アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity- 作:銀塩
随時感想をお待ちしております。
2017/12/12 内容を一部修正加筆。
このとき、すぐになんでもないように表情を元に戻したのが彼女の彼女たる所以だろう。しかし、その内心は多大な驚愕で溢れていたが。
「いったいなんのこと? あの時って言われても僕たち初対面だし、それに、僕男の子だよ?」
アルバートは少しだけ片眉を上げた。
「・・・・・・ふむ。まぁ、そういうことならそれでもかまわん。それで、いったいなんの用だ?」
「いや、僕も男の子だし、せっかくだから数少ない男性操縦者の君とも仲良くしたいなって」
「その後、隙を見て我々のNEXTのデータを入手し本国、正確にはデュノア社へ送信する、というわけですね」
シャルルの言葉に即座に言葉を重ねるウィンに、シャルルが苦笑いをしながら振り返った。
「いやいや、そんなことするわけないじゃないですか。わざわざ仲良くしようって人にそんなことするわけないでしょう?」
「ちなみに、証拠は今朝方行った通信を傍受して私たちがそれぞれ保存している」
「言い逃れができない程度には個人が特定できる情報がありますので、あきらめてください」
再び重ねられた言葉に、思わず口ごもってしまったシャルル。それが決定打となり、アルバートが再び口を開く。
「・・・・・・あのときも、入念に君の情報は洗っていた。公的機関の記録はもちろん、噂程度の話にいたるまで、その全部を調べていた」
「・・・・・・最初から、知っていたんですね」
「・・・・・・気付いたのは昨日だ。雇い主から一切の情報がない男性操縦者の存在、当然ながら警戒して当然の存在だ。その警戒策のひとつ、通信の傍受という策によってたまたま今朝の通信を傍受できて確信に至ったというわけだ。」
アルバートの言葉に、深くうなだれるシャルル。
「僕を、どうしますか」
下心を持って近づいた相手を許すほど、カラードは甘くはない。そう思ったからこそ、シャルルは死刑宣告を待つ被告のような覚悟を持って聞いた。
「・・・・・・別に、どうにもしないが」
しかし、そんな悲痛な決意は、あっさりとどこかへ放り投げられた。
「え・・・・・・?」
「・・・・・・貴重な男性操縦者である以上、ハニートラップやその他の謀略など最初から想定済みだ。さらに言えば、その対処についても」
「とはいえ、さすがにこんな方法を取るとは予想だにしませんでしたが」
リリウムの言葉にうなずく一同を見て、少し苦笑いを浮かべるシャルル。男であることを偽るなど、確かに無謀を通り越してもはや愚かとしか言えないのは彼女も承知済みだからだ。なら、なぜそんなシャルルはそんなことをしたのだろうか。その答えは簡単だ。つまり、
「デュノア社の社長夫人、エレノール・デュノアの独断による工作、か。ずいぶんとお粗末な手を考えたものだ」
身を固くするシャルルによく見えるようにレコーダーを出すメイ。そのまま再生ボタンを押す。
『問題なく聞こえてるわね』
『あの、いったいなんでしょうか』
『決まっているでしょう? いつになったら情報を手に入れるのかを聞いておこうと思って』
『あの、まだここに入って二日目なんですが……』
『まだ手に入れてないの? 相手は男でしょう、体でも見せつけてやればすぐになびくわよ。泥棒猫の娘だというのに、そんなこともできないのかしら』
『わかり、ました』
今朝の、エレノール夫人とシャルルの通信。もちろん、一般で使われるようなオープンな回線ではなく秘匿回線と呼ばれるものでの通信だが、技術畑の出ではない夫人は、秘匿回線のすべてが安全であると勘違いして、よりにもよって一番レベルの低い回線での通信を行ってきたのであった。それはバックに天災がいて、そしてなにより彼ら自身もある程度の技術を持ち合わせているカラードからすればうかつ以外の何物でもない。
「これが、その証拠ですね。おそらく夫人は一般人なのでしょう。迂闊としか言えない秘匿レベルでの通信なんてことをしてますし、おそらく自分の想像通りにならなかったことなど、そうないのではないでしょうか」
想像ですけどね、と付け加えるメイからレコーダーを受け取ったアルバートは、それを片手間にいじる。
「シャルル・デュノア。いえ、シャルロット・ブロン。あなたは学園の規則をすべてお読みになりましたか」
リリウムの声に顔を上げるシャルル改めシャルロット。
「IS学園特記事項第21項、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする」
そう、IS学園とはあらゆる権力が及ばない場所である。それが意味するところ、それは、
「僕は、こんなことをしなくても大丈夫……?」
思わず漏れたつぶやきに、アルバートたちは深くうなずく。それに呆然とし、次いでほろほろと涙を流すシャルロット。
「よしよし、つらかったな」
涙を流すシャルロットを抱きしめるウィン。その温かさに決壊したかのように泣き崩れるシャルロットの背中をメイがさする。
「ごめんなさい、ありがとうございます」
泣き止んだシャルロットは、リリウムが差し出したティッシュで涙をぬぐう。そのシャルロットに、アルバートが声をかける。
「……シャルロット・ブロン。君にはいくつかの選択肢がある」
ひとつのターニングポイントとなる、選択肢。
――――――――
白い壁に落ち着いた色合いの木材の家具が多く置かれた重厚な執務室にて、男性が頭を抱えていた。壮年期も終わりを迎えようとしているほどの年齢の男性は、その金の髪を押さえ眉間にいくつものしわを刻んでいる。
