ランクアップが公表され、オレがレベル2になったことが知れ渡った。
それと同時に、短期間にレベルアップしたこと、ダンジョンに潜らずソーマ・ファミリアに入り浸って料理ばっかりしていたこと、料理で偉業をなしたこと、なども噂として流れ出した。
「料理でランクアップしたんだって?その料理を食べさせてくれ!」
「やあ、サトゥー君。君に神に料理を献上する栄誉を与えよう!」
「私だ、サトゥー!料理を作ってくれー!」
なんて言葉を投げかけてくる神様が現れるのも、ベル君の時の例を見れば、想定の範囲内というわけだ。
ただ、ベル君の時は結構早く波が引いたのに、オレの時はそこそこ続いている。
ベル君は世界最速でレベル2になった点が評価されたが、オレの場合は、神の酒に匹敵する料理という点が評価されているようだ。
「――と、いうわけで、ヘスティア様、どうにかなりませんか?」
「う~ん、すまないね。ボクがヘッポコな神だから、他の神に言ってもあまり効果を見込めないんだよ……」
ツインテールがしおれた状態のヘスティア様がそう答えた。
「数日間、屋台で料理を売ってはいかがでしょうか?」
リリがそう提案してきた。
「でも、他の神どもが余計調子に乗らないかい?」
ヘスティア様が首をかしげながら、リリに向けて尋ねた。
「サトゥー様の料理は、
噂では、どうも過剰にサトゥー様の料理を評価する傾向にあります。一度食べると中毒になるほどおいしいとの噂を、リリは耳にしました」
それはひどいな。そこまで大した料理じゃないはずなんだけど。
「そのため、実際に料理を神々に食べてもらえば、確かに美味しいが、噂は大げさなものだということになるとリリは思うのです」
なるほどね。たしかにそんな噂が出てるなら早めに火消しをしたほうがいいだろう。
「膨れ上がった噂に現実を突きつけるという点では賛成なんだけど、屋台ってお金を払えば借りれるものなのかい?」
「ええ。可能なはずですよ」
「せっかくだし、ボクのバイト先で、ジャガ丸くんを作って売ってみないかい?」
ヘスティア様が良いこと思いついたというような表情でそう言った。
「シンプルなジャガ丸くんなら、いくらサトゥーさんの腕でも大きく味が変わらないでしょう。いいのではないでしょうか?」
「じゃ、さっそくオーナーに交渉してこようか。
サトゥー君もおいで。顔くらいは見せておいたほうがいいだろう」
その後、ジャガ丸くんの屋台を複数だしているというオーナーに会いにいった。
料理でランクアップという噂は聞いていたらしいが、試験としてジャガ丸くんを作らされた。
オーナーが食べた時の第一声が「究極のジャガ丸くんを作ろう。オレが極上の食材を用意する」だったのには、ちょっと引いた。オレの調理スキルと家事アビリティは一体どうなっているんだ。オーナーさんが大げさなだけだよな?
屋台の件は問題なく承認され、最高の食材を手配してやるとの言葉をもらった。
せっかくなら、美味しいものを作りたいので、早速オーナーさんに食材を集めてきてもらい、明日に向けて試作と仕込みを行った。
ジャガイモや衣、油など色々用意してくれたので、色々と組み合わせて、できるだけおいしいものを目指してみた。
翌日、指定の場所に、売り子役のヘスティア様と一緒に向かうと、オーナーさんの他に、なぜかアイズさんがいた。
「どうしてヴァレン何某が?」
「オーナーさんに究極のジャガ丸くんが誕生すると聞いて」
「……さすがに言い過ぎだと思いますが精一杯作らせてもらいます」
とりあえず、前日仕込んだタネに衣を付け、揚げて、アイズさんに差し出す。
アイズさんは緊張した面持ちで一口かじった。5秒ほどためた後、
「これは、最早『ジャガ丸くん』じゃない……『ジャガ丸さん』というべきもの!」
カッと目を見開いてそう宣言した。
オーナーさんにもひとつ渡すと
「絶妙なジャガイモの潰し加減、厚み、衣の細かさ、揚げ具合、全てが素晴らしい!まさに究極のジャガ丸くんだ!」
などと叫び始めた。
看板の文字の「くん」に斜線を引き「さん」に変え、値段も普通のジャガ丸くんより高くなっていた。
値段についてはいい材料使っているから仕方がない。普通のよりはおいしいとは思うけど、味についてはそこまでいうほどのものかと思ってしまう。
販売を開始すると、物珍しさからか、アイズさんが近くで大量のジャガ丸くんを食べていたことからか、かなり並んでくれた。
想像以上に売れ行きがいい。オーナーさんに追加の食材を頼んで、揚げるのと並行してタネを仕込んでおくことにしよう。
「サトゥー。たしかに美味しいがこれが君の本気なのかい?
