デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲   作:清瀬

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38話:美の神の昇天

 ステイタス更新をした後、オレと命さんはタケミカヅチ・ファミリアのホームの長屋に訪れていた。

 ベル君、ヴェルフ、リリは別行動で情報を集めてくれようとしている。

 ヘルメス様が警告したアマゾネスの件もあるので、3人でまとまって、人通りの多いところを移動するように注意している。ヴェルフもリリも冷静に彼我の戦力差を把握できているはずだ。

 オレと命さんは、殺生石の追加情報を得るという名目で、タケミカヅチ様所有の本を読ませてもらう予定だ。

 それと、彼女に手渡す団子を一緒に作る予定もある。材料はオレが買ってきたが、あちらも追加で材料を用意して結構な量が出来上がった。

 結構な量の団子を持たされて、オレはタケミカヅチ・ファミリアを後にした。

 ホームに戻ると、何やら騒がしいことになっていた。

 

「ベル様を見かけませんでしたか!?」

 

 リリが焦った表情で問いかけてくる。マップを検索すると歓楽街、イシュタル・ファミリアのホームから近い場所にベル君はいた。

 

「知らないけど……、リリ、何があったんだい?」

「獣人の女性がベル様の耳元で何か話すと、様子がおかしくなって……。気を付けていたのですが、いつの間にかベル様が姿を消してしまって……」

 

 ベル君本人から足を運ばせたのか?

 とにかく、急ぐべきだ。美の神の魅了、あの初心なベル君なら一発で堕ちるかもしれない。

 

「ベル君を探してくる。リリはベル君が帰ってきた時のためにここで待ってて」

 

 そう言って、歓楽街に向かって走り始めた。

 力づくになるかもしれないと、道中でナナシの装備に早着替えしておく。

 マップを見る限り、イシュタル・ファミリアの警備網が敷かれている。レベル3が大量にいて、レベル5がイシュタル様のいる部屋へと続く最後の階段で待ち構えている。

 相手にしている時間が勿体ない。天駆スキルで空中を駆け、直接イシュタル様の私室の壁をぶち破る。

 

「な……」

 

 先手必勝。

 数人の上半身裸の男のお付きが部屋内にいるが、指先から魔刃砲で魔力の塊を飛ばして気絶してもらう。球体状にしておけば、ポーションで治る怪我で済むだろう。

 レベル4が混じっていたようだが、少し多めの魔刃砲をプレゼントしてある。初弾こそ回避されたが続く弾はかわせなかったようだ。ちょっと多すぎたかもしれないが、HPの減少は止まっているし問題ないだろう。

 イシュタル様はベル君が魅了されていた場合、解除させる必要があるため、特に攻撃は仕掛けていない。

 イシュタル様は全裸でベル君を襲おうとしていたところのようだ。なんだろう、美の神と聞いているわりにちょっと……。実際美人さんなんだけど、フレイヤ様ほどオレの琴線に触れない。

 

「ベル、大丈夫?」

 

 変声スキルで中性的なナナシの声に変えて、ベル君に声をかける。

 

「ナ、ナナシさぁぁぁああんっ!」

 

 ベル君を拘束していたお付きの人をふっ飛ばしたので、自由になったベル君がこちらに駆け寄ってくる。一般人程度の力しかないイシュタル様に、ベル君は止められない。

 よし、幸い魅了されていないようだ。

 

「な、何故だ!何故、お前達は魅了されない!私は美の神だぞ!!」

 

 全裸でこちらをにらみつけるように顔を歪める。ベッドの上でガニ股で踏ん張りつつも、イシュタル様が吠えた。正直、美の神でもこれは美しくない。

 

「いくら見た目が綺麗でも、さすがに全裸でわめいているのはちょっと……」

 

 思わず言葉にしてしまった。

 いや、たしかにスタイルとかはいいし、美人さんだよ。でも、あの姿で魅了されろっていわれてもねぇ……シチュエーションがちょっと……。ギャップ萌えは嫌いじゃないけど、今回は、ギャップ萌えとかそういうレベルじゃないと思うんだ……。いや、そういうのが好きな人もいるかもしれないけどね。

 

「ナナシさん、いくら本当のことでも失礼ですよ、相手は神様ですよ」

 

 ベル君がオレをたしなめるようにいうが、それはイシュタル様への追撃に他ならないと思う。

 

「うっ……うぁああああああああああああぁっ!?!」

 

 オレの言葉が癪にさわったのか、ベル君の追撃にやられたのか……。髪をかき乱しながら、ベッドをたたき始めた。ああ、もうダメだ。放っておこう。

 

