デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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28話:黒い階層主

 ヘスティア・ファミリアに宛てがわれたテントに入ったが、微妙な空気だ。

 モンスターを押し付けたタケミカヅチ・ファミリアのパーティーと押し付けられたベル君たちのパーティーが会えば、そうもなるけどさ。

 ヘルメス様がうまく両ファミリアを取り持った後、今後の予定を話し始めた。

 

「さて、知っての通り、ロキ・ファミリアが遠征の帰りで今この階層に滞在している。

 階層主のあのデカいモンスターは彼らに倒してもらおう。それを確認した後に出発する。

 ロキ・ファミリアが出発するのは、早くて二日後だ。

 つまり、明日はヒマだということだ。せっかくだし、18階層の街でも観光しようじゃないか!」

 

 念のため、集団行動が課せられたが、オレとリューさんについては好きにしていいとヘルメス様は言っていた。

 ちょうどいい。高台にある街で人目に触れるのも避けたほうがいいだろう。この階層の大部分を占める森にいれば、人と会わずに済むはずだ。ついでに雲菓子(ハニークラウド)はこの階層でとれるらしいし、ほかの果物を含めて適当に回収してストレージに放り込んでおこう。

 マップの検索機能で果物類を光点で表示させて、適当に回収していく。

 さすがに根こそぎとるような真似はせず、食べごろのものをいくつかとっては場所を移動して回収を繰り返した。

 モンスターの数も少ないし、なかなかいい場所である。街があると聞いて人が多そうだと、この階層には下りなかったが、顔を合わせずにいるのも難しくなかっただろう。森の中に人の光点がいくつかあったが、簡単に避けることができたしね。

 もっと早くに足を伸ばせばよかったとも思ってしまう。

 

 2日後、集合場所の天幕に顔を出した。

 ヘルメス様とアンドロメダさんはまだ観光していき、リューさんは一人で帰るそうだ。

 オレは念のため、ベル君たちに同行するつもりだった。

 天幕を引き払い、それぞれ装備を整えて、18階層の出口そばで集合とのことだったので、特に装備を整える必要のなかったオレは、そのまま出口そばに移動し、ベル君たちを待っていた。

 手持ち無沙汰だったので、ちらちらマップを確認すると、モルドという知らない男がヘスティア様と一緒に移動していることが確認できた。

 ――なにが起こってる?

 縮地までは使わないが、急いでそちらへと向かう。

 オレの移動中にモルドはヘスティア様とは別の場所に動き出した。

 ヘスティア様の近くにたどり着くと、木に縛られたヘスティア様と見張りの冒険者が数人いた。縮地からの格闘攻撃を行い、気絶させる。

 

「怪我はありませんか、ヘスティア様」

 

 そう言いながら、魔刃を指先に発生させて、ロープを切る。

 

「あ、ああ、ありがとう、サトゥー君。きみ、滅茶苦茶強かったんだね。動きが全然見えなかったよ」

 

 ヘスティア様は、驚きつつもそう返してくれた。

 

「彼らは気絶させただけです。とにかくこの場を離れましょう」

「ま、待ってくれ。ボクはベル君を誘いだすために、さらわれたようなんだ。

 透明になる魔法か何かを使う相手がいる、あっちに向かった」

 

 マップを確認すると、ベル君が複数の冒険者に囲まれている。

 ヴェルフ、桜花さんたちはベル君達のほうへ向かっているようだ。リリは小型のモンスターに変化してこちらに来ている。

 放置しても大丈夫だろうし、悪いがリリは放っておかせてもらおう。

 

「わかりました。少し飛ばします。しっかり捕まっててください」

 

 ヘスティア様をお姫様抱っこして、少し速度を出す。全力だと空気の抵抗がすごいのでかなり抑え気味だ。

 

「ちょ、ちょちょ!……速すぎ……!」

「我慢してください。ベル君のためです」

 

 叫ぶヘスティア様を無視して先を急ぐ。ちょっとしたジェットコースターみたいなものだ。そこまで恐怖を感じるものでもないと思う。たぶん。

 

 ベル君たちのところに辿りついたのは、ヴェルフや桜花さんたちがベル君の元に辿りつき剣を抜いたのと同じくらいだった。

 ベル君は透明となったモルドと1対1で戦っていた。冒険者に囲まれていたのは、ベル君を逃がさない壁の役目のようだ。ベル君はほんの少しHPは減っていたが、気配で動きを察知したらしく問題なく相手の位置をわかっているようだ。スキルなしで器用なことをする。

 大怪我をする前に到着できたことに、少し安堵する。

 

「ベル君達、ボクはもうこの通り無事だ!

