長門型とただ駄弁るだけ。 作: junk
私は提督だ。
詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。
今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。
昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。
あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。
「好きな女性の部位?」
「部位って……。もうちょっと言い方どうにかならないの? でも、そうね。フェチって言えばいいのかしら? 提督は女性のどこがお好きなの」
「一に顔、二に足だな。おっぱいはどっちでもいい。むしろ、貧乳が好みまである」
「あらあら、意外ね。提督はてっきり、巨乳が好きなのかと思ってたわ」
「何故だ?」
「だって、貴方私の事好きでしょう」
「うん?」
「あら?」
「ふむ」
「ちょ、待っ──」
「出来たぞ、二人とも。……なんだ陸奥、机に乗り出して行儀が悪いぞ」
三人分のお皿をもって、長門がキッチンからやって来た。皿の中にはボロネーゼにチーズを合わせた様なパスタが乗っている。
キャラに似合わず、長門は料理が出来る。それもかなり。逆に陸奥はキャラに似合わず料理ができない。それもかなり。
この辺りは中の人が関係しているらしい。
戦いの技能や性格なんかには戦艦「長門」や戦艦「陸奥」としてのアレやソレやが強く影響する。その反面、料理スキルや異性の好みの様な日常的な事については中の人に依存するとのことだ。
「少し待っていろ。今スープも持ってくるからな」
「ありがとう、長門」
長門が厨房の方へと戻っていく。歩き方が綺麗だ。そう思っていると、肩を掴まれ、陸奥の方に無理やり向かされた。
「スープなんか今、どうでもいいのよ!? 提督、貴方──」
「陸奥ッッッ!!!」
「は、はい!」
「お茶淹れてくれ」
「今の大声と無駄にキリッと顔しておいて、お茶を淹れろですってえぇ!? 緑茶で良いわね?」
「ほうじ茶で頼む」
「あらあら! まったく、仕方がないわね!」
怒りながらも、お茶を淹れにいく陸奥。その間にフォークとスプーンを用意しておく。
三人席に着いた所で、揃っていただきますと言ってから、夕餉をいただく。
「ところで二人とも、少し聞きたいことがあるのだが」
「なんだ?」
「何かしら?」
「何か困ってることはあるか?」
鎮守府のみなはよく働いてくれている。
何か不満があったら解消してやりたいのだが、私は少々艦娘達と距離がある故、みな中々悩みを打ち明けてくれんのだ。そこで勝手知ってたるこの二人に、先ずはモデルケースとして聞くことにしたのである。
「なるほどな。ふむ、他ならぬ提督の頼みと言うのなら聴いてやりたいが……今は特に悩みというものはないな。いや、醤油の残りが少なかったか……」
「醤油の残りの事なんて、なんの参考にもならないでしょ……。そうね、私は昔の人間の頃の身体と艦娘としての身体のギャップに、今でも悩まされる時があるわ」
「ああ、確かにそれはあるな」
「む、それは気になるな。是非話を聞かせてくれ」
「例えば……私の運の値は「3」しかないじゃない」
確かにそうだ。陸奥の幸運値は非常に低い。しかしまさか、幸運値が日常生活にも影響を及ぼすとはな。扶桑型や翔鶴のこともある、何かの参考になるかもしれない。
「そのせいで、全くギャンブルに勝てなくなったのよ」
少しも参考にならなかった。
相変わらず、陸奥は頼りになりそうでならない。
やはり長門だな。長門は頼りにならなさそうで頼りになる。長門に会釈をし、会話を促す。
「元の私の力は、当然のことだが1馬力もない。しかし今の私の力は82000馬力。車を運転する時など、少しハンドルを捻るだけで大きく切ってしまう。他にも、鍵を開けようとしたら回し過ぎて壊してしまうことなどが良くあったな。
ああ、それから服だ。体格が大きく変わったために、服をほとんど一新しなくてはならなかった。露出狂でほとんど服を着ず、その上高給の戦艦である私はともかく、薄給の駆逐艦の子などは厳しいのではないか?」
「なるほど。参考になった。ありがとう、長門」
後で衣類とまるゆの申請をしておくか。
「気にするな。ビッグセブンだからな」
「ビッグセブン関係ないでしょ……」
「それに比べて陸奥は……まあ、言っても仕方がないか」
「あら、あらあらあら。何かしらその「もうこいつには何言っても無駄だから……」という感じ。最近の提督、本当に容赦ないわね」
「妹よ、姉として恥ずかしく思うぞ」
「うるさいわよ、姉さん」
長門の頬っぺたをグイーッと引っ張りながら、左右に振る陸奥。長門はまったく動じていない。
ふっと気になったんだが、長門は陸奥のことを妹と言った。しかし当然ながら、長門と陸奥の中の人は兄弟ではない。その辺りのことはどういった認識になっているのだろうか。
「どうと言われてもな……」
「ええ。この感覚を説明するのは難しいわね……」
「艦娘になると同時に船の──私の場合『長門』の記憶が頭の中に刷り込まれるのは知っているな?」
「当然だ」
