──げらげらげら。げらげらげら。
──あくまがわらう。おれをみてわらう。
──おれのとなりでよりそうあくま。
──つぎはだれをあいそうか。つぎはだれになってやろうか。
──ぐるぐるぐる。ぐるぐるぐる。
──せかいがまわる。しんでもまわる。
──おわらぬおわり。くりかえすあくむ。
へやがぐるぐるまわってる。
おおきなべっどにちいさなからだ。
おりようたっておりられない。
ここはむげんにつづくしろいそうげん。
「……スバル……タオル、変えるわね」
「エミリア様、そのような事は私が……」
「ううん、私にもやらせて……これくらいしか、私には出来ないから」
ほっとさせる、あったかいて。
それがすきだからおれもてをのばそうとするけど、
そのまえにべつのてがつかまえてくる。
くろいあくまだ。
おれを
わるいわるいあくまだ。
こいつがスバル君の好きな奴なんですかぁ……? ならアタクシが代わりになってあげますよぉ……。
やめろ。やめてくれ。しろいひとをけがさないでくれ。
そうねがってもおれにはどうすることもできず。
しろいひとのぜんしんにくろいあくまがまとわりつく。
おれのたいせつなそんざいをけがしてしまう。
「どうしたの? 苦しいの!? ラム──ラム! スバルが!」
くるしい。くるしくてたまらない。
だいじなしろいひとのかおが、あくまのかおにかわってしまう。
そんなのいやだ。きえてくれよ。あくまめ。
おれのたいせつなひとをかえしてくれよ。
ギヒヒヒヒィッ、ひどいじゃねえですかぁ、アタクシはこんなにも愛しているっていうのに、スバル君もあんなにも愛してくれたっていうのに! アタクシ達、もうおしまいなんですか? もうこれまでなんですかぁ?
たからかにあくまがわらう。
きしょくのわるいこえでカタカタと。
はきけがするほどゲラゲラと。
やめてくれ、もうつきまとわないでくれ。
なんどもねがってもけっしてあくまははなれない。
そして、おれのからだがまたくろくなっていく。
「ひィッ!?」
スバル君。実感しちまいましょう、アタクシしかもう愛してくれる人がいないって事を。アタクシだけが愛を与えるに相応しい存在だという事を。他の雌は頼りになりません。アタクシだけが理解者。アタクシだけが共存者。アタクシだけが寵愛者。アタクシだけが、アタクシだけが、アタクシだけが、アタクシだけが、アタクシだけが、アタクシだけが、アタクシだけが──
「ッ落ち着きなさいバルス!」
「スバルっ、落ち着いてスバル! 大丈夫だから! ねぇ!」
いやだっ、もういやだ。
これいじょうおれを
おれをあんなからだにしないでくれ。
まとわりつくにせもののしろとももからはなれたいのにはなれられない。
おれのからだがそのあいだにもくろく、いびつな、ばけものになっていく。
貴方の全身がくまなくアタクシの愛で満ち満ちるまで……ずっと、ず~っといてあげますよぉっ……♪ 光栄でしょう、栄誉でしょう──くすくすくすっ、きひっ、げら、げらげらげらげらげら! ずっと、ず~~っと、ず~~っと愛してあげますからねぇっ、スバルくゥんッ!!!!