 無駄な喧嘩は止せ!

 君達も、これ以上いがみ合うんじゃない!」

 

 ヘスティア様が一喝する。

 縮地でちょっと介入しようと思っていたが、ヘスティア様に従い腕を下げた。ベル君やヴェルフ達も武器を下した。

 

「神の指図なんざに構う必要ねぇ!やれ、やっちまえ!!」

 

 透明になっていたモルドが叫ぶ。空間把握スキルがとびかかろうとするモルドの気配を捉えたが、その瞬間。

 

「――止めるんだ」

 

 冒険者たちは金縛りにあったように、体を一斉に停止させる。モルドも透明状態から元に戻り、顔を青くしている。

 ヘスティア様は神威を解放したようだ。なにか体を押さえつけるような寒気を感じる。

 

>「神威耐性」を得た。

 

 また、神様に喧嘩を売るような、ポイントを振っていいのか悩む耐性を得たものだ。

 普段から神威には接していたはずだが、ある程度の強さを持って放たれないと取得はできないということか。

 リューさんとリリがこのタイミングで現れたが、彼女たちには目も向けず、冒険者たちは一人、また一人と逃げ出した。

 人数が多いので他が逃げる分には好きにさせるが、モルドだけは無理矢理に腕をつかんで止める。

 

「……その兜、頂戴?」

 

 他の装備は銘なしなのに、この兜だけハデス・ヘッドという銘が付いている。相場スキルで表示されている情報も「-」となっている。恐らくこれが透明化の原因だろう。

 怯えたように声をあげたあと、モルドは兜を投げ捨てるようにした。

 

「……さすがにそれはどうかと思いますが?」

 

 微妙に呆れた表情で桜花さんが声をかけてくる。

 

「……恐らく、これが透明化の原因となるアイテム」

「その兜がですか!?」

「……透明化できるアイテム……あの程度の冒険者が買えないくらい高値がつきそうかな」

「大金を得たいがために、奪ったと?」

 

 軽蔑したような視線を向けてくる。いや、たしかに夢が溢れるアイテムだし、個人的に欲しかったけど、違うんだよ。

 

「この兜を渡した人物が……冒険者をベル君に仕向けた可能性がある」

「……なるほど」

 

 この世界では神秘という発展アビリティがないと、この手のアイテムは作れないらしい。

 残念ながら、AR表示の製作者の欄が生きていないので確定事項ではないが、これを作ったのは、万能者(ペルセウス)の二つ名を持つ、アスフィ・アル・アンドロメダだろう。彼女とヘルメス様が監視できる場所で待機中なのがマップからわかるので、少なくとも関係はあるはずだ。

 彼女というより、その上のヘルメス様を少し問い詰めたほうがいいかもしれない。

 ダンジョンを移動中にヘスティア様に話していた、「ベル君の様子を見る、ベル君を見極める」というスタンスにしては、少しイタズラが過ぎる。

 

「この兜を渡した人物の名は……?」

 

 ほぼヘルメス様の手の者だろうと思うが確認しておこう。そう思って、モルドに尋ねたと同時に、天井に生えた数多の水晶、その中の一番大きな水晶に亀裂が走る。モンスターが生まれる際の壁のひび割れと似ている。

 

「ありえません、ここは安全階層(セーフティポイント)です!」

「まさか、ボクのせいだっていうのかよ?」

 

 ヘスティア様の言葉に、思わず視線を向ける。

 

「たった、アレっぽっちの神威で……バレた!?」

 

 水晶の雨と共に降り立ったのは黒いゴライアスだ。

 あの黒いバカでかい巨人のそばには、ベル君を囲んでいて逃げた冒険者たちがいる。

 モルドは明らかに怯えた表情をしている。逃げた冒険者も似たような気持ちだろう。

 ロキ・ファミリアが階層主を倒すのを待っていた連中だ。通常種より強そうなゴライアス相手なら、当然、逃げの一手しかない。

 

「あのモンスター、神を抹殺するために送られてきた刺客だ」

 

