一週間に一話ペースで更新していくのを目標にしていきます~。
なんとか完結まで持っていく…ぞいっ
◆前回までの時系列
・一日目(夜):パーティ会場に戻される二人。スバルとカリオストロが仲違い。
・二日目(朝):フェルト奪還を企むロム爺を保護し、フェルトは王選への参加を決意する。が、トンチンカンが徽章を盗んで逃亡したことが判明。スバルが考えた案により遅れて草原へ向かう事に。
・二日目(夜):ラインハルトとエミリア一行草原にて全滅した商人と遭遇。しかし色欲の罠によりラムが死亡。エミリアも虫に変えられ瀕死。スバルは拉致されてしまう。
・三日目~:スバルが色欲によって魔改造を受け、龍に変貌。
・五日目(昼):色欲の王都襲撃。ラインハルトとカリオストロで混乱を沈めようとする。途中、龍に変貌したスバルと対峙。またグランと再会し、何とかスバルの魂だけを抽出するも、カリオストロは自ら死に戻りすることを決心する。
──キャンパスに描いた軌跡が、白紙へと戻っていく。王都から草原、草原からラインハルトの屋敷へ。それまでの積み重ねを全て無に帰す虚無の旅。耐えがたい別れがあった。筆舌に尽くせない絶望があった。しかしながら一筋の希望もそこにあった。
全神経を掻きむしられる様な感覚が延々と
通路の先から聞こえる鐘の音に意識が釣られる。そう言えば今は午後8時だったろうか? ここでの八時は何度目の八時だ? もう何十回も繰り返した気がしてならない。いつになったらこのループは終わるんだろう? 集中すべき筈なのに、とりとめのない思考がよぎってしまうのはこの先で起こるであろう現実から逃避したいせいか。
そうしてカリオストロは
「スバル!」
部屋いっぱいに響き渡る大声に、その場に居た人物が一斉に振り返る……事はなかった。何故なら彼らの視線の先にはそれ以上に注意を引く人物が居たからだ。
居合わす貴族達は壇上ではなく、自然と出来た輪の中心にいる誰かを見つめている。導き出される嫌な想像は恐らく現実のものなのだろう。カリオストロは、
「スバ……」
「──げ、け、ぇぇえぇぇえぇっ、ぐぇっ、げ、ぇろぉえぇえぇぇ!!!」
中心に居たのは案の定スバルであった。スバルは腹を抱え、絨毯の上に横たえ、全身を痙攣させながら吐しゃ物の海の中でひたすらに嘔吐を繰り返していた。顔は土気色を通り越して青く染まり。もう吐き出すものも無いはずなのにしゃくりあげては、体に納まった水分全てを吐き出そうと
カリオストロは考えるよりも先にそんなスバルをかき抱いていた。折角用意した、美しく高価な赤いドレスが汚れるのも
「ぐ、ぉ、え。ぷ……ひっ、い……くひゅっ、ひゅふ……くひっ……ひっ!」
「……畜生っ」
まるで壊れたおもちゃのようだ。呼吸は乱れ、焦点の定まらぬ目はぐるぐるぐると忙しなく走り回っている。人としての形は保っているが、それだけだ。今ここにスバルの心があるのかと聞かれたら、如何にカリオストロだとて即答は出来なかった。
「誰か水とタオルを!」
「──あ。は、はいっ! ただちに!」
声で金縛りが解けたのか、立ち尽くしていたメイドの一人がすぐにタオルと水を手渡してくれた。カリオストロは濡らしたタオルでスバルの汚れを拭い取る。無意識なのだろう、抱きしめた彼女の手にスバルの手が痕が残るくらい握りしめられていた。
「お。えっ、げぽっ……! ぐっ、ぇ……!」
「すまない、すまなかった。スバル、大丈夫だ。苦しかったよな、辛かったよな……大丈夫だ。大丈夫だからゆっくりと吐け。もうお前を苦しめるのはいない……すまなかった」
