アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity- 作:銀塩
デュノア社の内部一斉掃除が世界を騒がせた日から数日、当のデュノア社の社長室の応接用のソファには社長シャルロ・デュノアはもちろんのこと、彼の対面には黒い長髪を靡かせた少女が不敵な笑みを浮かべて座っていた。
「ええと、一応改めてお尋ねするが、あなたがかのDr.シノノノの使いということですか?」
不敵な笑みを浮かべる少女はひとつうなずく。
「そのとおりだ。わたしは篠ノ之束の使いとしてデュノア社、ひいてはシャルロット・ブロンの親であるシャルロ・デュノアに提案をしにきた」
「あの日、カラードのストレイドと取引をいたしましたがそれとは別口、ということですかな?」
「いや、ある意味でその延長だな。彼女の今後について提案したい事項ができたもんでね」
「提案、ですか。それはいったいどのような提案でしょうか」
「ああ、それはな・・・・・・」
――――――――
話は二日ほど前にさかのぼる。あのあとシャルル・デュノアが退学しシャルロット・ブロンとして入学してきたというある意味一大事があったのだが、都合よく大浴場が男子にも開放されたわけでもないので、アルバートたちにとってはさほど騒ぐようなことではなかった。そして現在、そのシャルロットとカラード組はというと、彼の寮部屋に組み立てていたIS用シミュレータの前に集まっていた。
「えっと、とりあえず呼ばれたから来てみたんだけど、これIS用シミュレータだよね?」
本来なら部屋には存在しない機材が置かれているのには、さしものシャルロットとて驚いてしまった。
「・・・・・・お前の腕前を見せてほしくてな。今回は多少秘密にしたくてここに来てもらった」
「それはぜんぜんかまわないんだけど・・・・・・」
「・・・・・・設定はこちらで行う。お前には設定された目標をクリアしてもらう。手段、武装は問わない」
「まぁ、わかったよ。とりあえず繋いじゃうね」
そう言って彼女の専用機、デュノア社のラファール・リヴァイヴを改修したラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡを展開、シミュレータのコードを繋ぎ、ヘッドバイザーを装着する。
「・・・・・・準備は良いな?」
「もちろん」
「・・・・・・では、スタート」
そうして、試金石の選別が始まった。
「それで、いったい何が目的だ?」
シャルロットがシミュレータを開始したのを確認すると、カラードの面々は彼女から少し離れてかつ声を潜めてアルバートに確認する。
「・・・・・・デュノア社に非公式に介入した結果、俺たちはあそこに対する無視できないほどの影響力を獲得した。今後の計画に関していくつか修正ができる」
「その絡みで、彼女を組み込もうと?」
「・・・・・・実力次第では、な」
「そういうことでしたか」
納得がいった様子でシャルロットを見る彼女たち。そこに遅れて登場するはセレン・ヘイズ。
「すまない、遅れた」
「・・・・・・大丈夫、今はじめたばかりだ」
「今ちょうどブリーフィング中ですね。たしか、アルが受けた依頼のひとつだと聞きましたけど」
「確かに細部が多少変わっているとはいえ、これはあのときの依頼だな。それにしてもこれを選ぶとはお前も存外甘い男だな」
「・・・・・・あり得る可能性のなかで、一番分かりやすいものを選んだだけだ。この世界の最強兵器の従事者には、その意識が低い」
「ほんとにこれを達成したのか? お前という男はほんとに・・・・・・」
「王大人の言うとおりですね・・・・・・」
アルバートがあらかじめ用意していたディスプレイに表示されている内容を見て、彼らは口々につぶやいていた。
(いやいや、ありえないでしょこの巨大兵器)