「ベル、しっかり捕まって」

 

 不思議そうにしつつも、素直にベル君は従った。ベル君の背中に腕を回してしっかりと抱き、天駆で空を走った。

 マップで人気がないことを確認して、歓楽街から離れた空き地に速度を落とし、降り立った。天駆でベル君は相当怖がってしまったようだ。緊急事態とはいえ、少し反省。

 

「空を走るのは怖かった?」

「こ、コワイに決まってるじゃないですか!言ってくださいよ!」

 

 青い顔のベル君が答える。

 

「緊急事態だったから仕方がない。

 それより、どうして一人でイシュタル・ファミリアへ?」

「サトゥーさんが入れ込んでる春姫という娼婦の身請けについて話したい。

 他人にバレないよう、フード付きマントなどで姿を隠してお前ひとりで来いと言われて……。

 イシュタル・ファミリアに着いたら、お前をおびき寄せるための嘘だよと……」

 

 ベル君はもう少し、人を疑うということを知ったほうがいいと思う。本当に。

 

「早く帰りなさい。心配しているファミリアのメンバーに怒られておいで」

「そ、そうですね。ファミリアのみんな心配してますよね。今すぐ帰ります。助けてくれて本当にありがとうございました!」

 

 大げさに頭を下げた後、ベル君はホーム目指して駆け出した。

 

◆◆◆

 

「こんなことになってしまうとはね……」

 

 市壁から、トップファミリアとも言っていい、フレイヤ・ファミリアがイシュタル・ファミリアのホームへと進む様子を見下ろしながら優男の神は悲嘆めいた声を出す。

 

「ベル君の存在を、イシュタルに知らせてしまったのは他でもない、オレだ……オレが原因の一端を担ってしまうなんて……あぁ、なんてことだ、胸が痛む……」

 

 大仰な身振り手振りをした後、胸を抑えうつむくヘルメス。

 

「で、どこまでが計算通りなのですか?」

 

 そばで冷たい視線を向けていた、アスフィがそう尋ねる。

 

「計算なんてしないで、面白そうだから火種を放っただけだぜ」

「そうでしょうね。しかし、もう少し考えてから行動してほしいものです。……ナナシが再び訪ねてきた時は、本当に肝が冷えました」

「それをいうのは止めてくれないかなぁ……オレも攻撃はしてこないと踏んでたけど少しは反省してるんだぜ。オレの勘だけど、アレ、神を殺した経験があるんじゃないかな」

 

 神の勘、それは人の勘とは違い、ほぼ確定した事項といってもいいレベルだ。

 

「そうでしょうね。

 黒いゴライアスを倒したあの異常な一撃や、生身で空を飛ぶ飛翔靴(タラリア)とは別の謎の技術。そして、ホームに訪ねてきた時のあの威圧感、神威こそ感じませんでしたが、それ以上の恐怖を感じましたよ。

 神の力を身に宿していると言われても、私は信じますよ。

 とにかく、ナナシのカンに障るような真似はくれぐれも慎んでください」

 

 ヘルメスは大げさにため息を吐き、頭を振った。

 

「オレはベル君の器を確かめたいだけなんだけどね。

 戦争遊戯(ウォーゲーム)でベル君が中堅とアポロンにばらして、順番を変えさせるのはうまくいったのに」

「とにかく、気を付けて動いてください。巻き添えは食らいたくありません」

「ま、ナナシはイシュタルを傷つけないほどのお人好しだから、相当ヤバいことをしない限りは大丈夫だと思うけどね。もう少し踏み込んでみるつもりさ」

「はぁぁぁ………もうやだ……」

 

 アスフィから長い溜息がもれた。

 英雄のためならば、美の女神の嫉妬と確執さえ利用してみせよう、ただし、ナナシをどうしたものかとヘルメスは頭を悩ませる。ヘルメスの目論見では、今回もうまく動けばベルへの試練となるはずだったが、彼の成長を促すに至らなかった。

 ナナシは、ヘスティア・ファミリアへの危険を排除するものだ。一般人であれば危険の排除はいいことだ。しかし、より光り輝く英雄になるには、試練に打ち勝ち、成長をすることは必要不可欠なのだ。ナナシはベルの成長を妨げるものだ。

 ただし、ナナシはお人好しだ。そこにつけこみ、制御する方法を考えるべきだろう。

 

「おっと……彼女の本格的な怒りを買う前に、おさらばしよう」

 

 遥か遠方、銀髪の女神がこちらに振り返ったのに合わせて、ヘルメスは戦場に背を向けた。

 

◆◆◆

 

 ホームへ戻る途中に、歓楽街から煙が上がったので、マップを確認した。

 どうも、フレイヤ・ファミリアとイシュタル・ファミリアが戦闘しているらしい。いや、戦闘というより一方的な蹂躙のほうが実際には近いけど。

 ヘルメスからフレイヤ様はベル君に執着してるとは聞いていたけど、ここまでやるか?何人かフレイヤ・ファミリアの偵察を置いてたのも、このため?

