ダンジョンに潜る前にポーションなどの補充をして、バベル前で待ち合わせしたのだが、ベル君は、今日もバスケットを持ってきた。
あれ、なんでまだぼったくり店の店員さんからご飯受け取っているんだ?と疑問に思っていると、ベル君が教えてくれた。
なんでも、嫌なことがあって思わずお金を払わず店を出てしまったそうで、今日、お金を払いに行った際に、バスケットをまたも受け取ってしまったとのことだ。
料理の値段についてそれとなく聞くと、結構お高めだったものの、法外な値段というほどでもなかった。ちょっと高級食材を扱う店なら、それ以上の値段がすることは確認済みだ。貧乏生活のオレたちには数食分のお値段がしたりするんだけど……。
少し、人を疑いすぎだったか。勝手にぼったくり店とか思った事を少し反省した。
その後、ダンジョンに潜ったわけだが、どうも戦闘中にベル君の視線を感じる。
オレの動きを参考にしているようだ。
いや、正確にいうならもとからオレの格闘を混ぜた動きを参考にしたりはしていたが、あの夜以来、その傾向が強くなったような気がする。
短剣スキルや格闘スキルによりひとつひとつの基本的な動きはかなり上手いかもしれないが、オレの戦闘はスキルアシストに任せた行き当たりばったりである。
変な体勢からでも攻撃を行う。けっこうトリッキーと思われる攻撃もスキルアシストによって平気で繰り出す。
全力を出せば一撃で終わるため問題にはならないのだが、こうして速度や力を抑えた状態で戦っていると、あまりよくない場面を無理矢理突破するのはちらほらあるのだ。
ベル君にはそこまで陥らないような戦法を練って、もっと堅実に動いて欲しい。
オレも戦法を練るべきなのかもしれないけど、うまくいってない。冒険者同士はダンジョン内で不干渉という不文律があるため、あまり他の冒険者の動きを参考にもできないのだ。
武道なんかの経験もなく、基本アニメのトンデモ技しか知らないのでとっかかりがわからない。力を制限しないなら、トンデモ技を再現できる気がするんだけどね。
おっと、ベル君がオレの変な体勢からの攻撃を練習してる。止めたほうがいいだろう。
「ベル君、オレの動きを参考にするのはいいけど、オレがたまにやる変な体勢での攻撃は参考にしないようにね。アレはオレにとっても失敗だから。むしろ、その体勢に追い込まれないように戦闘を進める方法を考えるのがいいよ」
「はい。わかりました」
ベル君は素直である。
「それと、当たり前の話だけど、オレとベル君は違う人間だ。リーチも違えば一歩の大きさも違う。力も違えば、体の柔らかさも違う。だから、オレの真似をするのはいいけど、オレの動きをそのまま再現するのではなく、必ずベル君の体に合うように調整して、ベル君の動きとして昇華させてね」
「はい!」
素直なんだが、それっぽいことを話す度に、ベル君の目がなんか真剣になってちょっと怖い。5階層ソロで傷無しはやりすぎだったか。どうやら、身近な目標になってしまったようだ。
戦闘を繰り返した後、ダンジョンからバベルに戻ると、大きなカーゴが数台置かれていた。マップによると中にモンスターが入っているようだ。おお、ガタっとゆれたぞ。
「アレ、なんなんでしょうか?」
「モンスターが入っているみたいだけど、モンスターの研究でもするのかな?」
周りの話に聞き耳を立てると、どうも
「
「エイナさんもいるけど、忙しそうだし、また次の機会にしようか」
「そうですね」
町中を歩いていると、ポーションでお世話になっているミアハ様と出会った。気配察知スキルを覚えて以降、わかるようになったのだが、神様というのは神威という独特の気配を纏っている。空気が違うというか、独特の感覚が確かに感じられるのだ。
ミアハ様に、まだ帰っていないヘスティア様について尋ねたが、そもそもパーティーに参加しておらず分からないとのことだ。
一応、マップからヘファイストス・ファミリアにいることは確認できる。ヘファイストス様はヘスティア様に教会を紹介した神と聞いているので特に問題ないだろうとは思う。
ミアハ様が出来立てのポーションを差し出してきたので、ベル君が感謝して受け取った。帰ったら店員の人に怒られるんだろうなと思いつつ、ミアハ様を見送った。
ヘスティア様が出かけて3日目。ヘスティア様はまだ帰ってこない。
「帰ってきませんね。神様」
「数日留守にするといってたから、もうそろそろ帰ってきてもよさそうなものだけどね」
マップによると、ヘスティア様は、ヘファイストス・ファミリアから出て、祭りの会場と思われる人込みに向かっているので、特に心配ないだろう。
今日はギルドに、奥の階層へ進むための相談を行ってからダンジョンへ向かう予定だ。そんなわけでギルドに向かっていると、ネコ耳の女性にベル君が声をかけられた。
「おーいっ、待つニャそこの白髪頭ー!」
頭にホワイトブリム、緑色のエプロンドレスのキャットピープルの少女だ。
「ん?お前、誰ニャ?」
「ベル君と同じファミリアのサトゥーと申します」
プログラマーとしての職場がサブカルの有名地の傍で、メイドさんとかよく見かけたからか、この恰好を見てると日本を思い出す。これで、日本を思い出すのもどうかと思うけど、仕方がない。
「よろしくニャ。白髪頭、はい、コレ。コレをあのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ」
ベル君に「がま口財布」が渡された。ベル君は困惑している。
「それでは、説明不足です。二人とも困ってますよ」
エルフの店員さんが苦言を呈す。おお、エルフメイドだ!いや、酒場の店員さんなんだろうけどさ。
「何言ってるニャ。白髪頭はシルのマブダチニャ。祭りを見に行ったシルに、忘れた財布を届けてほしいなんて、誰でもわかることニャ」
「というわけです。言葉足らずで申し訳ありませんでした」
「あ、いえ。よくわかりました」
キャットピープルの少女がプルプル震えてる。かわいい。
「祭りとは、
興味があったので聞いてみた。プルプル震えていたネコ耳娘がドヤ顔で語り出した。
「ミャーが教えてやるのニャ!