ブリーフィングを受けているシャルロットの頭の中は、それで埋め尽くされていた。おそらく依頼者と見られる音声の提示した資料の中に表示されたのは、現実的にありえないほどの巨大兵器。場所は水平線すら見えるほどの大海原のど真ん中で、巨大兵器は言うなれば武装を施した巨大ボートだが、その全長は戦艦の優に2倍。全体で言えば優に8倍を超える。それはスティグロと呼ばれているようで、その姿は異様の一言だった。作戦自体は簡単で、ある程度広範囲に布陣する艦隊に対する強襲兼スティグロの試験運用で、その後詰とのこと。
(友軍ではないけど、試験運用の後詰だけだし、たぶん大丈夫)
海上という場所なので補給がないと厳しいが、おそらく巨大兵器の性能を考えればすぐに任務は終わる。そのあとに巨大兵器に運んでもらえば大丈夫だろう。そう、判断した。判断してしまった。軍で味方に囲まれて行動しているという経験が、企業に雇われた傭兵という性質を忘れさせてしまった。
<それではミッションを開始する。目標はAFスティグロの試験運用支援ならびに敵艦隊の殲滅だ。今回の報酬は殲滅数で変わる。スティグロは味方というよりライバルだな>
シャルロットはラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの55口径アサルトライフル《ヴェント》を装備し、周辺をすばやく索敵。そしていくつか艦艇が固まっている場所を確認すると、スティグロの現在地を確認してガルムを牽制に使いつつ、61口径アサルトカノン《ガルム》を艦橋やエンジン部分に叩き込む。ISの国家代表操縦者候補というだけあって、その動きには躊躇がない。ISにかかわった時点で人命を奪うという覚悟は決めているのだろう。だからこそ次々と戦艦やイージス駆逐艦のミサイルやマシンガンを避けつつ目標を沈めていき、
突如として背後から襲ったミサイル群を避けられなかった。
「え、なん、なにがっ?!」
突然の衝撃に意識を持っていかれそうになるもすぐに持ち直し、ふたたび襲ってきたミサイル群を間一髪避ける。そしてミサイルの噴煙を目で追えば、そこにいたのはAFスティグロだった。
「こっちは友軍でしょ?!」
<クソッ、見境なしか・・・・・・。やつを味方だと思うな!>
同じくしてオペレータの声が入り、すぐさまFCSがスティグロを敵だと判定する。シャルロットは迫りくるミサイル群をヴェントで迎撃しながら後退、しかしスティグロはそれ以上の速さを持って距離をつめてくる。
「相手のが速い・・・・・・。だったら!」
それを確認すると、今度はスティグロの挙動が直線的なことを利用して立体機動で攻撃を回避、周囲の艦艇の行動をうまく誘導してスティグロに対する牽制とする。しかし全長がはるかに差がある艦艇の攻撃をあざ笑うようにスティグロは装甲表面ですべてを防いでいく。
「これも効果がないの?!」
一瞬だけ歯噛みしたシャルロット。今度は距離を離そうとはせず、逆に急速に距離を詰めていく。スティグロも突撃をかけ両者が交差する瞬間、
「はぁっ!」
シャルロットの奥の手、単純な攻撃力ならIS第二世代最強と言われたリボルバー機構による炸薬式69口径パイルバンカー、
<スティグロの撃破を確認。残敵を掃討して、終わりにしよう>
オペレータの伝達に一息だけ安堵の吐息をつくと、ふたたび艦艇のほうへとラファールを駆った。
「・・・・・・お疲れさま」
シミュレータが終了しバイザーをはずすシャルロットに声を掛けるアルバート。いつの間にかじっとりと掻いていた汗をメイに差し出されたタオルでぬぐうシャルロットが、疑問を呈する。
「それで、結局あのミッションはなんなの?」
「・・・・・・いくつか考えている将来予測の中で、お前がどうなるのかを確認しておきたかったのがひとつ」
「ひとつ?」
「・・・・・・もうひとつは、俺たちが考えている未来を勝ち取れたとき、お前を組み込んで大丈夫かを見てみたかった」
「つまり、Dr.シノノノの計画に僕がどれだけ深く関わることができるかを見てくれたってこと?」
「・・・・・・まぁ、ありていに言えばそうなるな」