スバルが腕の中で繰り返し嘔吐しても、決してカリオストロは離れなかった。むしろその痛ましい姿を見てより抱擁を強めると繰り返し回復魔法をかけ、スバルを癒す。しかし幾らスバルを魔法で癒しても根本的な回復に至らない事も、カリオストロには分かっていた。
何せ死に戻りによりスバルの肉体は回復しきっている。五体は完全だし、傷一つもない。しかしながら心はと言えば魔女教によって完膚なきまでに破壊されっぱなしのままなのだ。
一時的とは言え、あの
さしものカリオストロもこの時ばかりは自分の回復魔法が、肉体的な怪我にしか作用しないことが恨めしくて仕方がなかった。
「……」
そんな中、カリオストロはこちらを眺めるある異質な目線に気付く。顔を上げれば視界に入るはおかっぱ頭の子供。非常に中性的な容姿をしたその子供は、カリオストロには目もくれず、ただただスバルをじっと見つめていた。
カリオストロは、目の前の子供がループ直前に見た人物であることに気付く。状況的に見て間違いなく魔女教に与する存在。そいつはスバルの急激な変化に驚いている、というよりかは存在そのものが興味深いと、絶えずスバルへと熱い視線を向けていた。
(そういやスバルも最初のループでこの変な子供について言及してたな……まさかコイツ
憎き敵を前にただ感情のまま睨む事しか出来ず、歯噛みするカリオストロ。対する子供はと言えばこちらの恨みの感情に反応したかは分からないが、ついでとばかりに視線を向けてくる。が、数秒見据えたかと思えば、ふい、と急に興味をなくし、輪の外へ離れていった。
「あいつ……」
「──スバル、カリオストロ。一体どうしたというんだ?」
「スバル!」「……!」「おいおい……」
そして示し合わせたかのように現れるラインハルト。後ろにはエミリアにラム、そしてフェルトも集まっていた。
「ラインハルト、大事な式の直前ですまないが……この場の皆で話し合いたい。スバルが
「視た……ってもしかして!」
意図を掴みかねたラインハルトの代わりに、エミリアがはっと息を呑む。カリオストロは腕の中のスバルの手を握りしめながら、告げた。
「猶予はない……最悪の時間はもう始まっている」
八時の鐘の音は鳴り止み。
時は次の悲劇へのカウントダウンを刻み始めていた。
§ § §
「う゛う゛う゛ぅ゛ぅ゛ぁ゛~っ、あ゛~……! あ゛~……っ!」
パーティ会場から抜け出した一向は、ラインハルトに先導されて人気の少ない離れに集まっていた。その離れの中に共に運び込まれたスバルは今もベッドの上で不規則に痙攣を繰り返している。痴呆のように開いた口からは獣のごとき涎を、あらん方向を向く目からは滂沱の涙を零すその姿は、哀れを通り越していっそ恐怖を覚える程だった。
彼を囲む皆も、あまりの豹変ぶりに言葉を無くしている。特にエミリアはその顔を青くしながら「どうして……」と手を震わせている。無理もない話だ。
「……カリオストロ。スバルに一体何があったんだい?」
口をつぐんでいたラインハルトが
「にわかには信じられないだろうが……ひとまずは聞いてくれ」
カリオストロは語る。
スバルに宿る未来視の事を。
そして、これから起こるであろう凄惨な未来の事を。
ロズワールからの手紙。
ホーシン商会の暗躍。
ロム爺のフェルト奪還計画。
魔女教らの罠。
王都で起こる惨劇。
かいつまんで皆に語られる未来。そしてこの未来を視た事でスバルが精神を病んでしまった事。一通りの話を終えて「なるほど」と素直に頷けた存在は誰一人おらず、ただ沈黙だけが部屋を支配していた。こんなの誰が信じられる? 複雑に絡み合った思惑が我々の未来を死へと導こうとしているなんて!
