第三章プロットも何回作り直したか……。
とりあえずこれで幕間は終了です。
次からは三章になりまーす。
執事として働くスバルがティーセットを運び入れた部屋は広くどこか落ち着いた雰囲気で包まれていた。アクセントになる程度の調度品が壁や棚に立てかけられ、部屋奥には執政用か、大きな机が一つ。そして来客用のミニテーブルと、それを挟む柔らかそうなソファが置いてあるのが見えた。
当初、この部屋に初めて入ったスバルは『まるでどこぞの大企業の社長室のようだ』と感想を抱いたもので、最初の数回は入る度に緊張したものだったが……今では慣れたものだ。済ました顔でこの部屋の主――机に向かうエミリアの元へとお茶を運びに行けば、礼とともにそれを受け取った彼女が一つの提案を出した。
「ねぇスバル。ちょっと休憩でもしない?」
「ん? おぉエミリアたん。こっちも丁度キリも良い所だし、もっち構わないぜ!」
「もっち?」
二つ返事でサムズアップとともに返すスバルは促されるがままにソファに座り込み、その対面にエミリアが座り込んだ。
「お勤めご苦労様。屋敷のお仕事も大変でしょう?」
「予想以上の仕事量ってのは間違いねえかな。
掃除、洗濯、調理、買い出し、庭の手入れに夜番。
なんつーか、こんな屋敷をよくも今までレムとラムの二人で維持できたって気がするぜ。
ここに来て3週間とちょっと経ったけど、ようやく慣れてきたって感じだ。
……っていうかエミリアたんの方こそ大変だろ?
今も書類と本に囲まれて、ずーっと何か書いてるぐらいだし」
ちらり、とスバルが重厚で大きな木製の机上に視線をよこせば、左右に山ほどの本や書類が置かれているのが見えた。
先程書類を一瞥してみたが、現在イ文字をかろうじて習得したスバルでは何が書いてあるのかは分からなかった。分かったのはエミリアが忙しく、そして何か小難しい事をしている事ぐらいか。
「うん、領地経営……のお勉強かしら。
実際の領地経営は今ロズワールがやってるけど、ゆくゆくは自分でやらないとだから……。
でも私は体は動かさないから、多分スバルの方が大変だと思うわ」
「頭脳労働の方が大変だと思うけどなぁ……。
俺は考えるの正直苦手だし、体動かしてる方が性にあってる気がするぜ」
「本当? あの時はとってもいい案出してくれたじゃない」
「あれは土壇場で考えついた苦し紛れの案っていうか……。実際結構穴もあったし」
「そんな事ないわスバル。確かにちょっとは予想外の事もあったけど、あの案がなければ私たちは危なかったんだから。――もっと誇ってもいいのよ?」
少し身を乗り出し、目を見据えてそう語るエミリア。
スバルはそんな彼女の真摯な思いを受けとめ――きれず、顔を赤くしながら目を逸らしてしまう。
「お、おぉ……ありがとなエミリアたん。
ま、まあそこまで言ってくれるんなら俺も嬉しいぜ」
「ううん。こちらの方こそありがとうよ、スバル」
互いに感謝を言い合い、目が合えば二人してくすりと笑いあう。
そして直後に訪れた少しの沈黙の後、エミリアがぽつりと呟き始めた。
「……ねぇスバル。それでいつも思ってたんだけど……。
スバルってどうしてそんなに欲がないの?」
「欲がないってのは初めて言われたな……。いやいや、実質俺って欲だらけよ?
美味しいもの食べたいし、楽しいことしたいし、エミリアたんとお近づきになりたいし。
村にラジオ体操定着させたいし、マヨネーズはこの国に普及させたいし、エミリアたんとお近づきになりたいし、あとエミリアたんとお近づきになりたいし……」
「そう云うのも確かに欲かもしれないけど、私が言いたいのはそうじゃないの」
「さらっとスルーするなこの娘……!」
しかして彼女の言いたい欲のなさとは一体何の事なのだろうか?
