アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity- 作:銀塩
"He" is coming.
その日、織斑一夏は驚きのあまりその思考を停止せざるを得なかった。教壇に立つ副担任の山田真耶すら、その表情には苦笑が含まれている。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
問題は、隣に立つ転校生だ。短い金髪に、紫の瞳、そして中性的な顔立ち。およそ美形と評するに足る容姿でいわゆる貴公子と表現するのが一番であろうが、そんなことはどうでもいいほどの衝撃。それは、
「三人目の、男性操縦者・・・・・・?」
そう、シャルル・デュノアが、男性であるということだ。
「なんだ、やけに騒がしいな」
同刻、少し離れた教室で静かに授業を受けていたウィンが、突如揺れるほどの叫び声を感じて眉を寄せる。同じくそれを聞いたメイも眉を寄せ、リリウムは表情こそ変えてはいないが身内に分かる程度にはいらだちを見せていた。しかし、アルバートは教壇に立つ女性、スコール・ミューゼルが愉快そうに口の端をゆがめたのを目ざとく見つけていた。
「・・・・・・妙なことになりそうだ」
そう呟いた言葉にリリウムが反応する。
「なにか心当たりが?」
「・・・・・・いや、なにも。博士からも連絡はない。が、ミューゼル教官がニヤついている」
「・・・・・・確かに、変なことになりそうですね」
メイの言葉が彼らの中でのスコールの評価を的確に表しているだろう。なお、この評価はこのクラスではほぼ周知の事実と言ってもいいくらいみんなが共通して持っている評価だ。ここでは特に言及こそしていなかったが、実は彼女、事ある毎に面白おかしくしようと画策しているのだ。まるで、快楽主義者とでも言うかのように。ゆえに、スコールが口の端をゆがめたときに、いち早くろくなことじゃないと察知したのだ。
「まぁ、今は何も情報はないんだ、待つしかあるまい」
「それと、何が起きても大丈夫なように覚悟することも重要ですね」
「あの叫びも、無関係ではないでしょうから」
はぁ、とため息をつき、これからのことを思うと気が重くなる一同だった。
――――――――
そして昼休憩。案の定、例のうわさ好きの少女が情報を仕入れてくる。
「1組に男の子が転入してきたよ!」
その言葉に騒然となる4組。転入生自体は2組の凰鈴音がいるが、男となれば話は別だ。当然、騒ぎになる。
「どんな子!?」
「顔は中世的かなー。髪は金色で、紫色の瞳の貴公子って感じの男の子!」
「うっそ、なにそれ絶対見に行かないと!」
その騒ぎを見つつ、カラードの面々は顔を見合わせる。
<博士からなにか聞いてないのか?>
<・・・・・・特に連絡はない>
<さすがにこんな異常事態ともなれば連絡くらいありそうですが・・・・・・>
<とりあえずは静観しましょう。なにがどうなるか分かりません>
<・・・・・・だが、そう遠くないうちに接触があるのは確実だな>
アルバートの言葉にうなずく一同。こうして、とりあえずの行動方針を決めたのだった。
あの訓練を始めてから、一週間も経たないことの出来事である。
――――――――
その日の放課後、アルバートたちが寮の廊下を歩いていると肩を落としてとぼとぼと歩く一夏がいた。
「・・・・・・どうした、一夏」
その声に一夏は振り返り、その頬に張り付いた真っ赤な紅葉にアルバートたちは驚いた。
「ああ、アルか。ちょっと、箒を怒らせちゃってね」
「・・・・・・またなにかうかつな発言でもしたのか?」
「いや、俺としては気を利かせたつもりなんだけど、なんか箒を怒らせちゃったみたいで」
アルバートの言葉に苦笑しつつ、頭を掻く一夏。
「・・・・・・それで、なにが原因だ?」
「あー、実は、転入生が来たんだけど、その子がおれの同居人になって。箒もいままで異性のおれと一緒だから息が詰まって仕方なかっただろうし、これでのびのびできるなって言ったら」
「・・・・・・その頬になった、と」
一夏がうなずき、アルバートはひとつため息をつく。