「えっ……調教!?」
ベル君が驚いている。
あれか、仲間になりたそうにこちらを見ているってやつか。オレもできるのかな?興味はあるが、食費やホームの広さを考えると仲間を増やすのも難しいか。
「道順ですが、まずは闘技場へのメインストリートに向かってください。あとは人波についていけば現地にたどり着けるはずです」
「わかりました」
メインストリートに向かう途中にベル君に声をかける。
「祭りだし、今日はダンジョン探索は休みにしないかい?せっかくだし、そのシルって子と屋台を見て回ったらどうだい?」
「え?……でも……」
「オレも祭りを楽しみたいんだ。構わないかい?」
「わかりました。今日は休みにしましょう」
「じゃ、財布を渡すのは任せたよ。オレは適当に一人で見て回ってくるから」
屋台を見て回ると、食べ物屋に混じって武具を販売している屋台が混じっていることが印象的だろうか。この世界にはそこそこ慣れたつもりではあったが、軽く衝撃を受けた。
あまり見ないような食べ物などをつまみながら屋台を覗いていたら、みたらし団子を売っている店を発見した。こっちにもあるのかみたらし団子。
店員さんに話を聞くと、どうも極東の菓子らしい。こっちの世界にも日本っぽい場所があるのかな?
なつかしさに惹かれ、購入する。うん。美味い。
昔、田舎のじいさんの家で食べた団子を思い出すね。
両親はどうしてるんだろうか?のんきな家族だから、大丈夫だとは思うけど。
――……う…………
うん?何かノイズの走った変な音が聞こえたような気がするが……。気のせいか?
屋台の店員さんにもう一本お願いしつつ和風の食材について聞いたところ、醤油や味噌といった日本の調味料も、オラリオ内で売っているそうだ。もう少しお金を稼いだら、そういったものも買いたいね。
他の日本っぽい食べ物を探しつつ、屋台を見回っていると急に叫び声が上がった。
「モ、モンスターだあああああああっ!?」
はい!?なんでモンスターが!?
「全マップ探査」を発動する。マップ上にはモンスターを示す光点が複数ある。
レベルの高い冒険者がチラホラ見えるから大丈夫だとは思うが……。
考察は後だ、とにかく、ヘスティア様とベル君を探そう。
ヘスティア様とベル君が一緒にいて、モンスターに追いかけられているようだ。縮地を使うには人込みが邪魔だ。路地に入り、視線がこちらに向いていないことを確認してからジャンプで屋根にのぼり、道を無視してベル君の元へ向かう。
ベル君がいる場所はやけに道が入り組んでいる。まるで迷路のようだ。屋根越しの移動じゃなかったら、面倒極まりないことになっていた。とはいえ、建物ごとの段差が大きく、縮地を使いにくい点から、どうしてもある程度の時間がかかってしまう。屋根を蹴破るわけにも行かないので、速度は抑え気味になってしまう。
よし、モンスターが見えた。腰の小袋から石を取り出しモンスター、シルバーバックの目に向かって石を投擲する。投擲スキルと不意打ちスキルの補正も合わさってか、命中した。
「ガアアアアアアアアアアッ!」
「ベル君、ヘスティア様、大丈夫ですか!」
モンスターが痛みで動きが止まってるうちに、建物の間に張られた洗濯物が干してあるロープをつかみ、勢いを殺して地面に降り、逃げ回っていたベル君達と合流した。ロープをつかまずに直接降りても怪我はないとは思うが、さすがに高さ的に不自然だろう。
「サトゥー君、すまないが、時間を稼いでくれ!ベル君に奴を倒すための切り札を渡す!」
「わかりました。ベル君、ポーションだ、使ってくれ」
倒そうかと思っていたが、切り札があるならそちらを使ってもらおう。
とりあえず、HPが減っているベル君にポーションを渡しながらそう考えた。
「来い!もう片方の目もつぶされたいか!」
ベル君たちと距離をとりながら、挑発スキルを使ってみる。
「グアアアアアアアアア!」
よし、きっちりと挑発が効いた。
腕輪についた鎖をこちらに上から叩きつけるかのようにして攻撃してきた。斜め前にでて、距離を詰めつつ回避する。
それにしても、両手の腕輪についている鎖がやっかいだ。鎖をムチのように使ってくるせいでリーチがかなり伸びている。
ヘスティア様が言っていた切り札を当てやすくするためにも、どうにかしてつぶしておきたい。
支給品のナイフで鎖を切れるか?
