シャワーを終え、さっぱりしたところで、ヘスティア様からこの迷宮都市オラリオについて話を聞くことにした。
迷宮都市オラリオは、世界で唯一のダンジョンを持つ都市であり、ダンジョンの魔物からとれる魔石とそれを利用した魔石製品の輸出により世界有数の都市となっているらしい。
また、神様が天界にいるのがヒマだからという理由で下界に降りている。ただ、神としての力を制限し、基本ふつうの人と変わらない。それでも人の嘘を見抜けるし、不変不滅の老いがない存在ではある、とのことだ。
「世界の大半が知っているようなこの都市を知らずに、気が付いたらこの都市で倒れていた」という信じられないような話をヘスティア様が信じてくれたのも、この嘘を見抜く力によるところが大きいんだろうね。
そんな神々は、自身の
そして、ただ
レベルアップすれば大きく能力が上がるのはもちろん、存在自体が神に近づくことでもあるという。
要するに、この世界のレベルアップとはゲームで言うところの下位職から上位職へのランクアップに近いものらしい。
そんな話を聞いてると、誰かがこの地下室に入ってきた。
「神様、ただいまもどりましたー」
視線をそちらに向けると、真っ白な髪に赤い瞳の軽鎧を身にまとった笑顔の少年がいた。
「お帰り、ベル君。怪我はなかったかい?」
向かいに座っていたはずのヘスティア様がいつの間にか少年のもとに移動してペタペタと体を触っている。移動にまったく気づかなかった。
「はい。今日は昨日より稼げましたよ。
……あれ、お客さんですか?」
「ああ、サトゥー君だよ。気づいたらこの教会で倒れていてね。迷宮都市オラリオを知らないからどうも都市外から来たようなんだが、どこから来たのかもわからなくてね。
とりあえず、この都市の成り立ちなんかを説明していたところなんだよ」
「そうなんですか。大変でしたね」
この怪しい事柄を普通に信じることができる彼はとても素直なようだ。ヘスティア様が素直すぎて心配していたのも納得できる。
「ああ、冒険者やダンジョンについて聞かせてやってくれないかい?
その間、ボクがジャガ丸くんを温めてくるよ」
「はい。わかりました」
ベルと呼ばれた白髪の少年は、ヘスティア様の言葉に素直に従い、話をしてくれた。
ダンジョンは神が降臨する前から存在し、魔石を持つモンスターを生み出し続けてきたそうだ。いまだにダンジョンの最奥は判明しておらず、なぜモンスターを生み出し続けるのかもわかっていない。
そんなダンジョンを探検し、魔物を倒し、魔石や様々な素材を持ち帰るのが神の
ダンジョンには
しかし、ファミリアに入るのに苦労するというのは重要な情報だ。オレもここで断るとファミリア探しに苦労するということでもある。無一文でそうなるというのは非常に気が引ける。
戦闘経験のないただの農民だったレベル1のベル君でも怪我なく済むのなら、別世界のレベル310がどの程度の補正があるのかはわからないが、オレでも上層で少額稼ぐ分には大きな危険がなさそうともいえる。闘いは少々気後れする部分があるが、お金稼ぎとしてはいいかもしれない。
「さ、晩御飯だぜ」
用意されたものは「ジャガ丸くん」なる揚げ物と塩、それに水、以上だ。いただきものにこういうのはどうかと思うが、なんとも切なくなる食事である。
オレは手持ちのカロリーバーを提供することにした。一応、異世界のものなので、包装をじっくり見られないように素早く剥がし、3等分した後、皿にのせた。
「おお、いいのかい?」
「今日は豪華な食事ですね!」
うん。喜んでくれてうれしいよ。デスマーチ中に食べてた切ない食事ではあるんだけどね。
食後、ヘスティア様とベル君がシャワーを浴び、一息ついたところで、ヘスティア様に申し出る。
「明日1日、オラリオを回ってみて、体の調子を確かめるのと同時に帰り方を探してみようと思います。
ですが、わからなかった場合は、ヘスティア・ファミリアに入れてほしいと思っています。自分もダンジョンに行って稼ごうかと思っていますので、邪魔にはならないはずです。
