デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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21話:レベル6との特訓

 翌日、ベル君とリリとオレは、ダンジョンに向かう前にまずギルドへ向かうこととなった。リリの移籍の手続きを済ませるためである。

 ベル君がエイナさんを見つけたのか走り出そうとしたが、ピタリと動きを止めた。ベル君の目線の先を追うと、そこにはアイズ・ヴァレンシュタインさんがいた。

 しばらくの沈黙の後、ベル君は急に出口へ向かって走り出した。それを追うように凄まじいスピードでヴァレンシュタインさんが後を追う。

 これがレベル6のステイタス補正か。凄まじいな。そんなことを思いながら、ベル君のそばへ歩み寄った。

 

「何やってるの、キミは!いきなり走り去るなんて失礼でしょ!?」

 

 後ろから走ってきたエイナさんがベル君を叱りつける。リリには一体何が起こっているのかわからないようで目の前の光景をぽかんと口を開けてみている。

 

「ヴァレンシュタイン氏は、ベル君に用があるそうなの」

 

 ヴァレンシュタインさんのほうに目を向けると、彼女はベル君がなくしたエメラルドのプロテクターを見せた。ソーマ・ファミリアの一件があったから、ベル君がオークの集団から逃げる前になくしたプロテクターのことをすっかり忘れていた。ヴァレンシュタインさんが拾ってくれたのか。

 

「ダンジョンでこれを拾って、キミに直接返したいからって。私に相談しに来てくれてたんだよ?」

 

 そう言ってからベル君とエイナさんは小声で何かを話始める。その後エイナさんに背中を押され、オレとリリはギルド内へ戻っていった。

 

「さて、今日は何の用なのかな?」

「リリの移籍についての報告と、オレがしばらくダンジョンに潜れそうにないのでその相談ですね」

「えっ……!?

 と、とりあえず移籍の処理から進めましょうか。

 書類持ってくるからちょっと待っててね」

 

 その後、手続きを進めているとベル君が見るからに上機嫌で戻ってきた。それを見たリリは少し頬を膨らませたが、すぐにいつもの表情に戻った。

 手続き終了後に、オレが用事でダンジョンに潜れないため、ベル君が実質ソロで潜ることになることの報告と相談をした。今日は3人で潜ってオレができるだけ手を出さずにベル君がソロでやれるか確認するということもあり、十分注意することと、少しずつ階層を増やして進むことを条件に許可された。

 

 

「さて、ダンジョンに潜りましょうか。僕、頑張っちゃいますよ!」

「今日はベル君がソロでやっていけるかという確認と、リリの装備の確認だからね。あまり無理はしないように」

 

 ベル君はちょっと舞い上がっているように見えるので、一応オレからも釘を刺しておく。

 その後、ダンジョンに潜ったが、ベル君はソロでも特に問題はなかった。高ステイタスだけあって動きがいい。リリの装備も特に問題はないようだ。これなら、ベル君とリリだけでダンジョンに潜っても問題ないだろう。

 

 

 

「実は明日から一週間ほど、ヴァレンシュタインさんに稽古をつけてもらえることになって」

 

 夕食後、ベル君がオレの部屋を訪ねてきてそう切り出した。なるほど、今日のテンションの高さの原因がわかったよ。

 

「おお、レベル6冒険者に稽古をつけてもらえるなんて、いい経験になりそうだね」

「そうですね。それで、ヴァレンシュタインさんがサトゥーさんもせっかくだし一緒に連れてきては、と言っていたので……」

「オレもか……」

 

 オレの能力がバレる可能性はあるけど、何か戦闘用のスキルを得られるチャンスかもしれない。なにより、オレの戦闘スタイルは、スキルによるゴリ押しのままだ。いい加減、まともな剣術について学んでおきたい。ベル君の戦闘面に悪い影響が出かねないしね。

 

「とりあえず、明日は一緒に行くことにするよ。

 明日以降はソーマ様の料理人としての忙しさ次第かな?」

 

 

 翌朝、まだ日も登り切っていない時間、ベル君とオレはオラリオを囲む市壁の上に来ていた。ここがヴァレンシュタインさんとの約束した場所らしい。

 

「ごめんね、こんなところに呼び出して……」

「い、いえっ、大丈夫です!」

「こちらこそ、わざわざお時間をいただきありがとうございます」

 

 他のファミリアの人間に稽古をつけているのが知られたら問題になりそうなので、人目につかないこんな場所に来たと、事前にベル君から説明があった。

 

「え、えっと、ヴァレンシュタインさん、それで、僕たちは何を……」

「……アイズ」

「はっ?」

「アイズ、でいいよ」

 

 戸惑うベル君に対して、ヴァレン……アイズさんは相変わらずの無表情だ。アイズさん、実は無表情(ポーカーフェイス)スキルとか持ってないです?

