RE:世界一可愛い美少女錬金術師☆   作:月兎耳のべる

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筆が進むけど起伏がまだないよぉ…ふぇぇ。


第三十六話 絶対に王様になんかならない!

「本日は改めてお疲れ様でしたエミリア様、フェルト様……おっと、何をなさるのです」

 

「~~~~~~っ!!」

 

 パーティ終了後、一室に集まったスバル一行とラインハルトとフェルト。

 ラインハルトの演説によりあれよあれよと王候補者に擬似的に仕立て上げられたフェルトは、それはもう納得がいかないと演説直後に何度もラインハルトに抗議(暴力)を振るうが、暖簾に腕押しするが如くいなされて不発。言葉での説得も「王国の繁栄のためならば」と全く通じない。

 であれば観客に自分が如何に王に不向きか、やる気がないかと伝えようとしに行ったものの、直後ラインハルトに拉致されて舞台袖へとフェードアウト、印象を巻き返すことも出来ずにパーティは終わってしまったのだった。

 

 当然ながら彼女の怒りは未だ収まっていない。

 壮麗なドレスを翻してのハイキックはラインハルトの手によって事も無げに止められてしまう。

 片足立ちのような姿勢になった彼女は未だ張本人を睨んでやまず、不安定な姿勢から軸足を使って更に蹴りを飛ばすがそちらも止められ。落ちそうになった体はふわりと抱きかかえられ、赤面しながら降ろせと喚く羽目になっていた。

 彼女のために(こしら)えたであろう皺ひとつないドレスは先程からの彼女の動きにより幾ばくかの皺が出来ているのに違いないだろう、拵えた側も不憫な、とそんな二人のやり取りを見てラムは内心で同情をしていた。

 

「乗せられちまった俺達も俺達だけど……王様も悪くないんじゃないか?」

 

「私はてっきりフェルトが本気で王様になりに来ると思っちゃった。

 でも、フェルトが掲げた理念は私も素晴らしいと思うわよ?

 そう言うことなら私も競う側にはなるけど、陰ながら応援とかするんだから」

 

「おいにーちゃん、それにねーちゃんは違うからな!?

 あれはただムカツク貴族共を全員貧民レベルまで叩き落としたいから言っただけで、そんな深い意味まではねーから!」

 

 がーっ!とエミリアにまくし立てるフェルト。

 しかしあの演説の時は確かにその考えが素晴らしいもので、フェルトがまるで王への道を目指すつもりがあるように皆が感じてしまっていた。その内のひとり、カリオストロもあれは一体何だったんだ、と思っていると次のフェルトの言葉でその答えがわかった。

 

「こいつはあたしを監禁して以降ずーっとこんな感じなんだよ。

 いやだっつっても絶対に首を振らないし、ここから出せっつっても出してくんねーし……。

 ……さっきの演説だってそうだ、皆の様子を見るにどーせ加護使ったんだろ?」

 

「私はフェルト様のお気持ちを代弁しただけです。

 多少、気持ちが伝わるようにと加護を使ったのは間違いではありませんが」

 

「……加護?」

 

 ラインハルトの返答に対して一同の視線が集まると、本人は多少苦笑しながら種明かしをしてくれた。

 

「今回は『扇動の加護』、と言うものを使わせていただきました。

 力の内容としましてはより自分が話した内容にいくばくかの説得力を加えてくれる力です」

 

「騎士としての力だけでなく加護は内政特化かよ……ってかそれズリーだろ!?

 ――あたぁっ!?」

 

「スバルは、口を、慎み、なさい。

 持っている力を使って何が悪いというの。

 持ってない力を妬むくらいなら自分でその力を得る努力をしなさい」

 

 ラムがスバルの頭を何度も引っ叩き、その様子を見てエミリアが苦笑。カリオストロもにこにこ笑いながら内心で同意した。

 持っている力は活用出来る時に活用するのが普通。

 死蔵して負けるより、使用して勝つ方が何十倍もいいに決まっている。

 ただ本人の意志を無視するのは如何なものかと思わなくもないが。

 

「いや、加護は努力しても得られねーだろメイドのねえちゃん。

 っつかにーちゃんがズルって言い出すのも仕方ないと思うぜコイツ。なにせ」

 