スバルが頭を捻ろうとしたところ、彼女は補足するように告げた。
「報酬の事よ、報酬」
「報酬……?」
「その……徽章騒ぎだとか、魔獣騒ぎだとかあったじゃない?
スバル達はその騒ぎを解決に導いてくれた訳だけど……それに対する求める報酬が安すぎると思ってるの。だって前者は私の命まで救って貰って、後者は村の人達とレムへの被害を抑えたのよ? 私の力でもないのにおこがましいけど、ロズワールにお願いすれば並大抵の事は叶ったと思うわ。
でも、スバルが求めたのは『ここで働かせて欲しい』って言うお願いだけ……ねぇ、どうして? 何でそのお願いにしたの? もっと欲張ってもいいのに」
「あぁ……」
エミリアが懸念することをようやく理解したスバルは、腕を組み、頭を垂れながら唸り始める。そして垂れた頭がひとしきり下がった辺りで唸りは止み、顔をゆっくりあげて答え始めた。
「こういっちゃエミリアたんは納得しないかもしれないけど……俺にとっちゃ報酬はこれで十分なんだよ。なにせ俺は元々、無一文のコネ無しスキル無しの無し無しの流浪人だ。
だっていうのにエミリアたんとかと関わったお陰で怪我の治療もしてもらったし、衣食住の確保も出来たし。レムとラムに執事のスキルも教われてるし、屋敷の面々と仲良くなれるし。何よりエミリアたんとも親密になれてる! これって俺にとっちゃ望みすぎの貰いすぎって言ってもいいくらいだと個人的に思ってる。だからだよ。これ以上願ったら逆にこっちが罪悪感で潰されちまうかもしんないしな!」
茶化しながらも好青年のような回答を、気持ち格好つけて放つスバル。
内心で「俺ちょっといい事言ったかも」と思ってるのは本人の名誉のためにも伏せておくが、幸いにもエミリアはその言葉に一応は納得してくれたようだ。
ただ自分の身を省みず、身を挺し、死にかけてまで手に入れたかったものが「些細な幸せ」である事がどうにもおかしくて、エミリアは小さく笑ってしまう。……でも、これがスバルなんだ、と実感しながら。
「本当に欲がないんだから」
スバルは頬をかいて苦笑するしかなかった。
「まあエミリアたんがそんなに欲がないっていうんなら、ちょっと欲出させ貰おっかな!」
「ふふ。さっき貰い過ぎって言ってなかったかしら?」
「あ。……あ、あ~いや、それは」
「冗談よスバル。冗談。こんな私でよければ、頑張って叶えさせて貰うわ。
将来王様になる予定だから、並大抵のお願いは叶えちゃうんだから」
茶化し気味に、腰の左右に両手を当ててふんす、と年相応より少し大きな胸を張るエミリア。
そんな彼女にスバルはごくり、と唾を飲む。
並大抵の願いが叶えられる、と聞いて彼が何を想像したかはここではあえて触れないが……スバルは「かねてからの」願いを恐る恐る告げようとする。
「え、えーっとだなエミリアたん……」
「うん」
「……お、お。おぉ! お……俺と!」
「! うん」
ソファに座った状態から立ち上がり、紅潮させた顔のままエミリアを見つめるスバル。
彼女もそんな彼の真剣さが読み取れたのだろうか、姿勢をただし彼に目を合わせる。
そうしてスバルはそのまま大きく腰を折り、顔を下げ、片手をエミリアに差し出し――
「おっ、俺っ、俺と一緒に村に行きませんか!」
「えっ? え、えぇ。勿論」
返答は即時即決。二人の緊張はすぐに解きほぐされた。
……ただ、二人が感じている温度に大きな隔たりがあるのは間違いないだろう。
持ち前のチキンハートと、断られるとは思っていなかったが万が一を考えてナイーブになっていたスバルは、その返答に大きく安堵、及び大歓喜し、どんな大きなお願いになるのだろうと思っていたエミリアは少し肩透かしを受けながら、そんな事で良いならと話を承諾していた。
「えっと、村って……アーラム村よね?」
「もっち!」
「もっち?」
「勿論って事さエミリアたん! い、いやーガキ共があれからどうしてるかとか、剣くれた人にお礼言いたいとか、そういう点も踏まえてエミリアたんと一緒に、その、村に遊びに行きたいと思っててさ……」
「本当にそんな事で良いの? それに、それって私お邪魔にならないかしら」
「いやいやいや!! エミリアたんが邪魔な訳ないって!? エミリアたんYOU今回の件の功労者! むしろ俺より褒め称えられるべき存在っつーか、だ、第一エミリアたんじゃなきゃ駄目っつーか!?」
「スバルの方が頑張ってくれたと思うけど……それに、えっと……私じゃなきゃ駄目? あ。もしかしてまだ魔獣が残ってるかもしれないから一緒に討伐するとか……?」
「違うよ!? 今回はノーバイオレンス! ただ一緒に遊びに行くだけ!