 ベル君は顔を真っ赤にしながら言い直した。

 

「ア、アイズさん、それで、僕たちは、これから何をすればいいですか?」

「闘おうか?」

 

 そういって、アイズさんは鞘を手に持って、剣は壁の隅に置いた。

 アイズさんが鞘を構えると、それに反応して、ベル君が短刀を抜き放った。

 

「うん…それでいいよ。今君が反応した通り、これから始めることの中で色々なことを感じてほしい」

 

 特に何も感じていないオレは、ダメな生徒なのかな。

 とりあえず、オレは距離をとって動きを見学することにする。

 アイズさんがこちらに視線を向けてきた。

 

「君は来ないの?」

「これからしばらく、ベル君はソロで潜るので、ソロでの戦いを鍛えてあげて欲しいんです」

 

 アイズさんは小さく頷いてベル君に視線を戻した。

 

「そ、それより、僕の武器は、刃をつぶしてなんかは」

「大丈夫」

 

 その気になれば漫画やアニメみたいに指先でナイフを止められたりするんだろうか?

 ちょっと見てみたい。オレもできるかもしれないが、わざわざ危ないことはしたくない。

 しばらくベル君がじっとアイズさんを見ていたが、アイズさんが不意に口を開く。

 

「……君は、臆病だね。ソロでダンジョンにもぐるなら、臆病でいることは大切なことだと思う。でもそれ以外にも、君は何かに怯えてる」

 

 アイズさんは無表情のまま、一歩分距離を詰めた。

 

「多分、君はその時が来たら、逃げ出すことしかできない」

「うああああああああっ!?」

 

 アイズさんの挑発に対して、ベル君が叫びながら突っ込んだが、アイズさんに凄まじい速度の一撃を加えられて吹っ飛んだ。

 うわ、なにあれ。……というか、オレもあの一撃を受けなきゃならないの!?

 

「無鉄砲になっちゃ駄目。ダンジョンでは絶対にやっちゃいけないこと。立てる?」

 

 ベル君は立ち上がったが呼吸が乱れている。

 

「痛みに慣れてないんだね……」

 

 アイズさんって、無表情だけど、ものすっごいドSなの?

 その後も、強烈な一撃を加え、アドバイスを送りながら無表情で立てる?と一言。これの繰り返しだ。威力は押さえてるんだろうけど、ベル君、よく心折れずに立ち上がれるな……。

 

「みんな恩恵(ファルナ)に寄りかかり過ぎている。能力と技術は違うもの」

 

 耳が痛い。能力頼りです。技術などありません。

 

「工夫をしているのはわかる。けど、技とか、駆け引きとか、まだ足りない」

 

 ベル君に攻撃をきちんと防御できるようにと言って、模擬戦というか一方的な攻撃を再開したが、ステイタス的にそもそも防御不可の速度で鞘が振るわれていると思うのはオレだけなんだろうか。

 何度攻撃されても、不屈の闘志で立ち上がるベル君と無表情で攻撃を加えるアイズさんを見て、内心、ドン引きしていた。

 しばらくすると、力加減を誤ったのかベル君が派手に吹っ飛び、気を失った。

 

「あ」

 

 アイズさんが、目を見開き、攻撃の姿勢のまま立ちつくしている。

 ポップアップしたAR表示ではHPの減少も止まっているし、ただの気絶状態のようだ。能力バレの対策に、ベル君に駆け寄り、確かめる振りをした。

 アイズさんに問題ないことを伝えると、僅かに顔の力を抜いた後、こういった。

 

「次は君の番」

 

 ここに来たのは間違いだったか……。

 そう思いつつ、魔刃剣アイリスを抜く。魔刃剣は魔刃を使わなければ棒と変わらない。模擬戦をやる場合、魔刃さえ使わなければ問題ないだろう。

 アイズさんはかなりの速度でオレとの距離を詰める。昨日ベル君を捕まえる時の速度と比べるとかなり遅い。間違いなく力を抑えてるんだろうけど、それでもいろいろおかしい。

 そう思いながら、彼女が振るう鞘を目で追う。うわ、痛そうだな。いやだな。そう思っていると、自然と手が動き、魔刃剣で鞘を受け止めていた。

 

「あれ?」

 

 攻撃姿勢のまま首を傾げたアイズさんは少し距離をとり、鞘を構えなおした。再び距離を詰めてくる。いや、なんか速くなってますよ。アイズさん、力加減間違えてますって!

 さらに痛そうになった一撃を魔刃剣で受け止めると、そこから続いてもう一撃。連撃は止めて!

 何回かは止めることができたが、体勢的にかなり不利な状況になり、連撃を防ぎきることができなかった。脇腹に鞘の一撃がお見舞いされる。

 痛い痛い痛い!

