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折り返し地点にようやく来たぞー!FUUUUUーーッ!
2019/05/14 ストーリー上存在する筈のビィがだんまり決め込むバグを修正。
ビィ「テメェ……オイラのこと忘れてやがったな……」
パック「マスコットキャラって往々にして忘れ去られやすいからね……かくいうボクも結構忘れ去られてるよ」
2022/11/23
グラン君の武器をアップデートしました。
『―――スバル君、スバル君、スバル君、スバル君、スバル君、スバル君、スバル君、スバル君』耳朶を響かせる蕩ける程に甘くて、触れた先から偏食してゆくような容赦のない致死の言葉と
§ § §
カリオストロは聡明故に理解してしまう。
眼の前の存在が
カリオストロは聡明故に理解してしまう。
眼の前の存在は体構成そのものを組み替えられた為、治療することも出来ない事を。
カリオストロは聡明故に理解してしまう。
彼を元に戻すためには、彼を殺さなければならないという事を。
「~~~~~ッ」
目に見える程の黒い瘴気と
そのあまりにも無様で、どこか悲哀を感じる姿は理解した今となってはありし日、屋敷でレムに襲われたスバルの姿と被ってしまう。
知性が言っている。殺せ。それでしかアイツは救えないと。
理性が言っている。殺すな。この世界での相棒をどうして殺してしまうんだと。
理解は出来ても納得の出来ない究極の二択。
理性と知性のせめぎ合いで、魔法陣を展開した手はぶるぶると壊れてしまったのかのように震えてしまう。
そもそも再生する体に作り変えられてしまったが故に殺すとしても中途半端はダメだ。
全身をあますことなく崩壊させて原子の一粒まで分解しなければ殺せないだろう。
だがあいつの体を全て崩壊させてしまったならば、はたして彼は本当に復活出来るのか。
ひょっとしたら死に戻りすら起動することなく、スバルの居ない/エミリアの居ない/ラムの居ない世界を過ごす事になるのではないか。
だが殺さないにしろ、
あいつはもう遺伝子レベルで体を書き換えられた全く別の生き物なのだから。
殺せ。もうすべがない。スバルは人間ではなくなった以上苦しまぬように楽にしてやれ。
殺すな。スバルはまだガキだ。それに味方を殺すなんてどうかしている。
殺せ。もう手遅れだ。エミリアもレムも既に死んだ。どうあがいても死に戻りするしかない。
殺すな。死に戻りが発動しなかったらどうする。自分だけ生き残ってOKな訳がないだろう。
殺せ。今更情に駆られたか。無駄な時間を過ごす必要はない、自分の目的を思い出せ。
殺すな。いつから他人との約束すら守れない情けない奴になった。可能性はまだある筈だ。
頭の中で行われる聴衆の居ない不毛な議論。
堂々巡りで空回り。暖簾に腕押す循環論法。
終わりの見えない迷路に囚われてしまったような錯覚を覚えながらも、考えは辞められない。
だから眼前に迫りくる一撃にギリギリまで気付かず、無様に吹き飛ばされてしまう。
思考のリンクしたウロボロス達はあの逡巡によって眼の前の存在を敵対存在と認識出来なくなっていた。故に防御が遅れ、カリオストロは民家の壁をぶち抜いて床に転がっていた。
「ぐ……うっ、……くぅふ……!」
普段なら十二分に守れた一撃も、意識の外からならこんなにも響く。
強かに打ち付けた背中から腹部を通った衝撃で肺内部の呼気が一気に吐き出されて窒息に似た症状を覚える。咄嗟に魔法による症状の回復を図ろうとした直後――自分の全身に陰が落ちる。
「たすスソ逕ィ縺ァ縺阪けて」
すえた腐臭をまとった黒くて巨大な天井――それが尻尾であると認識したのは、自分が元居た場所が家ごと潰れるのを見た直後の事だった。
ウロボロスに包まれて移動する最中、全身が焼け爛れたような醜い龍はいつの間にか屹立し、その濁った目でカリオストロを見つめ……そして、追随してきた。
「九Λ繝ウ繧オ繝 繧ヲ繧ァ繧「縺九i縺ョ菫晁」
「スバル……スバル! 目を覚ませ、スバル!」
カリオストロの中では既に彼を攻撃するという意志はなくなりつつあった。
何かしらの反応があることを期待して攻撃を避けながら声をかける事を繰り返すばかり。しかし肝心要のスバルは声にも反応せずにカリオストロめがけて攻撃をするだけ。これでは住宅街に破壊の爪痕がいたずらに広がるだけだ。
打開策を見いだせぬまま千日手になるのだけは避けたい、だがどうすればいい? 思考を高速回転させようにも良案は生まれそうにもない。
「……!? なんだこの化物は、魔道士を呼べ!」
そしてこんなにも巨大で馬鹿でかい音を立てているのだから、当然周りの兵士達も寄ってくる。
兵士は兵士を呼び、そして群れては街を破壊する不届き者を退治しようとする。
正しい行いだ。だが、この化物と比べてしまえばあまりにも弱々しい戦力だ。
「こっちに来るな! こいつにお前らの攻撃は通じねえッ!」
「しかし嬢ちゃん、こんなの放置出来る訳が――!」
