春姫さんは結局ヘスティア・ファミリアに所属することとなった。タケミカヅチ・ファミリアに所属するなり、極東に戻るなりといった選択肢を提示したのだが、そこは頑なだった。
春姫さんには家事を担当してもらっている。というか、本人が希望した。
メイド服が着たいとのことだったので、オレが気合いを入れて作った。レースなどで飾り、この世界のものより少々華美になったかもしれないが、別に構わないだろう。日本人としてメイド服は異世界に広めるべきだと思う。本人や命さん、ヘスティア様にも評判がよかったしね。
とはいえ、箱入り娘だった春姫さんはロクに経験がない。基本は配膳などの簡単な仕事を中心にしてもらって、今は基本的な事柄を教えているところだ。
飲み込みはかなり早い方だと思う。春姫さんをそう褒めると、サトゥーさんの教え方がいいからですよ、と返ってきた。教育スキルの影響なのかな?
春姫さんの魔法に関しては、オレの意向でヘスティア様とオレと本人しか知らない。想像以上に強力な魔法であったが、彼女をあまりダンジョンに連れまわしたいとは思えなかった。
争いに関係なく暮らしてほしいというのがオレの勝手な希望だ。
1ヶ月ほど、オレはダンジョンに潜らず、仕事を教えたり、お菓子を一緒に作ったり、他愛もない話をしたりして、春姫さんと過ごした。
ベル君たちは順調に階層を増やしているようだ。ベル君の早さにヴェルフの魔法封じ、リリの頭脳に、命さんの探査系スキルとなかなかにバランスがいい。
春姫さんに家事を任せても安心できるようになったし、命さんも料理上手だ。
そろそろ一旦、日本に帰っても構わないだろう。
ヘスティア様に話すと許可をくれたので夕食後に皆に話があるといって、テーブルにとどまってもらった。
春姫さんがお茶を皆に配って、席についたのを確認してから会話を切り出した。
「わざわざ、すまないね。皆」
皆、気安い表情である。
「それは構わないですが、何の話でしょうか?
そろそろダンジョン探索に加わられますか?」
「あー、そういった話じゃないんだ。
とりあえずは、オレのスキルと魔法を知ってもらおうかな」
そういって、オレのステイタスの写しを皆が見えるように広げた。
サトゥー
Lv.2
力:I25 耐久:I46 器用:H124 敏捷:I57 魔力:H145
家事:I
《魔法》【クリーン】
・清浄魔法
・詠唱式【我が意に沿いて、汚れをはらえ】
【ディメンションムーブ】
・次元転移魔法
・発動対象は術者本人のみ
・二つの次元間を行き来する
・詠唱式【我が意に沿いて、次元をつなげ】
【】
《スキル》
【
・異世界での理と
「次元転移魔法……異世界の理?」
「どういうことです、このスキルは……」
皆、困惑したような表情を浮かべている。
「要するに、オレは、異なる世界の人間で、原因はわからないけど、この世界に迷い込んだんだよ」
「右も左もわからないサトゥー君をボクが
ファミリアのみんなは、沈黙している。
「それで、次元転移魔法は最近発現してね。
元々いた世界の親や知り合いに挨拶もしないで、こっちの世界に迷い込んだんだ。せっかく魔法が発現したし、知り合いに元気でやってるよ、と伝えるつもりだから、しばらくホームを離れさせてもらうよ」
「……リリたちのもとに帰ってこられるのですか?」
「そりゃそうさ。こっちの世界にも随分と思い入れのあるものが増えてしまったしね。オレたちは
皆が脱力したように、机に伏したり、溜息を吐いたりしてる。アレ?
「もう!リリはお別れのお話かと思ったじゃないですか!
もっと、こう、リリたちが心配しないように話してください!
まったく!サトゥー様は!!」
リリが頬を膨らませながらお小言をこぼす。
「まったくだぜ!お前の美味いメシがもう食えないのかと思ったじゃねえかよ!」
ヴェルフが笑顔でそういった。
「サトゥーさんの故郷、親御さんに挨拶、私もついていきたいですけど……この魔法だと無理そうですね」
春姫さんが残念そうに微笑んだ。
「手紙を書きますか?それならばお渡しできるのでは?」
命さんが春姫さんの様子を見てそう提案した。
「いいですね!皆で書きましょうよ!」
ベル君が嬉しそうに続く。
「しょうがないな。ボクも書いてあげようか。サトゥー君の主神だしね!」
ヘスティア様も笑顔で輪に加わる。
――ああ、ヘスティア様に拾われて、
「あ、こっちとオレの世界では当然言葉も違うから。オレが訳すために見ても大丈夫な内容にしておいてね」
「えっ!?」
おい、今、声上げた人はどんな内容を書こうとしてたんだ……。
その後、なんで異なる言葉を話せるのか聞かれたが、異世界の理で言語が話せるようになったとボカして説明しておいた。色々器用なのもこの異世界の理のおかげとも言っておいた。
あまり詳細な能力に関していうと、ナナシとバレるからね。
翌日、オレはリビングで皆の見送りを受けていた。
服装は、この世界に来た時に着ていた、日本で買った服だ。
この景色をしっかりと焼き付ける。転移する場所の明確なイメージが必要というのはお決まりだしね。
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
皆が声を揃えて答えてくれた。
日本の、寝る以外はあまりした記憶がない、それでも安住の地であった自室を強くイメージする。
「我が意に沿いて、次元をつなげ、ディメンションムーブ」
詠唱後、一瞬景色がグニャリと歪んだ。
視界が元に戻ると、なぜか砂嵐の真っ只中にいた。
メニュー画面はいまだに視界に表示されている。どういうことだ、とマップを確認すると、竜の谷と表示された。
竜の谷、オレが一番初めに降り立ち、リザードマンに襲われたために流星雨3連発を放った場所だ。
どういうことだ、何が起こっている?