「まさかアナスタシア陣営がガストン達と内通していたとは……とんだ失態、申し開きのしようもありませんフェルト様」
「雇ったアタシも遠巻きに責めてねーかソレ? 言っとくけど幾らアタシだってそんな指示出してねーからな!」
っていうかこのねーちゃんの言う事を信じるっていうのかよ!? と詫びるラインハルトに突っ込むフェルト。当の突っ込まれた本人はその整った顔を上げてあっさりと頷くものだからフェルトは開いた口が塞がらなかった。
「彼女は嘘なら嘘で、もっともらしい嘘をつくと思っています。自分もにわかには信じられないですが……真実である、という前提で動かないと大変な事になる。そうだねカリオストロ?」
「……そうだ。信じる信じないは勝手だが、何もせずにまごついていたら5日以内にオレ達は破滅する」
「んだよそれ……あぁもう!」
死神の鎌はもう首筋にかかっているのだ。カリオストロの冗談の混じり気もない声色に改めて全員の顔に不安が浮かびあがる。死出への道の生き証人となったスバルに皆の視線が自然と集まり、特にフェルトはいずれ辿り着くであろう破滅に思わず震えそうになった。
「だが、その未来は確定された未来じゃない」
しかし、そんな重苦しい空気を吹き飛ばしたのもまたカリオストロだった。
「これは言うまでもなくアドバンテージだ。筋書きが分かっているなら回避もまた容易」
「そうよね。カリオストロの言う通り、道はまだ閉ざされている訳じゃないわ」
他でもない大親友の言葉に静かに同意するエミリア。エミリアはベッドの上で唸り続けるスバルを撫でながら皆に語り掛ける。抗う以外の選択肢は元よりない。その考えは一緒だったのか、自然と皆が対策について語り始めていた。
「式典は出来る事であれば再開したいですが」
「駄目だ。魔女教の奴らはこの会場にも忍び込んでいる。リッケルト・ホフマンって奴と、その連れのおかっぱのガキは特にその関係者だ。式中にどんな暗躍されるか考えたくもねえ」
「あのリッケルト氏が。姿を変える力と言うのは厄介だね……分かった。中止にしよう」
「お、披露宴中止はありがてぇ~。ってかその姉ちゃん……いや、兄ちゃんの話だとロム爺をラインハルトがとっ捕まえて屋敷で働かせるって流れになってけど……ラインハルト分かってるよな?」
「フェルト様が王を目指すのであれば」
「王になるとか関係なしに助けるって選択肢はねえのかよ」
「……カリオストロ様、ロズワール様の手紙は偽物なのではないでしょうか?」
「限りなく偽物に近い、本物だ。ラムにとっては納得出来ないだろうけどな」
「……」
「ロズワールがなんでそんな手紙を……でも従ったらダメなのよね」
「オレ様としては手紙が届いても屋敷に留まるのが最善だと考えている」
「うん……私とラムが孤立することが魔女教の思う壺だものね。ラインハルト、無理を言って申し訳ないけれども……」
「承知いたしましたエミリア様。元より同盟を築くつもりだったのです、協力は惜しみませんよ」
「ありがとうございますラインハルト様。当主ロズワールに変わってお礼申し上げます。……ところで、差し出がましいようですが私としてはそちらの徽章の話も気になっておりますが」
「しかるべき措置はしておきます」
「アイツラ殺すなよ!? テメェそれやったらアタシはテコでも王になんてならねーぞコラ!」
対策はまとまりつつある。先の見えない迷路の中で、道筋の書かれた地図を手に入れるくらいの強烈なアドバンテージがあるのだ。対策が導けるなら希望もまた浮かぶ。自然と彼らの表情も先ほどよりは明るくなっていた。しかしその中で唯一、カリオストロだけは浮かない顔をし続けていた。
(肝心の謎が、多すぎる……!)