幸いな事に現状スバルの目にはカリオストロしか映っていない。スバルは2階建ての家屋の屋根に降り立ったカリオストロめがけてその汚らしい体と垂れ下がる水疱を揺らしながら突撃ししてくる。カリオストロは当然ながら余裕を持ってその場を跳躍すると、大質量をぶつけられた家屋が連なる別の家屋ごと粉々に破壊されていく姿が見えた。
あたりを舞う土埃と瓦礫。動きこそ単調で隙も多いのだが再生能力と尋常でない質量はただの兵士には荷が重すぎる。強力な魔道士でない限りは妨害すら出来ないだろう。
「いいから黙って下がってろ、代わりにラインハルトでも呼んでこい!」
今の一撃を見て自分たちに出来ることはこの場にはないと悟ったのだろう。兵士らは踵を返して走り去ろうとする。だが、悪いことは連なるものだ。ここに来てスバルは始めて増援の兵士を発見してしまう。
攻めあぐねたカリオストロよりかは、別の弱そうな獲物が先だと言わんばかりに瓦礫を撒き散らしながらスバルは兵士らめがけて走り出す。
兵士からしたらたまった物ではないだろう、見たこともない穢れた龍が汚水を撒き散らし、地響きをあげながら追随してくるのだから。
「やめろ! おい、スバルよせ!」
焦る。攻撃手段はあっても、それを身内に向ける事ができなくなった今、彼を止める手立ては妨害しかない。しかしながら拘束しようと作り上げた巨大な石の壁はものともせずに破壊され、枷は馬鹿力でこじ開けられてしまい物ともしない。逆に飛び散る破片が兵士に危機を及ぼすぐらいで逆効果になってしまうだけ。
だから、カリオストロはこれ以上の被害が及ばぬように力の一端を見せざるを得なかった。
突如、空気の抜ける音が響いたかと思えば
大きな顎の奥から響くけたたましい慟哭がかきならされる。
正体を知るまでは不快だと感じていたその吠え声も今となっては悲痛な声にしか聞こえず、カリオストロは別の意味で耳を塞ぎたくなった。
「……頼む。頼むから大人しくしててくれ」
「牙ソ し繝シ繝薙せ縺ィ縺励※菴上∪縺 繝医Λ繝悶Ν縺? 繝 繧ォ繧ソ繝ュ繧ー繝€繧ヲ繝ウ繝ュ. 」
懇願の声は口泡を飛ばして暴れる彼に届く訳もなく。
貫かれた両足は傷口から煙をあげ、ぶずぶずとくぐもった音を立てながら再生するばかり。これでは何度やっても終わらぬイタチごっこになりかねないだろう……ならばこそ、カリオストロは沈痛な面持ちである魔力を開放する。
魔力はカリオストロとスバルの足元に巨大な魔法陣を作り上げ、そして魔法陣は眩い光を伴ってゆっくりと回転する。
回転は徐々に早まり、蒼い光の軌跡を残しながらもスバルを光に包み込む。
これは他でもないカリオストロ自らを数百年の間封じ込めた封印魔法。
傷つける事を良しとせず、さりとて放置も出来ぬのなら最早封じ込めるしか道はない。
しかしながらかつては
「時間をくれスバル。ここに来てから約束を守れた試しのないオレ様だが……必ず、必ずお前の事は元に戻して見せる。どれだけ時間がかかっても、必ず」
痛みをこらえるような表情でカリオストロは朗々と詠唱を続けていく。魔法陣から広がる無数の光筋達は円のドームを形成。スバルの体に絡みつくと、まるでその足元が泥沼であるかのようにその巨体を沈ませてゆく。
この封印はスバルの体構成を魔法陣上で紐解き、それを記憶した上で一度微粒子レベルまで分解するという物。体が徐々に徐々に粒子となっては魔法陣に吸い込まれて行く感覚は筆舌に尽くしがたい物だろう。先程から困惑めいた声を引っ切りなしにあげるスバルは何とかそこから逃げ出そうとするが、光は決して彼を逃さない。
「…………必ず、戻すから」
歪な姿のスバルが我を忘れて我武者羅に暴れる様は見るに堪えない。
だがこの
脳裏をかすめるのはスバルとの短いながらも濃密な冒険の軌跡。
共に異世界に放り込まれ、エミリアの徽章盗難騒ぎに巻き込まれたかと思えば殺人鬼と対峙し、ロズワールの屋敷に招待されたかと思えばレムやラムを救い、そして魔獣の群れを蹴散らした。
事件の起点はスバルが記して、事件の終点は自分が結んだ。
自身の中でスバルは「馬鹿で無鉄砲、無計画な行動力のある弱すぎるガキ」という救いようのない評価がされていたのだが、唯一救えるのは「他人のために行動出来る」という一点。
興味関心を逃さずに頭を突っ込み、身分も強さの差も気にせずにそこに異があれば流されずに噛み付く。それは躾のなっていない駄犬さながらの様相だが、それが切欠となって事件が解決したのも間違いではない。
当初はそんな馬鹿の尻拭いをするたびに怒りを覚えたものだったが、彼の利己的ではない行動がどこか憎めなかった。
スバルが馬鹿をし、自分が嗜め、尻拭いをする。
その行為を繰り返していく中で少しずつ成長をしていくスバルの様子は微笑ましく思っていただけに、今視界に広がる現状が余りにも腹立たしく、悔しく……そして胸を締め付けられる思いで一杯だった。
「かりお繝薙すとろ」
「ッ!」
だから、今の傷つき弱りきった心にスバルの言葉は否応なく響く。
刻一刻と粒子状に変わりつつあるスバルは偶然なのか分からないが首をもたげ、こちらを見つめている。その様子は助けを求めているように見えて仕方がない。
「か€繧ヲ繝りおすとろ、たすけて」