そのふ、ふふふ二人っきりで……うひぃっ!?」
何故か腰を曲げて、手を伸ばした状態のまま会話をしていたスバル。
そんな彼の手にエミリアの手がぽふり、と乗せられて彼の口から奇妙な声が漏れた。
「あ。ごめんねスバル。何か手を乗せたほうがいいかなって」
「お、ぉぉぉ……ふ、不意打ちで柔らかな感触が……と、兎に角OK?」
「う、うん。それくらいならさっきも言ったけど全然大丈夫よ」
改めて彼女の承認を取り付けたスバルはようやくソファに戻って、両手でガッツポーズを取り出した。
「よっしよっし……! そんじゃその時は朝一に行ってエミリアたんも子供達に混ざってラジオ体操しようぜ! あいつらも少しは覚えてきたし、楽しんでるからさ!」
「うん。あの変な体操よね? それなら私も少しは覚えてきたから出来ると思うわ。
ふふ。実際に見てはないけど頭の中で子供達に懐かれてるスバルの姿、よく想像できる」
「おおよ、その懐かれっぷりと来たら半端じゃないレベルだぜ?
まあその代わりにあいつらのパワー全部受け止めるとくたくたになんだけどよ」
子供のパワーってマジですげーって思うぜ、と手をぷらぷらさせるスバルにお勤めご苦労様です、と敬礼するエミリア。だが彼女は直後、ふと思いついたかのように口を開く。
「そうそう、話はちょっと変わるんだけど……村とここって結構距離離れてるわよね?」
「ん? まあ歩きだとちょっとな。竜車があればそうでもないんだけど」
「今回の件もあってか村に有事があった場合にすぐに駆けつけられるように、ロズワールが貴重なミーティアを調達してくれたみたい。えっと『マナ・パッセージ』って言うみたいよ」
「マナ・パッセージ?」
「うん。マナパッセージ。ちょっと大きくて円形上の魔道具なんだけどね、例えばそれを村のある場所と屋敷のある場所に置いておいて、屋敷側からその魔道具の上に乗ってマナを通すの。するとマナが空間を湾曲させて……えっと」
「あー、村側の魔道具の上に辿りつくって訳か。ショートワープみたいな?」
「ワープ……って単語は分からないけどスバルの言うとおり。要するに近道できちゃうの」
「マジかよ」
日本語に直訳すれば「マナ通路」と呼ばれるそのミーティアの力に驚きを隠せないスバル。
だが確かにそれがあればすぐに駆けつけることも出来るだろうし、屋敷で何かあったときにすぐ逃げることも出来そうだとその有用性に何度も頷く。あわよくば買出しの時も使えればもっと便利だ! なんて考えていたがあくまで有事用であり、それに貴重なマナ結晶を使い捨てするマナ馬鹿食い器材の為にぽんぽんと使えるような物ではないらしく、日常的に使うのは淡い夢でしかないと分からされた。
「まぁでもあんな事あったっきりだしな。
今後もどうなるか分からないしあったほうが便利だろうな」
「えぇ。結界も再度見直して厳重にしたし、魔獣もあのときに沢山倒したけど森の魔獣が居なくなったわけじゃないもの。当分は大丈夫だとは思うけど……」
「村のみんなも不安がってるしな、異常があった時にすぐ様向かえるってのは大きいな!
