついていた。

 

 自分達と決定的に違う体質――それは、魔女の残り香だ。

 理由こそ不明だが、魔獣達は魔女の残り香に誘われるように集まってくるのだ。

 

「お、おいカリオストロ! そんな事言ってられないだろ!?

 第一そうしなきゃどうやってレムを救うって言うんだ!」

 

「はぁ~……勘違いしているようだから言っておくが、何でそこまでしてレムを救ってやらなきゃいけないんだ? サービスで外傷くらいは治してやったがそれ以上の事はしてやれねえ。

 ……いいか、オレ様達は客。この問題はホスト側の不祥事で関係はほぼ無いんだ。

 この問題はホスト側が解決すべきモノであり、一介の客が首突っ込んでわざわざ被害を被る必要はないんだよ」

 

「~~~~っ、カリオストロ。はっきり言うが冷たすぎんぜ」

 

「ご大層かつご立派な英雄願望大いに結構だがな、そろそろ巻き込まれるオレ様の気持ちを考えてもらってもいいか?

 あぁそうさ、お前が出たら確かにオレ様もなし崩しに参加せざるを得ねえ。だがな、お前が死にかける度にオレ様が毎回どう言う気持ちになるか、分からない訳じゃないだろう。

 ――お前とオレ様は一蓮托生なんだぞ」

 

「……う」

 

 自身が信頼を置くカリオストロの言葉に、二の口を告げる事が出来ないスバル。

 ……当然誤解なく言えば『死に戻りの度に不快感が襲う』というのと『毎回苦しみのたうち回るスバルの姿が見てられない』という事を伝えただけであり、決して恋人同士のアレコレではない。だが傍から見ればそのようなやり取りに聞こえなくもなく、内情を知る由もない他二人は、カリオストロがスバルの事を大切に想う程の密接な間柄なのだなと考えたが、今は詮無き事である。

 

 

「……もう、よろしいでしょうかお客様。こうして話し合う時間すらも惜しいのです、離して貰えませんか」

 

「ぅ、ちょ、ちょっと待って。待ってくれラム!

 1分、いや2分だけくれ! すぐに話纏めるから!」

「おわっ!?」

 

 一刻一秒が惜しいラムが痺れを切らしそうになったのを見てスバルは焦り、反対者であるカリオストロを無理やり抱えて部屋の隅っこへ移動。自身も彼女の身長にあわせるように屈み、不機嫌そうな彼女に視線を合わせて相談タイムに移り始める。

 

「頼むカリオストロ!

 どーしても、どーしてもあの二人を助けたいんだ!」

 

「何度頼まれても駄目だ。

 あの犬どもと交戦して分かったが、あいつらの機動力、統率力、そして量は侮れない。昨日でさえ防戦一方だったんだ、犬どもを全部集める、かつ持久戦となればオレ様は生き残れるが、お前を守りきれるか分からねえ」

 

「昨日は……ほら、レムとか抱えてたから苦戦してただけで……!

 今度は万全の体制で挑めば、どうにかなるだろ!?」

 

「理由はまだある。お前も昨日のラムを見ただろ?

 どうやらアイツはレムと違ってマナの貯蓄量が少ないようだし、持久戦となれば途中でお荷物になるだけ。そうなると実質、頼りになる戦力はオレ様一人。途中からお荷物二人抱えて戦闘しろってか?」

 

「ぐ……」

 

 実際、二人は昨晩の内に魔獣と何戦も続けていく途中で彼女の疲弊する姿を目撃していた。

 スタミナではなく、生命力そのものを酷使しているような様相はあまりにも痛々しいもので。カリオストロの言うとおり、途中で倒れてしまう情景がスバルの頭にありありと思い浮かんだ。

 

「それに、だ。ひょっとしてお前、魔獣使いの事を忘れてないだろうな」

 

「あ……」

 

