正直言って、オレはかなり油断していた。マップは見ていたが、近づいてくる相手の詳細までは確認していなかった。というより、モンスターは名前と
レアモンスターかなとは思ったが、ミノタウロスがかなり下の階層のモンスターなど予想もしていなかった。
実際に遭遇すると、小柄で素手のゴブリンやコボルトとはまるで違う。筋肉で覆われた見上げるような巨体で、武器を所持している。格が違うモンスターで駆け出し冒険者では勝てないということが一目でわかる。
「うわあああああああああ!!」
ベル君が逃げ出し、慌ててその後を追う。逃げる方向が不味い。上層につながる道はなく、どう進んでも行き止まりだ。
ベル君が逃げ出したのを追わずに応戦すべきだったか?
そもそも、あの牛にオレの全力は通じるのか?
分からない、ロクに全力を出したことがないのだ。多分、勝てるとは思うが、確信をもって言えるほどではない。
躊躇しているうちに、行き止まりに追い込まれた。ベル君は腰を抜かしてへたり込んでしまった。
やるしかないと思った時、マップに人を示す光点が現れ、高速でこちらに近づいてくる。レベル5、トップクラスの冒険者だ。時間さえ稼げば彼らがどうにかしてくれるはずだ。
「こっちだ、この牛野郎!」
ミノタウロスの意識をこちらに向けさせるように叫びながら、腰に下げた小袋から石を取り出し、右目に向かって投げつける。投擲スキルのサポートにより右目に吸い込まれるように石が突き刺さる。
「ヴオオオオオオオオオオ!」
武器を手放し目を抑え、叫ぶミノタウロス。けん制のつもりだったが、HPゲージが5割まで削れている。時間稼ぎであまり力を入れたつもりはなかったが、思ったより大ダメージを与えてしまったようだ。
少々ダメージは大きかったかもしれないが、キチンと時間稼ぎの目的は達した。
光点がかなりの速度でミノタウロスに接近し、胴体に斬撃が走る。それで終わらず、縦横無尽に剣閃が煌めく。血飛沫がこちらに飛んできたが、腰より下の位置なので甘んじて受ける。
「……大丈夫ですか?」
バラバラになったミノタウロスの向こうに少女がいた。
金髪に金の瞳。体の線が細く、戦闘が得意のようにはまるで見えない。童顔の人形のような美少女だ。
「助かりました。ありがとうございます」
「だ……だぁああああああああああああああああ!!!」
なんの声かと驚いているうちにミノタウロスの血飛沫で頭から真っ赤に染まったベル君が逃げ出してしまった。
目の前の少女は呆然としている。助け出した相手が逃げ出すなんて思わなかったのだろう。
後ろの銀髪に獣耳が生えた男が腹を抱えて笑ってる。
「仲間が礼も言わずに、申し訳ありません。ミノタウロスにひどく恐怖し、混乱していたようです」
「そう……ですか」
一応、フォローしておくが表情があまり変わらないので、効果があったのかはわからない。
「ククク、アイズ……助けた冒険者に逃げられるとか……ハハハハハ!」
後ろの獣耳が仲間っぽい少女を、大声で思いっきり笑う。おい、オレのフォローをぶっ壊すなよ。
……ああ、もういいや。
「仲間が心配ですので、私もこれで失礼します。助けていただき本当にありがとうございました」
一礼してベル君を追う。ベルとヘスティア様にはマップのマーキング機能により、現在どこにいるかが簡単にわかるようになっている。ストーカーが手に入れたら恐ろしいね。オレは悪用する気はないよ?