「……だ、いじょうぶだ。スバル」
どうして、こんな時にはっきりと呼びかけてくるのだ。
「かりおすとろ、た繧「縺すけて」
「助ける、きっと助けてみせる」
最後まで混迷としてくれていたら、これ以上苦しまなかったのに。
「かりおすと縺ァ縺ろ、たすけ繧「縺て」
「もう少しの辛抱だ。何も心配することはないんだ」
それ以上こちらを見て喋らないでくれ。それ以上こちらに向けて懇願しないでくれ。
一言一言が自分に剣を突き立ててくるような痛みを与えてくるんだ。
「悪い。ほんの少しだけ待っていてくれ、次に目を覚ましたら――」
「おまえのせいだ」
「――――」
がぢり、と胸の奥で嫌な音がした気がした。
「おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだ どうしておれがこんなことに おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだ なんでたすけてくれなかった おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだ なんでおれだけがくるしむ おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだ ぜんぶおれはわるくなかったのに おまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだおまえのせいだ」
紡がれるのは極大の呪詛。
それはスバルの口からというよりスバルの体全身から、ひいては自分の全周から聞こえてくるようだった。まるで輪唱。客の取れないコーラス。コーラスというより騒音。いや、自らの無能を虐げる集中砲火。
一言一言が呟かれるたびに自分の心にかえしのついた矢が突き刺さるような感覚を覚えるほど、今のカリオストロには致命的な攻撃であった。
視界が揺れる。
口から意味のない呻き声が漏れる。
体が訳もなく震える。
重力が消え、地についている筈の両足が離れるような感覚。
背中に巨大な重しが載せられたかのような全身への虚脱感。
転じて今自分がここに居る事も、行っている事も理解できなくなり、カリオストロは詠唱を止めてしまう。そう、やめてしまった。
次の瞬間。視界が激しくシェイクされたかと思えば、最終的に綺麗な空を見上げていた。
「――……あ。ぇ……」
もうなにも理解が追いつかない。
分かるのは全身の節々から感じる、突き刺すような痛みの信号と虚脱感。
右半身に至ってはもはや感覚がなく、視界も片方が見えていない。
何かを確かめるように左腕を持ち上げ、手のひらを顔の前に持ち上げれば、血と
「か縲√%りお繧後i縺すとろョ繧オ繝おまシ繝おま薙えのせ縺ッ譛いだ」
響く呪詛と地鳴りの声が徐々に、徐々にとこちらに近づく気配。
まさしく絶対絶命のピンチなのだろう。
だとしても自分の体は、意識は、脳は、警戒すらしようとしなかった。
もう、良いのではないだろうか。
事態は悪化の一途で、八方手詰まり。
守るべき物は尽く失い、約束は違えてしまった。
だけど自分に出来ることは十分にやったのだ。その結果出来なかったのだ。
何より、何よりも――疲れてしまった。張り詰め続けていた自分の心は限界。
復活すらもしたくはない。
地響きの音は更に近くに。
耳鳴りのように響き渡る呪詛の前に、薄ぼんやりと空いていた目を瞑る。
スバルへの申し訳なさと悔やみきれぬ後悔は忘れてしまって後は成り行きに身を任せよう。
ただ一つ。一つだけ祈る事だけはしておこう。
願わくばスバルが苦しむことなく討伐されますようにと――
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――――――」
「――――――しょ――――」
「――ししょ――――――師匠――」
「――お師匠、ご先祖様ったら起きて! 起きてよ!」
「――?」
聞き覚えのある声が耳朶を打つのを感じ、閉じていた目を開けてみた。
「うちだよ、うち! クラリス! ししょーの馬鹿弟子のクラリスだってば!!」
死ぬ前に夢を見ているのだろうか。
片目から見える景色は、目の端に涙を目一杯溜めた錬金術師――クラリスの顔であった。
クラリスは瀕死のカリオストロを抱えあげ、その体を揺さぶっていた。
「ようやく探し出せたっていうのにこんな所で死なないでよ! うちらが心配した分を無駄にするとか、許さないんだからぁ!」
「ぅ、あ……ばか、やめ、ろ。揺さぶるな……」
「あっ、ご、ごめんねししょー! うぅ……それにしても酷い怪我。うちが回復魔法とか使えたら良かったのに……と、というかお師匠様、いつもの体の再構成とか、し、しないの? まさか魔導書が壊れたとか……!?」
あたふたと混乱しながら一気に捲し立てるクラリスは、とりあえずと自分の服の一部を千切っては患部に巻いていく。いささか患部に巻くには強すぎる締め付けで呻き声が漏れる程ではあったが、その行為のお蔭で少し思考がクリアになった。
「……本当にクラリス、なのか?」
「そうだよ!