ロズワールの企み。
魔女教の真の狙い。
あの謎の子供の目的。
グラン達の行方。
そして暴走した星晶獣達。
これらの真実を解き明かされなければ、前進は出来てもすぐにスタート地点へ逆戻りだと、自分の心がひっきりなしに訴えかけていた。
「……ねえ、ねえカリオストロ。スバルは……スバルは治せるのかしら」
思考の渦に囚われたカリオストロが現実に引き戻される。エミリアの不安に満ちた目は「カリオストロならもしかして」というあらぬ期待を滲ませているのが分かる。だから頼りにしてくれるのを喜ぶ半面、期待を裏切るしかない事実に
「オレ様の魔法は……怪我は治せても心は治せない。そしてスバルが負った心の傷はオレには計り知れないくらいだ」
「……っ、そんな」
「正直、前の魔獣騒ぎの時よりも酷い症状だと思っている。度重なる身内の死、肉体を強制的に改造され、そしてオレの手で崩壊させられる……そんな壮絶な未来を一刻もかからずに追体験したんだ。
スバルはもう元に戻らないかもしれない。そう思うに足りる程の材料が揃っていた。これまでどうにかして二人で協力し合っていたが、治療の手立ても見出だせないならここからは一人旅になるだろう。今ある手札でこの理不尽な世界を生き残るしかない。カリオストロはスバルの手を固く握りしめながら、そう決心した。
「この騒動が収まるまでスバルには休んで貰うしかないだろう。そしてエミリア、お前もだ。敵の狙いがお前なのを考えると、しばらく大人しくした方がいい」
「スバルもここに留まるのね」
「あぁ。何せここは世界で一番安全な場所だ。そうだろうラインハルト」
槍玉に挙げられたラインハルトは苦笑しか出来なかった。当代一のチートオブチート、剣聖ラインハルトがいる屋敷。例え魔女教と言えど容易に襲撃することは出来ないだろう。味方であって良かったとカリオストロはしみじみ思うのだった。
「じゃあ話をまとめるわね。ひとまず私とスバル、ラム、カリオストロのみんなで5日間この屋敷で待機」
「我々はガストン達への事情聴取。徽章の確保ですね」
「あとロム爺の保護も忘れんなよ!」
「そして5日後の王都の襲撃に各自備える……と」
「王都での事態収拾は詳細を知ってるオレとラインハルトで行く。こんな感じだな」
現状で出来る手立てはこのくらいか。とカリオストロは鼻を鳴らす。
真相が見えぬ以上どんな事が起こりうるかは未知数だが、このループの中心点は「魔女教」であると考えている。いかに周りを仲間につけ、魔女教をコントロールするのが肝要だ。そして何よりもグラン達との合流が出来る事が心強い。彼らがいればぐっと可能性は広がっていく筈だ。
「ちなみにカリオストロ様。我々の行動によって筋書きが大きく変わるという事はないのでしょうか?」
「……可能性は否めない。だがあり得ないと断じて放置するよか、あり得ると考えて行動した方がいい筈だ」
ラムの発言もまた熟慮すべきポイントである。けれども5日目のイベントは確実に起こりうる事はカリオストロだけが知っている。星獣達の暴走を食い止めねば強制ゲームオーバーだ。その原因を探るのもまた急務であった。
考えることは多い。乾く喉を潤すなにかが欲しいと無意識に飲み物を探すカリオストロだが、ふとエミリアと目が合う。エミリアの顔は異様に爛々としていた。嫌な予感がした。
「…………おい、言っておくがエミリア、5日目は留守番だぞ」
「分かったわ。じゃあ私も一緒に行くわね」
隣でふんふんと鼻息荒く覗いてくるエミリアに釘を刺すカリオストロ。しかし刺した場所が悪かっただろう、手応えを感じなかったのでもう一回刺すことにした。
「……聞こえなかったようだからもう一度言うぞ。留守番だ」
「いや。一緒に行く」
「駄目だ。スバルと一緒に留守番しろ」
「いやよ」