 昨夜、村に戻って救助した子供達が全員いるか確認してもらった所、村人からは全員居るという言葉を貰ったのだが、スバルとカリオストロは青髪の少女、メィリィが居ない事に気付いていた。その少女を確認しても、そもそもそんな子供は存在しないと言われる始末――二人はすぐにぴんと来た、あの少女こそが魔獣使いなのだと。

 だがその魔獣使いは現在潜伏中。何をしでかすか分からない状態なのだ。

 

「魔獣使いの狙いが何なのかは分からないが、十中八九他陣営が差し向けた間者だろう。

 大方村の子供を浚って行方不明にさせ、評判を下げようっていう魂胆だろうが、オレ様達はそれをなんとか妨害した。分かるか? 妨害したんだ。それなら向こうは次の策を取る可能性が高いというのが分からないか?

 その上であの魔獣だらけの森に突っ込むなんて、阿呆か自殺志願者の所業としか思えねえよ。リスクがでか過ぎる」

 

「くっ、ま、毎回毎回リスクが、リスクがって……なんだよ、リスクが少しでもあったら動けないのかよ!? リスクは分かってるよ! だけど、それしかレムを救う手立てはないんだ! それが最善手なんだよ! 

 第一それだけ強い力があるんだったら俺の為にも、彼女達の為にも少しぐらい――」

 

「――甘ったれるんじゃねぇッ!!」

 

 しつこく粘り、何とか助けを請おうとするスバルをカリオストロの怒りの声が打ち据えた。スバルはいきなりの彼女の声と剣幕に体を跳ねさせて目を白黒させる他なく、一方でカリオストロは動転したスバルの首根っこを掴み、屈んでいる彼を壁に押し付けた。

 

「お前の策のどこが最善だ!? 突けばボロボロと穴だらけ、打算もなければ後先を全く考えない。ただの愚策だ、しかも下の下のな! 第一なんだ? さっきから聞いてればオレ様の力をまるで自分の力のように……また黙って尻拭いしろってか? ケツの青いクソガキが、ナマ言ってんじゃねえぞ!」

 

「っぐ、ぅち、ちがっ……別に、俺はそんなつもりは……っ」

 

「自覚すらねえってんだったら更にタチが悪い、いや害悪だ!

 そういう奴に限って失敗すると人のせいにするんだ、やれなんであそこでもっと力を出さなかった、やれもっと上手くやっておけば……自分の力でもないのに図々しい。矢面に立つのは他人任せで自分は後ろから高みの見物か、随分と良いご身分だな? そういう奴を世間じゃ何ていうか知ってるか? 『卑怯者』って言うんだよ! 分かったか!?」

 

 一方的に啖呵を切るとカリオストロは乱暴にスバルの首根っこを離す。

 見た目が少女とはいえ、中身は数千年の経験を積んできた大人だ。18年そこらしか人生経験を積んでいない少年は狼狽する他なく、悔しそうに項垂れた。

 

「いいか。お前の命に危険を及ぼす可能性が高く、打算も勝算もないならオレ様は動く気はないし、お前を行かせるつもりはない。……諦めて大人しくしてろ」

 

 ベアトリスを含め、ラムもその一幕を見ていたが、やがてラムは呆れとしか取れぬため息を漏らして静かに部屋を出ていった。

 

(あれだけ痛い目にあっておいて、それでも尚救いに走ろうとする意気込みだけは買うが。意気込みだけじゃどうしようもねえんだ。

 ……これも勉強だ。時にはどうしようもならない事があるのを思い知れスバル)

 

 カリオストロは落ち込んだ様子のスバルを放って、備え付けられている椅子にどかりと座り込む。

 すっかり微妙な空気になった部屋の中、ベアトリスも居た堪れなくなったのかラムに続けて部屋を出ていこうとすると……ラムと入れ違いで部屋に入ってくる存在が居た。

 

「ねえ、ラムが今急いで外に出ていったようだけど……。

 ……えっと、一体何があったの?」

 

 それはエミリアだった。肩にパックを乗せた彼女は、伺うように部屋を覗き込んでいる。どこか遠慮がちな彼女に対して、パックはやほ、と軽く手を上げて面々に挨拶をしていた。