 ラインハルトへの攻撃の無意味さを悟ったフェルトはドレスを翻しながらどかっと、乱暴にソファに座り込んでこう続けた。

 

「なにせこいつ、欲しい加護はその場で取得しやがるからな」

 

「「「……」」」「……は?」

 

 思わず声を出したのはカリオストロである。

 今、こいつは何を言った? 欲しい加護はその場で取得出来る? 何なのだその理不尽さは。

 内心の思いは皆一致しているのだろう。一同の視線は再びラインハルトへと集中。当の本人は複数の視線に晒されれば苦笑をしていた。

 

「待て。待て待て待て……オレ様が知ってる知識の中じゃ、加護って結構珍しいものだよな?」

 

「……何だよその口調、さっきまでと全然違うじゃねーか」

 

「ふむ。僕自身もカリオストロのその話し方は初めてだね。

 どこかフェルト様と似た感じがしなくもないが」

 

「あなた達が求めるならこっちの話し方でもいいけどねっ☆ ――ってそう言うのはどうでもいいんだよ。加護ってのは百人に一人与えられ、希少性によっては万人に一人、複数の加護なら更に希少になる先天的な力の筈だ。それを自由自在に取得出来るっつーのはどういう事だ?」

 

「自分も深く理解している訳ではないので説明をするのには憚られるね。

 ただ言えるとしたら「『自分は龍の意志に応える者であり、正義の体現者であるから』。だろ」

 フェルト様。代弁ありがとうございます」

 

「答えになってねーっつーの、加護人間が。

 最初に聞いた時は卒倒するかと思ったぞ、百くらい加護持ってんだろお前」

 

「必要に駆られて取得しただけです」

 

「ひゃ、ひゃく?」

 

 フェルトの言葉には最早絶句する他ない。精々が一時的に加護をレンタルするような形で取得するものかと思えば取得しっ放しだと言うのだ。

 何という異常性。何というチート。スバルなどすぐ隣で「本来ならこういう加護を俺が取得するべきだったんだよ……!」と嘆いている。まあ知った事ではない。

 

「剣聖って凄いのね……」

 

「凄いってレベルじゃなくないか? 実質的な無敵だろ」

 

「……まあこいつがおかしいのは今更、そんな事よりだ。

 にーちゃんにそこのねーちゃんは久々だな、腹ぶった切られて以降元気してやがったか?」

 

 フェルトがソファの上で片足を脚の上に乗せ、その上で頬杖を突くと言う、仮にも淑女が取るべきではない姿勢でスバルへとフランクに投げかけると、対面のスバルも同じくフランクに返した。

 

「おう、フェルトも久々だな。腹の傷以外にも色々増えたけど何とか生き残ってる。

 フェルトもすっかり垢抜けたっていうか……変わってないっていうか」

 

「身の回りの事以外何も変わってねーよ。この服については……言うな。

 ラインハルトの野郎、あたしのいつもの服をどっかに隠しちまうんだよ。それで代わりにドレスだけ置いて来るって言う」

 

「……メチャクチャ強引だな!?」

 

「だろ!? 分かるだろ!?」

 

 ぱしんっと膝を叩いて同意を求めるフェルトに、スバルも頷き返す。

 直後におい、説得は何処言ったと呆れた目でカリオストロが睨めば、スバルはやばいと慌て始めていたが時既に遅し。援護を得たフェルトは振り返り後ろに立つラインハルトを見るが、そちらはただ沈黙を貫き何も言わず。

 

「だから強引だっつってんだろーが、そんなやり方じゃ幾らアタシだって乗り気になんねーぞ?」

 

「全ては王国の「繁栄のためだろ、聞き飽きたっつーの! アタシの意志はどうしたって言うんだよ!」

 ――多少の意志は捻じ曲げる必要もあるでしょう。あくまで必要とあれば、が付きますが」

 

 ふかーっ! と子猫のように怒りを撒き散らすフェルトだが立板に水の如し、ラインハルトは動じないようだ。ただ溜まっていた怒りをぶつける事が出来て少し溜飲は下がったが、そんな事よりとカリオストロにも彼女は声をかけてきた。