一度食べると、他のものは食べられなくなるほどの味だと、神の仲間が言っていたが?」
「食材にこだわった本気の一品ですよ。噂が真実とは限りません」
神もそこそこ食べに来ているようだ。
当初の目的であった噂の解除も、上手くいっているようだ。
勧誘もかけてくる神もいたが、ヘスティア様がいることに気付くと「ヘスティアがいない時にまたくるよー」といった軽いノリで去っていく。
加えて、料理でランクアップということが気に入らないのか、馬鹿にするような冒険者も中にはいたが、
オーナー自らの目利きをした食材を追加で調理しつつ、1日目は盛況のなか、店じまいをした。
「お疲れ。サトゥー君」
「ヘスティア様もお疲れ様です。特に他の神の相手は大変だったでしょう?」
「ずっと料理していた君ほど大変ではなかったさ」
オーナーさんが笑顔で近づいてきた。
「お疲れ様。屋台をするのは初めてだったんだろ、どうだった?」
「コンロをもう少し増やして回転率あげたいですね」
オーナーさんの問い掛けにそう答えた。
どうしても、待ちの時間が発生するのは仕方のないことなのだが、もう少しコンロが多くても捌けるだろうと思っていた。
待たせるのも忍びないし、もう少し回転率をあげたいものだ。
「ははは、わかったよ。少し大きめの屋台でコンロを増やしておこう。手伝いの連中は要らないかい?」
「長くやるなら考えますが、今回はあと2日で終了の予定ですので、ひとまずは調理は一人でこなします。売り子としてヘスティア様も手伝ってくれていますし」
その後の屋台もオーナーさんの食材の手配と、ヘスティア様の協力もあり、順調に運営することができたと思う。
それと、いつのまにか、奇跡の料理人という二つ名が出回っているようだ。
「奇跡の料理人よ、ジャガ丸さん2つだ」というオーダーもあったので、並んでいる人にも知られて、さらに広がったかもしれない。
ちなみに、値踏みするような目でみる神様やこちらを挑発するような冒険者もいたのだが、毎日来てくれるようなリピーターも何人もいた。
特に毎朝、アイズさんが大量にジャガ丸くんを買いにきては、幸せそうに食べていったのが印象的だ。あの人、そんなにジャガ丸くんが好きなのか。
そんなことを振り返りながら、クリーンで借りた屋台を清めているとオーナーさんが声をかけてきた。
「これで、君の屋台はひとまず終了だね。お疲れ様」
「いえ、オーナーさんも屋台や食材の手配などお疲れ様です。おかげ様で、安心して調理に集中できましたよ」
「また屋台を開いてみてくれ。結構なリピーターもいたしね」
「そうですね。何かの折にまた屋台を開くのもいいかもしれません」
「私個人としては屋台を通り越して、店を任せたいレベルなんだけど、君にそのつもりはないんだろう?」
「ええ、もうしばらくは仲間と一緒にダンジョンに潜りたいと思います」
ベル君はトラブルによく巻き込まれるからね。ずっとついていくわけにもいかないけど、ダンジョンにはなるべくついていきたいと思っている。
「そうか。もし、食材なんかで欲しいものがあるなら私に相談してくれ。良いものを安値で用意しよう」
「ありがとうございます。何かあればご相談させていただきます」
ホームに戻ってしばらくするとベル君達が帰ってきた。
ベル君が顔を腫らしていてギョッとしたが、どうもホームに戻る際に、冒険者にヘスティア様を馬鹿にされて喧嘩になったようだ。しかも、相手に殴られた後に気付くほどの速い一撃だったらしい。ロキ・ファミリアの冒険者の介入により、その場はすぐ収まったそうだが……。
しかし、ベル君より格上の冒険者が喧嘩を売ってきたか……。トラブルに愛されてるよね。本当に。
オレがそんなことを考えていると、ヘスティア様はベル君を優しく諭し、相手のファミリアについての話になった。
「相手は太陽のエンブレムをつけてました」
「アポロン・ファミリアでしたっけ?
そういえば、屋台にも来て一通り絡んできましたよね、ヘスティア様」
「ああ、あのしつこかった子たちか。並んでいる人達がいるってのに長々と絡んできて、最後には並んでいる冒険者が怒ったから帰っていったんだね」
オレに絡み、手を出させようとしたが、無理だったのでベル君たちに喧嘩を売りにいった可能性がある。少し気を付けたほうがよさそうだ。
翌日、ダンジョンからの帰りに、アポロン・ファミリアの女性二人に手紙を渡された。どうも、神の宴の招待状らしい。
弱小のヘスティア・ファミリアとそこそこの規模のアポロン・ファミリアだ。喧嘩をしたという負い目がある以上、参加を断るのはよい選択とはいえないだろう。
その点はリリとも意見が一致した。
ヘスティア様に手紙を手渡すと微妙な顔をした。どうもアポロンとは天界で色々あったらしい。
「今回の神の宴は、自慢の眷属の子を一人連れていく趣向らしい」
「誰を連れて行くんですか?」
ベル君が尋ねる。
「サトゥー君にしておこうか?