「いったい、どこへ行ったと言うんだ……」
ことの顛末は簡単だ。ある少女が突然行方不明になったのである。その少女はある田舎に住んでおり、田舎に住んでいながらISのパイロット候補生で、そして諸事情により公的には認めてはいないものの最愛の娘であった。判明したのは二週間ほど前。いつも受けている、愛娘が無事に過ごしているかどうか張り付かせているいわゆる密偵からの報告で数日前から姿を見なくなったと知らされた。その報に驚愕し、すぐさま拉致の可能性も含めて調査させた。しかしながらいっさいその様子がないと知らされ困惑した。拉致でもないのに突然姿が見えなくなる。家の様子は荒らされているわけでも妙に荷物が減っているわけでもないから家出の可能性も薄い。まったくの足取りがつかめなくなり、彼、シャルロ・デュノアは彼女、シャルロット・ブロンの安否を案じる以外に手段がなくなっていた。すると、机の上の電話が鳴る。
「・・・・・・なにかね」
<・・・・・・デュノア社の代表取締役、シャルロ・デュノアだな?>
聞いたことのない男性の声。内線をよこす役職に関する人事は行っておらず、現在のその役割の従業員たちの中にこんな声の人物はいない。そう一瞬で判断し、そして内線すらハッキングされていることに驚きながらもそのことをおくびにも出さず、応答する。
「いかにも、私がその代表取締役だ」
<・・・・・・俺はカラードの一人、ストレイドだ>
思わず、椅子を蹴倒す勢いで立ち上がってしまう。このタイミングで篠ノ之束お抱えの部隊からの連絡。娘の失踪になにか関連があるのは明らかだ。
「まさか、Dr.シノノノ麾下の一人から電話をいただけるとは思いませんでした。それで、なにか御用でしょうか」
<・・・・・・シャルロット・ブロン、というのはあなたの一人娘だな?>
「そう、ですね。そこまで知られているのだから、いまさら隠すのは無駄でしょう。シャルロット・ブロンはいかにも、私の娘です。諸事情あって、私のもとに迎えることができていませんが」
素直に認めるシャルロ。ブロン姓でかつ一切接触していないにもかかわらず、シャルロットが彼の娘であると聞いてきたのだ、情報の世界に強い篠ノ之博士の後ろ盾も考慮すればすべてが筒抜けになっていると考えて相違ないと判断された。
<・・・・・・ひとつ、取引をしないか。先に言っておくが、俺たちが拉致したとかではない>
取引を持ちかけられ、付け加えられた言葉を多分に疑いながら応じる。
「・・・・・・こんな、まさか、冗談だろう?」
<・・・・・・こちらにもメリットがあり、そちらにもメリットがある。それでは不満か?>
取引の内容を聞かされたあと、意識せず言葉が漏れた。
「本来であれば、役員会議を招集すべきでしょうがなのでしょうが、私の一存ですべてを受けます。あなたがおっしゃるようにこちらにもメリットがあり、あなた方にももちろんメリットがある。こちらこそ、よろしくお願いしたい」
<・・・・・・では、さっそく動くとしよう。それでは>
「ええ、それでは」
電話が切れると、シャルロはそのまま椅子に崩れるようにして座り込む。深く吐いたため息は、安堵を含んでいた。
――――――――
その日、ある女性にとって最悪の日となった。これまで順調に進んでいたはずの人生の路が突如として断たれたのである。具体的には、先ほどから流れているニュースが示している。
『驚愕のリーク! デュノア社夫人の悪辣な計略とは?!』
ゴシップにしては異様に詳しく、そしてそのどれもが正確に報道されている。曰く、デュノア社夫人は社内で傍若無人に振る舞い圧政を強いている。曰く、夫人はデュノア社の前身の企業時代にその資金力に当時の社長を追い詰めて当時恋仲で子供を身ごもっていた彼の恋人を放逐した。曰く、デュノア社が行き詰ると社長の元恋人の少女を利用してIS学園に潜入させカラードの情報を盗もうとした。それ以外にも隠し財産の場所や脱税贈収賄、違法な脅迫恫喝その他もろもろの全てが報道されている。
「お、奥様! いかがなさいましょう!」
そう叫ぶのは彼女の側近。その後ろにはデュノア社の中でも彼女の手下と言える人物たちがいた。
「・・・・・・さっさと荷物をまとめて不要なものは焼き捨てなさい! そうすればまだ時間がっ」
しかし、時すでに遅し。そう叫び終わる前に警察が乗り込んでくる。
「動くな! デュノア社の夫人と、その一味だな?!」
その中の一人が、一枚の紙を見せ付ける。
「お前たちには贈収賄ならびに恐喝などの罪に問われている! 黙秘権をはじめとする権利は保障する!」
色めき立つ取り巻きたちを尻目に、夫人は呆然と崩れ落ちた。
――――――――
「・・・・・・というのが、今回の顛末だ」
数日後の朝、シャルロットを部屋に呼んだアルバートがニュースを流しつつ全ての流れを説明する。
「要は、シャルロット・ブロンという少女を許すだけでなくデュノア社に巣食う病巣そのものを退治した、ということだな」
呆然とするシャルロットの肩をポンとたたくアルバート。
「・・・・・・これで、お前は自由の身だ」
その言葉にゆっくりと振り向き、そしてこみ上げた涙を我慢することなく流し大声で泣きながらアルバートに抱きつくシャルロット。それをやさしく抱きとめるアルバートに、思わずジトッとした目線を送るウィン、メイ、リリウム。その三人の様子にこれまた思わず苦笑しながらシャルロットの頭を撫でるアルバート。
こうして、第三の男性操縦者という騒動は、デュノア社の内部清掃という結末で終わるのだった。