 

「そっちのねーちゃんもだな、あれからそこのにーちゃんと一緒にエミリアの所で過ごしてたんだっけか?」

 

「カリオストロでいーよ☆ うん、そんな感じ☆

 ちょっとスバルが頼りなさすぎて、泣く泣くついていくしかなかったと言うか~☆」

 

「えっ、な、泣く泣くだったの……?」

 

「エミリアたん冗談、冗談だからガチショック受けちゃ駄目だって。

 ……ちなみに聞くけど、冗談だよな?」

 

「スバルが頼りなさすぎるってのは本当かなっ☆」

 

「ぐうの音もでねえ!」

 

「どこの漫才だよお前ら、面白いからいーけどよ。ってか口調、別に取り繕う必要ねーからな?」

 

「えーでもこっちの方が可愛いでしょっ☆」

 

「さっきのマジ声聞いた今じゃ不気味にしか思えねーよ!」

 

 ほっと胸を撫で下ろすエミリアと頭を抱えるスバル、不気味と言われたカリオストロが少しショックを受けるというその対比が面白くてフェルトは笑う。こう言うやり取りに飢えていたのだろう、以前より彼女のトークは軽快になっていた。

 

「言うに事書いてクソガキに不気味って言われるとはな……!

 はっ、だがオレ様の方が遥かに可愛いのは覆しようがない事実だとは言っておくぞ!」

 

「言ってるてめーもガキじゃねーか。

 あーもーこじれるから突っかかってくんなって、リラックスしろよカリオストロ」

 

「んがっ……! こ、この……っ」

 

「……カリオストロって時々『カワイイ』を軸にして話だすよな」

 

「もう、喧嘩しちゃ駄目よ二人共。

 カリオストロがすごーく可愛いのは私が分かってるわ、だから、ね?」

 

 カリオストロの横に座っているエミリアがとりなし、渋々彼女は落ち着きを取り戻す。

 それを見てエミリアが話を繋げていく。

 

「本来はあの時命を助けて貰った分の恩を屋敷でお返ししてあげるつもりだったけど……スバルとカリオストロの二人には来てもらってからも助けて貰っちゃたから、返す恩が全然見つからないのよね」

 

「だからあの屋敷に置いて貰って、エミリアたんの近くに居るだけで十二分に助かってるって!」

 

「カリオストロは衣食住の提供もあるし、欲しい情報が手に入るから現状文句は無いけどね~☆ 何かあったら考えるかもしれないけど☆」

 

「ほら、こんな感じだもの」

 

「へー、何か色々あったんだな。まあ色々あったってんならあたしも負けてねーけどさ」

 

 さほどの興味も持たなかったのか、それとも自身の苦境を語りたいのか。フェルトは自分の境遇を一行に話はじめる。あの時に拉致されて目を覚ましたら、見たことも入ったこともない豪華な部屋でベッドの上で寝間着姿だったと。ベッドも寝間着も初めて過ぎて混乱したと。目覚めたタイミングでラインハルトに出会って、王様候補になってもらいますといきなりの宣告を受けたと。何度拒否しても頑なに拒むラインハルト。逃げ出そうとしても先回りされる始末で、この一ヶ月余りは居心地の悪い日々だったらしい。

 

「上等な服、暖かいベッド、美味い食事。あと湯船とかな。確かにどれもいーもんだよ。

 一回使っちまえばもう離れられないってくらい病みつきになりそうだった。

 でもな、いきなりこんなの与えられて王様になりたいかっていや、そんなのお断りだね。

 教養もクソもないただの貧民街のガキんちょに王様になれって、普通言うか? それも徽章が光ったから? 金髪に紅い瞳だから? 頭おかしいだろ。

 あたしよりも優秀なやつは腐るほど居るんだからそいつ据えれば終わりの話だろ、全く。第一あたしはこの国の民を救おう、幸せにしようなんて気はさらさらねーよ。むしろ一回ぶっ壊れろって思うね! ――おい、聞いてるかラインハルト? いい加減あたしを解放しろってーの!」

 

「……」

 