それと、勝手な話になりますが、眷属となった後、帰り方がわかった場合に、脱退を認めていただきたいです」
帰り方が簡単に見つかるとはあまり思っていない。
主目的は体の調子を確かめる、要するにレベルの補正の具合を確かめるということだ。素手で岩砕きは無理だろうけど、素手でリンゴを握りしめてリンゴジュースを作れるようになってたりしないかな?子供のころ、なんどかチャレンジしてみたんだよね。もちろん無理だったんだけど。
「ダンジョンに潜るということは命の危険があるということだ。
別にお金を稼ぐ手段はダンジョンだけではない。例えば、バイトなんかでお金を稼ぐこともできる。
君はそれでも、本当にダンジョン探索をするのかい?」
「……はい」
できれば、あまり戦いたくないけど、プログラマーの求職なんてこの世界ではないだろうし、仕方ないね。
「わかったよ。君さえよければ、今、
明日、帰り方がわかる可能性なんてほぼない。今受けても問題ないか。
「よろしくお願いします。ヘスティア様」
「じゃあ、上を脱いで、ベッドにうつ伏せになってくれるかい?」
言われた通りにすると、ヘスティア様がオレの上にまたがった。
「じゃあ、
「痛かったりします?」
刻むという言葉に少し恐怖を覚えた。痛いのはゴメンである。
「ああ、ボクの
しばらく背中を指で撫でられていたが、ヘスティア様の動きが止まった。
「終わったんです?」
「あ、ああ、もう少し待ってくれ。今、
ヘスティア様は紙を差し出しながら、真面目な表情を作り、こう言った。
「神によってファミリアの捉え方は色々あるんだろうけど、ボクは家族だと思っている。
これから、ボクとベル君は君の
「よろしくお願いします、サトゥーさん」
家族……ファミリアか。言外に独りぼっちじゃないんだぜ、と言われているように感じる。
「よろしくお願いします」
オレは自然と笑顔を作っていた。
サトゥー
Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《魔法》【】【】【】
《スキル》【】
LV310だから、馬鹿みたいな経験値があると思っていたんだが、この数値を見る限り、
「ま、まぁ、……さ、最初はみんなその数値からスタートだよ」
「ボクも同じでした」
ヘスティア様は汗をダラダラ流しながら、目線が泳ぎまくっている。もうちょっとポーカーフェイスを覚えたほうがいいと思うね。
メニューを確認すると、新たに
サトゥー
Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《魔法》【】【】【】
《スキル》
【
・異世界での理と
ああ、異世界から転移してきたことがバレたか。神様にはそのうち話すつもりだったし、別に構わないか。ベル君も隠し事できなさそうだし、ヘスティア様と二人きりになった時に異世界について聞いてみることにするか。
ただ、異世界の理が適用されると明言されるのはありがたい。どの程度かはわからないが、こちらでもしっかりと力を発揮できるだろう。
その後、ベル君がステイタスを更新しようとベッドに寝転がった。背中を見ると灯火のような図形と見たことのない文字が刻まれている。
「その文字がステイタスを示しているのですか?」
「ああ、そうだよ。
「ちなみに、LVってどの文字なんです?」
スキルが得れないかと試しに聞いてみた。
「ここだよ」
ヘスティア様が指さした文字を確認したタイミングでログが流れた。
>「
おお、予測通りにスキルが得られた。せっかくだし、ポイントを振っておく。
うん、ベル君のステイタスが把握できるようになった。魔法とスキルは空白で、基本の数値は高いので40程度だ。
最後に、寝る場所でひと悶着あったが、ヘスティア様とベル君がベッドで、オレがソファーで眠ることになった。
ベル君は顔を真っ赤にしていたが、ヘスティア様がとてもいい顔をしていた。ヘスティア様はベル君がお気に入りのようだ。