デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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20話:新しいファミリア

 リリとヘスティア様が地下室に入ってしばらくして、ヘスティア様がオレたちを呼びに来た。

 

「改めまして、ヘスティア・ファミリアに入った、リリルカ・アーデです。

 よろしくお願いしますね。ベル様、サトゥー様、ヘスティア様」

 

 改めて、挨拶をかわす。

 笑顔のリリとベル君を見ていると、リリが移籍できてよかったという思いが出てくる。

 

「さて、さっきのソーマの手紙の件の続きだけど、今、神酒(ソーマ)の酔いを醒ますための肴を作ってるらしいんだ。それでね、献上した料理を作った料理人、つまりサトゥー君をしばらく助手として貸してくれないかと書いてるんだ」

「ああ、サトゥーさんの料理ってすごいですもんね!」

 

 いや、たしかにすごいかもしれないが、別に神様に呼ばれるレベルじゃないと思うぞ。神酒(ソーマ)を飲んだ今、神と人との壁を明確に感じている。

 

「サトゥー君が出した料理だけど、アレで料理人の腕がかなりのものだとわかったらしい。

 ソーマ自身は料理のアイデアはあるが、腕が追いついていない。

 本来なら自分だけで作り上げたいが、早く作り上げる必要があるため、今回に限りその料理人の腕を借りたいとのことだ」

 

 なるほど。ソーマ様の言いたいことは理解した。神酒(ソーマ)の酔いを醒ますということ自体はいいことだ。手伝いたいんだが……。

 

「手伝いって長時間にわたって拘束されますよね、ダンジョンに潜れない程度には」

「詳しいことは書いてないけど、そう思ったほうがいいだろうね」

 

 二人を見る。ベル君のステイタス的には問題ないだろうが、今いる階層でのソロ経験がほとんどないのが心配だ。

 その視線で察したのか、リリが口を開く。

 

「実質、ベル様のソロということになりますね……。

 リリは、ベル様の能力的には問題ないとは思いますが……」

「念のため、次にダンジョンに行くときは3人で潜って、オレは極力手を出さないでベル君がソロでやれるか確かめるってことでいいかい?」

「はい。僕も、それでいいと思います」

 

 リリは少し言いにくそうに言葉を詰まらせてから、オレたちに話し始めた。

 

「あの、リリの装備なのですが、自首する際に、装備類も含めて金銭にして被害者に返すということになりまして、バッグをはじめとした装備がない状態です。

 申し訳ないですが、お金を借りてバッグと解体用のナイフだけでも買っていいでしょうか」

「うん。もちろんいいよ。色々必要なものも買っちゃおう。新しい家族(ファミリア)が増えたお祝いに僕がプレゼントするよ!」

 

 ベル君がカッコいいことを言う。

 

「駄目ですよ。ベル様、ファミリアだからこそ、そのあたりはしっかりしないと」

 

 リリがベル君をたしなめる。

 

「じゃあ、ベル君とリリは二人で装備を整えてきてくれるかい?

 オレはソーマ様の所に、話に行かなきゃならないし。

 リリ、変化の魔法は大丈夫そうかい?」

「ええ、問題ありません」

 

 リリとベル君二人で、といったことに反応して、ぐぬぬと唸っていたヘスティア様に声をかける。

 

「そろそろ、バイトの時間ではないですか?ヘスティア様」

「むむ、もうこんな時間か。仕方がない。ボクはもうバイトに行くけど、みんな気を付けていってくるんだよ」

 

 そうして、ヘスティア・ファミリアの面々はそれぞれ廃教会から出ていった。

 

 ソーマ・ファミリアに向かうと、あの時の人とは違うが、相変わらずやる気のなさそうな門番が話しかけてきた。

 

「あんた、ソーマ様に用か?」

「そうですが……」

「ソーマ様から、あんたは通すように言われてる」

 

 賄賂の必要なく普通にソーマ様の元までたどり着けた。

 

「……よくきた」

 

 ハーブを乳鉢ですり潰している途中だったようだが、手を止めてこちらの目を見て言った。

 ソーマ様の外見は以前と変わらないが、その目には力がみなぎっているように感じた。

 

「作業中申し訳ありません。本日は料理人の件で参りました」

「……その前にお前の名を聞かせてくれないか?」

 

そういえば、きっちりとは名乗ってなかったな。

 

「名乗り遅れて申し訳ありません。私はサトゥーと申します」

「サトゥー……」

 

 確かめるように、ソーマ様は名を口にした。

 

「わかった……。では料理人の名を聞かせてくれ」

「あの献上した料理を作ったのは私です」

「意外だな……冒険者があのような一流の腕を持つなどとは……」

 

 本当に驚いたといった声音でソーマ様が言う。スキル頼りのレシピとかロクに知らない歪な腕なんだけどね。

 

「それで……、私のアイデアを実現する料理人として腕を振るってくれるか?……無論、給金は払おう」

 

 給金が出るのは嬉しいね。具体的な金額もなかなかの高額だ。リリも加わって、色々物入りだし、ありがたい。

 

「私でよければ。ただ私のファミリア内での用事があるため、早くて明後日からになります」

「わかった。……事前の連絡は要らない。来れるようになったら直接こちらに来てくれ」

 

 そう言って、話は終わりだという風に、作業を再開した。オレは一礼してソーマ様の部屋を後にした。

 