 無理矢理足を動かして距離をとった。というか、ベル君、ほんとよく心が折れなかったな。HPは大して減ってないのに、オレ、もうギブアップしたい。

 

「君、とても変」

 

 アイズさんが構えを解いて話しかけてきた。

 

「レベル1のステイタスに思えないほど速いし頑丈。無茶な動きもできる器用さもある。剣に負担をかけないよう、それでいて衝撃を殺す防御の動きはとても上手。

 なのに、駆け引きがまるでない。動きに流れがなく無理矢理動かしている。だから、連撃で君の動きを誘導すれば簡単に隙を晒してしまう。駆け引きという面ではあの子よりできていない」

 

 さすが、一流冒険者、しっかり見抜かれたか。やってしまったな……。

 さて、どうしたものか。今更ごまかすのはもう無理だろう。

 そう考えていると、アイズさん少し下を見て、言い淀んだ後、口を開いた。

 

「君はどうやってその力を手に入れたの?」

 

 一応、指導してくれているわけだし答えたいところなんだが、異世界で魔法使って経験値を稼ぎました、なんて言えるわけがない。

 

「……レベル1なのは間違いありませんが、詳しいことは話せません。ベル君にもこの力については内緒にしています。

 薄々、感づいたりしてる……のかな……ベル君は隠し事ができない子なので、気付いてないとは思いますが……。あの子は強くはなってきていますが、真っ直ぐすぎて、色々と心配になります」

 

 おっと、話がずれてきている。咳払いをして話を元に戻す。

 

「残念ながら、このスキルは得ようとして得られる力の類ではありません」

 

 異世界の能力を知られるより、恩恵のスキルと思われたほうがいいだろうと、スキルと明言してみた。

 今現在、知られたのは、レベル1より高い能力があるということと、異常な技術だけだ。異常なのには変わりないが、スキルということにしておいたほうがいいだろう。

 

「……そう。不躾な質問に答えてくれてありがとう。

 他の人には言わない」

 

 残念そうに彼女はつぶやいた。ミノタウロスに襲われた時に助けてくれたし、プロテクターも拾ってくれた。恐らく、本当に他の人には言わないはずだ。

 しかし、今回のような例外を除けば、力は制限できているはずだ。

 けれど、技術に関しては、理屈がわかってないため、ONかOFFで、適当なラインで抑えるというのが難しい。ある程度慣れてくれば別なんだけど、戦闘面ではかなり先の話になりそうだ。スキルに関しては異常だと、見る人が見ればわかると思っておいたほうがいいだろう。

 ベル君やリリにも、いろいろ器用になるスキルが発現している程度にぼかして教えたほうがいいかもしれないね。表向きはそうしておいたほうがオレ自身も動きやすいと思う。

 

「……君は、痛みを受けても十分動けている。

 なので……、君はまず視線や重心移動に気を付けたほうがいい。……視線でやりたいことがわかる。……重心がある程度滅茶苦茶でも動けるからといってそれを疎かにすると防御できなくなる」

 

 アイズさんはスキルについて追求することなく、考えるように言葉を区切りながら助言をくれた。

 たしかに視線を向けた先に攻撃するだろうし、重心については全然気にしてなかったな。勉強になる。

 

「これから連撃を仕掛ける。……防御してみて」

 

 視界の邪魔になるメニューは非表示にして、魔刃剣を構える。

 最初のうちは何回かの防御の後、鞘の一撃を喰らったが、時間が立つにつれ、徐々に連撃を防げるようになってきた。ついつい力を出し過ぎて防御しないようにするのが大変だった。

 しかし、確かに自分の体勢と相手の視線というのは重要だ。勉強になる。

 そう思っていたら、ローキックを食らった。

 イタタタタッ!なんで!?アイズさんの視線はそっちに向いていないって……ああ、そっか。

 

「視線だけに頼りすぎるのも危険。こんな風にフェイントにかけられる」

「とても、勉強になります。私は基本すらよくわからないまま剣を握っていたんですね」

 

 視線も大事だけど、全体を見て相手のフェイントに騙されないよう、次の動きを予想する。言われてみれば当たり前のことなんだけど、全然気にかけてこなかったな。

 というか、空間把握スキルなんて便利なものがあるんだから、見たものに集中するのではなく、もっと意識して使っていかないと勿体無いね。

 

「う……」

 

 おっと、ベル君が上体を起こした。魔刃剣を納め、ベル君の下に歩み寄る。

 

「大丈夫かい。ベル君、立てそうかい?」

「は、はい。大丈夫です。アイズさん、続きをお願いしていいですか」

 

 アイズさんが問いかけるようにこちらに視線を向けてきたので、頷いて、ベル君とアイズさんから距離をとる。

 その後、無表情で攻撃を加えるアイズさんに、ちょっと引いた。

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