「お前の、得意技術は?」
「破壊分解存在崩壊!」
「錬金術の絶対法則と言えば?」
「ぅえっ!?……え、えーっと……えっと、えーっと……確か、均等交換……?」
「…………わかった、本当のクラリスで間違いなさそうだ」
「え? 今のあってるの? あってるよね師匠!?」
流石のあの悪辣な魔女と言えど、覚えの悪いクラリスの絶妙な癖や性格まで理解してるとは信じがたい。これは本当に向こうの世界からやって来たに違いないだろう。
「そんな事よりもお師匠様! 早くその体直さないと……!」
「……それよりもお前、どうやってこの世界に来た?」
「団員全員とルリアちゃんの力だよ! 全員で1ヶ月間総出ですっごく考えあって、あーだこーだって言いながらこの世界を特定して、星晶獣のくろぷり……えっと、なんとかって言うのでこっちの世界に飛んできたの!」
という事は。という事はだ。
「もしかしてグランも、この場にいるのか?」
「そうだよ! 一番グランがお師匠さまの事を心配してたんだから、こんな所で倒れないで! また一緒に冒険しようよお師匠さま!」
全身に乗っかっていた重しが、少し取り払われた気がした。
団員達は決して諦めたりせずにこちらを迎えに来てくれた、グランも団の管理があるというのに自ら乗り込んで来てくれたのだ。その事実が何よりも嬉しかった。
そして彼らが来た事で新たな道が開けた。
そう、彼が来たということは即ち元の世界に戻れるという事だ。
きっとルリアが手懐けた星晶獣――恐らくはプロスクリスィだろう――を使役する事で、彼らとまた冒険が出来るのだ。
カリオストロは高揚を抑えられない事を自覚した。
あんなに萎れていた心は目の前に提示された救いの道を前に呼応するかのように脈動を始め、全身に力が行き渡り、
カリオストロは痛みに顔を顰めながらもクラリスに手を伸ばせば、クラリスはしっかりと彼女の手を握りしめて起こしてくれた。
「そうか。悪い、本当はオレ様の方から、お前らの元に迎えに行ってやろうとしたんだけどな」
「あはは、お師匠様なら本当にやってのけたかも……でも今回はうちらが先だね!」
「ふん、まあ正直な話を言えば本当に助かった。感謝はする……ッつぅ!」
「あ、あ、お師匠! ほらしっかり掴まって……ねえ本当に回復しないと死んじゃうって、今は出来なくなってるの? それに、その体。何か……」
立ち上がってよろめいたカリオストロにクラリスが肩を貸して支える。
クラリスから見ても今のカリオストロは重症だ。その可憐な姿に何があったか、全身のいたる所に打撲跡があり、右目に至っては今もなお血を流している。極めつけには体全体から血管が浮き出て、不自然に脈動しているのだ。しかも本来の血管の色ではなく真っ黒な不気味な色になって。
カリオストロ自身もようやく自分の体の異常に気付いたと言わんばかりに、腕や足を視線にやってから口を開く。
「……強力な毒みたいなもんだ。ここまでやられると単純な回復じゃ無理だ……体を再構成してやるしかない」
カリオストロはこの攻撃の正体に気付いていた。
これは強力な毒のブレス――というより血の斉射だ。
あのクソ野郎が施した龍の血とやらをスバルは過剰摂取した。それ故に彼の体は強力な再生能力を持ち、彼の血は悪辣な感染力を持つようになったのだろう。
自分は封印が溶けかけた瞬間にその血のブレスに飲まれ、吹き飛ばされたのだ。
「じゃあ再構成を早くしないと!」
「……はぁ、クラリス言っただろう。錬金術は等価交換が原則だ。部分部分の再構成ならまだいいが丸々オーバーホールするには素材が足りない」
「うぐぐぐぅぅ……で、でも死んじゃわない!? お師匠様死んじゃわないよね!?」
「うるせえ、耳元でわめくな……死ぬほど痛いが、このぐらいならある程度症状の遅延も出来る。さっさとグランサイファーに戻ればいい話だ」
「わかった! OK! クラリスちゃん納得! それなら早く帰らないとっ、団員総出のお出迎えが待ってるからねお師匠っ☆」
意気込むクラリスの様子を見て、カリオストロは苦笑しながらも言いようのない心地良さを感じていた。
全身からはひっきりなしに悲鳴をあげそうな程の痛みを感じるのだが、それ以上に心から湧き上がるのは歓喜。短くも濃密で苦しい旅がようやく終わりを迎えると考えてしまえば、いくらでも我慢出来そうだと考えていた。
一体団員達はどんな顔をして出迎えてくれるのだろうか。そして自分はどういう第一声をあげるべきか……考えることは色々あるが、なんであれクラリスやルリア、そしてグランには本当に大きな借りが出来てしまったなと思う。みっちりと返してあげねばな、と口角を上げてクラリスに引きずられるがままに移動していく。
「それ、で肝心のルリアとグランは今どこに居るんだ?」
「ルリアちゃんと団長は今お師匠様を襲った魔物と戦闘中! 再生能力持ちだから結構厄介そう……」
「――ッ」
自分を襲った魔物。再生能力。
それらのキーワードを聴いた瞬間、背筋に冷たい杭が通ったかのような感覚を覚えた。
すっかり目先の希望に囚われて、スバルの事を忘却の彼方に置きざりにしていた。
まだ絶望は終わっていないというのに全てが解決した気になっていた事に、カリオストロは一転して歯噛みする。
救いの道が出来た。ただその道が提示されているのは自分だけ。この世界の相棒と呼べる存在はまだ苦しんでいる。責任を放棄して自分だけどうして喜んでいられる?