「だから……」
「いやったらいや!」
子供のように頬を膨らませて拒否するエミリア。淡々と話していたカリオストロもこれには流石にキレた。
「いやだ、じゃねえ! 何回魔女教の狙いがお前だって説明すりゃいいんだ! 王都になんて行ってみろ! それこそあいつらの思う壺だ!」
「でも! これはそもそも私達が解決する問題なのよカリオストロ! なのに当の本人が事件をよそにのほほんとしているなんて、それこそありえないわ! それを言うなら食客であるカリオストロとスバルこそ休んでいて欲しいの!」
互いのデコがくっつくほどの距離でエミリアが啖呵を切る。カリオストロは思わず悪態をつきたくなった。元々の責任感の強さと、協力したいと言う欲求がエミリアを意固地にさせている。自分の立場を理解した上での発言は正しい、正しいが、その選択がどうしても命取りになるとしか思えなかった。
エミリアもただ吠えるだけの娘じゃないし実力があるのは分かっている。認める。だが待ち構える敵はエミリアを遥かにしのぐ化け物だ。全てのループにおいて凄惨な終わりを迎えた彼女に、これ以上関わらせたくはなかった。化け物には、化け物をぶつけるしかないのだ。
「ねえカリオストロ!」
「駄目だ。オレ達の敵はエミリアと最も相性が悪い奴だ。騙し討ち、盤外戦術なんでもござれ……お人好しのお前じゃ簡単に手玉に取られるのがオチだ」
「むっ、そんな事ないわ!」「いや、あるね」「むぅぅぅ!」
「おいおい、いがみ合うなよな。それに銀髪のねーちゃんってそんなか弱い奴でもないだろ? 金髪のねーちゃんが言った話が本当なら、戦力は一つでも多い方がいいんじゃねえか?」
「そうよそうよ! 私は別に蝶よ花よと育てられた覚えはありません!」
「蝶よ花よって今日び聞かねえ例えだな……」
「刻限の5日後までは時間はありますし、その話は後回しにしませんか?」
ぎゃーぎゃー言い出した二人に呆れた顔をしたラムが強制的に話を打ち切った。エミリアは意地でもついてきそうだが、どうにかして諦めさせる方法を考え付かないと駄目そうだ。カリオストロの頭痛の種がまた一つ増えた瞬間だった。
「……では私は披露宴の中止を伝えて参ります。それとカリオストロ。ちょっと個人的に話がしたいのだけど、いいかな?」
「構わねえ。それじゃあエミリア、ラム、スバルを頼む」
「うん……分かったわ」
そして大体の話が終わった後、提案をしたのはラインハルトだった。カリオストロはラインハルト共に個室を後にする、しかし話があると言いながらもラインハルトはさっさと廊下を進んでしまい、
流石にどういう事だと怪しんだカリオストロが声をかけようとした矢先の事だ。見計らったかのようにラインハルトの足が止まる。
「ラインハルト?」
「……少し質問してもいいかな? 実は分からない事があるんだ」
ラインハルトはその背を向けたままだ。不思議に思いながらカリオストロは先を促す。
「何が分からない?」
「スバルが教えてくれたという未来の話さ」
「あぁ……信じられないだろうが本当の話だ。過去にもオレ様達はスバルの未来視により助けられた。1回目は王都でお前と初めて会った時、2回目はロズワールの屋敷でだ」
「それで信じようと? 勝手な物言いだが、キミは常に論理的であろうとすると思っていたからね。眉唾な話を語るのが意外だと思ってね」
「なにせ偶然で済ますにはあまりにも出来すぎているからな。解明も出来てはいないが、今の所はあるがままに受け入れるしかないと思ってる」
無理もないと思った。こんな与太にも等しい話、当人でも無ければすぐに信じられる訳がない。しかしラインハルトはつい先ほど話を聞いた上で「披露宴は中止する」と信じる素振りを見せていた。ならば何故今になって質問なんてするのだろうか?
