デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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37話:新たなる魔法

 まず、ナナシとしてヘルメス様に会いに行こう。今日もホームの私室にアンドロメダさんと二人でいるみたいだが、透明な護衛はいないようだ。

 隠形系スキルを使って、サクサクとヘルメス様の私室のドアを開ける。

 

「こんばんは」

「げっ!ナ、ナナシ!?」

 

 げっ、って……。いや、脅したのオレだけどさ。

 

「イシュタル様にベルを襲うよう焚き付けた?」

「ち、違う!アレは仕方がなかったんだ!彼女の魅了の力で全て喋らされて!」

 

 指先に魔刃を発生させながら尋ねたら、すごい早口で返してきた。

 

「何を話したの?」

「フレイヤがベル君にご執心ってことだよ!イシュタルはフレイヤを敵視してるから、嫌がらせのためにベル君を襲うかもしれないと思って、オレ、ベル君にわざわざ警告しにいったんだよ!相談にも乗ったよ!ヒントもあげた!」

 

 必死にヘルメス様が語る。いや、結構新情報が出てくるな。

 イシュタル様がフレイヤ様を敵視しているとか知らなかった。一番驚いたのはフレイヤ様がベル君にご執心って点か。オレだったら大歓迎なのに。

 

「オ、オレは今回は殴られずに済む?」

 

 演技だとは思うが、ヘルメス様がビクビクとした態度で尋ねてきた。ベルくんの警告やヒントもくれたし、身内に処分を任せよう。

 

「アスフィ、私が出ていったらヘルメス様を殴っておいて」

 

 この程度の形式上の罰くらいでいいだろう。あのフレイヤ様と同じ美の神のイシュタル様に迫られたら、喋りたくなるのも無理はない。あの時の脅しはソレ以下の衝撃しかなかったってことだけど……。

 

「きちんと殴るわ」

 

 妙に気合いの入った返答だ。

 

「ナナシはこれからどうするか聞いていいかい?」

「イシュタル様を天界に送ることも簡単だけど、さすがに警告なしで送る気はないよ?」

 

 今回は、殺生石を盗むだけに留めておくつもりだ。ナナシとしてイシュタル様に姿を見せるつもりはない。

 春姫さんの件を力づくで解決ってのが難しい気がする。力で強制的に移籍可能状態にさせたとしても、あとで春姫さんにちょっかい出されそうだし、匿う場所がない。

 それに、アンドロメダさんは本当に怯えているようにみえるけど、神であるヘルメス様は、前回の脅しに対してあまり懲りてないように見えるからね。ちょっとイシュタル様を脅したところで、またちょっかいを出してくると思う。

 一応、神様も致死量のダメージを与えれば、天界へ強制送還され、眷属の恩恵も無効化されるらしい。しかし、殺すのはさすがに抵抗がある……。

 春姫さんをどうするのかって問題はあるが、春姫さんの故郷に返そうにも、伝手がない。ナナシとしてタケミカヅチ様に接触して、ある程度、故郷に送り届け、匿うための環境が整ってから、春姫さんを迎えにいったほうがいいだろう。

 

「ちなみに、ヘルメス様の天界送りも検討したし、もう少し気を付けることをオススメする」

 

 実際に行うつもりはないに等しいが、ヘスティア・ファミリアのために検討したことは事実だ。釘を差すために一応いっておく。

 

「わ、わかったよ」

 

 神妙な面持ちでヘルメス様が答えるが、大して懲りてないんだろうなとも思う。

 話も終わったし、隠形スキルを使って部屋を出た。

 マップを見ると、ヘルメス様が気絶状態になって結構HPが減っている。アンドロメダさん、これ、結構マジで殴ってないですか?