それにだ。自分はさっきまで何に対して喜んでいた?
元の世界に戻れる事? いや、違う。
「だけど
「……ししょー?」
同行者が歩みを止めた事にクラリスは違和感を覚えた。
すわ、もしかして症状が悪化したのか!? と途端に焦り始めるもどうやらそういう訳ではないらしい。俯いた顔を覗き込むように近づけると、カリオストロはぽつりと呟き始めた。
「クラリス。まだ、その魔物は生きているんだよな」
「え? う、うん。多分だけどね……ってししょー。もしかして……!」
「あぁ。そいつの所に連れていってくれ」
「だ、ダメ! グランに任せておこうよししょー! 今の師匠はただでさえ大怪我を追ってるんだよ! なのに戦闘だなんて」
「頼むクラリス。あいつは、アイツだけはオレ様がやらないといけない。そうじゃないとスバルは救えないんだ」
「スバル……? で、でも……」
渋るクラリスを前にしてカリオストロは視線を合わせる。片目こそ閉じられているものの、その眼差しから感じる熱は今までにないくらいに強いものであった。
「――負けっぱなしは気が済まないんだよ」
それからクラリスが折れるまで、さして時間はかからなかった。
§ § §
グランにとって目の前の魔物は今までにない醜悪さぐらいしか真新しい物を感じていなかった。
確かに再生能力は厄介だし、攻撃するたびに飛び散る体液には自分の第六感が警鐘を鳴らす程危険な物だとは理解出来ていた。
攻撃力はあっても狙いは荒く、動きもお世辞にも早いと言えない。
そして体はデカくて器用さが見受けられない、となれば自分にとってはただの的でしかない。
何十、何百の破片にも出来るし、
だが今はそれをしていないのは、一重にカリオストロに理由がある。
ようやく探し求めたカリオストロが倒れ伏す姿を見て自分はこんなにも怒れるのだと最初は驚き、そして怒りのままに自分の全力を叩き込んだのだったが、あまりにも呆気なさ過ぎた。
最初こそ抵抗はしていたようだが今となってはこの魔物は自分から逃げ惑うとして背中を向けるぐらいで、ルリアですら困惑をするぐらいだ。
普段のカリオストロの強さと力を知る身としては彼女があんな姿を見せる事が信じられず。またそれを目の前の魔物が為したという事に理解が及ばなかった。
カリオストロがあの姿を晒すには何かしら理由があったに違いない。そして、その理由が目の前の化物にある。そう考えてしまえば慎重に相手の行動を見極めざるを得ず、グランは隙をぬって相手を
実際にはスバルに隠し玉などなく、ただその苦しみを広げているだけでしかないのだが。
「グラン、この子は――」
「分かっているよルリア、可哀想だけどまずはこの魔獣が持っている隠し玉を見極めないと」
背中からすらりと取り出したのは
天下無双の剣豪が最終的に行きついた刃紋美しきその武器の名は「無銘兼重」。
取り出すという所作だけで、空気が切れたかのように思える程の切迫感を与えるそれを、膝を
瞬間、大樹の幹ほどある魔獣の両足首が綺麗にずれてその場に残り、足首より上は慣性を維持したまま前のめりに倒れ込んでしまう。だがそのまま倒れ伏すことをグランは許しはしなかった。
納刀した武器の変わりに無手で構えたグラン。その手には白無垢の篭手が嵌っていた。
かつてはあらゆる自我をも剥奪し、世界との統合を目論んだアニマ・アムニス・コアから生み出された武器「ノーフェイス」。
その両拳を強くぶつけあったかと思えば振り向きざま、かの魔獣の顎めがけて振り抜いた。その醜い顔に振り抜いた拳以上のクレーターが出来上がり、その直後に乾いた音が響き渡った。
しかしながら音は1つではなく、無数。グランの両腕は最早消えているようにしか見えないが、空気が弾ける音が繋がって響き渡るたびに魔獣の顔が
1打1打の衝撃は如何ほどのものか。ただ分かるとすれば本来ならばそのまま地面に倒れ伏す筈の巨体が拳によって反対側に押し出される事から、尋常ではない破壊力があるのは間違いがないだろう。
「これ以上民家に被害は出させてあげられないんだ。暴れるならもう壊しちゃったこっち側で」
結局の所魔獣はうつぶせではなく、仰向けで倒れこんでしまう。
顔を執拗に殴打されたせいで悲鳴をあげることも出来ず、ひっくり返った蛙のような姿で時折体を跳ねさせる姿は無様の二言だ。
魔獣としては溜まった物ではないだろう、決して逃しもせずさりとて殺してもくれず、じわりじわりと痛めつけてくるのだから。だと言うのに望んでもないのに勝手に再生していく体があるのは、彼にとっての不幸に他ならない。
今も尚両断された足首の断面からぶずぶずと音を立てて再生を初めてゆき、潰れた顔も徐々に元に戻っていく。
「んなっ、まだ再生しやがんのかこいつ……しぶとい野郎だぜ!」
「うん。それにしても本当にもう隠し玉とかはないのかな。……ルリア? 大丈夫かいルリア」
「んん、けほっ、けほっ」
気づけばルリアは口元を鼻ごと抑えて咳き込んでおり、ビィ共々グランは彼女の元へと近寄る。