ふーん、と声を出すシャルロットを尻目に、アルバートはセレンへ目配せをする。セレンはそれにひとつうなずき、手元にある端末を操作する。そして、ディスプレイに写されたのは、
<やっほー! みんなのアイドル、束さんだぞー!>
そう、彼らの飼い主、篠ノ之束だった。
「つい先ほどテストをしてみたが、なかなか面白い逸材だと思うぞ」
<ほうほう、セレンが言うんだったら間違いないねー。具体的にどんな感じ?>
「そうですね、私の所見ですが彼女は視野が広く、腕はもちろんのこと状況把握や臨機応変な対応が得意なタイプだと思われます」
「同じくだな。前線で指揮を取る者の中でも優秀な部類だろう」
「それ以外にも、仕掛けるときには躊躇わない胆力も備わっていますね」
「・・・・・・必要な素養はもちろん、一個抜けた才覚があると思うぞ」
<なるほどねー。ふんふん>
何度かうなずきながらあごに手をやる束。そんな彼女を前に姿勢を正すシャルロットに少し苦笑いしつつ、アルバートが口を開く。
「・・・・・・引き入れても大丈夫だと思うが」
<んー・・・・・・まぁ、そうだね。ちょっとだけ向こうとやり取りして、そのあとでどうするか決めるよ>
と、束の目がシャルロットに向く。
<というわけで、しばらく待っててね>
――――――――
「まぁ、あれだ、お前の娘、シャルロット・ブロンをうちの預かりとしたいんだ」
「・・・・・・は?」
「今回、計らずも
「それは、Dr.シノノノの総意でしょうか」
「もちろん。そして束の意思であるということは、当然だが俺たちも動く」
「・・・・・・なるほど。あなた方だけでは足りず、私たちだけでも届かない。そういったものを、ですか」
「察しが早くて助かる。まぁ、まだ机上の空論でしかないけどな。とりあえず、そこらも合わせて考えてほしくて話を通しに来た。いろいろ考える必要もあるだろうし、今日は話だけのつもりだ。あとはそっちで会議なり娘との相談なりをしてくれ」
「いえ、大丈夫です。その提案、お受けいたします」
「うん? そんなに即決していいのか?」
「以前、そちらのストレイド殿にも同じ言い回しをしましたが、本来であれば役員会議などを招集するべきでしょうが、私の一存でお受けいたします」
「なるほど、フランス第一のIS関連企業の社長の椅子に座るだけあって勝負どころの勘は鋭い、か」
「まぁ、そういうことですな」
「ふ、そういうことなら了解した。しっかり伝えておこう」
「いえいえ、私たちはあなた方に多大な恩があります。それを少しでも返すことができるならいくらでも身を砕き骨を折りましょう」
そうして退出する黒髪の少女に、シャルロ・デュノアは厳かに礼をして見送った。
――――――――
<はい、というわけで君はカラード預かりということになったから、よろしく>
数日後、再び召集されたシャルロットは、なんの前置きもなく通告された事実に、少し呆けていた。
「・・・・・・え、いや、え、ホントですか?」
<もっちろーん。あ、代表候補生っていうの自体はそのままになると思うよ。今回の決定自体非公式だし>
「あの、それは許されるんですか?」
<普通なら許されないよねー。だけど、うちに移籍させるにはまだ少し足りないから、それ待ちかな>
「まぁ、正式にはまだ先だ。これからこちらで行っている訓練に参加する程度だな」
セレンの言葉に、首をかしげるシャルロット。今現在行っている一夏、箒、セシリア、鈴の四人による訓練のことを伝えると、
「そんなこともやってたんですね・・・・・・」
<いろいろ考えたらそれが一番だからねー。そこに君も入るんだよ>
「期待に添えるよう、鋭意努力します」
<うん、がんばってねー>
軽い束と対照的に気合を入れるシャルロット。こうして、さらに裏で起きていた取引も含めて、すべての事態が終息したのだった。
おそらく2017年最後の更新です。
みなさんよいお年を。
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