 

「にーちゃ! どうしたのかしら、こんなところに来て」

 

「いやね、リアがいつも以上にしょぼんとしてるから親として心配でね。

 ここでうじうじしてるより、本人達と話させたほうがいいかなってちょっと焚き付けてさ……」

 

「も、もうパック!」

 

 流石自称エミリアの親。小柄体系の不思議猫は自然な様子で貫禄を示すが、その直後に自然な流れで喜色を隠さぬベアトリスの手で胸に抱き寄せられ、可愛らしいマスコットへと戻っていった。

 

「そ、それよりも!

 一体ここで何があったの? レムは……大丈夫なの?」

 

 エミリアが躊躇いなく、真っ先に視線を向けるのは意外にも先日拒絶されたばかりのカリオストロ。

 その目はどこか怯えも含んでいるが、停滞せずにまず行動しようとする彼女は、カリオストロの目からしても好ましく思えた。ふ、と相好を崩して答える。

 

「一言で言えば、レムが今非常に危険だっていうのと、無謀な案を提案しようとしたスバルをオレ様が叱った直後。そんな感じだ」

 

「えっ、レムが!? 呪い解けないの!?」

 

「あぁ。犬に噛まれすぎて呪いが複雑になってしまったらしい。

 解除するためには術者本人、つまり犬達を倒さないと駄目なんだが」

 

「でもでも犬は森の中で、どこに居るかも分からない。

 更に言えばどの犬がレムを噛んだかも不明。タイムリミットは残りわずか。そんなところかな? 八方塞がりだねー、にゃふふふ、ベティくすぐったいってば」

 

「にーちゃが来てくれて助かったかしら、鬱屈した空気は味わいたくないのよ」

 

 絶賛猫撫で声をあげるベアトリスと、彼女の愛情を受けて緊張感のないふにゃふにゃの声を漏らすパック。流石にそぐわぬ発言にエミリアは彼らをじと目で見る。

 

「……八方塞り……。囮……魔女の香り……」

 

「スバルもスバルでどうしたんだい?

 折角呪いも解けたって聞いたのに、何かおかしくなってるけど……呪いの後遺症?」

 

「あー、んー。まあ叱られて絶賛反省中ってところだ。

 そっとしておいてやれ」

 

 愛娘のじと目に堪らず別の話題を振ったパック。そして話題にあがったスバルはと言うとカリオストロに壁に押し付けられた時の姿勢のまま俯き、ぶつぶつと何かを呟いており正直怖い。

 

「そ、それよりもレムの事をなんとかしないと!

 カリオストロ、森に行きましょう! ラムと一緒に魔獣を――」

 

「計画もなく行っても無駄骨になるだけだ。

 諦めろ、って言うのは酷かもしれないが、無事に助け出せる可能性なんて砂漠の中から針を探しだせるくらいの確率。逆に呪われる可能性の方が遥かに高いんだぞ? それともエミリアは効率的に探す方法でもあるのか?」

 

「それは……でも、うぅ、ここで手をこまねくだけなのは……!」

 

「うーん、残念ながらボクも思いつかないや。

 普段は魔獣を近づけないような対策をしてるだけだったから、その逆の手段はねー」

 

「近づけないような……?」

 

 悔しそうなエミリアに対し、ベアトリスに抱かれながらも同調するパック。そんな中ぴくり、と反応したのはスバルだ。彼はゆっくりと顔を上げるとパックを見上げた。

 

「……パック、近づけないような対策ってなんだ?」

 

「にゃんだい、藪から棒に。

 その対策の事なら聞いてると思ったけど。……ほら、結界だよ結界。

 あれはリアが毎度毎度村に出向いて調整してるんだよ」

 

「結界……」

 

 スバルはパックの言葉を咀嚼するかのように口にすると、再度頭を俯き、何かに没頭するようにぶつぶつと呟きを繰り返す。

 

