長門型とただ駄弁るだけ。   作: junk

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お正月

 私は提督だ。

 詳細は省くが、この鎮守府で艦娘達の指揮をとって長くなる。

 

 今日の業務は全て終わった。今は長門と陸奥の部屋に来ている。業務終了後、長門と陸奥と雑談する事は私の日課なのだ。

 昔、私がまだまだ駆け出しだった頃。右も左も分からなかった私は、よく世界のビックセブンである二人に業務についての相談をしに来ていた。

 あれから時は流れ、もう業務にも慣れた。今ではこうして、二人の部屋に行く習慣だけが残っている。

 

「年が明けたな」

「明けたわね〜」

 

 カウントダウンが終わり、年が明けた。とりあえず陸奥と頭を下げて、新年おきまりの挨拶をする。長門は我関せず、ひたすらミカンを食べていた。

 

「む、みかん取ってくれ」

「ホラ、餌だぞゴリラ」

「よし、殺してやろう……チッ、命拾いしたな。ここからでは手が届かん」

「少しはコタツから出なさいよ……」

「私をコタツから出したかったら、防空棲姫でも連れて来い」

「私が深海棲艦化するわよ」

「陸奥、お茶を淹れてくれ」

「あらあらあらあら、本当に深海棲艦化するわよ? 緑茶でいいわね」

「陸奥、ついでにミカンの段ボール持ってきてくれ」

「オマエ……ヲ……コロス……」

「む、深海棲艦だ」

 

 長門が陸奥の角を両腕でつかみ、顔面に膝蹴りを叩き入れた。陸奥が鼻血を流し、たたらを踏む。その隙を見逃さず、長門は陸奥の足を払って転ばせ、寝技を決めた。

 

「いたたたたた!」

「……」

「無言で関節技をかけてんじゃないわよ!」

 

 陸奥が長門の頭を掴み、おもいっきり吹き飛ばした。長門の頭が壁の中にめり込む。

 

「お前ら、ギャグっぽく壁を壊すな。明石が新年から仕事だと泣くぞ」

「ごめんなさい……」

「反省しろ、陸奥」

「長門、貴方もよ!」

「私は謝らない。ビッグセブンだからな」

「お前を駆逐艦の教育係から外す」

「申し訳ございませんでした!」

 

 長門が頭を擦り付けて謝ってきた。

 後頭部に足を置き、グリグリと踏みつける。

 

「ふはははははは!」

「お許し下さい、ご主人様」

「その偶に入る二人のSMプレイはなんなの?」

「「性癖だ」」

「そ、そう。なんていうか……ハイカラね」

 

 長門の特殊性癖は多い。露出狂やSMなど……多岐にわたる。最近よくそれらに付き合わされる、何だかそのうち、いけない扉を開けてしまいそうだ。

 

「しかし、提督になってからというもの、新年があまり楽しみでなくなったな。むしろ嫌いになったまである」

「それはまたどうして?」

「まず第一に、年賀状だ。海軍は基本的に縦社会。当然、目上の人と接する機会が多くなる。加えて、この鎮守府の場所は一般公開されているだろう。民間の方々が結構な数の年賀状を送ってくださる。それら全てに返事をするのは──有難いことだが──中々手間だ。提督になる前まではLINE等で済ませていたんだが……いや困った」

「あー、来るわねぇ。私も戦艦『陸奥』宛の年賀状や贈り物が結構届くわ」

「一航戦や長門型は毎年大変らしいな」

「戦死した方の遺品などは、特にどう扱っていいか分からんよ。私は艦娘『長門』であって、戦艦『長門』ではないからな」

「ふーむ……鎮守府の一部に、巨大倉庫でも作るか?」

 

 戦時中は巨大な倉庫を作り、そこに身元不明の死体や遺品を保管していたらしい。我が鎮守府でもそうした制度を採るべきか……。しかし金がなぁ。

 