よもや魔獣の血液を飲み込んでしまったのだろうか、と思っていたがそうではないらしい。
「だ、大丈夫です……ただ、すごい臭いで……」
「臭い? ん。まあそうだね、確かにこの濃密な血の臭いはあんまり……」
「え? ……えっと、私にはちょっと腐ったような……あまーい臭いがしてるんですけど……」
「んん?」
「そんな臭いするかぁ?」
意図しなかった感想にグランは釣られて臭いを嗅ぐ。しかしながら感じるのは血潮や土の臭いのみ。ルリアの言っているような臭いを感じることはなかった。
ビィもそんな臭いを感じてはおらず、ルリアだけが訴えているのは不思議だ。
しかしながら不調は臭いだけの様子。それならばとグランは目先の問題を片すために次なる武器をどこからともなく取り出す。
それは形容しがたい生物から創られた異形の琴。
『終末』を目論み世界の破滅を望んだ研究者が行きついたその楽器の名は『絶対否定の竪琴』。
抱えるようにして張り詰めた弦を、戦場に似つかわぬ手付きで軽く鳴らしてゆけば、びくんっ! と魔獣の全身が跳ねた。
悠久の楽土を
「意識と体の感覚をゆっくりとずらしていく。これ以上暴れないようにね――ルリア」
「はい。
旋律が場を支配する中、グランの傍に佇むルリアが両手を前にして目を閉じる。
呟かれる呪文が旋律に乗ってゆけば髪の毛がふわりと浮き、ルリアの体そのものが光に包まれていく。魔獣が旋律に囚われ、ビィがグランの肩に掴まって成り行きを見守る中、ルリアの詠唱は間もなく終わりを迎えようとしている。
あと三小節。二小節。一小節。零。ルリアの準備が整った。
グランが演奏を終わらせ、ルリアが片手を天にあげて召喚をしようとした――その時だった。
「待ってくれグラン!」
彼らの背を叩いたのは、他ならぬカリオストロの声だった。
急に呼びかけられたその声にルリアの召喚はあと一歩の所で止まってしまう。
「カリオストロさん!」
「カリオストロじゃねえか!」
「カリオストロ! 大丈夫なのかい?」
クラリスに肩を貸してこちらに近づくカリオストロの姿に三人が駆け寄っていく。
所々に見え隠れする傷は痛々しく、絶対安静なのは間違いないはずだ。
しかしそんな身を引きずってまでこの場に来たのだ、きっと重大な用があるのだろう。
「心配をかけたなグラン、それにルリア……それにトカゲ。体調はまあ、よくはないが大丈夫だ」
「気にしないでくださいカリオストロさんっ」
「だからはオイラはトカゲじゃねえって! でもそんな憎まれ口聞けるなら、まだまだ平気そうだな……」
「はは、でも本当にまた会えて良かったよ。それで一体どうしたっていうんだい?」
本当に心配していたのだろう、三人は再開出来た事にまさしく抱擁しそうな程近寄った。
カリオストロは気恥ずかしそうにしながらも彼ら一人ひとりと話をし、そして直ぐ側で横たわる魔獣をちらりと見て、少し寂しそうな、それでいて辛そうな表情を見せた。
――その表情はすぐ様、覚悟を決めたかものへと変わった。
「バハムートの力は強力だが、アイツを消し炭にするのは良い手段とは言えない。殺すならそれこそ塵すら残さずに、だ。そうしないとこいつはそれこそ幾らでも蘇るぞ」
「はわわ……す、すごい再生能力なんですね」
「まあ相棒の攻撃をあれだけ受けて、まだ生きてるってんだから嘘じゃあなさそうだな……でもそれだったらどうするんだ? 落とし穴でも深く掘って埋めちまうのかよぅ?」
ルリアが感嘆し、ビィは解決策が見当たらずに思いつきを口に出す。
落とし穴は原始的だが確かに良い案かもしれない、がこんな町中で埋めてしまう訳にも行かない。さりとて郊外までこの巨大魔獣を追い出すには並々ならぬ苦労が必要だろう。
「――カリオストロ、もしかして」
その中で唯一グランはカリオストロが言わんとすることに早々に気付き、カリオストロのすぐ隣に視線をずらした。
「ご明答だグラン。クラリス」
「うん。うちが存在崩壊で、この子を倒す」
存在崩壊。
それはクラリス唯一の特技とも言える『分解』。その技術の極致である。
クラリスはもとよりありとあらゆるものを原子レベルまで分解させる力を持っていたが、その力の指向性は大雑把であり、『目視出来る大体の範囲一体を全て分解する』事ぐらいしか出来なかった。しかしながらグラン達と共に旅を続けていく間に体得した存在崩壊は分解に指向性を持たせる事が可能となり、対象物質から一定の部分だけを崩壊して、残る部分は全部崩壊させない、と言った事ができるようになったのだ。そしてその結果、彼女の分解の力はより強力になった。なぜなら指向性をもたせた分、その威力を集中させることが出来るようになったのだから。
「それじゃあ悪いがクラリス。初めてくれるか。魂の分離はオレ様の方でやるからな」
「魂の分離……ですか?」
クラリスがおっけー、と普段よりも真面目に受けごたえをすれば、きょとんとした表情でルリアが問うてきたので、あぁ、とカリオストロは答える。