 

 さて、イシュタル・ファミリアの潜入だが、こちらも隠形系スキルでサクサクと移動ができた。警備自体はあるものの、そこまで厳重ではなく簡単に目的の部屋までたどり着いた。

 マップによると目の前の金庫に殺生石が入っているが、重そうで頑丈そうな大きな金庫だ。音が出るの覚悟で指先に魔刃を発生させて切りつけると簡単に穴が開いた。殺生石を探してストレージに収納する。

 マップで光点が近づいてきたので、さっさと部屋の外に出て隠形スキルで潜む。そのまま急いでイシュタル・ファミリアを後にした。

 

 その後、サトゥーとして春姫さんに会いにいった。殺生石が盗まれたことを話すわけにもいかず、昨日と同じく他愛もない話をして過ごした。

 アニメから適当に掻い摘んだ話はなかなか春姫さんに好評のようだ。聞いたこともないような話なので楽しいとのことだ。

 帰る間際に菓子のリクエストを聞くと、団子が食べたいとのことだ。美味しい団子を用意しよう。

 

 遊郭を出ると、アマゾネスの戦闘娼婦(バーベラ)があわただしく走り回っていた。賊を探しているんだろうけど、姿も見てない状態でどうやって見つけるつもりなんだろうね。そのまま歓楽街を後にした。

 

◆◆◆

 

 殺生石を盗まれた、その事実はイシュタルを激怒させた。

 誰にも気付かれずに金庫の間に侵入し、盗むという桁外れの力。フレイヤ・ファミリアしかありえないだろう。

 

「フレイヤめぇえええええ!」

 

 あのいけすかない女神は、ヘルメスから話を聞き、当てつけのように殺生石を盗んでいった、イシュタルはそう考えていた。

 春姫を始末しないところを見ると、春姫の持つ魔法の内容まではバレていないようだが、もう一度殺生石を用意するにも、時間がかかる。しかもヘルメスの伝手なくして、フレイヤにバレないように集めなければならない。

 

「ヘスティア・ファミリアの誰かの可能性はないのか?

 春姫のところに奇跡の料理人が通ってたんだろ?」

 

 戦闘娼婦(バーベラ)が軽い口調で疑問を呈す。たしかに、ヘルメスが口を滑らせて、ヘスティア・ファミリアが殺生石のことを知った可能性はある。

 春姫を殺さなかったという点では、たしかにこちらの行動とも思える。

 

「たしかに戦争遊戯(ウォーゲーム)での戦いはそれなりだったが、だからといって誰にも気づかれずに潜入して、金庫を切った挙句、逃げられるかというとな……」

 

 眷属5人、最大レベル3のファミリアだ。誰にも気づかれずに侵入を果たし、あの金庫を斬り、そして音もなく逃げ出せるとは思えない。

 

「殺生石がなければ、さすがにフレイヤ・ファミリアを相手にするのは難しいですね。ベル・クラネルの捕獲もやめたほうがいいのでは……?」

 

 戦闘娼婦(バーベラ)の一人の意見に、イシュタルの中で葛藤が巻き起こる。しかし、一つの結論に達した。

 

「いや、ベル・クラネルの捕獲は早急に行え!

 せめて、奴を骨の髄まで魅了して、フレイヤの悔しがる姿を笑ってやろう!」

「しかし、早急に、といわれても、あいつらダンジョンに潜ってないからな……。

 商会を通じて、冒険者依頼を出しておびき寄せようにも、借金まみれのファミリアの癖に拒否しやがったしな」

 

 町中で襲うわけにもいかない。イシュタル・ファミリアはギルドに対してある程度大きな顔はできるものの、そこまでしてしまえば言い訳はできない。

 

「料理人が入れ込んでる娼婦の身請けについて話したいことがある、なんていえば案外簡単に釣れるんじゃないか?

 無理矢理襲うんじゃなくて、奴の興味を引いて自分の足で来るように差し向けて、魅了しちまえば、ギルドも文句は言えないんじゃないか?」

「それだ!」

 

 どうして、もっと早く気付かなかったのか!