──げらげらげら。げらげらげら。
──あくまがわらう。おれをみてわらう。
──おれのとなりでよりそうあくま。
──つぎはだれをあいそうか。つぎはだれになってやろうか。
──ぐるぐるぐる。ぐるぐるぐる。
──せかいがまわる。しんでもまわる。
──おわらぬおわり。くりかえすあくむ。
──おねがいだ。たすけてくれ●●●●●●。
§ § §
魔女教徒を退けて既に2日が経っていた。
今回のループでどうにかしてカペラにダメージを与える事が出来たが、その代償は小さくなかった。
自爆攻撃によって失った命は数知れず。重傷者も出てしまい、治療するためにラインハルトの屋敷に駆け込めば、あっという間に屋敷は野戦病院と化してしまった。
地元の治癒術士や、カリオストロ、そしてエミリアの懸命な治療の甲斐あって生死の境を彷徨っていた怪我人達は無事快復に向かうことは出来た。それは喜ばしい話ではあるのだが、事はそれだけでは終わらない。
なにせ肝心の元凶はまだ生きているのだ。
ならばこそ急いで対策を練らなければいけなかった。
「──さて。事のあらましは理解してもらえたと思っていいか?」
屋敷のある一室。カリオストロは机に手をつきながらその場の面々を見渡していた。
集められたのは全員が事件の当事者達。皆一様にして難しい顔をしており、どうしたものかと考えあぐねているようだった。
「ホンマなんやろな……? その坊主が未来を予測できるっちゅーんは」
腕を組んだリカードが伺ってくる。普段の堂々とした態度は鳴りを潜めており、冗談だろ、と一笑に付すことも出来ていない。
先日あれほど苛烈さと冷静さを見せたカリオストロが、まさかこんな与太話をするとは思っていなかった。そして性質の悪い事にそれが冗談だとは到底思えなかった。
「僕は信じる事にした。スバルの予測は今の所、その全てが的中しているからね」
「信じられねえ事ばかりだけど、あんだけ的中すればなぁ……」
追随したのはラインハルトとフェルトである。時の剣聖まで頷いてしまえば、リカードの顔に更に皺が刻まれいく。当初は齟齬が気になっていたラインハルトも、時間が経つにつれて彼女への一定の信頼を預けるようになっていた。
ラインハルトが片手に持っていたお茶を傾け、対面に座っていた人物をちらりと見れば、用意されていたお茶菓子にも手をつけず、思案を続けていたアナスタシアが大袈裟に溜息をついた。
「頭の整理がおっつかんわ……じゃあウチの子がこうして怪我したんも、その子の予測通りってわけなん?」
「未来を視た上での行動をオレ達はした。だから既にレールからは外れている。ただ、本来の未来はもっと恐ろしいものだったぞ」
本来ならば魔女教達に奇襲をかけられてリカード達は全滅。それだけでなく、カペラの変身能力でエミリアもまた殺されていたのだ。それも、最悪の形で。
「この後、王都でその魔女教徒達が大暴れするって言っとったけど、それも予測通りにならんのやない?」
「細かい違いは出るだろうな。しかし、大筋は決して変わらないと思ってる」
「その証拠は?」
「これまでの経緯で納得出来ねえか?」
「それで空振りやったらどうするのかって聞いとるんや。1日だけとはいえ
アナスタシアは不機嫌さを隠そうともしない。
当の彼女は事件があった翌日、屋敷にすっ飛んできていた。
計画が失敗に終わっただけでなく、鉄の牙が大きく疲弊した事から素直にこちらの招集に応じた彼女は、当事者の治療をしてくれた貸しに、こちらの提案の場に赴いてくれた。(尚、画策していた計画については知らない、認めないの一言だったが)
しかしその提案内容というのがまた異質であった。
曰く、王都で起こる騒動はカペラの能力による住民同士の同士討ちが狙いになるため、敵の侵入口を特定、妨害するためにも、国への商人の出入りを制限しようと言うのだ。カリオストロの中で襲撃が確定していると言っても、アナスタシアからすれば簡単に頷けるような内容ではなかった。
「協力するって言ったのはそっちだろ」