……あ。そうだ、それならこっちもエミリアたんにちょっと伺いたい事あってさ」
「何かしら?」
「金取るって訳じゃないけど、人形劇を村でやってもいーかなって」
予想だにしない話だったのだろう、きょとんとした顔を見せるエミリアにスバルは苦笑しながら話を続けた。
「つい最近カリオストロと話したんだよ、錬金術の話をさ。
そん時に思いついたんだが……この前の魔獣騒ぎでカリオストロが精巧な身代わりを作ってたろ? だったら人形とか作るのも簡単なんじゃないか? って聞いたんだ。
そしたら『それくらい造作もねえ』ってありあわせのガラクタで簡単に作ってくれたんだよ、超精巧な人形!」
「わぁ……!」
「んで折角作ってくれたんだ、何かに活かそうと思うじゃん?
そう思ったら人形劇とかがいいかなって……幸いにも腹話術は割りと得意なんだなコレが!
――『エミリアタン、エミリアタン、人形劇ノ許可ヲオ願イシマス!』」
「あ。あれ? スバル喋ってないわよね? 本当に手が喋ってるの?
スバルって手が喋る加護を持ってるとか……!?」
「何その限定的な加護!? 腹話術だよ!?」
自分の手を人形に見立てた腹話術にエミリアは物の見事に引っかかったようだ。
村の子どもたちがして欲しかった反応を彼女がしてくれた事でスバルは満たされ、エミリアはそんな反応をしてしまったことを少し恥ずかしがり、こほんと咳払いを1つ。
「ん。ともかく……人形劇なら問題ないと思うわ。
特に子供達はさらわれかけたから、何かしらの娯楽があるとみんな喜ぶと思うし」
「さっすがエミリアたん分かってるぅ!
ただ唯一問題があるとすれば劇の題材が決まってないんだよな……泣いた赤鬼とかオチが悲しいのはアウトだしな……、っていうかこのあたりで馴染みある昔話の方がいいかもしれないし……エミリアたん、何かいい題材知らねえか?」
「うーん……そうね。有名所だと……リンガ太郎とか?」
「リンガ太郎?……それって桃太郎的なアレか? 川からリンガがどんぶらこどんぶらこ的な……」
エミリアはスバルの問いに首肯する。似たような説話が地球世界で色々あるように、やはり異世界でも同じような話があるのだなぁ、と感心しつつも赤ん坊が入れるサイズの大きなリンガが1つ流れてくるイメージを思い浮かべ……。
「まずね、お婆さんが川で洗濯をしているとリンガが100個、川から流れてくるのよ」
「リンガ太郎100人説!?」
「えっ」
穏やかな印象が一変した。大挙する巨大リンガが川をひしめき合ってお婆さんの元へと襲来するイメージは最早既存のものとはかけ離れてしまっている。
それだけ大量のリンガ人間が100人も徒党を組んで鬼退治に出かければそりゃ鬼も滅びるわ。というか一人あたり三人のお供をつければ400人? 一体何が始まるんです? 第三次世界大戦か。思わず突っ込んでしまったスバルはとりあえず自分の知るストーリーではないとエミリアに内容の先を促した。
「と言っても……驚いたお婆さんが振り返ると、橋の上でリンガ売りが転んでいた。ってだけよ」
「……んん?」
「で、そのうっかりさんの名前がリンガ太郎って言う名前で」
「ただのどこにでもありそうな失敗談だこれ!?
っていうかコレ昔話っていうより小咄じゃねえか!?」
「むぅ。私はリンガ太郎、好きよ。こういううっかりさんも居るんだって思えるし……そういうスバルこそ何かとっておきの童謡、知ってるのかしら?」
ファンタジー世界はファンタジーを夢見ないのかよ! と変わらぬ突っ込みを見せる少年にエミリアがぷく、とむくれながら問い返した。。
「ふっふっふ。おおよエミリアたん、よく聞いてくれました!