 ヘスティア様はそういうが、幸いなことに知能は低く、手当たり次第、獲物を襲っているようで神様を集中して狙うような思考はしていないようだ。

 

「……は、早く、助けないと!」

 

 逃げまどう冒険者達を見て、黒いゴライアスに恐怖しながらもベル君はそう言い飛び出そうとしたが、リューさんに腕をつかまれる。

 

「本当に、彼らを助けにいくつもりですか、このパーティーで?」

 

 ベル君はほんの一瞬迷いを見せた。

 

「助けましょう」

 

 しかし、ベル君は答えを変えることはなかった。本当に呆れるくらいにまっすぐな子だ。

 モルドも信じられないようなものを見る目でベル君をみている。

 

「貴方はパーティのリーダー失格だ。だが、間違っていない」

 

 そういってリューさんは飛び出した。

 他のメンバーも異を唱えずに笑って頷いた。ならば、オレも参戦したほうが安心できる。オレもリューさんの後を追った。モルドを焚き付けた人物は気になるが、ひとまず放っておくことにする。

 

 千草さんとヘスティア様は街に行きアイテムを仕入れて、援軍を頼むために別行動だ。

 リューさんが階層主を受け持ち、それ以外が雑魚を減らすのが主に行うとのことなので、黒い階層主の叫び声で呼ばれた周囲のモンスターの魔石を目がけて魔刃砲をばら撒き、モンスターの数を減らしていく。

 意識を他の冒険者から逸らすためか、桜花さんと命さんがリューさんに続き攻撃を加えたようだが、武器のほうが破損する程度に表皮は固いようだ。

 

「固い……それに、動作が速い。やはり通常の階層主(ゴライアス)とは違う」

「もうしばらく引きつけて!……安定したら、参戦する」

 

 モンスターの数が多い。

 リリやベル君がモルド一行を助けるのを目にしつつ、周囲のモンスターを減らして戦場を安定させていく。

 

 しばらく殲滅を続けていると、アンドロメダさんが爆薬を黒いゴライアスに投げつけた。

 ヘルメス様にとっても、さすがにこれはイレギュラーなのか?

 マップを見ると冒険者の援軍も来ているようだし、もう雑魚は他の人に任せていいだろう。オレも黒いゴライアスに攻撃を仕掛ける。しかし、たいして魔力を込めていない魔刃砲はどうやら効かないようだ。

 しょうがないので、魔刃剣アイリスに魔刃を発生させて魔力をそこそこ流し込む。紫の燐光が魔刃剣から溢れだした。

 

「今から来る援軍が魔法の一斉射撃の準備を行います。二人とも、ゴライアスの注意を引きつけておいてください!」

 

 アンドロメダさんがオレとリューさんに声をかける。

 

「わかりました。それでは私と、ナナシと、貴方で、敵の意識を分散させましょう」

「え、いや、待っ――」

 

 リューさんの返答に、なにかアンドロメダさんの叫びが聞こえたようだが、無視をする。

 オレとリューさんが前後左右から足を中心に斬撃を仕掛け、アンドロメダさんが周囲から投擲などを行う。

 なかなかうまく連携が取れていると思う。しかしながら、体皮を切り裂くに至らないし、あまり大きなダメージは与えられてない。

 もっと魔力を注ぎこめばそれも可能だろうが、無理をすることはないだろう。戦線は安定しているし、一斉射撃があるなら、そちらに任せたほうがいい。

 姿を偽っているとはいえ、わざわざ目立つ行動をとらないほうがいいだろう。

 途中、ベル君がゴライアスの一撃を回避しつつ、逆に一撃を当て、ゴライアスをよろめかせる場面があったが、正直ヒヤヒヤした。

 リューさんが面倒を見てくれるようなので、彼女に任せておく。

 よく見ると、ベル君たちが助けた冒険者たちも、雑魚狩りに参戦していた。

 そうしてしばらく時間を稼いでいると、

 

「前衛、引けえぇっ!でかいのぶち込むぞ!」

 

 待っていた言葉がきた。ただちに距離をとる。

 火の雨に雷の弾に氷の槍に風の刃、多種多様な魔法が炸裂し、爆音が響き渡る。

 これはすさまじい。

 立ち込めた煙がはれると、黒い体皮は傷つき、えぐれ、赤い血肉を晒している。ちょっとグロイ。しかし、明らかにダメージを負っているし、チャンスではある。

 

「ケリをつけろてめえ等ぁ!たたみかけろおおおおっ!」

 

 アタッカーが四方八方からゴライアスに襲いかかる。

 しかし、見覚えのある赤い光の粒子がゴライアスの体皮から発散され、みるみるうちに傷は癒えていき、完全になかったものとなる。

 ――自己治癒スキル持ち!?