「協力にも限度があるっちゅーことや。確かに、うちの従業員を助けてくれたんはほんにありがたい事や。感謝しとる。けどそれとこれとは話は別や。そのたった一日で路頭に迷う商人もおるんやで」
アナスタシアは頑として頷かない。
商会のトップとして常に選択を迫られている彼女は、部下のためにも、商会のためにも常に最善を目指す必要があった。こんな胡散臭い話を鵜呑みに出来る程、彼女は軽くはなかった。
テコでも動こうとしない事に業を煮やして、重ねて口を開こうとした直後。扉の外から今日何度目かになる叫び声が飛び込んできた。恐怖におびえる悲痛な声。それは口を閉ざさせるには十分だ。
そして部屋に何とも言えない雰囲気が広がり始めた頃、エミリアが慎ましく部屋に入り込んできた。
どこか疲れた表情を見せている彼女に、カリオストロは我慢できずに質問を投げかけていた。
「スバルの様子はどうだ?」
答えは分かっている。
そして思った通りにエミリアは力なく首を振った。
「……調子は良くないわ。うなされ続けていて、誰を見ても『黒い悪魔だ』って怖がっちゃって……ご飯も食べられないから、すっごく衰弱してる。今もラムが見てくれているけれども……」
「そうか……」
──スバルはいまだ壊れたまんまであった。
ありもしない幻想に囚われ続け、見えない悪夢に振り回され続けている。
普段のおちゃらけた態度はどこにいったのか、見知らぬ相手はともかくとして、見知った相手にすら怯えて暴れる。そのあまりの変わり様はエミリアどころかラムにも少なからずショックを与えていた。
回復魔法は勿論のこと、医者を呼びつけても手の施しようがないと匙を投げるだけ。エミリアやラムが懸命に看護をしてくれているが、回復の兆しは全く見えていない。
「あの兄ちゃんがまさか、なぁ……信じられねえよ」
「心の病だからな。癒せるのは時間しかない……ゆっくりと経過を見ていこうエミリア」
「……うん」
しかし……治らないなら治らないままでいいのでは、とカリオストロは思っていた。
だってスバルはただの一般人なのだ。
不運な事に『死に戻り』の力を手に入れてしまったが、本来ならこのような悲劇に巻き込まれる事自体がおかしいのだ。
過去、何度となく騒動に巻き込まれ、その度に諦めずに頑張ってくれたスバルをカリオストロは好ましく思っている。しかし結果として心を壊してしまった。自分という存在がいながら本当に……本当に申し訳なく思う。
(だから……だからもう、スバルの出番はこれでおしまいだ。これ以降、お前の事は絶対に傷つけさせない。お前を狙う敵も近づかせない。考察も、戦闘も、悪意も、悲劇も。全て……全てオレ様が受け止める)
今は休んでくれ。と静かに瞑目したカリオストロは気持ちを切り替え、再びアナスタシアに食いつきはじめた。
「さっきの話に戻るぞ。アナスタシア、お前の協力は必須だ」
「何べん言わせれば分かるん? 空振りにならん根拠を言ってくれへんと動けんわ」
「そうやって渋ったせいで民や、お前達商人が大量に犠牲になってもか?」
「うちに責任おっかぶらせるんはお門違いやろ。と言うか、あんたらを疑っとるっちゅーんがまだ分からん?」
机上で二人の目線がぶつかり合った。
「現時点でそっちの子の予知通りになっとるのは認める。けどそれは予知やなくとも実現出来るやろ。うちの従業員がおいたした事やってバルガはんがバラしたら分かる事やし、魔女教の襲撃やって裏で口裏合わせれば出来ると違うん?」
「ッ、そんなこと、ある訳ないわ!」
「口だけではなんぼでも言えるで。ねぇ
「ッ!」「……」「オイオイ」
「……アナスタシア様」
さしもの発言に一瞬剣呑な雰囲気になりかける。
ラインハルトが非難を含んだ口調で呼びかければ、当の張本人は大きく頭を振った。
「……堪忍。今のはちょっと言い過ぎたわ。でもウチも必死なのは分かってや。鉄の牙がこれだけ損耗して、その上で博打に乗るような真似はしたないんや」
「この私が誓ってもですか?」
「王選前までやったら喜んで頷いとったけど、今のアンタは明確に敵陣営や。信じられへんな」
カリオストロは頭が痛くなった。確かに相手の立場になってみれば即答なんて出来ないだろう。
