デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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23話:レベル6との戦闘

 アイズさんとの訓練も6日目、残りは今日を含めて二日だ。5日目の時点で速度を揃えた状態での模擬戦となっている。アイズさんの動きを模倣し、かなり体捌きがうまくなってきたし、流れもつかめてきた。

 なお、アイズさんの動きも何故か洗練されてきているように感じる。少しは本気を出し始めたのかもしれないね。

 さて、これまでアイズさんの動きの模倣に取り組んできたわけだが、実は片手剣スキルと模倣スキルでは細かい部分で異なる感覚を覚えることがある。なんとなく武器の耐久値に対してよくないという気がする時に、片手剣スキルとの齟齬がでることが多い。

 今日は片手剣スキルよりでアレンジを加えてみた。いつもと動きが違うせいか、アイズさんは驚いた表情をしていた。

 今日もアイズさんに一撃を加えることはできなかったが、はじめて、こちらも一撃も受けることなく訓練は終了した。

 ベル君は相変わらず吹っ飛ばされているが、不屈の闘志で立ち上がり食い下がっている。

 ベル君はある程度の手加減はしているが、オレのように速度を揃えた駆け引きの訓練ではなく、実戦的な訓練のままである。格上との訓練ということになるし、かなりの経験値(エクセリア)を稼いでいることだろう。

 帰り際、アイズさんにオレだけ呼び止められた。ベル君に先に帰るようにいって、彼女の言葉を待った。

 

「本気の君と戦ってみたい」

 

 アイズさんの口から出たのはそんな物騒なお誘いだった。オレとしても、この都市最強の女性と戦って、力を確認しておきたいという気持ちはあるけど……。

 

「何故、そのようなことを?」

「私はデスペラードの不壊属性(デュランダル)、武器が壊れない性能を活かして武器に関しては気を回さず、荒っぽく使っている。武器の整備を頼んでいる人にも、武器を労われと暗に示されている。

 けど、今朝の君の動きは、私の動きのようで、武器に無理させない動きになっていた。この数日で、私の欠点を見抜き、修正した動きになっていた。

 君の訓練のはずなのに、私は教えられている。

 君の技量はここ数日で異常なほど上がっている。

 だからこそ、君の本気を見てみたい」

 

 アイズさんにしては珍しく長文で言葉を並べた。

 

「……訓練に付き合っていただいて、こういうのも悪いのですが、私の力に関しては隠しておきたいのです」

「もちろん、口外はしない。

 速度を抑えた状態では駆け引きの訓練にはなる。ただ、実戦の速度で素早く判断することも訓練には重要。君にも利点があるはず。

 エリクサーもきちんと用意する。君に怪我は残さない」

 

 食い気味に、しかもアイズさんにしてはスラスラと答える。前もって考えてたのかもしれない。どうも、かなり戦いたいみたいだ。

 オレのスキルを言いふらされたくなければ戦え、なんて言わない点には好感が持てる。

 アイズさんにお世話になっているのも確かだ。彼女もベル君と同じく素直な人間だ。しかし、あまり表情に出ないほうなので、ベル君ほど隠し事ができない人間というわけでもないだろう。

 ここしばらくの訓練で、たしかに戦闘面はかなり上手くなっている自覚はある。アイズさんと本気で戦うことにリスクはあるが、結局のところ、オレの興味が上回った。

 

「分かりました。24時に、バベルの西門でお待ちしております。ダンジョンの適当な階層で戦いましょう」

 

 

 ソーマ様の所で料理し、リリとベル君に魔力の扱いについて訓練した後、真夜中に、装備を整えバベルに向かう。アイズさんがすでに待っていた。一応マップで警戒したが、アイズさん以外はいないようだ。

 

「すみません。お待たせしました」

「別にいい。5階層でいい?」

 

 表情の変化に乏しいが、待ちきれないというような雰囲気が伝わってくる。「戦姫」なんて、二つ名もある。バトルジャンキーなのかもしれないね。

 

「構いません。いきましょう」

 

 道中のモンスターはアイズさんが処理した。魔石狙いで灰にしている。改めてレベル6というのは凄まじい力を持っていると思う。ベル君100人相手でも無傷で勝ち抜けるんじゃないか?

 そんなことを考えているうちに、適当な広さの部屋にたどり着いた。

 

「構えて。寸止めするようにはするし、エリクサーも用意しているから、即死でなければ大丈夫」

 

 そんな恐ろしいことを言いながら、アイズさんは愛剣デスペラードを構えた。魔力視で見ると、剣を保護するようなうっすらとした鎧が剣を覆っていることが確認できた。

 デスペラードの不壊属性(デュランダル)という特性は、あの魔力の流れでそれを実現しているのだろうか?