 攻撃しようと近づいたが傷が治るのをみて呆然としているアタッカーがほとんどだ。

 立ち上がったゴライアスは両手を頭上高く振り上げた。

 ――アレハヤバイ!

 危機感知スキルが強烈な警告を鳴らす。

 魔刃剣に、追加で魔力を注ぎつつ、ジャンプで高速接近し手首を切りつける。

 抵抗を感じず、硬皮を刃が切り裂く。

 ゴライアスが痛みに攻撃を止め、叫び声を上げる。

 よし、攻撃を中断させることができた。

 

「陣形を整えろ!」

 

 呆然としているアタッカーに声をかける。

 そうこうしている間に赤い光が先ほどつけた傷を治してしまう。

 全回復するボスとか昔懐かしのゲームじゃないんだから勘弁してくれませんか。

 さすがにMP切れまで付き合いたくはない。

 魔法部隊に目を向けるが、かなりMPの消耗が激しい。

 ゴライアスとの根競べは分が悪い。

 

「その剣で魔石を狙えますか!?」

 

 リューさんがゴライアスの攻撃を躱しつつ、声をかけてくる。

 たしかに、ほかに勝ち筋が見えない。

 魔法の乱射でゴライアスの皮は貫けるが、剣撃だとオレ以外に皮を切り裂いたものはいない。やるしかない。

 

「切り札を切る!時間を稼いで!」

 

 そういって、距離をとり、突きの構えをとる。

 あの回復力だ。一撃で仕留める必要がある。念には念を入れ、もっと強い一撃を繰り出す。

 大型モンスターの魔石狙いと聞いて思い出したのは、シルバーバックを倒した時のベル君だ。武器を含め、体全体を一本の突撃槍のように使ったあの強烈な突きだ。

 魔刃剣アイリスの貫通能力をさらに高めるため、魔刃剣には合計2000ポイントほどの魔力を注ぎ込む。魔刃剣を軸に巨大な突撃槍をイメージして魔刃を形成した。

 紫紺に光輝き、周囲をまばゆく照らす巨大な光槍ができあがった。

 周りの冒険者がこちらをちらちら見てるが、それどころじゃない。

 黒いゴライアスが明らかに警戒した目でこちらを見たのだ。

 

「これは周囲に被害が出る!離れて!」

 

 思いっきり地面を蹴るつもりなので、反動で周囲の人を巻き込まないように遠ざける。黒いゴライアスがこちらを見た時点で、結構な人が距離を取っていたが、武器を構えて立ちはだかった人もいるので離れるように仕向ける。

 まだMPは残っているものの、ほとんどはこの魔刃に注いだ。これで効かなかったら……。

 嫌な未来が一瞬、頭をよぎったが、大きく息を吐きこの一撃を完璧なものにすることに集中する。

 

「いくぞ!」

 

 声で、周りに警告を出しつつ、思いっきり地面を蹴る。

 地面がひび割れた。

 地面が柔らかすぎて蹴破ってしまい加速が十分ではない。

 天駆スキルで頑丈な足場を作り、さらに加速する。

 その勢いのまま、足や腰や腕、全身を連動させ、力を余すところなく突きに込める。

 想定以上の威力があったのか、なんの抵抗も感じずに、ゴライアスの魔石をその体ごと貫いてしまった。

 ゴライアスを貫通した後、慌てて天駆を使い空中で勢いを殺したが、刺突の衝撃は留まることを知らず、迷宮の壁まで衝撃が届き、轟音とともに壁に大穴を開けてしまった。

 天駆で空中に浮きながら、後ろを振り返ると、大穴の空いた体がゆっくりと灰になり、その大量の灰の上にドロップアイテム『ゴライアスの硬皮』が残された。

 まわりの人々がポカーンと大口を開けてこちらを見ている。うん。ちょっとやり過ぎたかもしれない。

 

>称号「巨人殺し」を得た。

>称号「階層主殺し」を得た。

>称号「絶望を打ち貫く者」を得た。

>称号「名も無き英雄」を得た。

 

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