「ねえお願いアナスタシア。私達はスバルとカリオストロに過去何度も助けられてきたわ。だから今回だって起こりうる事だと思うの」
「悪いけど他所様の言葉をホイホイ信じられるほどウチは楽観的でもお人好しでもないんや。せやから──」
「お嬢。ワイは乗ってもええと思うで」
突っぱねるアナスタシアに、リカードが言葉を重ねていた。まさかの腹心の同調の姿勢に、彼女は信じられないと目を見開いた。
「リカード。アンタまで何を言うつもりや? ほだされたん? 冷静に考えーや」
「ワイは冷静や。お嬢はその場に居なかったから分からんかもやが……あんなんと内通出来る奴の気がしれんわ」
「演技しとっただけと違うん?」
「延々と体をぐちゃぐちゃのぐちゃーにされるほどの演技って覚悟キマりすぎとるやろ。対面して分かったがアイツは……悪意そのものや。ただそこにいるだけで周りが不幸になる、純粋な悪や」
「……」
「ワイには……嬢ちゃんらがそんな輩と付き合えるとは到底思えへん。それに」
「それに?」
「アイツを倒せるって言うんなら、今のワイはどんな選択肢でも飲んでもええと思っとる」
全員の視線が、悔しそうに握りしめられた大きな拳に注がれていた。
カペラという存在にたっぷり煮え湯を飲まされた彼は、明確に怒りに燃えていた。家族同然の団員達の大半が怪我を負い、そして少なくない人数が亡くなったのだ。溢れ出る熱意は遠目で見ても分かる程で。彼が復讐を誓っているのは明らかだった。
「重ねて言う。今回の作戦にお前達の協力は必須だ。アイツらは二日後に必ず王都にやってくる」
「……」
「何もしなければ最悪の未来が待ち受けている。そして、魔女教徒達はオレ様達でしか防げないんだ」
「……」
「それに、もし聞き届けてくれるんならこの力を禁じてやってもいい」
「……は? 禁じる? 何をや」
ぴくり、と反応したアナスタシアに、カリオストロがティースプーンを掲げて見せつける。なんだなんだと周りの注目を集める中、スプーンを中心として光が瞬けば、銀製だった筈のそれが黄金に輝いているではないか。部屋内にどよめきが広がった。
「……!」
「確かめて見ろ」
投げ渡されたそれを目を皿にして確認するアナスタシア。重さ。触り心地、そして傷を付けて……と一通り分析すると、呆れた表情を見せた。
「まさか、本当に金に変えた? どういうトリックや」
「これは錬金術と呼ばれる力だ。理論上あらゆる物質を金に出来る」
「……まさか」
「極意中の極意って奴だな。この術を真に扱えるのは元いた国でもオレ様だけだし、この国なら猶更だ。文字通りどんなゴミでも、どんな量でも一瞬で金になる……言いたいことは分かるな?」
「──えげつなッ。あーもう分かった。わかったわ! うちの負けや! でもなカリオストロはん。約束やで、その力、絶対にふるわんといてや!」
エミリアとフェルトは何のことやらと首を傾げていたが、周りはアナスタシアの言葉に痛いほど理解を示していた。金は、その貴重性からかこの世界でも高値で取引されているものだが、それを無尽蔵に生産できてしまえば、起こるのは価格破壊である。あらゆる取引は変動し、なんだったら王都にも大混乱が巻き起こってしまう。
「カリオストロ、僕からもお願いするよ……その力を気軽に使うのは」
「悪戯に混乱巻き起こして楽しむほどオレ様も耄碌してねえよ」
心底興味なさそうに手を振るえば、ラインハルトがほっと肩を撫で下ろした。もしエミリアというパトロンが見つからなければ、錬金で荒稼ぎをしていたかもしれないが、真理の探求者である彼女は物欲よりかは知識欲、見栄よりも実利を取る。決して心配しているような事態は起こらなかっただろう。
「おまけでも貰えへんかな~って黙っとったら、とんだ蛇が出てきよったわ……ほんま恐ろしいわ」
「はぁ?! 決めてたのかよ!」
「タダでも転ばんのがウチやで。最初から飲んでもええとは思っとったわ」
「……お嬢。お前なぁ」
「深刻な話なんはよー分かっとる。でもそういう時こそ利をとらんとあかん。よう考えてみ? この言葉聞きだせんかったらウチらは圧倒的な財力に押し潰されとったわ」