 あの流れは憶えておいて、帰ったら試してみようか。

 とりあえず、周囲にイレギュラーがないことをマップで確認したのち、メニューを非表示にし、視界を広くしておく。並列思考と空間把握のコンボでマップを見ながら戦えないこともないが、相手の本気の力を測りかねている以上、止めておいたほうがいいだろう。

 念のため、魔刃剣アイリスに少量の魔力を注ぐ。攻撃のためというより、剣の保護の意味合いが強い。

 

「紫の光?」

「魔刃といって、魔力を注ぎ込み、魔力の刃を作り出す技術ですよ。今回は切れ味を高めるというより、剣の保護という意味で使っています」

 

 そして、剣を構える。

 一瞬の静寂の後、地を蹴る音がしたと思えばすでに目の前にアイズさんがいた。上段から振り下ろされる一撃を魔刃剣で防ぐ。想定以上に重い一撃だ。すぐさまアイズさんは横に回り込み、剣を薙ぎ払う。上半身を反らして回避したと思えばすぐさま追撃の剣閃が煌めく。

 早朝の訓練とはまるで動きが違う。これが、レベル6、アイズ・ヴァレンシュタイン。

 強さはまるで違うが、訓練中にアイズさんが教えてくれたようにオレのやることは一緒だ。

 視線の動き。

 重心の位置。

 筋肉の僅かな動き。

 そして、呼吸。

 相手の情報から先を予測して、対処する。

 彼女の剣が動く前に、その軌跡を予測できた。

 凄まじい速さの突撃から放たれる6つの剣閃を予測し、捌く。

 

「……驚いた、今のを止められるとは思っていなかった」

 

 オレ自身も自分の動きに驚いている。いつものようにしたつもりだが早朝の訓練とは何かが違う。いつもより体が軽く感じる。何かスイッチが入ったかのように大量の情報が入ってくるようにも感じる。

 アイズさんの癖はここしばらくの早朝の訓練で知っていたつもりだったが、まるで未来が読めるように動きが予測できる。

 上段から振り下ろされた一撃に対してほんの少し後ろに下がりかわす。恐ろしい速度で返す切り上げは剣の横っ腹に蹴りを入れて軌跡をずらす。お返しとばかりに彼女の蹴りが飛んでくる。

 格闘ゲームで強いプレイヤーと闘っているような気分だ。

 もっと、もっとだ。

 ありとあらゆるところに情報は存在する。

 それらを読み解き、最善の一手をうっていく。

 オレは、アイズさんとの戦いを体の隅々で味わい、己の糧にしていった。

 そして、楽しい時間はあっという間に終わる。

 

>「先読み:対人戦」スキルを得た。

>称号「剣の舞手」を得た。

 

「魔法は使わなかったとはいえ、まさか、負けるとは思っていなかった」

 

 アイズさんの顔の前に剣を寸止めした状態から、剣を引き、納める。

 夢中になってたとはいえ、正直やり過ぎたかもしれない。

 お互い、結構ボロボロだ。

 

「本気の君はまるで未来をわかってるみたいに私の動きを読んで対処していた」

 

 アイズさんは、自身の手を確かめるように見つめる。

 

「負けて、とても悔しい。

 ……でも、不思議。とても楽しかった。

 ……私はもっと強くなれる。剣の腕をもっと磨く。

 そうしたら、また、戦ってくれる?」

「ええ、違うファミリアなのでそう頻繁には無理かもしれませんが、私でよければ」

 

 オレも楽しかったし、勉強になった。また戦えるというなら戦ってみたい。

 連日はさすがに疲れそうなのでお断りだが。

 

「一応、確認しておきますと、明日の早朝は速度を揃えての剣の勝負でお願いしますよ。ベル君の前で全力を出すわけにはいかないので」

「……わかった」

 

 とても残念そうな表情だったが同意してくれた。

 

 そして、訓練最終日。

 どうにかして一撃入れたかったものの、お互い一撃も与えることなく訓練は終了した。速度をかなり抑えた状態だと、お互いに次の手をよく考えるためか、決定打がなかった。

 ただ、アイズさんの動きがかなり変わっている。彼女自身も色々試しているようだ。

 

「二人とも、とっても、すごかったです!」

「結局アイズさんに一撃入れられなかったか。ベル君、オレの代わりに一撃与えてやってくれ」

 

 ベル君に訓練中に一撃を入れるという目標を託してみた。かなり難しいことはわかっている、手加減はしてくれているものの、オレみたいに速度を合わせてまではしてくれていないしね。

 でも、ベル君は、この一週間でしっかり成長している。やってくれる可能性は十分あると思う。

 