なんとなくだが、できる気がする。
回避スキルのアシストで回避をしつつ、一気に距離をつめ、鎖の根元にナイフを振るう。
かん高い音を上げて鎖が壊れた。落ちた鎖を蹴り飛ばす。
反撃の反対側の鎖の一撃をナイフで無理やり受け流し、もう一方の鎖の根元へ向かう。
もう一発!気合いを入れてナイフを振り下ろす。再びかん高い音を上げて鎖を壊すことができた。ただし、オレのナイフも音を立てて、砕けた。
オ、オレのナイフが!3600ヴァリスが!借金返し終わったところなのに!
回避や防御姿勢なども取らずに、力が抜けた状態で呆然とそんな馬鹿な事を考えていたためか、シルバーバックの反撃をもろに腹に食らってふっ飛ばされてしまった。
痛っ!HPはあまり減ってないのに、結構痛い!苦痛耐性、仕事しろ!
「このっ!」
ふっ飛ばされつつも、苦しまぎれに投石を放つが、しっかり顔をガードされた。
自己治癒スキルが発動して、HPが全快し痛みも引いたが、ちょっと油断しすぎていたようだ。
体勢は立て直したが、どうしたものか。ナイフは壊れちゃってるしな。
時間を稼ぐなら、回避に専念すればいいんだろうけど……。
「サトゥー君は大丈夫だ!さぁ、行くんだベル君!」
紫の燐光を放つナイフを持ったベル君が、今までとは比べものにならない速度でシルバーバックに接近する。
「ああああああああああああああああああっ!!」
叫びながら突撃するベル君の速度に、シルバーバックは反応できていない。
ベル君がシルバーバックに近づくにつれ、刃の放つ光が強くなる。
ベル君の身体そのものがまるで一本の槍のように思える鋭い刺突により、シルバーバックの胸元に紫の光を帯びた黒い刃が突き刺さった。ベル君の勢いはシルバーバックを押し倒してなお生きており、そのままベル君は放物線を描き、地面を跳ねた。
シルバーバックは少しづつ灰に代わり、紫紺の光を残したナイフが転がった。どうやら、魔石を貫いて一撃で仕留めたようだ。
「うおおおおおおおおおおおおっ!!」
少しの静寂の後、隠れていたダイダロス通りの住人が歓声を上げる。どうやらベル君たちも大きな怪我なく終わったようだ。
しかし、あの速度なら鎖なんて壊さなくても、普通に攻撃が通用したと思う。もうちょっとナイフを丁寧に扱うべきだったかもしれないね。
「神様!?」
焦ったベル君の声で、ヘスティア様に目を向けると神様が倒れている。ポップアップしたAR表示をみると、どうも過労らしい。
ベル君が持っているナイフをもらうために、無茶したのかな?
「サ、サトゥーさん、神様が!?」
ベル君が泣き出しそうである。
「落ち着いて。緊張の糸が切れて、気を失っただけだと思う。とにかくホームに戻ってゆっくり休ませてあげよう」
ベル君はヘスティア様をお姫様抱っこし、走り始めた。
途中でシルさんと出会い、酒場『豊饒の女主人』の一室を貸してもらった。なお、この酒場が、オレがぼったくり店と勘違いしていた店のようだ。心の中で謝っておく。
ヘスティア様の容体は、シルさんが診てくれるとのことだったが、神特有のなにかかもしれないので、オレは念のためミアハ様を呼びに行った。
ミアハ様の診断でもただの過労であり、ゆっくり休めとのことだった。
ミアハ様に診察代を差し出したが、受け取ろうとしなかった。お礼のお金は今度ポーションを買いに行った際に、店員さんに渡しておこう。
ナイフ壊れたり、モンスターにぶん殴られたりしたけど、