流石商人というべきか、先程までごねていたのは様子見をしていただけのようだった。ごうつくばりと罵るべきか、駆け引きを知り尽くしてると褒めるべきか……いずれにせよ彼女の口から言質を引き出すことが出来てカリオストロは安堵した。
「しっかし、ここまで仕切られると誰が陣営の頭か分からんな~」
「本当にね。でも、私達はカリオストロを信じる事にしたわ。これは私達の陣営の意思と考えてもいいわ」
「そして我々もです。そうですよねフェルト様」
「好きにしろよ、あたしはまだ王になるとは一言も言ってねえぞ」
「はぁ~……竜歴石*1みたいなあやふやなもんに乗っかりたないんやけど……ま、しゃーなしやな」
3陣営の意思が改めて統一され。一時的ではあるが共同戦線を貼ることが出来た。これでようやくスタートラインに立てた。ならば後は策を重ねるだけ。
「じゃあ決行は二日目だ。それとなく仲間に伝えておいてくれ」
「りょ~かいや。名目はどないしよか」
「王都における大規模な軍事訓練、という事にしておきましょうか。兵にも既に連絡は行っていますので納得もして頂けるのではないでしょうか」
「心配なのは内通者やな……情報がもし漏れたらヤバないか?」
「いや。アイツらは来るさ。なにせ一番恨みを買ってるオレ様が王都に行くからな。オレ様が行けばあいつは絶対にくる」
「嫌な信頼やなぁ……」
去り際の怨嗟の声といい、性格といい、カペラは泣き寝入りというものを全くしない存在なのは分かっている。だからこそここぞというタイミングで絶対に現れる。そんな確信があった。
しかし同時に懸念事項もあった。
「ただ、あいつは知っての通りかなり性格のひねくれた奴だ。万全には万全を期した方がいい……エミリア」
呼ばれたエミリアが背筋を伸ばし、そして期待の目でこちらを覗き込んでいる。やる気に満ち溢れている表情にカリオストロは思わず渋面を作りながらも、覚悟をして口を開いた。
「──この屋敷でスバルを守ってくれ。あいつらはきっとオレ様以外を突いてくるに違いない。だからこそ守りが必要だ」
「えぇ。任せて」
しかし予想と違って素直に頷いたエミリアに、思わず面食らってしまう。てっきり王都にもついていくなんて言い出すと考えていたのに。考えが顔に出ていたのか、エミリアは苦笑した。
「本当はカリオストロに付いていきたいわ。でもカリオストロにも考えがあるし……それに、スバルはカリオストロにとって大事な人だもんね」
「……」
「でも、そんな大事な人を守る役目を担わせてくれるのなら……私、すごく、すごーく張り切っちゃうわ」
むんと胸を張る姿を見れば、今度はコチラが苦笑する番だった。苦しみ続けるスバルと過ごして心境の変化があったのか。こちらの心情をきちんと読み取って依頼を受けてくれた。つくづく、得難い縁が出来たものだとカリオストロは微笑んだ。
「フェルト様もこの屋敷に待機をお願いします」
「これで前線出張れよって言われたら暴れるぞ。……ただ、なんつーかなんもしなくて悪いな」
「気にしないで。一緒にスバルを守りましょう?」
「鉄の牙も王都での応戦頼めるか?」
「当たり前や。今度こそ奴らに目にもの見せたるワイ」
個々人がそれぞれの役割と仕事を理解すれば、既に準備は万端だ。
あとは待ち受ける悪意に立ち向かうだけ。しかしこれで万全かといえば、そうではないとカリオストロは思っていた。肝心要の、もっとも重要なピースが抜けている。
「ラインハルト、アナスタシア。あと1つだけお願いがある──」
「カリオストロッ!」
「カリオストロさん!」
「カリオストロぉ!」
「おししょー!」
そして宿命の5日目、その朝。
カリオストロはその最後のピース達と王都で再会を果たしていた。
一目散に駆けてきたグランに強く抱擁されれば、カリオストロも軽く、しかしながらしっかりと抱擁を返すのだった。
スバルきゅん未だに発狂中。
そしてパックきゅんフェードアウトしてて済まない…すまない…
パック「遺憾の意を表明するよ」