 現状の不満が出るわ出るわ。相当溜め込んでいたらしく、その愚痴は止まる事がない。そんな彼女の怒涛のラッシュにさしもの一行も相槌を売ったり、苦笑いを浮かべる事しか出来ない。ラインハルトもさんざっぱらぶつけられたが揺れることなくただ目を瞑ることを続けていた。

 

「都合悪いとだんまり決めやがって……ったく。

 それによぉ……ロム爺はまだ見つからねーのか?」

 

「ご老人に関しては、未だ」

 

「……ロム爺? ってあの時のでっかい爺さんか?」

 

 スバルが疑問を呈すると、フェルトがあぁ、と頷く。

 

「流石に忘れちゃいねーだろ、あんなでっかいジジイはよ。

 ロム爺は……あいつはあたしが拉致された後に気づけば消えてたんだとよ。

 ――あたしはてっきりラインハルトが口封じでアイツを殺したのか、と思った」

 

「龍に誓ってそのような事は致していませんフェルト様。

 かのご老人は我々が手厚く保護をし、今回の騒動の迷惑料として幾ばくかの報酬をお渡ししたのですが」

 

「だからそんな事すれば誰だってキレるつってんだろーがよ!

 仮にも親ぞ……友人攫っといて、はいお金あげるから諦めてなんて言って何処の世界に諦めるやつがいる!?」

 

 それは確かに納得が行かないだろう、とエミリアもスバルも、カリオストロでさえも頷いた。

 殺して居ないのであればきっとどこかに潜伏しているのだろうが、一体何のために潜伏をしているのだろうか。その謎も本人が居ないことには分かりようがない。

 

「言っとくが、ロム爺の安否が確認されない限りは絶対に。ぜっっったいにだ、どんな理由があろうとも何が何でも王様なんか目指さねえからな」

 

「それは、かのご老人が見つかれば王様になると?」

 

「都合よく解釈するんじゃねえ! そう言う所があたしは嫌いなんだよ!!」

 

 ばんっ、とソファの前にある机を叩いてフェルトが吠えた。

 背後に居るラインハルトへ向ける感情は怒りよりも憎悪が勝る程で、室内の空気は一気に険悪な物へと移りつつあった。

 流石にこの状況はまずい、とスバルが話題を別の方向へと舵取りする。

 

「あ、あ~~~、そ、そうだそうだラインハルト!

 ちょっと気になったことがあってさ、リッケルト……えーっと、リッケルト・ホフマンって知ってるか?」

 

 話題を振られたラインハルトは彼の質問に初めて表情を崩す。

 何故唐突にその名前が出るのかが、真剣に理解出来ないようだ。

 

「よもやスバルの口からかの方の名前が出るとは思わなかったね。

 リッケルト氏はルグニカ王国の文官さ。確かに今回招待状をお送りした方だが……それがどうしたのかい?」

 

「いや、なんつーか今日その人に絡まれてさ。どういう人なのか知りたいって言うか……失礼な事言うかもだけど、滅茶苦茶薄気味が悪くてさ……」

 

「……彼に絡まれた? 少々苛烈なお方ではあるが、誰にでも絡むようなお方ではない筈だ。それに、かのお方とは何度かお会いしたことはあるが薄気味が悪いという印象を覚えた事はないね」

 

「男が趣味なんじゃねーのか? にーちゃんモテて良かったな」

 

「よくねーよ! だったら尚更怖いわ!?」

 

「まあそう言う漫才は兎も角としてー、薄気味悪さはカリオストロも感じたよっ☆

 実際にスバルが絡まれた所も……その人はスバルが此処に居ることを疑問視してたみたいっ☆」

 

「ふむ……」

 

 カリオストロの援護射撃を受けてスバルの言葉に信憑性が増したのか、ラインハルトが少し思案する。そうして数瞬の思考の後に軽く二回手を叩けば、幾ばくの間もなく来賓室を開けて老執事が入ってきた。

 

「お呼びでしょうかラインハルト様」

 

「リッケルト氏は今夜こちらにお泊りになっているかい?」

 

「リッケルト様は……いいえ、既にお帰りになりました。

 何やら明日の仕事が溜まっているとの事でしたが」

 

「そうか、ありがとう」

 

 老執事は深々とお辞儀をして退室していった。

 

