アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity-   作:銀塩

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離反の理由

「……」

 

 頬を何かが触れる。柔らかく、温かい何か。それは安堵と安らぎを与えてくれる。

 

「起きろ!」

 

 というわけでもなかった。割と雑に頬を叩かれる。

 

「……っ?!」

 

 突然の痛みに目が覚める。とはいえ目覚めたばかり。すこし頭が回っていない。

 

「おい、なにをしている。早く起きろ!」

 

 覗き込むようにして向けられた顔。キツい目に、薄い唇。キリッとした眉は意志の強さをうかがえる。髪は金だが一房だけ白い髪が混じる。それが彼女の苦労を表している。

 

 徐々に覚醒する意識。そして女性が、セレン・ヘイズがいることの異様さに驚く。

 

 はっきりした意識で周りを見回すと、今いる場所がアーマードコア、自分(首輪付き)の愛機であるストレイドのコックピットであることがわかる。

 

 ACのコックピットは基本的に一人乗りが前提なので、ものすごく狭い。そのため、ほぼセレンの顔が今にもキスできそうなほど近いのは無理もなかった。

 

「……ここは?」

 

 コックピット内部のモニターに映る景色を見て疑問を口にする。そこに映るは、果てなき青。いわゆる海と呼ばれる場所だった。

 

「わからん。お前がAAを使ったあと、なぜか離れた場所にいたはずのこちらまで閃光が届いたと思うと、ここに来ていた」

 

 簡単な説明。要はここがどこなのか分からないということ。首輪付きはすぐさま環境検査プログラムを起動する。数秒後、モニター中央に結果が表示された。

 

[コジマ粒子濃度0% 他汚染物質検出されず]

 

「なに……?」

 

 セレンが訝しむ。当然だ。世界はコジマ粒子を見つけた時からコジマ粒子の利用による汚染が始まっていたし、なによりACはコジマ粒子を用いて動く。よって、コジマ粒子濃度0%はありえないのだ。

 

「プライマルアーマー残量を調べろ!」

 

 セレンの指示に即座に反応し、機体ステータスを表示させる。

 

[AP残量2% PA残量0% OB使用不可]

 

「どういうことなんだこれは……」

 

 コジマ粒子完全消失を裏付ける、決定的な証拠。ACの絶対的な優位性の一つであるPAを利用したモノが使えなくなったということ。

 首輪付きはしばらく画面を眺めていたが、すぐにコックピット内に置いていた個人携行火器の一つのアサルトライフルを取り出し、コックピットハッチを開けようとした。

 

「ま、待て。なにをする気だ」

 

 突然の行動に戸惑いを隠せないセレン。コジマ粒子消失と謎の異変という異常についていけていないのか、普段なら見せない焦りの表情を浮かべていた。

 

「……ここにとどまるだけでは無意味。周辺が清浄な空気であるなら、いったん降りて調べてみるべき」

 

 言葉少なに理由を語ると、セレンもすぐに納得した。AC後部にあるハッチが開く空気の抜ける音が聞こえる。

 

「では先に」

 

「申し訳ありませんが、そこで動かないでください」

 

セレンの声を遮るようにかぶせられた声。その声はやはり、

 

「リリウム・ウォルコット……!」

 

 憎々しげにつぶやかれた声に特に反応を見せず、女性、リリウムはアサルトライフルを構える。銀の長髪は太陽の光を浴びて輝き、たおやかな雰囲気な小柄な女性。リリウムは再び勧告する。

 

「武器も捨ててください。ああ、ご安心を。危害を加えるつもりはありませんので」

 

 その勧告に舌打ちしつつ。アサルトライフルを投げ捨てるセレン。首輪付きも同様に手にしていたアサルトライフルを捨て、両手をあげて降伏の意思表示をする。

 

「流石、BFFの女帝だ」

 

 金の短髪で目つきが鋭く、長身の女性。その少し低い声は、カラードランク3のウィン・D・ファンション。リリウムをほめるも、その視線はセレンと首輪付きを捕えて離さない。

 

「ずいぶん遅かったですね」

 

「なに、機体状況を確認していただけだ」

 

 軽口をたたきあうも、その銃口は決してそらさない。

 

「すいません、遅れました」

 

 そういいつつこちらもアサルトライフルを携えて走ってきたのは、緑の髪の女性。前者二名と違って豊満な体つきの女性は、メイ・グリンフィールド。スマイリーという愛称で知られるその女性は、その愛称に違わず笑顔でセレンと首輪付きに銃を突きつける。

 

「問題ありません。先ほど確保したばかりですから」

 

「ああ。それに最後には私たちがそろっている必要があるからな」

 

 少し遅れたことに、リリウムをウィンは特に気にしていないことを伝える。

 

「貴様ら……いったい何が目的で離反した!」

 

 負け犬の遠吠えと一蹴されそうな糾弾。しかし、当然ともいえる叫びだった。

 

「私たちはある取引をしました」

 

「取引……?」

 

「そうだ。我々リンクスのみならず、世界のすべての人々は次にいつ死ぬかもわからない刹那的な世界を必死で生きている」

 

「わたしたちは死ぬ瞬間を決められない。次の依頼で死ぬかもしれない、それともまったく別の平時に死ぬかもしれない」

 