昔話を語らせたら右に人は居ない、生きる昔話と言われた男――それが俺、ナツキ=スバルよ!
エミリアたんに聞かせてあげたい話なんて両手じゃ数え切れないくらいあるぜ!
何がいいエミリアたん? 『長靴をはいた猫』?『ブレーメン音楽隊』? 『脚長おじさん』『かちかち山』『白雪姫』? それとも『三匹の子豚』『浦島太郎』『人魚姫』――」
その後、スバルによる昔話朗読?回が行われた。
聴衆一人という寂しいものではあるものの、その聴衆は自分の世界にはない異世界の昔話に興味津々に、相槌を打ちながらに聞き入った。
喜びに溢れる展開になれば自分の事のように喜び。
怒りに溢れる展開になれば頬を膨らませて怒り。
哀しみに溢れる展開になればハンカチで目元を抑えて哀しみ。
楽しみに溢れる展開になれば頬を綻ばせて楽しんだ。
読み聞かせる側にとってそれはそれは話甲斐のある相手に違いなく、スバルは興が乗るがままに語り続けた。
「……そして一人、未だ暴れまわる巨大な犬を抑えようとした巫女の元に四人の巫女が再度集結し、言葉の意味を真に理解した巫女達は島のみんなと、哀しみに啼き、暴れる犬に歌いかけたんだ。するとどうだろうか、犬は次第に暴れるのをやめていき、どんどん大人しくなっていった!
そして島のみなで始まったお祭り騒ぎが最高潮に達した時、とうとう犬は暴れるのをやめて完全に大人しくなりどこかへ消えていってしまいました。
こうして島のみんなは古くから続く慣習の意味を完全に理解し、巫女達と共にこれからも犬とお祭りを楽しむことを誓うのでした、めでたしめでたし」
「うぅ……良かったわ、良かったわねショロトル……!」
涙ぐんだエミリアが両手でぱちぱちと拍手。スバルはその様子に嬉しそうに頭をかき……ちらりと壁を見た。……時刻は休憩を始めてから1時間経とうとしており、そろそろ仕事を始めないといけないだろう。
「さて、まだまだ俺の昔話の引き出しは滅茶苦茶ある訳だけど、残念なことにそろそろ仕事に戻らないといけない」
「えっ……? あ……本当。もうこんな時間……。
引き止めてごめんねスバル。楽しかったわ。……もし人形劇やるなら私も見に行かせてね?」
「いやいや、エミリアたんが気持ちよく聞いてくれたから俺の方こそ楽しかったぜ。
勿論、人形劇やる時は屋敷の関係者には特等席を用意して待ってるかんな!」
笑みを零したスバルがすっくと立ち上がり、ティーセットを慣れた手つきで片していく。
対するエミリアも自分に残された仕事をこなすためにソファから立ち――
――あがろうとはしておらず、その場に座り込んだままでいた。
「……?」
部屋からお暇しようとしたスバルだが、一向にソファから動こうとしないエミリアを不信に思った。何故俯いたままなんだろうか。……もしや仕事したくない、とかそう言うアレなんだろうか。だとすれば親近感を覚えるのだが実際の所はそうではないだろう。
「……何か悩みがある系?」
「ふぇっ。あ、え……スバルまだ居たの?」
「エミリアたん困る所にナツキ・スバルあり!
流石に仕える人が悩んでいる所をみすみす放ってはいけねえよ」
「……でも、休憩時間とか」
「いいっていいって。仕事よりも大事な事がある、今がその時!