落ち着きがあるし、あちらの挑発にも冷静でいられるだろう。
それに料理上手だし、宴の料理を再現とかできるんじゃないかい?」
「食べただけで再現ができるのかは確約できませんが……。
それより、礼儀作法なんて詳しくありませんよ?」
「相手もそこまで求めてないだろうさ。ボクもたいして作法を守っているわけでもないしね。一応、軽く教えておくよ」
「アポロン様は、何か仕掛けてくるとリリは考えます。お二人ともお気をつけてくださいね」
警戒を促してきたリリに頷き返す。
その後、軽くヘスティア様から礼儀作法について講習を受けると、
>「社交」スキルを得た。
>「礼儀作法」スキルを得た。
とログがでたので、両方にそれぞれ5ポイントほど振っておく。
完璧すぎると逆に怪しまれそうなので、半分までにしておいた。
これでも、ヘスティア様に恥をかかせない程度の動きができると思う。
神の宴当日、パーティー会場へはミアハ様と店員さんと一緒に馬車で向かった。
普段は参加しないらしいが、偶にはということで説得し、お金もヘスティア・ファミリアから出している。以前の捜索隊の際に、ポーションを提供してもらったしね。
ファミリアのお金を管理しているリリも若干迷いを見せたが、お金を出す許可をくれた。
パーティー会場で、顔見知りの神とヘスティア様が会話をしていると、主催者のアポロンの挨拶が始まり、本格的に宴が始まった。
アポロンと接触しようにも周りには多数の神がいて、話すにも一苦労しそうだ。
とりあえずは宴を楽しもうということになり、味を盗むべく、珍しい料理に手をつけつつ、知り合いの神に捜索隊のお礼を言ったりして時間を過ごした。
広間の入り口に大きなどよめきがあったので、そちらに目線を向けると、バベルの最上階にいた銀髪の女性がいた。
「フレイヤ様だよ、サトゥー君」
「美の神様でしたか?
下界の子が見つめると、たちまち虜になり魅了されてしまうとか。たしかにそれも納得です」
「そ、そうだ。視線を合わせちゃ駄目だ!」
ヘスティア様が必死に止めてきた。もう少し眺めていたかったが、仕方がない。ちらちら見る程度にしておこう。
彼女がこちらを見たが、一瞬、がっかりしたような表情を浮かべたように見えたが気のせいか?
フレイヤ様はヘスティア様に挨拶をした後、オレに声をかけてきた。
「とても美味しい料理を作るそうね?
今夜私のために一皿作ってくれないかしら?」
「作るかァ!」
フレイヤ様の問い掛けに対して、ヘスティア様が答えた。
フレイヤ様とオレの間に立ち、捲し立てる。
「いいかい、この女神は男を見れば手当たり次第ペロリと食べてしまう怪物みたいな奴なんだ!料理だけで済むわけがないぞ!?」
個人的にはそれで構わないのですが。むしろ、お願いしたいです。
「あら、残念。ヘスティアの機嫌を損ねてしまったようだし、もう行くわ。それじゃあ」
入れ替わるように男装をしたロキ様と、ドレス姿のアイズさんが現れた。
ヘスティア様とロキ様がじゃれあっていると、アイズさんがこちらに近寄ってきた。
「……ジャガ丸くん」
「え?」
「……次、ジャガ丸くんの屋台はいつ開くの?」
この人は、そんなに気にいったのか?
「今の所、特に予定はないですが……」
「……そう」
下を向き、ガックリと肩を落とした。ションボリとしたオーラが全身からでている。え、そんなに悲しむの?
「ああああっ!うちのアイズたんを悲しませるとか、何考えとんねん!今すぐジャガ丸くん作ってこんかい!?」
「ボクの眷属に、何、命令しているんだ!」
神様同士で相変わらず言い争っている。その争いを周りの神様は見世物代わりにして楽しんでいるようだ。
「えっと……、そのうち、きっと、また屋台を開きますので、そう落ち込まないでください」
「……ほんと?」
「ええ、もう屋台は開かないというわけではないです」
「わかった。次に開くことになったら、絶対に知らせて」
「わかりました」
アイズさんをなんとかなだめたころ、神様同士の争いもひとまず終了したようだ。
「いくで、アイズたん!」
「サトゥー君、こっちに来るんだ!」
ヘスティア様がオレの腕を引っ張る。胸がオレの腕に当たる。幸せな感触を楽しみつつ、ヘスティア様に従い移動を始めた。