「まぁ。ただ死ぬ事自体はよいのです。我々は傭兵。戦地に赴くということはそれすなわち死地を目指すことに他ならないのですから」

 

「だが、ただ死ぬのは許せない。何かを残したい。そう願った」

 

 次々と明かされていく離反の背景。確かに、ある一定数のリンクスなら思っていそうな言葉だった。だが、次の瞬間、それが勘違いであったことがわかる。

 

「何かを愛することは簡単にできます。敬愛、博愛。さまざまな形で」

 

「ですが、愛されることは困難です。我々リンクスは、死の象徴とも言えるのですから」

 

「だから、我々を恐れず、かつ強く、問題にならないカラードランク1のお前なら、というわけだ」

 

「……え?」

 

 無口なはずの首輪付きすら絶句するほどの発想。

 

「そっそんな理由で離反したのか?!」

 

「いえ、もともとあれは偽の依頼でした。怪しいとは思わなかったのですか?」

 

 理解不能な斜め上の理由で離反したのかと問えば、開き直られ、むしろこちらの管理体制を危ぶまれる。

 

「……こちらには企業連からの依頼をいくつか無償で請け負うという通達がなされていた。ウィン・Dもそれは知っているはず」

 

「ああ、知っていた。だからこそ、利用した」

 

 同じ通達を受けたはずのウィンを見つめれば、しれっと言い返す。言えることがあるとすれば、セレンと首輪付きが罠にはめられたということくらいか。

 

「だが、他にも強者と言える者はいるだろう!」

 

「残念ですが、ORCA旅団との戦闘によって、主だった男性リンクスは死亡、もしくは行方不明となりました。そこはご承知かと思っていたのですが?」

 

 そう、現在、カラードランクは調整されたもののORCA旅団との戦闘によって、以前の強者と呼ばれる男性リンクスは軒並み姿を消していた。ある者は討たれ、ある者は行方をくらまして。結果、最強のリンクスである首輪付き以外、彼女たちよりも強いと言えるリンクスはいなくなったのである。

 

「ああ、ご安心を。なにもただ、愛されてみたいというだけの理由ではございませんから」

 

「なんだと?」

 

 リリウムの発言に、眉をひそめる。そして、ウィンが一歩前に出る。

 

「私たちは、多少なりとも、首輪付きに好意を抱いている」

 

「なっ?!」

 

 突然の宣告に、たまらず言葉を詰まらせるセレン。当の首輪付きすら目を見張っている。

 

「通信を介して伝えても、その前にオペレーターであるセレン・ヘイズが許さない。だけど、個人的に会うにはいろいろなリスクが高すぎる」

 

「だから、偽の依頼を出してあなたを誘い出し、三人で攻め落として、認めさせる。それが作戦」

 

「一歩間違えれば死んでいたんだぞ?!」

 

「ランク1がそう簡単に死ぬわけがない。実力だけでなく、運すら味方にする首輪付きならなおのことだ」

 

 事も無げに言うウィンに三度絶句する。

 

「ですが生き残りました。結果論ですが、それがすべてです」

 

「なので、こちらにサインしてください」

 

 そう言ってメイが差し出すのは、一枚の紙切れとペン。嫌な予感、というよりは確信をもって受け取り、首輪付きとセレンはそれを見る。

 

「これ実際に使える婚姻届じゃないか!」

 

 そう、企業連が公式に発行している婚姻届だった。しかもわざわざ女性名を書く項目を三つに増やして個々の名前と他必要事項を記入してあるという悪い冗談も込みでだ。

 

「当然でしょう。王大人の人脈も使ってぬかりなくやりましたので」

 

「こんなことにそんな人脈を使うんじゃない!」

 

 ある意味正しく、ある意味間違った人脈の使い方で、ぬかりないものを作ったリリウム。

 

「必要事項と住居なんかは私とメイの二人で用意した」

 

「ええ、しっかりと準備しました」

 

 無駄に胸を張るウィンとメイ。胸部装甲の差が痛々しいのは触れてはいけないだろう。

 

「さぁ」

 

「早く」

 

「記入してください」

 

 詰め寄る三人。だが、ここでセレンは思いつく。彼女らが一切想定していないであろう、驚愕の事実を。

 

「フフフ……貴様ら、間違いを犯したな?」

 

 突然笑い出すセレンに、得体のしれないものを見るような視線を投げる三人。首輪付きは書類を見て若干だけ苦笑を浮かべる。

 

「その書類が効力を発揮するのは、各企業がデータベースに認知した人間にのみ。だが、こいつは各企業に名前こそ知られど、データベースには載っていない」

 

「どういうことでしょうか」

 

「つまり、首輪付きには戸籍が存在していないということだ!」

 

 勝ち誇るセレン。そう、首輪付きがなぜその本名で呼ばれないのかというと。彼には名前が、そもそも戸籍が存在せず、誰もその点を知らないからである。

 

「そんなことが……」

 

「バカな、ありえん……」

 

「では、今までの苦労は……」

 

「水泡に帰す、だな」

 

 衝撃を受ける三人に対し、勝ち誇った笑みを投げつけるセレン。と、首輪付きが突然身を低くして鋭い視線を送る。三人ではなく、セレンでもなく、また別の方向に。

 

「……何者だ」




長くなったかもしれないです.

2017/03/05 句読点を変更
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