 

 そうこう考えているうちに、空を貫かんばかりの光の柱が立ち上った。神威も感じる。マップでイシュタル様が消えていること、イシュタル・ファミリアのメンバーのレベルが消えていることと合わせると、天界に送られたのだろう。

 女神の嫉妬って恐ろしいな。

 ただ、イシュタル様が消えた以上、チャンスでもある。混乱に乗じて春姫さんを保護できるかもしれない。サトゥーとして少し近くに寄ってみるとするか。

 

「よくこんな時に来たね?」

 

 そういって、春姫さんを連れたアイシャさんが声をかけてきた。

 

「状況はよくわかりませんが、かなりあわただしいみたいなので、この隙に春姫さんを頂けないかな、と思いましてね」

「察しているんだろ、イシュタル様が天界に帰ったことくらい」

「やはり、そうでしたか」

 

 確認が取れたのはありがたいね。

 

「ほら、春姫を頼んだよ」

 

 そういって、アイシャさんは春姫さんをオレに押し付けた。キャッと可愛い声をあげる春姫さんを腕で支える。

 

「いいのですか?」

「本当なら、本気の戦闘をしてあんたの覚悟を確かめたいところだけど、私が恩恵なしじゃね。

 それに、あんたならマシさ。他のバカなファミリアに狙われるのに比べればね」

「あ、あの!アイシャさん、今まで本当に」

 

 春姫さんを遮って、アイシャさんが口を開く

 

「辛気臭い話は止めな、そういうのは嫌いなんだ。それに私はやりたいようにやってただけさ、お前に感謝される筋合いなんてないよ。

 幹部連中にもお前のことは口外しないよう言い含める。簡単にはお前に目をつけられないはずだ」

「アイシャさん……」

 

 目を潤ませる春姫さんを見て、アイシャさんが背中を向けた。

 

「サトゥー、しっかりそのポンコツ生娘の面倒みてやってくれ。私は後始末があるからいくよ」

「生娘?」

 

 オレの言葉に、アイシャさんがこちらに顔を向けて答える。

 

「ああ、男の上半身裸を見ただけでぶっ倒れちまう。客も呆れて返品ばっかりの娼婦としては失格の生娘さ。その割に、卑猥な夢でも見てんのか、たまに変な寝言が……」

「わぁあああ、アイシャさん止めてくださいっ!」

 

 にやりと笑うアイシャさんを、顔を真っ赤にした春姫さんが手をワタワタとさせながら叫んで止めた。

 

「とにかく、そういうわけだ。春姫のこと頼んだよ」

「はい。わかりました」

 

 アイシャさんは軽く手を振って、歩き去っていった。

 春姫さんは、その姿に、深く一礼した。

 

「さて、ひとまずオレのファミリアのホームに行こうか?

 タケミカヅチ・ファミリアの皆と一緒に作った団子があるんだ。

 食べてひと眠りして朝になったら、タケミガヅチ・ファミリアの皆に会いに行こう?」

「は、はい!」

 

 春姫さんは晴れやかな笑顔を浮かべた。




◆フリュネと戦闘娼婦(バーベラ)
フリュネと戦闘娼婦(バーベラ)相手に無双させようと思ったけど、急いでるなら天駆で無視するよね。相手の出番すらカットなんて、さすがサトゥーさん。

◆イシュタル様
人が嘘をついてないと分かるので、ナナシが本心から、ないわーと思っているとわかり、凄まじい衝撃を受ける。ベル君の無自覚な追撃でさらにダメージを受ける。原作と違い、ベル君が魅了されない理由が書いてある背中の恩恵(ファルナ)も見ていないので、より衝撃がすごいはず。
その後、原作通り、ベル君に手を出そうとしたことに怒ったフレイヤ様がイシュタル様の心にさらにダメージを与えた後、天界送りへ。
なお、ベル君は原作通りの理由で、サトゥーは耐性スキルのおかげで、魅了されてませんが、変な姿でもあばたもえくぼで、一般人なら普通に魅了されるはずです。たぶん。
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