「その『長門』の中に、『陸奥』に関する知識もある。まあなんだ……ずっと話に聞かされていたが直接はあったことのない親戚、という感じか?」
「あー、その例えは上手いわね。どんな見た目で、通ってる学校とか年齢は知ってるけど、趣味とかそういう類のことは知らない、みたいな感じよね」
「なるほど。あまり『姉妹艦』である事を強制されるわけではないということか」
「全部が全部ってわけじゃないわ。あくまで長門型はそうってだけよ。例えば大井さんは絶対北上さんを好きになるし、扶桑型は姉妹愛が強くなるもの」
「まあしかし、基本的にはそこまで縛られるものではない。そもそも、中の人の実年齢と姉妹設定が矛盾する事があるからな。例えば暁の実年齢は9歳、雷の実年齢は21といった具合だ」
「そう言われてみればそうか……。しかし姉妹に対する認識が薄いなら、姉妹の多い夕雲型なんかは大変そうだな。遠縁の親戚の集まりに出てるようなものなのだろう?」
「そう言われるとそうなのだがな……」
長門と陸奥は揃って唸った。
恐らく、艦娘にしか分からない何かがあるのだろう。それを無理に知ろうとするほど、私も愚かではない。
陸奥にお茶を頼み、空気を変える。話題変更の合図だ。
「ところで提督よ」
「なんだ」
「最近、鎮守府内でよくない噂が流れている」
「ほお……」
噂、というのも案外馬鹿に出来ない。そう士官学校で習った。噂によって起きた反乱は少なくないそうだ。
私は長門と陸奥以外と日常会話をほとんどしない。そのため、鎮守府内の噂や流行といったものに疎い。そのあたり、是非聞かせてもらいたいものだ。
「私が快楽堕ちしそうだとか、アナルが弱いだとか、そういった噂だ」
「ああ……」
立ち上がり、拳を固め、眉間にしわを寄せて語る長門。気持ちは分からんでもなかった。
「どうして妹の陸奥はおねショタだの純愛だのと言われ、姉である私はNTRや凌辱しかないのだ! しかもアレだ、同じタイプでも武蔵のヤツは頭が良いと言われるのに対し、私はすっかり脳筋キャラだ!」
「だって、武蔵さんはメガネ掛けてるじゃない」
「私だって
「何のアピールよ、それ……」
「俺は賢い方だと思うぞ。ナガトより賢いゴリラは見た事がない」
「提督ッッッ!!!」
「なんだ」
「それ以上いけない」
「はい」
両肩を掴まれ、顔をグワっと近づけてきた。流石ビッグセブン、威圧感が凄まじい。
「──というか長門、貴女私のおねショタ属性を羨ましいみたいな言い方したけど、私からしたらトンデモナイわ」
「ん、陸奥ってショタコンじゃなかったのか?」
「えっ、提督まで? それはちょっと、本気でショックだわ……。貴方と一緒にいる私が、ショタコンなわけないでしょう?」
「……まあ何だ、私もまだまだ若いという事だよ」
「ふふ、何よそれ」
若いから過ちをしてしまう、というのと若いからショタの範囲内という意味をかけてみた。その意味が伝わったのかどうかは分からないが、陸奥が笑顔を見せてくれた。
「話を戻していいか? 私のアナルが弱いと言われてる件だが──」
「長門、貴方もうちょっと空気を読んでくれる?」
「──実際、私の筋力なら指を入れた瞬間、膣圧で指が折れると思うんだが、どうだろうか?」
「どうだろうか? じゃないわよ。貴方が折れなさい」
「よし、試してみるか?」
「提督も、切り替えが早すぎない? さっきまでのちょっと良い雰囲気を返してよ……」
陸奥が落ち込んでいた。
それはそれとしてお茶が切れたので淹れてきてもらう。もう少し優しく出来ないのかと言われたが、私は陸奥が淹れたお茶が好きだというと、喜んで淹れてくれた。正確に言うと、美人が淹れたお茶が好きだ、だが。嘘はついていないからセーフ。
「そういえば、提督は何か悩みはないのか?」
「悩み……と言っていいか分からないが、ずっと気になっていることはあるな」
「ほう? なんだ、聞かせてみろ」
「角ってあるだろ、動物に生えているやつ」
「うむ。私にも生えているな」
「だから、私達のは電探でしょ……」
「角というのは基本的に攻撃する為にあると思うのだが……どうして山羊の角は後ろに向かって曲がっているんだ? アレでは攻撃出来ないではないか」
「そう言われてみるとそうだな」
「一理あるわね。だけど、この話膨らまないわよ? 私達、山羊について少しも詳しくないもの。あー、確かにね〜ていう、女子高生並の共感しか出来ないわよ」
確かに。私も友人から動物の角について話題を振られても困るな。
「なら話を変えるか。常々疑問だったのだが、月が見えるのは太陽の光を反射しているからだそうだな」
「有名な話だな」
「なら、何万光年も離れている星が輝いて見えるのは何故だ? 全てが恒星という事もないだろうし、全ての星が太陽の光を反射してるとも思えない……」
「いや、それは確かに言われれば気になるけども……。もうちょっとこう、取っ組みやすい話の振り方出来ないの?」
「うんこ味のカレーとカレー味のうんこでは、うんこ味のカレー派だ」
「いや、とっつき易くはなったけど……」
「むう、これもダメか? じゃあお前が話を振ってくれ」
「そうね、それじゃあ好みの異性の話でも──」
※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。
この話の何が難しいって、サブタイトルをつける事です。話に少しも一貫性が無いので……。