「今日いらっしゃるなら直接話を、と思ったがそうも行かなかったようだね。

 さて、繰り言にはなるが彼に関しては僕からはそのような印象を受けた覚えはないね、今日は最終的にお会いすることもなかったが……また今度彼に直接会ってみるとしよう」

 

「あぁ、まあ今後会うことは正直ないかもだけど、そこんところよろしく頼むぜ」

 

「ねえカリオストロ、男が趣味ってどういう事なの? 性別って趣味に出来るのかしら……」

 

「それはねっ、エミリア☆ リッケルトさんはぁ、スバルの事を――」

 

「そこやめて! エミリアたん絶対誤解するから! 誤解するから!」

 

 

 そうして面々の話は気づけば終わりを迎え、夜も遅いとラインハルトは一行を客室へと案内。

 一行は宛てがわれた客室で一泊を過ごすことになったのだった。

 

 

 

 § § §

 

 

 

 小鳥のさえずり音が窓越しから聞こえてくる。

 カリオストロはその音、というよりかは自身の体内時計に従ってすくっと目を覚ますと、すぐ隣のベッドでだらしなくも布団からはみ出して眠っているスバルを見て、はぁ、とため息をついた。

 何となく、朝を迎える度に彼が生きている事を確認するのが日課になってしまっているな、と思いながら、ベッドがら起き上がったカリオストロはまずスバルに布団をかけなおすと、少し乱れた髪を部屋内のドレッサーに向かってせっせと櫛で直していく。

 

 窓から差し込む光を見れば、今日も昨日に引き続き快晴なのが見て取れた。

 さて、昨日は聞けなかったが今日こそラインハルトに魔獣の話を聞いてやろうと意気込みを新たにすると、こんこん、と扉をノックする音と共にエミリアの声が飛び込んできた。

 

「カリオストロ、スバル、起きてる? ……ちょっと問題が起きたの」

 

「――問題?」

 

 何が起きたのだ、と整える手を止めるとカリオストロは扉を開けてエミリアを招き入れる。

 すると彼女は起こしてごめんね、といったん断りを入れた上で事情を説明しだした。

 

「私達、急遽領地に戻る必要が出来たみたいなの」

 

「……うん? お前たちはフェリスとか言うのに会いに行くんじゃなかったのか?」

 

「そのつもりだったんだけど、朝起きたら私宛に手紙が来てたの。

 宛先人は……ロズワールからの物で、内容は『エミリア様はすぐに屋敷に戻られたし』だって」

 

「……。内容、それだけなのか?」

 

 どう見ても罠にしか思えないような内容だ。まさか差出人がロズワールだから帰るつもりなのか、とカリオストロがじろりとエミリアを見ると、彼女は少し慌てながら弁明しだす。

 

「も、勿論私も最初は怪しんだわ。

 普通、戻るにしてもちゃんと理由は書く筈だし……それにタイミング的にも急だし。

 でもね、ラムがこう言うのよ。『これはロズワール様の筆跡だ』って」

 

「……」

 

 筆跡は確かに人の癖が出やすく、個人の判断に最適な物ではある。

 だがその筆跡だって真似出来ない訳ではない。

 カリオストロはそのことを伝えたが、エミリアは首を振る。

 彼女もその事を伝えたらしいが側で何十何百ものロズワールの筆跡を見たラムが間違いようがないと断言を繰り返すのだ。それに、その手紙には決定的な証拠があった。

 

「封蝋もメイザース家が使用している物そのものなの」

 

「封蝋か……ふん、開封するまで破られてなかったか?」

 

「うん」

 

 封蝋は手紙の差出人の証明と、機密性を立証するには最も良い技術である。

 封蝋のマークは偽造しづらく、また封を開ければ蝋が破れる。

 筆跡と封蝋のマークが一致してるならば罠と否定もしづらい。

 

「だからね、何があったか分からないけど一旦帰ろうと思うわ。

 もしかしたら急を要する事があったのかもしれないし……。

 ……それで、二人はどうする? 一緒に帰る?」

 

「そうか……まあ気をつけろよ。オレ様はラインハルトに話を聞く必要があるから残るが、スバルは……どうだろうな。……おい、起きろ。気ままに寝てるんじゃねえ」

 