「あっ、金といえばお年玉」

「なあに。お姉さんのお年玉欲しいの?」

「エロいやつか?」

「ちょっと直球すぎない? いえ、貴方が望むなら、それでもいいのだけれど……」

「冗談はさておき、お年玉を配ろうと思っていたのだが……誰に配っていいか分からん。駆逐艦でも、私より歳上の場合もあるだろうしな」

「え、冗談だったの? ──コホンッ。あー、確かに、その塩梅は難しいわね」

「歳上の駆逐艦と言えば、さっき睦月からお年玉を貰った。3千円入ってたぞ」

「ンフッ」

「これでお菓子でも買うといいにゃしい! と言われた」

「良かったじゃないか、長門。好きなだけお菓子を買うといい」

「にゃしい」

 

 長門はポチ袋から3千円を取り出し、GCの財布の中に入れた。

 

「長門ってマジックテープ式の財布じゃなかったのか……」

「当たり前だろう。私は基本的に財布はGCだ。二年おきに新作を買っている。衣服のブランド物は好かないが、コートと靴と財布とバッグとベルトと時計は別だ」

「この人、私服とか結構オシャレなのよね。ただ露出狂だから着ないだけなのよ……」

 

 逆に、正直言うと陸奥はあまりオシャレではない。冬はスウェット、夏はジャージ。これ以外の私服を見たことがない。陸奥の容姿とプロポーションだから良いが、普通の女性だったら色々とヤバいかっただろうな。

 

「話を戻しましょうよ。提督はどうして正月が嫌いになったんだったかしら?」

「ふむ。第二に、休みが無いことだな。深海棲艦に休みが無い以上、当然我々にも休みが無い。にも関わらず、周りの企業は休んでいるだろう。結果、資材の搬入搬出などが遅れる。他にも、戦闘音や警報音がうるさいなどの苦情がいつもより多く来たりと、色々大変だ。

 毎年正月明けは大淀と羽黒と榛名と一緒にご近所に謝りに行っているよ」

「面子がもう怒られること前提ねえ」

「今年からは私と武蔵のやつを連れて行け。私の凧揚げと武蔵の福笑いを見れば、たちまち苦情は無くなるだろう」

「それそう言う遊びじゃ無いから」

「それで思い出したが、今年から艦種別羽根つき大会は禁止な」

「な、何故だ!?」

「死人が出るからだ」

 

 駆逐艦達や潜水艦の羽根つきは普通の羽根つきだが、それ以上となると怪しい。

 動きが人類の域を超えてるだけな軽巡洋艦はともかく、それ以上の艦種だと普通に力が強過ぎる。特に戦艦と正規空母の力はヤバい。鳳翔さんが真顔になるレベル。

 

「──と言うわけで禁止だ」

「クソッ! 今年こそは事故に見せかけて大和の奴をぶっ殺そうと思ってたのに!」

「そこの不仲な感じやめろよ。次から運用し辛いだろうが……」

「昨日、大和さんがまったく同じ事言ってたわよ。長門を殺して吹雪さんに良いところ見せるって」

「……まあなんだ、公私は分けろよ」

「当然だ」

 

 長門は頷くと、最後のみかんを口の中に放り込んだ。

 

「そう言えば、この長門、こんな物を用意してみた」

 

 取り出したのは、バラエティー番組などでよく使われている、一部が見えなくなっているフリップボード。それが複数枚。

 

「第一回! チキチキ、鎮守府なんでもランキング!」

「お、おう」

「様々なランキングを作り、事前に艦娘達に投票してもらった。私と陸奥と提督、それと大和を除いた全艦娘の票が反映されている」

「さりげなく大和を省くな」

「姉さんて、無駄な事に途轍もない労力を注ぎ込むわよねえ。その辺は提督と一緒かしら」

「最初のランキングはこれだ!」

 

 シールを剥がすと、そこには『鎮守府最強の艦娘といえば?』と書かれていた。

 

「こんなの一択だろう」

「そうね。私もあの人だと思うわ」

「それでは第3位から発表だ。ちなみに、私も結果は知らない。アンケートを取るのは夕張、フリップボードを作るのは明石にやらせたからな」

「おい」

 

 鎮守府内で最も忙しい二人に、何をやらせてるんだこいつは。

 

「じゃじゃん! 第3位は軽空母鳳翔だぁ!」

「今更だけど、その謎のテンションの高さはなんなの? 若干ムカつくわ」

「鳳翔が3位か……」

「軽空母、正規空母勢からの圧倒的な支持を受けて、見事第3位となりました! やはり改二をキチンと使いこなしているあたりが決め手でしょうか! 改二が実装されても、その大きすぎる力を使いこなせない艦娘が多い中、彼女はしっかりと制御出来ていますからね」