「……わかりました。頑張ってみますね!」

 

 ベル君はそう言ってくれた。オレの中のベル君は、僕がアイズさんに一撃なんて無理ですよ、と言うイメージがあったのだが、少し認識を改めたほうがいいかもしれない。

 ベル君はアイズさんとの最後の模擬戦を行う。

 幾度か攻防を繰り返した後、ナイフの攻撃と見せかけ、鞘で防御される寸前にナイフを手放し、拳の一撃に切り替えることによって、アイズさんの不意をつき、見事ベル君は一撃をねじ込んだ。

 

「おお!」

 

 思わずオレが声をあげてしまった。

 あれだけボッコボコにされ続け、それでも立ち上がり続けたベル君が一撃を与えた。頑張っている場面をずっと見ていたため、思ってたより感情移入していたのかもしれない。

 

「やり……ました、アイズさん、サトゥーさん」

「……おめでとう」

 

 小さく微笑んで、アイズさんがベル君に祝福の言葉を告げた。

 アイズさんも初日こそドSな人と思ったけど、今となってはちょっと不器用な天然さんというのがよくわかる。ボコボコっぷりにはちょっと引くけどね。

 彼女にはお世話になっているし、今度、お菓子でもベル君と一緒に持って行こうか。ただ、外向きにそれっぽい理由もないのに訪ねるのも変な話だし……。今更だけど、この練習中に作って渡せばよかったね。

 

 

 ソーマ様の料理のほうは進展がない。

 ただ、試作料理に味を占めたのか、人気のなかったホームに何人かの試食係が交代で待機するようになった。調理室から離れた部屋で料理をツマミに昼間っから酒盛りをしている。ちょっとうらやましい。

 今日もいくつかの料理を作ったが、相変わらず神酒(ソーマ)の前ではかすんでしまったり、神酒(ソーマ)と相性が良くなかったりで、料理の糸口はつかめなかった。

 

 

 夜にベル君たちの魔力の扱いの訓練を行ったが、ベル君は一週間で魔刃を発生させるまでに至った。

 もちろん、時間はかかるし、魔刃の鋭さは足りないし、かなり魔力が発散されていて無駄が多い。確実に発生させられるわけでなく、魔力を発散させすぎて終わることもある。発生させることができても、維持できる時間はとても短い。失敗する回数のほうがまだ多い。

 正直、まだ実戦で使えるような代物でないし、MPの消費量を考えたら、ファイヤボルトのほうがよほど使えるだろう。

 それでも、魔刃を発生させられるとは思わなかった。ヘファイストス様も難しいスキルだと言っていたしね。少し興奮して、魔刃を変形させる技なんかも教えたが、もっと魔刃の精度を高めることに集中させたほうがよかったかもしれないね。

 リリにも、魔刃剣を貸して魔刃の練習をしているが、こちらは成功していない。ただ、リリが魔刃をできてもあまりメリットがないので、可能なら防御系の魔力を使ったスキルを覚えて、それを教えたいと思っている。

 実は、アイズさんの不壊属性(デュランダル)を真似して魔力を流した際、新たに魔力鎧スキルというのを覚えた。これは、剣に流し頑丈さを上げることもできるが、身に纏って防御力を上げることができるスキルでもある。

 それを教えようとしたのだが、魔刃剣やヘスティアナイフといった、流れを作ってくれる装備がないため、非常に難度が高い。ベル君でも、エイナさんからもらったナイフでは魔刃が発生させることができなかった。武器の補助機能は結構重要に思える。

 なので、リリにはまず魔刃剣で特殊な流れを作る感覚をつかんだ後に、魔力鎧の練習に移ろうと思っている。

 二人とも、以前のステイタス更新に比べ、魔力の値が大きく伸びているそうなので、練習の成果は出ているはずだと思う。




不壊属性(デュランダル)の独自設定
デスマ側の魔力鎧を輸入。
少量の魔力を呼び水に自動で魔力鎧を纏う機能。
この魔力鎧により、破壊にたいしてはめっぽう強く、少々切れ味が落ちることはあっても、壊れることはほぼない。半面、攻撃力は少し落ちる。
使い手が魔力を注ぐことで、一時的に頑丈さをあげることができるが、必要となる場面は滅多にない。

同様に魔力を呼び水に自動で魔刃を纏う機能も過去に考案されているが、元々の武器の攻撃力に対して少量しか上がらないため、鍛冶アビリティで付与する効果として使われることはほぼない。
ヘスティアナイフや魔刃剣アイリスは、魔刃を使う武器だが、両方とも神の恩恵により、鍛冶で付与される効果とは一線を画した武器となっている。
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