「んが……あと、あと5分……いでっ、いでいでいで……。

 や、めろ~……まだ眠いって~……ふにゃんにゃ」

 

「……いつもより頑固な野郎だなこのっ」

 

「あ、も、もう良いってばカリオストロ。ちょっと可哀想よ。

 本当朝も早いし、それに私達の事情だしね……昨日、お酒何杯か飲んでたせいかしら。起こすのも忍びないし、カリオストロ、スバルのことお願い出来る?」

 

「……ま、そうなるよな。分かった、任された。

 ったく、酒の数杯程度でこんなんじゃ先が思いやられるぞ」

 

 布団に完全にくるまって眠りこけるスバルを見てカリオストロが溜息、エミリアが苦笑した。最後まで罪悪感があったのか、結局エミリアは書き置きをする事にしたらしい。ドレッサーの上で小さくメモ書きをすると、それを置いた。

 

「……よし、と。それじゃあそろそろ私もこの辺りで――」

 

「エミリア様、竜車が整ったようですが……はぁ、予想はしていたけど本当バルスはバルスね。この一大事に眠りこけるだなんて」

 

「仕方ないわよラム、こんなにも朝早いんだもの」

 

「ま、スバルらしいって事で~☆ 見送っていくよ~☆」

 

「ふふ、ありがとうカリオストロ」

 

 睡眠を続けるスバルを置いて静かに部屋を後にした三人。早朝という事もあってか屋敷は静まり返っており、廊下を渡りやがて玄関の扉を開ければ……そこにはすでに竜車が待機していた。

 竜車の準備をしていた御者が三人に気付くと、ぺこりとお辞儀をして挨拶をしだす。

 

「おはようございますエミリア様、ラム様、カリオストロ様」

 

「おはようございます。朝早くから準備して頂き感謝します」

 

「とんでもございません。火急の用とあれば致し方ない事です。

 竜車も我が屋敷で一番の早足を誇る者を用意しました」

 

 御者は地竜を軽く撫でると、さぁこちらへとエミリアとラムを席へと誘導する。二人は従うがままに座席に座り込み、そして間もなく御者は竜車に跨り、あっという間出発の時間となってしまう。

 

「それじゃあスバルの事、よろしくねカリオストロ」

 

「はいはい、道中はお気をつけてね~☆」

 

 エミリアが窓越しに手を振り、最後に言葉を交わすと竜車はゆっくりと速度を上げ、屋敷の門を抜けて出ていってしまった。

 カリオストロはその様子を最後まで見守ると、さて、と意識を切り替えて屋敷へと戻ろうとし――直後、その屋敷の扉から何者かがこちらへと走り込んできた事に感づいた。

 

「――はひっ、はひっ、か、カリオストロか! え、エミリアたんは!?」

 

「……はぁー……エミリアならついさっき帰ったぜ」

 

「そ、そんな……!」

 

 ネタに尽きない男、スバルである。ついさっき起きたばっかりだったのだろう。寝間着の上からジャージを羽織ったスバルの髪はぼさぼさで、全速力で走ってきたのか疲労困憊だ。彼はカリオストロの言葉を聞いて、その場でへなへなと座り込んでしまった。

 

「く、くそっ……エミリアたんが居ないとか俺は何を楽しみに……!」

 

「折角遠出したんだから遊びにでも行けばいいんじゃねーか?」

 

「エミリアたんが居なくちゃ起きるフラグも起きないだろうがよ――っ!!」

 

「……あっそ」

 

 スバルの中では色々とプランがあった。王都に行くついでにエミリアと一緒に王都で散歩をしたり、エミリアのプレゼントを二人で選びあったり、エミリアと一緒にお食事をしたり、カリオストロと一緒に遊びに行ったり。だがエミリアなき今では大半のプランは実行することが不可能である。

 そんな彼の心情など知ったことかと呆れ声を出したカリオストロは「先に戻る、お前も早く戻って着替えろよ」と言い含めると非情にも(当然だが)彼を置いて戻ってしまった。

 置いていかれて尚あぁどうするべきか、としばらく深い嘆きに包まれうなだれていたスバルだが――彼もまた何かが遠方から近づく音にその頭を上げる。

 

「なんだ……?」

 

 竜車である。幌屋根の大きなカゴを引き連れたそれは3台が連なってこちらに向かってきていた。

 こんな早朝に一体何をしに来たのだろうか、と思っていると何やら幌にいろいろな物が乗っているのか、がちゃがちゃと振動につられて音を立てる竜車がスバル目の前で止まる。

 

「お早うございます、ホーシン商会です。ご注文の品をお届けに参りました!