「この魔獣は元はこの世界で知り合った人間だ。目を離すとすぐに馬鹿をやるが憎めない奴でな。しばらく一緒にこの世界で過ごしていたんだが――オレ様の目が行き届かないばかりに、こんな姿になっちまった」
「そんな……」
「おいおい……まじかよ」
「カリオストロ……」
「別にグラン達を責めている訳じゃない、なにせオレ様すら全然気付かずに最初はぶちのめしてたんだ。誰だって知らなければ攻撃する。むしろやりすぎないでくれて感謝するばかりだ」
グランはようやくカリオストロが苦戦した理由を悟った、彼女は途中でこの魔獣の正体に気付き、狼狽して不意打ちを受けてしまったのだろう。
顔を青ざめたグラン達に、カリオストロも心なし沈んだ表情で返す。そんなカリオストロが魔獣に向ける視線には、ただただ悲哀しか籠められていなかった。
風が出てきた。
それが莫大なマナを注ぎ込んで行うクラリスの分解によるものであると、誰もが分かっていた。
たなびく髪を抑えずに、カリオストロもぼろぼろの片腕をあげて掌に光球を生み出していく。
それはぱらりぱらりと解れて無数の小さな糸になれば倒れ伏したスバルの体に纏わりつき、その全身に均等に糸が巻きつけられたかのようになる。
「――捕捉した。クラリス、分かるな?」
「うん、お師匠様。じゃあやっちゃうよ、いい?」
グランとルリアが固唾をのんで見守る中、カリオストロは少しの間の後にこくりと頷けば――それは始まった。
唐突に現れた薄黒い球体がスバルの体を包んだかと思えば、クラリスの掌から飛び出した赤と青の光線、それらが球体越しにスバルの体を貫く。貫かれた箇所は綺麗さっぱりに穴が空いて、塵一つ残さない。
そして一度球体に入った二条の光はそのまま球体の外に出ようとするが、球体の内部は脱出不可能な牢獄。外に出ること叶わずに反射して、更に体を貫く。
反射。貫通。反射。貫通。反射。貫通。反射。貫通。
光線は自身のエネルギーを使い果たすまで球体の中で暴れまわり、そしてその間に球体は徐々に徐々に狭まる。そうすることで更に反射の間隔が短くなり、囚われた体は反射光によって虫食いだらけ、いやその体そのものを今にも無くそうとしていた。
スバルは幸いにもその攻撃に痛みを覚えていないようなのか暴れる事はないものの、彼の体が徐々に崩壊していく様を見るのはカリオストロには辛いもので、まるで肩代わりするかのように顔を顰めていた。
そうして球体は最終的に掌に収まる程小さくなり、エネルギーの収まらぬ赤と青の光を抑えることが出来ずに急速に膨張。術の最後を迎えようとしていた。
「うちに壊せないものなんてない! ジャガーノート・スフィア――ッ!」
クラリスの叫びと共に、一体に業風が吹き荒れた。
噴き出したエネルギーがカリオストロが作った逃げ道に沿って、巨大な光の奔流となり、上空の雲を吹き飛ばして登ってゆく。
グラン達は吹き遊ぶ暴風に髪を抑えながらもその光景を最後まで見つめていた。
――ようやくその光の奔流が収まった頃には、スバルが居たと思われる場所に底の見えない穴がぽっかりと空いていた。本来ならば存在崩壊は他の物体を巻き込まないという極悪極まりない力なのだが、まだクラリスの制御が今ひとつなのだろう。とカリオストロは感じた。
「荒い所もあるとは言え……上出来だ。クラリス」
「はぁ、はぁ……い、いぇいっ☆」
しかしながら、結果としてうまく言った。
今、カリオストロの手には小さなボール大の光の檻が存在しており、またその中にはふわふわと薄い靄のようなものが浮かんでいる。
「もしかして――いやもしかしなくてもそれが魂なのか?」
「なんというか、本当にカリオストロは規格外だね。魂の捕縛が出来てしまうなんて」
「それがオレ様のオレ様たる所以だ。伊達に真祖だなんて言われてないさ」
あんな大きな体に収まっていたのはこんなにも小さな魂。グランとビィは今にも消えてしまいそうなか細さを覚えるそれを見てひたすらに感嘆を覚えているのだが――ルリアとカリオストロには、辺り一帯が真っ黒に見える程の闇と腐臭を漂わせているように見えていた。
「……か、カリオストロさん、そ、その子は一体……!?」
「! ……そうか、ルリアも見えるのか。まあ、話せば長くなるんだが……その説明はまた今度にする。今はこいつを
ルリアの挙動にグランとビィ、クラリスが不審がるも、カリオストロはそんなことよりも、と続ける。
「しかし、お前たち本当にこんな所まで来てくれたんだな。オレ様ですら1年ぐらいはかかると思っていたぞ」
「それこそ夜も寝ないで探したお陰だよ! グランを筆頭にねっ☆」
「特にグランはずーっと心配してましたからね!」
「この世界に来る人の立候補でも、絶対に自分が行くって聞かなかったしなぁ」