ベル君を追う途中にログを確認すると、「挑発」スキルを得ていた。
ゲームでいわゆる
それと、少々危険だが、近いうちに一人でダンジョンに潜って全力を試したほうがいいかもしれない。自身の限界値をおおよそでいいからわかっておかないと、いざというときに対応が決められない。
そんなことを考えながらオレがダンジョンから出た時、マップによるとベル君はメインストリートを移動していた。バベルで一度も止まった様子がないので、どうやら、あの血塗れのままで走り抜けたようだ。
もう無事ならいいやとマップは見なかったことにして、シャワーを浴びに行った。
シャワー室から出てくると、血まみれのベル君とばったりと遭遇した。
「す、すみません。サトゥーさんのこと放っておいて、勝手にダンジョンから出ちゃって……」
ベル君が大げさに頭を下げてくる。
「それは構わないさ。オレも今日は探索する気分にはなれなかったしね。
それより、早くシャワー浴びておいで」
その後、ベル君とギルドに向かい、オレは換金、ベル君が5階層でミノタウロスが出たことについてエイナさんに相談する。
換金が終わって、ベル君を待ってると「エイナさん大好き―!」と言いながら相談個室から出てきた。純情な割に結構大胆だね。いや、LoveじゃなくてLikeなんだろうけどさ。
「神様ー!ただいまー!」
ソファーで寝っ転がって本を読んでいた神様がガバっと起き上がって駆け寄ってくる。
「やぁやぁお帰り、今日はいつもより早かったね?」
「ミノタウロスに追い回されちゃって……」
「ミノタウロスって結構深いところにでるモンスターじゃなかったかい?ほんと大丈夫なのかい?」
ヘスティア様は心配そうにオレたちに尋ねてきた。
「危ないところを、アイズ・ヴァレンシュタインさんが助けてくれて無事でしたよ」
顔を赤らめながらベル君は言う。
「そ、そのヴァレン
引きつった顔でヘスティア様がベル君に質問した。
「剣姫の二つ名を持つロキ・ファミリアのレベル5の冒険者です。女性の中でも最強の一人と言われているそうですよ。それにとても綺麗な人でした」
さらに顔を赤らめながらいうベル君。ヘスティア様の顔が別の意味で赤くなってることには気づいていないようだ。
「ぐぬぬぬ、ステイタス!スタイタス更新をしよう!ほら、ベル君は上にいっててくれ」
「は、はい」
ベル君は頭に疑問符を浮かべながらも、素直に従った。
「まったく!ベル君ときたらボクというものがありながら、よりにもよってロキのところの子なんかに!」
床をダンダンと踏みつけながら、悔しそうに叫んでいる。それを横目に見つつベッドに横たわった。
「それでサトゥー君から見て脈はありそうなのかいっ!?」
「少なくとも、彼女はあまりいい印象を持ってないでしょうね。
ベル君は相手が美少女だから逃げたんでしょうけど、彼女にとってみれば助けた冒険者が自分を恐れて逃げ出したと思うでしょうからね。
呆然としてましたよ、ヴァレンシュタインさん」
「よしよし!ベル君はもっと身近な出会いを大切にすべきなんだ!」
「彼女が呆然としていたことは、ベル君には言わないでくださいよ。
本気で落ち込みそうなので」
「わかったよ。別の
……はい。更新終わったよ!」
サトゥー
Lv.1
力:I1 耐久:I0 器用:I23 敏捷:I2 魔力:H119
《魔法》【】【】【】
《スキル》
【
・異世界での理と
相変わらずロクに伸びていないことを確認する。
オレとしては魔法にも興味あるんだけれど、魔法スロットは埋まらない。メニューから選択するだけだから魔法理論なんてものもわからないし、その手の本は結構な金額がするため手が出ない状態だ。
「じゃ、ベル君呼んできます。ほどほどにお願いしますよ」
「ああ、わかってるとも」
いつものように上の教会で待つとベル君が呼びに来た。
ヘスティア様の様子が少し変だが、大方、ベル君のことで嫉妬しているのだろう。
気にせず、オレは食事の用意をした。ここ最近、食事内容もジャガ丸くんのみならず、もう1品並ぶようになった。主に作っているのはオレだ。
調理スキル10というのはかなりの凄腕らしく、スキルのサポートに従い焼いた安い肉が、日本のそこそこいい店で食べた肉より美味しかったりする。
肉自体の質はもちろん日本で食べたほうが上なんだが、焼き加減や味を引き立てる調味料の量など、絶妙なバランスで総合的にはこちらのほうがおいしく感じる。
ただ、調理スキルは調理の際の最適な切り方や焼き方や調味料の量がなんとなくわかるだけで、レパートリーや作り方がわかるようなスキルではなかった。メニューは基本野菜炒めや、肉をシンプルに焼いたものだったりする。オレ自身の料理経験のなさが反映されてしまっているが、特にヘスティア様たちは文句がないようだ。むしろ、気に入ったのか、料理は基本、オレの仕事となってしまっている。
もう少しお金に余裕ができたらレシピ集を買おうかとも思っている。教会の補修や装備の更新などやりたいことがどんどんと増えていくね。
なお、食後ヘスティア様の様子をうかがったが、まだに拗ねているらしかった。慣れたつもりだけど、ずいぶんと人間臭い神様なことだ。
真夜中、オレは目を覚まし、ベル君とヘスティア様が寝ていることを確認する。ヘスティア様はベル君の顔をその胸に押し付けていた。うらやま……けしからん。
それは放置しておいて、音を立てないように慎重に移動し、手早く装備を付ける。
>「忍び足」スキルを得た。
>「早着替え」スキルを得た。
早着替えって……そんなスキルのあるのかと思いつつ、地下室を後にする。
さて、ダンジョンに向かい、全力の力試しといこうか。
・ベル君【
・アイズとベートはミノたんの武器を落として痛がった様子を少し気にしたものの、石が目に刺さっている様子から苦し紛れに投げた一撃が偶然、目に当たったのではとあたりをつけました。ダメージを与えたことに関しては少々気にはなっているものの、血まみれで逃げたベル君のほうが彼らの中では印象は強いです。