 オレは今現在、ホームの1階の廃教会にいる。そばには木材が転がっている。ストレージには工具類と、木材や石材などがまだまだ入っている。

 ダンジョンから良さげな石材は切り出したが、木材に関しては乾燥なりの時間を置く必要があると何かで見たので大人しく買うことにした。

 材料費はソロでダンジョンに潜った時の金である。おかげで手持ちの金はかなり少なくなってしまった。また、そのうちソロで潜って金を稼がないとね。

 さて、これから何をするかというと、前々から考えていた教会の補修計画を実行するつもりだ。快適な生活のためである。少しの間、自重は放り投げることとする。

 まずは、教会の穴から雨が入らないように修繕する。石材だろうが木材だろうが魔刃剣でスパスパ切って加工していく。魔刃剣で切った断面はやすりをかけたように滑らかな仕上がりだ。石を加工した際に、石工スキルを手に入れたので、有効化しておく。

 スキルサポートを活かして一つ目の穴を塞いだ時点で、「建築」スキルを得たので、こちらにもすぐポイントを振って有効化しておく。

 異常な速度で木材・石材を加工でき、ジャンプで簡単に屋根まで昇って、スキル補正に従い修繕していく。ストレージのおかげで工具や素材は出し入れ自由だ。建築には詳しくないが、あり得ない速度で修繕が完成したというのはわかる。

 ほどなくして補修は完了した。少々不格好かもしれないが、雨は入らないだろう。

 次に、仮設の部屋を作るつもりだ。地下室に4人は狭すぎるだろうとオレは思う。

 かといって、教会の地面や壁はボロボロで、雨が入らないような補修はできたが、綺麗にしようとすると、建て直しレベルで入れ替えないといけないだろう。なので、祭壇の前の広めの空間に箱型の部屋を並べ、お茶を濁そうかなというわけである。

 ロクに手入れもしないで、今更だが祭壇にお酒を取り出し杯に注ぐ。祭壇前に部屋を作ります、ごめんなさいと名も知らない神様に手を合わせて謝っておく。

 

>「祈祷」スキルを得た

>称号「信仰篤き者」を得た

 

 いやいや、信仰篤き者は、祭壇前に部屋なんて作らないよ。相変わらず、このスキルや称号の入手はゆるゆるである。助かるんだけどね。

 気を取り直して、魔刃剣でスパスパと木材を切り、工具類を使い、仮設部屋が4つできた。

 木製の箱に扉を付けたような見た目である。中は結構狭い。内装として木のベッドに裁縫スキルで作った布団、ベッド横のサイドチェストくらいだ。ベッドとチェストは前もって作っておいたものだ。穴を塞いだ分暗くなるだろうから魔石灯は部屋の分以外にも購入したが、鏡も用意したほうが良かったかもしれない。狭いから限度はあるが、後々追加していけばいいだろう。

 そんなことを考えながら、ほかに不備がないか確認していたら、叫び声が聞こえた。

 

「こ、これは一体?」

 

 3人とも、ポカンとした表情で辺りを見回していた。

 

「おかえり、サプライズプレゼントは気に入ってもらえたかな?」

「こ、これはサトゥーさんが用意したんですか?」

「4人で地下室だと手狭かなと思ってね」

 

 ヘスティア様は大きな溜息を吐いてから言う。

 

「まったく君は……嬉しいんだけど、凄すぎて呆れてしまうよ」

「……これ、サトゥー様が一人でやったんですか?」

 

 リリが呆然としながらも聞いてきた。自分の部屋でダラダラとしたいからといって、さすがにやり過ぎたか。

 

「まさか。色んな人の力を借りたよ。色々なお店に回って、前々から色々と準備して大変だったよ。ちょうどいい機会だったから頑張ってもらったんだよ」

 

 ヘスティア様には嘘がバレるけど、別にいいだろう。

 ちょっとヘスティア様の表情がおかしいことになった。幸い、ベル君とリリは見ていないようだから、バレたりはしていないようだ。

 

「とりあえず、それぞれ部屋の中を見てきてよ。不備があったら問題だしね。その間に夕飯、用意しておくから」

 

 そう言って、地下室へ向かう。

 今日はリリが眷属になったお祝いに少し豪華なメニューにしてみる。内容は、オムライスにハンバーグとサラダ、デザートに蒸しプリンとしてみた。一部食材は、ストレージから取り出した。

 リリの食事はひたすら安いメニューだったので好みは把握しきれていないが、特に嫌いではないはずだ。

 各自、部屋を整えたりして結構な時間がたった頃に料理は完成した。

 

「これ、お金は大丈夫なんですか!?」

 

 テーブルに並んだ料理を見たリリの第一声がこれだ。

 普段より高いことは認めるが、基本、材料は安価なものを使っているんだけどね。

 

「普段はもっと質素な料理だよ。今日は特別だから安心してくれ」

「いや、教会の修繕費とかもそうですし、ヘスティア様、ほんとお金管理しているんですか!?」

「今日の料理と教会の修繕は、オレ個人のお金から出したよ。安い所を探したし、値切ったし、色々と工夫したんだよ」

 

 安い所をマップで探し、値切りスキルも使ったが、さすがに夜中にソロでダンジョンに潜って稼いだお金で、人件費を削って教会を直しましたとは言えない。

 

「サトゥー君は嘘はついてないよ。それより冷めないうちに食べようぜ!」

 

 リリは、食べる前は納得いかないと言わんばかりの顔をしていたが、一口料理を食べると、目尻が下がり、食べ進めるうちにとてもいい笑顔を浮かべていた。

 うん。頑張って作ったかいがあったよ。これからよろしくね、リリ。

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