 怒りでフレイヤに仕返しをすることしか頭にないイシュタルはそう考えた。

 そして、フレイヤの執着を甘く見ていた。

 

「明日中には接触して、ベル・クラネルをここへ自ら足を運ばせるのだ!」

 

◆◆◆

 

 翌日、ヘスティア・ファミリアでの空気は重苦しいものだった。

 ナナシが殺生石を盗んだと報告しようかと思ったのだが、ベル君は絶対に顔に出そうなのでやめた。

 代わりに、遊郭の帰り、誰かを探すように戦闘娼婦(バーベラ)たちが走り回っていたと報告した。イシュタル・ファミリアが殺生石を用意してまで闘おうとしていた敵勢力が、もしかしたら殺生石を壊したのかもね、という予測を添えておいた。

 少し空気が軽くなったが、あくまで予測だ。春姫さんをどうするかという問題もある。

 そんな時、ヘスティア様が、ステイタス更新をしようといいだした。皆、素直に従った。

 

「それでだ。サトゥー君、君、殺生石を壊してきたのかい?」

 

 更新をしながら、ヘスティア様はそう尋ねてきた。説明の際に嘘をついた覚えはないのだが、見破られていたようだ。

 

「ええ、お察しの通り、殺生石を盗んできましたよ。もとは狐人(ルナール)の遺体を加工したものということで、埋葬しようかと思ったのですが……」

「……加工される前ならともかく、今は再利用されないように綺麗に砕いてあげるのがいいと思うよ」

 

 その声色からヘスティア様な複雑な心境がうかがえる。たしかに、また余計なことに巻き込む可能性があるなら、綺麗に砕いたほうがいいか……。

 

「……なんだ、この異常な経験値(エクセリア)は。

 まるで外部から付け加えられたような……」

 

 ステイタス更新中のヘスティア様から恐ろしい言葉が聞こえたぞ。恩恵(ファルナ)に外部から作用するって……。

 

「故郷を思い出してぼんやりしていた時に、何度か変な声が聞こえたんですよ。最後に聞こえたのは、やっと繋がった、という言葉です」

 

 ヘスティア様は考え込むようなしぐさを見せた後、話し始めた。

 

「恐らく、君の故郷の神が、君の郷愁の念を利用して、恩恵(ファルナ)に作用したのかもしれない。

 この経験値(エクセリア)を取り出して、恩恵(ファルナ)に反映させるかい?

 僕の勘では、悪い物ではないとは思うぜ」

 

 神様の勘か、信じてみるか。

 

「反映させてください」

「わかった……。なるほど……こう来たか……。サトゥー君、確認してくれ」

 

 メニューから恩恵(ファルナ)を開く。

 

サトゥー

 Lv.2

 力:I23 耐久:I41 器用:H121 敏捷:I55 魔力:H139

 家事:I

 《魔法》【クリーン】

      ・清浄魔法

      ・詠唱式【我が意に沿いて、汚れをはらえ】

     【ディメンションムーブ】

      ・次元転移魔法

      ・発動対象は術者本人のみ

      ・二つの次元間を行き来する

      ・詠唱式【我が意に沿いて、次元をつなげ】

     【】

 《スキル》

 【異界之理(アナザールール)

  ・異世界での理と恩恵(ファルナ)の理、共に適用される。

 

 次元転移魔法!?

 しかし、大魔法と言っていい魔法の割には詠唱文短すぎないか?

 詠唱分の長さが魔法の強さに影響するんじゃないの?

 たしかに、神の干渉があったとしても、うなずけるけど……。

 

「……おめでとう、というべきなのかな?」

 

 ヘスティア様は複雑そうな表情でそう告げた。オレの目的の一つであった日本への帰還は果たせそうだ。しかし、今となってはオレのヘスティア・ファミリアへの思い入れが大きくなってしまっている。

 

「ありがとうございます。ただ、まだ帰れませんね。春姫さんのことに決着つかないと気になって仕方がありませんよ」

「いいのかい?」

「ええ。それに、帰ったとしても知り合いに挨拶したらまた戻ってきますよ」

 

 大分若返っているから、会うより手紙のほうがいいかもしれないけどね。

 

「とりあえず、魔法については黙っておいてください。ベル君たちにも、落ち着いてから話したほうがいいでしょう」

「そうだね」

 

 しかし、まさか本当に次元転移の魔法が発現するとは……。

 干渉してくれた神様には感謝するが、もう少しタイミングよく発動してくれれば、素直に喜べたのに……。




次回、イシュタル・ファミリア壊滅の予定。
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