 えっと、貴方が受取人という事で……はないですよね」

 

「……はい」

 

 どうやら荷物を宅配しに来た商人だったようだ。

 目の前の壮年の男性はスバルの格好で目当ての相手ではないと分かると困った顔をしていたが、背後から遅れてあの老執事が現れた。

 

「遅れてすいません、お早うございます。

 ……おや、スバル様もお早うございます。如何なされましたか?」

 

「あ、はい、おはようございます……えーっと俺はエミリアた……エミリアの送り迎えを」

 

「成る程。何か火急のようがあるとおっしゃっていましたからね。

 ……さて、申し訳ありませんが私はこれから仕事があるため、これで。

 早朝でその格好は体が冷えてしまいますよ、朝食はあと30分もすれば出来上がるようですし、屋敷に戻ることをお薦め致します」

 

「ど、どうも……あーでも着替えとかもすぐ終わるんで、もしよければ見ててもいいですか?」

 

「勿論でございます。老骨の働く姿で良ければ」

 

 ニコリ、と微笑み返すその表情は安心出来る印象があった。

 許しを得たスバルは改めて商人と話し始めた老執事……ではなく、竜車とその幌馬車を注目し始める。普段雑事を担当していたせいか、それとも帰来の好奇心のせいか。恐らく後者だろうがスバルはラインハルトの家に運び込まれた物を確認したするために籠の中を覗き込む。

 中には様々な箱や、武器。樽が色々と詰め込まれていた。……すん、と匂いを嗅げばどこか土の香りや甘い香りがしてくる分、食料品が主な物のようだ。

 

「……おっと」

 

 次の幌を見てみれば、人も乗り込んでいたようだ。

 丁度目の前で降りてきた人を切欠に、他の馬車からも数人が降りては籠に積まれた荷物をどんどん荷卸しては屋敷へと運び込んでいく。スバルはそんな彼らに挨拶をして労っては、その様子をまんじりと見守っていく。

 大小様々な箱はあっという間に運ばれていく様は、普段の自分の仕事を考えると中々壮観である。

 特にあの焼けた肌の筋骨隆々の巨体を持つ人物だ。深く帽子を被っているその人物の効率は他の荷卸人と違って高いものだとスバルは頷く。複数の大きな木箱を一片に持って尚余裕があるように見える。動きもいい。

 

 スバルとしてはその働きっぷりがどうにも気持ちが良いものなので、一言声をかけたくなった。なので邪魔と知っていても荷物を取りにまた幌へと戻ってきた人物へと近づいた。

 

「お勤めご苦労様でっす、凄い力で正直尊敬するぜお兄さん」

 

「お兄さんという年ではないわい、こう見えて儂はもう老いぼれも老いぼれ……あん、この声?」

 

「え? あれ、この声」

 

 

 

「……貴様、あの時の小僧か?」

 

「ロム爺……?」

 

 

 ――そこには昨日話題にあがったフェルトの親族(?)である、ロム爺の姿があった。




《扇動の加護》
 本作オリジナル加護。
 能力としては自分の言葉が他人により同調してもらいやすくする。
 対象人数が多ければ多いほど力は強くなる。

《リッケルト・ホフマン》
 原作第三章にちょろっと出てくる40代くらいの文官。
 王選所信表明でフェルトが浮浪児だと騒ぎ立てたり、エミリアが半魔だと騒いだりする賑やかしの人。
 家出した息子が居るとか。

《ホーシン商会》
 王選候補者の一人であるアナスタシア・ホーシン率いる商会の事。
 カララギという地での有力商会の一人だが、ここルグニカでも最近台頭してきたとか。
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