「信用できないか?」
「いや。勝手ながらキミは信頼するに値する、誠意ある人物だと考えている。エミリア様も信用しているようだし、ボクも信じたいと思っている」
「……そいつぁどうも」
「けれど、どうしても引っ掛かる部分がある……カリオストロ」
「──どうして『スバルが未来視が出来る』と嘘をつくんだい?」
どくん。とカリオストロの心臓が高鳴った。
「な、にを言って……」
「辻褄が合わないんだ。キミは言った、今から言う話はスバルから聞いた未来であると。しかし肝心のスバルはああして発狂してしまった」
「……」
「実際に体験した訳でもないのに気が触れてしまう程凄惨な未来。客も言っていたが『急に痙攣して倒れた』会話も困難なスバルから、あんなにも事細やかに詳細を聞き出すことが、どうして出来たんだい?」
「……っ」
ラインハルトから強いプレッシャーを感じる。ただ背中を向けているだけの筈なのに、まるで数百の刃を首に押し当てられているような気分を覚える。しくじった。まずい。どうすればいい。自慢の頭もこの時ばかりはただ空回りするだけ。今のカリオストロに出来る事は、まるで親に叱られる子供のように顔を俯き、口を紡ぐ事だけだった。
「スバルの狂い様は、あれがもし演技だとしたら僕は拍手をしてもいいくらいだ。それくらい真に迫っている」
「違う! あいつは本当にあり得るかもしれない未来を視て狂った! あまりの重荷に、その悲惨な結末に心をすり減らして──!」
「ならばその未来をどうやって知り得たのかな?」
「それは……ッ」
「共同歩調を取る気があるなら隠し事は無しにして欲しい。そうでなければ、キミがあらぬ話で僕らを
「……」
「折角出来た縁だ、僕も出来ることならそのような事は考えたくはない……だから、その理由を教えてくれないかな」
依然として金縛りにあったかのように動けなかった。脳が軋む程思考を張り巡らせても、この現状を打破する回答が出てこないからだ。
出来る事なら正直に答えてしまいたい。『死に戻りの力で既に3回以上この披露宴に参加して、仲間たちの様々な死にざまを見てきたからです』と全てぶちまけてやりたい。……そんな事誰が言えるものか! カリオストロは知らず紡ぎそうになる悪態を噛み潰しながら、強張る口元を意志の力でこじ開けると……その舌で精一杯の抵抗を始める。
「1つ。1つ言える事があるとすれば、オレはお前達をハメようなんて気はさらさらない」
「言うつもりはないのかい?」
「言わない、じゃなくて
「……エミリア様から届く手紙に、ガストン達の内通……徽章……」
「あぁ。いくら有能なオレ様だとてロズワールやホーシン商会、果ては魔女教とまでコネを持ってはいないし、ましてや組んでまでお前たちを破滅させようなんて考えてねえ。むしろ今言ったクソったれどもの策をすべてぶち壊したいと願ってるだけだ」
「……」
「そしてそのためには……お前の力は必須だと考えている。頼むラインハルト。これが虫の良すぎる話だってのは分かってる……だけど信じてくれ。オレはエミリア達を……スバルを助けたい……!」
震える体を抑えながら吠えていた。これは偽りないカリオストロの本心だった。この世界に来てから出来たスバル達との繋がりは、最早切っても切り離せない程自分の中で巨大化していた。
レム、ラム、ベアトリス、そしてスバル。彼らと生活を共にし、そして彼らの壮絶な死を何度も目の当たりにして何度自尊心が破壊されたことか。だが、如何に絶望の淵から突き落とされても諦めるなんて選択肢を選ぶつもりはない。グランもきっとそうしただろう。それに──
(それに負けっぱなしなんて認められるか? 否、絶対に否だ……! 例え泥をすすることになってもアイツらの鼻を明かしてやる……!)
──何よりも、やられ放題のままなんて自分のプライドが許さなかった。
「カリオストロ」
ラインハルトは既に振り返っていた。コチラを見下ろし、その澄んだ眼で見つめてくる。コチラのすべてを覗き込むような仕草に負けじと目を合わせ続けるカリオストロ。しばし続く沈黙の後、先に折れたのはラインハルトだった。
「ひとまずは信じよう。これからガストン達に事情を聞いて真偽を問う。けれど例えそれが真実だとしても僕はキミを疑う事になりそうだ」
「そうしてくれ。全幅の信頼を預けて貰うには無理があることは理解している。今はただ互いにこの危機を乗り越える……それだけを考えてくれたらいい」
「情報を提供して貰ったのにすまないね」
「当然の判断だ、謝る必要はねえよ。それよりも、だ。今後のことでオレ様も伝えたいことがある」
間に流れていた張り詰めた空気感が霧散すると、ここぞとばかりに提案を始めるカリオストロ。ラインハルトは後にその話を聞いて「なるほど」と頷く事になる。
「ホーシン商会の奴らと一緒に、魔女教を叩き潰さねえか?」
久々に書くとめっちゃ文体変わってるのに気が付きます…
ヘンダッタライッテネ…