混乱していると、マップ上にあった敵を示す赤い光点が消え、リザードマンを倒したログと「源泉:竜の谷を支配しました」というログ、そして戦利品の獲得ログが高速で流れ始めた。
――転移が失敗した?
メニューから
視界が開けると、そこはさっきのリビングだった。
「ちょ!?どうしたんだい?いきなり砂まみれになって……。まさか魔法が失敗したのかい?」
「転移は成功しましたが、別の異世界に転移してしまったようです。ちょっと失礼。
我が意に沿いて、汚れをはらえ、クリーン」
砂まみれになった体が問題なく清められ、さっぱりした。
しかし、どういうことだ?
イメージと全く違う場所に転移したぞ?
イメージは関係ないのか?
その後、何度か転移を繰り返した結果、オラリオで転移魔法を唱えると異世界Aの最後にいた場所・時間に、異世界Aで転移魔法を唱えるとオラリオで最後にいた場所・時間に転移することがわかった。
オレがオラリオで1日生活してもあちらでは1秒も経っていないみたいだ。逆もしかり。時計をおきっぱなしで転移して時間が秒単位で変化していないことを確認した。
どうも、この魔法では日本には帰れそうにない。
別に帰らなくても大丈夫とは思うのだが、ここまで期待させておいて、ダメでしたといわれると、実に悔しい。
せっかくだ。異世界Aも探索して、なにか日本へ転移するような手段を探そうか。
消費MP1000ポイントほどで、オラリオと行き来できるのだ。疲れたらオラリオにかえって休めばいい。
ファミリアの皆に相談すると、気を付けていってらっしゃい、と言われた。
さて、異世界では、観光ができるくらいに安全だといいんだけど、いきなり襲われたし気を付けていったほうがいいだろうね。
◆◆◆
「――と、いうわけで、オレは二つの世界を行き来しているというわけさ」
オレは魔法で作った異空間内にある孤島宮殿で、オラリオとは異なる異世界で出会った仲間たちに、迷宮都市の話を終えた。
「最下層が分からない迷宮は気になりますが、魔物が灰になるのはいただけませんね。せっかく狩った獲物を食べられないとは……」
リザが食欲にまみれた感想を漏らす。
「お肉きえる~」
「ひどい迷宮なのです」
タマとポチも、迷宮には食べられる魔物がいないという点で、あまりお気に召さないようだ。レベル上げ目的ならかなり深い階層まで潜る必要がありそうなので、あまり皆をダンジョンへと案内するつもりはない。
「でも、迷宮だけでとれるという果実は気になりますね。
ルルは、神の酒に対抗できる菓子に料理人として興味を持ったらしい。
「私は、ベルって子がやっぱり気になるかな。美の神様に好かれる子なんでしょ?
きっと素晴らしいショタ……、おっと失礼」
アリサはベル君に興味を持ったようだ。危ない発言は軽くチョップをして封じておく。
「でも、なんで、今この話を?」
ヒカルが疑問を呈す。
「実は、ようやくこっちの魔法で、
これは本当に時間がかかった。まず、こっちの魔法の詠唱でつまずき、魔法が使えるようになっても、異世界の神の力に干渉する方法を探さなくてはいけなかったからね。
「相変わらず、うちのご主人様はチートね」
呆れたようにアリサがつぶやく。オレはその言葉を無視して話を続けた。
「だから、皆揃って、異世界観光に行かないかというお誘いだよ。
ヘスティア・ファミリアにも皆を紹介したいしね」
皆から歓声が上がる。特に反対はないようだ。
さて、皆で迷宮都市オラリオの観光に行こうか。
「デスマーチからはじまる迷宮都市狂想曲」はこれで完結です。
デスマ側から、リザ、ポチ、タマ、アリサ、ルル、ミーア、ナナ、ヒカル、セーラ、ゼナ、カリナ、システィーナが追加されると、さすがにキャラ数的に処理が……。
今の所、まったく構想はありませんが、ティンときたら、特定キャラに焦点を当てた短編を追加するかもしれません。しない可能性のほうが高いと思いますが……。
◆
デスマ的に説明するなら、成長する神の欠片。
始めは、かなり小さなサイズで、人を問わずに恩恵を受けられる。
ランクアップにより、魂の器が大きくなり、より大きな神の欠片が入るようになる。
デスマでいう神の洗礼とはまた別物なので、源泉の支配が可能。