まーもしも俺の仕事で気に病んじまうってんなら……今から俺はこの部屋を掃除するから。まあ壁の花に話しかけるつもりで悩み、吐き出しちまわねえか?」
キメ顔でそう言い放つスバル。エミリアも最初は目が点になっていたものの、続いて口を抑えて小さく、ただ抑えきれないように笑い出し始める。……何かがツボに入ったようだ。
笑いだされた当の本人は少し恥ずかしくなり、ふてくされたような表情を向ける他ない。
「あはははは……っ、ご、ごめんなさい、でも壁の花って……っ…も、もうスバルったら。
ここはパーティ会場じゃあないのよ? それだと私、エスコートする立場になっちゃう」
「うぐっ、ご、誤用はとにかく――」
「ええ勿論、言いたいことは分かってるわ。
……そうね、優秀な執事さんがお掃除してる間。少し独り言でも零しちゃおうかしら」
言いたいことは伝わったのを感じると、スバルは掃除用具を外から取り出し……手に持ったふきんで調度品を拭き始める。勿論意識は自らの主人に向けてなので、若干なおざり気味なのは否めないが。
「……私ね、ちょっと不安になってるの。
カリオストロ、スバルもだけど――いつまでここに居てくれるのかなって」
手を膝に載せたまま俯く彼女がぽつりと零した言葉には、隠しきれない寂しさがあった。
一室に溢れた感情は小さく、だが広く染み渡る。
小さな感情に揺さぶられたかのように、スバルの掃除の手は自然と止まってしまった。
「ロズワールからカリオストロが探している魔獣の情報が提供されたのを知ってるでしょ?
ちょっと聞いてみたんだけど、魔獣は王都のすぐ隣の平原で見つかったみたいなの。
ソレを聞いた時、私は見つかって良かったって素直に思ったわ。
カリオストロが何のために魔獣を探してるかは分からないけど……困ってる事が解決するのはいいことだもの」
でも、思ったのはそれだけじゃない。と彼女は独白を続ける。
「どうしてもう見つかっちゃったんだろうって。――そう思わずに、いられないの」
エミリアは語る。
二人と出会ってからたった一ヶ月で、自分が持つ世界がどれだけ広がったのかを。
どれだけ今までの自分の世界が狭く、色あせたものだったのかを突きつけられた事を。
ただ何気なく過ごす一日に多種多様な発見があって。多種多様な『喜び』がある事を。
二人のお陰でレムとラムの二人と距離が縮み、村の人々と仲良くなれる切欠も出来た事を。
こんなにも楽しい日々が続くのなら、きっとどんな困難も乗り越えられであろう事を。
「……私ね、今は毎日が楽しい。楽しくて仕方がないの。
毎日寝ちゃうのが勿体無いって感じちゃうし、夜眠ったらすぐに朝になって欲しいって……起きるのが待ち遠しいって思うくらいには、楽しいの。
だからね――何でもう見つかっちゃったんだろうって思ってしまうの。
二人がずーっと此処に留まるなんてありえないのは分かる……分かるけど!
折角仲良くなった二人と離れるなんて考えたくないの。
折角の楽しい毎日が無くなってしまうかもなんて――考えたくないの」
「――――」
スバルには理解できた。
ハーフエルフと言うだけで排斥されるエミリアの気持ちが。
灰色の世界に慣れ親しんで居たと言うのに、その世界が鮮やか色を取り戻してしまう気持ちが。
一度でも鮮やかな色を見てしまえばもう、色のない世界なんてごめんなのだ。
世界に馴染めず、自分から孤立していった経験のあるスバルも、この異世界で出会った皆と別れるなんて考えられないし、考えたくなかった。
「……こんな事言ったって仕方がないのにね。浅ましくてごめんね、スバル。
……でも、吐き出せるだけ吐き出したらなんだかすっきりしたかも」
彼女はふぅ、と自らを落ち着かせるように一息つく。
そこに込められた気持ちは自嘲か、それとも諦念か。
だが少しは吹っ切れたのだろう、彼女はうつむき加減だった顔を上げるとようやく立ち上がる。
――と、ずっと話を聞いていたスバルは手を動かしながらも調度品に向かって呟き始めた。