「まぁ、君の言ってることも正しいのだけど、な」
「なんというか、箒さんが少しあわれですね」
「言っていることが正しい分、さらにどうしようもない、というところが余計につらいですね」
ウィンたちもため息をついたのに、一夏は目を見開いた。
「え、まずかった?」
「・・・・・・お前は正しいことを言ってるが、心の機微に鈍感なのが問題だ」
「えぇぇ・・・・・・」
一夏が大きく肩を落とす。アルバートはひとつその肩をたたいて笑った。
「・・・・・・まぁ、これから身に着ければ良いさ」
「・・・・・がんばるよ」
そううなだれる一夏を見送って、アルバートたちも部屋へ向かう。
――――――――
その日早朝、ある部屋の前で緊張気味に立つ人物がいた。部屋はアルバート・ティーアの部屋で、その前に立つのは、金の短髪で紫の瞳で貴公子然とした雰囲気の少年、例の転入生であるシャルル・デュノアだった。
(えっと、確かここが、あのカラードの、『天災』ドクターシノノノの護衛、アルバートくんの部屋・・・・・・)
同じ男性として声を掛けて仲良くしたいだけなのだから問題はない、と言い聞かせて、何度も言い聞かせて、ドアをノックする。と、すぐに誰かが扉に近づく気配がする。おそらく、部屋主のアルバートだろう、と予想をつけたシャルルは気付いてもらえたことにほっと胸をなでおろし、
「どなたでしょうか」
そして扉の先に現れた少女というには年齢を経た女性を見て固まった。
「ああ、なるほど、あなたが転入生のシャルル・デュノアさんでしたか。なにか御用でしょうか」
だが、ただ単に女性が彼の部屋から出てきただけならシャルルもそこまで驚かない。むしろ、(本来はダメであろうが)彼の部屋に遊びに来たのか、と納得できる。しかし、このときの彼女、リリウム・ウォルコットの服装は、一枚男物のワイシャツを羽織っただけという、なんとも扇情的な服装だったのだ。いきなり出鼻をくじかれたとかなんで彼女が、なんて疑問すら全部吹っ飛んでしまうほどの衝撃が、シャルルを襲っていた。
「もしかして、アルバートさんへ会いにきた、ということでしたら、中へ入ってお待ちください。いまはシャワーを浴びられていますので」
そしてリリウムが手を引いて部屋の中へ連れて行ったときになってやっと、シャルルの意識が戻る。
(えっ、ちょっと待って、いまシャワー浴びてるって言ってなかった?!)
なぜかまったくリリウムの手をまったく振りほどけないまま、部屋の中に案内され、
「む、客か?」
「あら、見ない顔、ということはつい最近お話があった転入生、ということですか」
ほぼ同じ服装をした女性二人、ウィン・D・ファンションとメイ・グリンフィールドに再び衝撃を受けていた。
(なんでなんでなんで?! なんでこんな格好で男性の部屋にいるの?!)
「なにやら、彼とお話があるそうで」
「ふむ? なるほど、そういうことならここで待ってもらったほうがいいな」
「まぁ、そういうことですね」
衝撃でふたたびフリーズしてしまったシャルルを座らせ、おのおの好きなように座る三人。シャルルにとってはものすごく気まずい空気のなか、シャワールームの扉が開く。
「・・・・・・む? 誰か来ていたのか」
それはシャワーを浴びてほかほかと湯気をまとう、鍛え上げられた上半身がまぶしいアルバートだった。
(うそうそうそうそうそ?!)
その肉体美に見とれることも半分、しっかり着込まないで出てきたことへの驚きも半分で、シャルルをさらに困惑させた。
「・・・・・・ああ、そういえば、一夏が言っていたな。はじめまして、アルバート・ティーアだ」
「私はウィン・D・ファンションだ」
「私はリリウム・ウォルコットです」
「わたしはメイ・グリンフィールドです」
「えっと、その、僕は、シャルル・デュノアです。よろしく」
アルバートたちの自己紹介に応えるシャルル。アルバートはシャルルの前に座り、そしてその目を見据える。
「・・・・・・それで、あのときの少女が俺たちに何の用かな」
シャルルの目が、大きく開かれた。
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