「命の危険……、戦力……、結界……」

 

「……コイツ、本当に大丈夫なのかしら?」

 

「……」

 

 ベアトリスの言葉もごもっともだ。ちょっと強く叱りすぎておかしな方に行ってしまったか?などと腕を組んでその様子を眺めるカリオストロ。

 特に密接な看病を経て気心知れたエミリアは気が気でないのか、先程からスバルの周りをおろおろと移動しては声をかけようとするも、威容な雰囲気に圧されてそれが出来ず、というのを繰り返している。それは思春期の子供にどう触れていいか分からない母親のような動きにしか見えなかった。

 

「スバル……スバル、ねえ平気‥…?」

 

「魔獣使い……、ベア子……、魔女の残り香……、エミリアたん……!?」

 

「? うん、私よスバル。私は此処にいるから――わっ!?」

 

「わ、わかっっっっったああぁ――――!!」

 

 いきなり勢い良く立ち上がり叫んだスバルに、顔を覗き込んでいたエミリアが尻もちをつき、残りの3人はいきなりの彼の行動に驚き目を見開いた。

 

「って、あ。ごめんエミリアたん! 大丈夫か!?」

 

「う、うん。平気……そんな事よりどうしたの? 何が分かったというの?」

 

「レムを救う方法っ! やっぱりこの方法で行くしかないんだ。

 そうだよ、使えるパーツは全て使うしかなかったんだよエミリアたん! パズルみたいなものだったんだ!」

 

「え? え?」

 

 手を差し伸べてエミリアを立ち上がらせるスバルは、そのまま彼女の手を握りながらブンブンと振りながらエミリアの問いに答えるも、彼女は要領を得ない発言に困惑を返す他なく。

 やがてひとしきり喜びに浸ったスバルはある人物へと向き直る。

 そこには先程よりも不機嫌そうに眉根を寄せたカリオストロの姿があった。

 

「まだ諦めてなかったのか」

 

「生憎、諦めは悪い方なんでね!」

 

「その台詞、さっきの無様な姿がなけりゃもうちょっと格好ついてただろうな。……で、一体何するつもりか知らねえが、さっきよりはマシな案なんだろうな? また自身を囮にするってんなら頷かねえぞ」

 

 足を組み、肘掛けに片肘をついて頭を預ける彼女はスバルへの目線を強める。ほぼ睨むのと同等のソレを受けてスバルは一瞬たじろぐが、胸に手を当てて深呼吸をすると彼女の目を見返して告げる。

 

「残念だが、俺を囮にする事は変わらない」

 

「……論外だ」

 

「最後まで話を聞けって。もう時間がないし、本当にこれしか道がない……と、思うぜ」

 

 失望の色を滲ませた呟きを受けてもスバルは揺るがない。

 そして畳み掛けるように続けた。

 

「さっき言ったよな?『俺の命に危険を及ぼす可能性が高い』『打算も勝算もない』なら動かないって。

 じゃあ仮に『俺の命に危険を及ぼす可能性が低く』、『打算も勝算もある』のだとしたらどうだ?」

 

「なに?」

 

 

「――ここに居る全員の力があれば、それが可能なんだよ」

 

 両腕を広げて、スバルはカリオストロだけじゃなくこの場に居る皆に聞こえるように、力強く言い放った。




《マギサ》
 神撃のバハムートが初出、かつ現グラブルキャラの魔女のお姉さん。
 未来を見通す力があったり、巨大な牛魔人を従えたり、奥義で隕石落とせたり、
 人間族で一番胸が大きかったり、普段は頼れるのに主人公にべったり甘えたり、甘やかしたりする属性過多なお方。
 すげーバブれる。 

《アンナ》
 お婆ちゃんっ子で人見知りを絵に描いたおどおど系魔女っ子。
 本人は口下手だが、手に持っているぬいぐるみ、カシマールを使って代弁する時はかなり口悪かったりする。
 でも決して本人が口悪いわけじゃないから注意。

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