「一度掴んだ幸せをまた離すなんて、誰だって辛いよな。
無理かって言われたらそうじゃないだろうけど……なんつーか、おっきい覚悟がいる」
「…………」
「だったらさ。同じ気持ちにさせちまおうぜ」
「…………?」
「カリオストロをさ。今エミリアたんが思うような気持ちにさせちゃうんだよ。
そうしたらアイツだって、ここを離れたくなくなるかもしれないぜ?」
あ、ちなみに俺はもうそんな気持ちだから、やるってんなら協力するぜ?と茶化すスバルだが、彼はカリオストロをその気にさせるのは非常に難しいと言うことを知っていた。
彼女の意識は、常に元の世界に向いている。
それがグランに対するものなのか、それとも元の騎空団という居場所に対するものなのかは知らないが……きっとどれだけこちらの世界で仲良くなろうとも、どれだけ親密になろうとも彼女はここを去って行く事だろう。
ただ、万に一つというのはあるかもしれない。
不謹慎かもしれないが、魔獣を見つけたとしても元の世界に戻れないという可能性もある。もしそうなった場合――ここに居続けて貰えることは出来るかもしれないから。
しんみりとした雰囲気を打ち消そうとした、実現性の低い提案。
エミリアも、ソレがどれだけ難しいかを理解した上で元気そうな笑みを見せた。
「そうね、それいい案だと思うわ――うん、そうしてしまいましょう!
そうなったらスバル、どうすればカリオストロはそう思ってくれるかしら?」
「まずはそうだな、 向こうもエミリアたんが居るからこそ楽しいって思えるようにするためにはもっと親密にならなきゃ駄目だな。
ただ話すだけで満足するんじゃなくて、もっと距離を縮める……そう、物理的に!
例えば一緒にお風呂とか、一緒に食事とか、一緒に散歩とか、一緒に寝るとか……」
「んーと……うん。一応全部やってるわね」
「えっ」
「えっ?」
「……一緒に寝た? 同じベッドで?」
「う、うん。断られることも多いけど……。
夜、雷が鳴った日に枕持ってお邪魔したら仕方ないなって入れてくれた事があって……あの時は怖いのもあったから、ずっと抱きついて。でもお陰様でぐっすり眠れて……スバル? 何でハンカチ噛んでるの?」
そうしてこの後、夕飯になるまで如何にカリオストロと親密になれるかの談義が続き、スバルは仕事をほっぽりだしたと思われ、エミリアに庇われるまでラムにネチネチとお小言を言われるのだった。
《ラジオ体操》
スバルの異世界人と仲良く為に取り入れた異世界知識の一つ。
今のところエミリアと村の子どもたちに好評の様子。
《マナ・パッセージ》
拙作オリジナル道具。
設置器具を置いた二点、双方向のみの移動しか出来ず、最大移動距離は20km。最大転送人数は3人。
一回使用するたびに貴重なマナ結晶を1個消費するという大食い燃費に、器具そのものが5m程と大きく設置に時間がかかるという使い勝手が悪い魔道具。まだ一般的に普及されていない。(軍事利用をするかは賢人会で検討中)
ちなみに原作者の猫様は「ベア子やエキドナレベルでないとワープは無理(ロズワールも無理)」とおっしゃっているため、原作ではありえない設定だと考えてくだせえ。
《泣いた赤鬼》
赤鬼と青鬼を主役に据えたちょっと物悲しいオチの昔話。浜田廣介作。
ラムに教えてあげて、その後ラムから出される選択肢に間違えないで答えてあげると好感度が上がったりする。
《リンガ太郎》
リゼロアニメ予告にちょびっと出てきた逸話。
何でこんな話が有名なの異世界……。
《ショロトル》
グラブルイベント『舞い歌う五花』より。星晶獣「ショロトル」の事。
若くてめっさ可愛い巫女達たちが歌って踊ると星晶獣「ショロトル」が大人しくなるっていう話。専用曲あり。中々ブヒれる。
巫女達たちは常に若くなければならなくて(14~16)、巫女は常に世代交代を繰り返すとか。ストライクゾーン狭すぎるだろ、BBAはNGとかどういう事だ!