「どうしよう、イラつきのあまり、また深海棲艦になりそうだわ」

「私は夕張から渡された台本を読んでるだけだぞ」

「なんだろう、夕張だと思うと全然行けるのに、長門だと異様に腹立つな」

「折檻か、なあ折檻か?」

「顔を近づけるな。折檻したらお前は逆に悦ぶだろう」

「……早く次行きましょうよ」

「む、なんだ気になるのか妹よ」

「……」

「分かった、分かったから無言で拳を握り締めるのはやめろ。流石の私でも妹に殴られて興奮はできんよ。──では、続いて第2位の発表です!」

 

 あくまで夕張の台本遵守なんだな。

 

「第2位は軽巡洋艦から神通さんです!」

「はっ? 神通が……2位?」

 

 すっかり神通が1位だと思っていた。むしろ、神通が圧倒的過ぎて他の艦娘に票が集まるのかどうか不安にさえ思っていたんだがな。

 

「この鎮守府で誰よりも早く改二に辿り着いた神通さん! ほとんどの艦娘が改二を1時間程度しか持続出来ない中、彼女の改二継続時間は規格外の8時間! もし改三というものがあるなら、一番最初に到達するのは彼女だと言われています!」

「改めて聞くと、とんでもないスペックね」

「神通とマトモに戦えるのは、同じ軽巡洋艦では北上と長良くらいのものだからな」

 

 雷巡洋艦である北上を除けば、軽巡洋艦では実質長良だけか。いや、球磨あたりが本気を出せばあるいは……。

 

「それではみなさんお待ちかね! 第1位の発表です!」

「ちょっと本格的に1位が気になってきたな」

「デデデン! 1位は不知火です!」

「……」

「えー、主な選出理由としましては、戦艦クラスの眼光。提督の表情筋を唯一動かした艦娘。ナガト・ナガトと腕相撲して勝ちそう。ピンクは淫乱、などが上げられております!」

「からかうのは止めてやれ。不知火はアレで結構目つきを気にしてる。それに不知火の中の人の年齢は14。普通に子供なんだぞ」

「言っておくが、選出理由をピックアップしたのは私じゃないし、投票もしてないからな」

「ふぅん。長門は誰に投票したの?」

「自分に入れた」

「あらあらあら……。何位だったの?」

「5位。ちなみに、陸奥は圏外だ」

「ねえ、今更だけどこれネームシップがだいぶ有利よね。性能がほとんど同じだったら、絶対ネームシップに投票するもの」

「いやなんだ、ほら、私は陸奥の事頼りにしてるぞ」

「提督、慰めるのはやめて。普通にみじめだわ」

「そう落ち込むな陸奥」

 

 長門が陸奥肩に手を乗せ、励ましていた。なんだかんだ言ってやはり姉妹なんだな、と痛感する。

 

「おねショタが似合う艦娘ランキングでは堂々の2位だ」

「それが嫌だっつってんでしょ、このゴリラ!」

「ちなみに1位が愛宕で、3位が霧島だ」

「意外性のかけらもないな」

「ちなみに私はア◯ルが弱そうな艦娘ランキングで1位を取ったぞ」

「……それは褒めるポイントなのか?」

「2位は高雄、3位は提督だ」

「いや、提督は艦娘じゃないし……」

「というか、ウチの艦娘達はそのクソの様なランキングに大真面目で答えたのか?」

「当たり前だ。みんなノリノリで書いてたぞ。隼鷹とか足柄とか」

「メンバーがもうアレね」

「後、電もだな」

「!?」

「……む、そろそろ初詣に行くか」

「自由か。もっと会話の流れを考えろよ」

「振袖を着るから、提督、手伝ってくれ」

「お前は本当、少し羞恥心というものを持て」

「て、提督。私も手伝ってもらって……良いかしら?」

 

 

 

※この後めちゃくちゃ“夜戦”した。












本当はもっと早く投稿する予定だったんですけど、年始が忙しくて遅れました。
お正月ネタが旬を通り越してしまったぜ。
というかそろそろ話のネタが切れて来ました。募集でもしようかな、と思う今日この頃。でも上手く扱えるきがしない。

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