「ちょ、う、まあその通りだけどさ……そりゃ、僕の不注意から始まったんだもの。誰だって気にするだろ? それにカリオストロは団員だし……その、僕の師匠で、親友でもあるんだ。見捨てることなんて出来ないよ」
三人がからかい混じりに言えば、グランは気恥ずかしそうに頬をかく。
そんな彼の表情を見るだけで、本当に心が和らぐ。心の奥が少し疼き、もっと見ていたいと気持ちが逸ってしまう。
「こっちの世界に来たのはちなみに?」
「えっと、確か4日……ぐらい前ですね!」
「当初は世界は分かっても当てはなくてね、でもトントン拍子でキミの情報が見つかったの時は本当に小躍りしたよ」
詳細な話を聴いていけば、本当に彼らはついていたのだと理解できる。
それは彼らの持って生まれた豪運のお陰か。はたまた運命の悪戯なのか。
何であれこうして再開出来た事には喜びしか感じない。
ただそれだけに――それだけにだ。カリオストロは非常に残念に思ってしまう。
「それじゃあカリオストロ、一旦僕らの世界に戻ろう。まずは最優先でキミを治療しなくちゃ」
差し伸ばされたグランの手に対して、反射的に手を伸ばし返しそうになってしまう。今も尚自分の意志はこの優しい誘惑に屈するべきだと言っているし、その大きな掌に縋ることが出来るならばどんなに幸せなのだろうか。
「……カリオストロ?」
――だけど、それではダメなんだ。
「グラン、ルリア、ビィ、クラリス。一旦お別れだ」
「え?」
その疑問の声を最初にあげたのは誰だったか、しかしながらカリオストロはそんな声を一顧だにせず、クラリスからするりと抜け出すと、その手に持っていたスバルの魂を。
ぱりん、と。檻ごと握りつぶした。
「っ!? どうしてそんな、そんな事を……!? それはカリオストロさんのこの世界の友人じゃ!」
「ありがとう。お前たちがこの世界に来てくれなかったら、お前らのうち誰か一人でも欠けていたらオレ様は詰んでいた。いや、
ざ。
視界にノイズが走る。
それはいつもの怪異現象。だがそれが起こった事にカリオストロは心の底から安堵した。
「お師匠さま、どういう事!? お別れだなんて――早くうちらの世界に戻ろうよ! このままじゃ体が持たないよ!」
「ありがとう。お前たちがこの世界に来てくれたという事実が、オレ様を何よりも奮い立たせてくれた。あのままだったらきっとスバル達を救うという選択肢を諦めていた」
ざざざ。
街にノイズが広がる。
世界から徐々に徐々に色が落ちていいく。色彩の幅は狭く、小さくなっていく。
「ダメだカリオストロ。団長としてその言葉は聞けない。今はキミの命が危ないんだ。一体どういう事情があるかは分からないけど、僕らにまずは言ってくれないか? きっと解決の糸口はある筈だ、だから!」
「何一人で抱え込もうとしてやがんだ! 事情があるならオイラ達にも手伝わせろい!」
「ありがとう。お前たちにこの世界で出会えた事が、何よりも心の支えになった。挫けそうになった心を持ち直す事が出来た」
ざざざざざざざざざざざざ――。
世界にノイズが刻まれる。
必死に語りかけてくるグラン達は最早、モノクロにしか見えない。
やはり勘のいいグランは世界の異常を察したのかこちらに手を伸ばしているのが見えた。が、遅すぎた。最終的には自分に手を伸ばした状態で、固まってしまう。
「もう少しだけ待っていてくれグラン――今度はオレ様から迎えに行くから」
頬を伝う一筋の熱い物を拭う事を忘れ、カリオストロは伸ばした手にそっと自分の手を重ねて笑いかけた。
――その瞬間、世界は何度目かになる逆転を始めたのだった。
逆転する世界の中でカリオストロは考える。
パーティが始まっているその日にグラン達がこの世界に来てくれているということ。
バハムートによる世界の崩壊がルリアによるものであるという事。
そしてこの5日目のルグニカ王都での惨劇が、毎ループごとに起こる可能性が高いということ。
集まっていく情報。集まっていくパーツ。
願わくばセーブポイントが変わって居ないことを望みながらもカリオストロは情報を、そして力を備えていく。この悪辣なるゲームを仕組んだ相手に一矢どころか百矢報いる為に。
ただ、このループで新たな疑問が浮かんだのも確かだった。
(あいつは、一体何者だったんだろうか――)
脳裏に浮かんだのはグランらと別れた直前、視界の隅に捉えられた存在。
狂気に満ちた笑顔でこちらを見ていたおかっぱ頭の小さな子供の姿であった――
グランの化物戦闘描写が楽しいです。(ニッコリ)
《ヘルメス錬金学会》
・カリオストロの錬金術に心酔して作られた割には最終的にカリオストロを封印せしめたちょっと考えが邪な研究者然とした集団。クラリスの両親もそれに所属している。
賢者の石を作ろうとしてクラリスやカリオストロ、グランに妨害されたりと、今後も出番ありそう。
《存在崩壊》
・本文で説明済みのやべー術。
クラリスマジやべーやつ。
《ジャガーノート・スフィア》
・クラリスのやべー奥義。装備整えなくても250万ダメージ叩き出すやべー奴。