アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity-   作:銀塩

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あけましておめでとうございます。

今回からシャルロットの専用機ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡをRRCⅡと略させていただきます。

なにとぞご容赦のほどを。


訓練

 「今日はアルに少し用事があっていないが、一夏たちがやっている訓練を見せたいと思っている」

 

 翌日、朝の寮の廊下で出くわしたカラードとシャルロット。その食堂への道中、ウィンがそう切り出した。

 

「分かりました。どこに行けば良いですか?」

 

「食堂で一夏たちにも会うだろうからそのときにも伝えるが、放課後に彼らと一緒についてくれば大丈夫だ」

 

「なるほど。ということは今日は放課後になるまで授業に身が入らないかもしれないですよ」

 

「であれば、その分だけ訓練でがんばってもらいましょう」

 

「まぁまぁ、とりあえず今日は少し慣らしてもらうだけですから」

 

 軽口を叩き合いながらそれぞれ朝食を取り、先に座っていた一夏たちと合流する。実は一夏、箒、鈴、セシリアの四人と、カラードとシャルロットの部屋は少し離れていて、食堂は一夏たちのほうが近いため、いつも彼らが場所を確保しているのだ。

 

「おはようございます、みなさん」

 

「おはよう、リリウムさん、ウィンさん、メイさん、シャルル」

 

 挨拶もそこそこに朝食にかかるグループ。注目の専用機持ち、そして名だたるカラードの集団ということもあるからか周囲からものすごく注目されているのだが、これはいつもどおりなのら彼らももはや気にも留めない。

 

「一夏さんたち、今日はシャルルさんも連れてきていただけますか?」

 

「え、いや、大丈夫なのか?」

 

「はい、大丈夫ですよ」

 

「なら、了解した」

 

 箒がひとつうなずく。そのまま他愛のない雑談をしつつ、朝食を進めるのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ところ変わって、公海上某所。そこには数人の男女が話し合っていた。

 

「これでおそらく、ある程度は生産能力をカバーできそうだ」

 

「ということは、面倒な生産設備やらでここを圧迫されずに済むってわけだ」

 

「・・・・・・そこまで多数ってわけでもないが、いくらかは作ることにはなるがな」

 

「それでもウチの人数なら充分なスペースとってなお余る程度には収まるんだろ? なら万々歳だ」

 

 茶の長髪の女性が口悪く言いながら笑い、黒の長髪の少女が同意するように何度もうなずく。

 

「そもそも、デュノア社が第三世代の開発に難航してるのは運用形態と要求スペックのつりあいが取れていないことに起因しますから。要求仕様にもう少し理解を織り交ぜれば今の時点で十二分に達成できます」

 

「そこが凡人たちの凡人たる由縁だよねー。突き抜けた変態がいるのならまだしもたかが凡人の集まりじゃ達成できないもん」

 

「その理論だとお前は変態ということになるな」

 

「ちがいますー! 私は天才ですー!」

 

「はいはい」

 

 銀髪の少女の言葉に紫の女性が答える。そして、赤銅の髪の青年が何度か手をたたく。

 

「・・・・・・さて、そろそろしっかりと始めよう。いくつか修正しなくてはならない要素が出てきている以上、早く終わらせよう」

 

 手元にあるコンソールを操作し、立体投影ディスプレイにいくつかの項目をまとめる。

 

「まずはわたしだな。外部協力者としてデュノア社を誘い入れることができた。これで生産能力を大幅に引き上げることができるから、時間の短縮にはなるだろう。どこまでを製造させるか、どこの部分を共同で行うかについてはまだ未定だ」

 

 黒髪の少女がコンソールを操作し、いくつかの項目を訂正する。

 

「よし、次は俺だ。残党のおおよその拠点をほぼ掴んだ。正確な位置までは現地を見てないから言えないが、半径3kmほどまでに絞り込んである。ほかの邪魔になりそうなやつらについても6割がた把握してる。ただ、例の侵入者の所属がつかめてない。いろいろ探ってみたが噂の断片すら出てこない以上、こっちで調査できる限界を超えたところまでもぐっている可能性がある」

 

 茶髪の女性も同じくコンソールを操作し、こちらはいくつかの項目を付け加える。

 

「・・・・・・部隊編成についても変更ができた。デュノア社の絡みでひとり部隊に加えることになった。見たところ技巧派で適応能力も高い。おそらくミスティックスと組むこともあるだろう。使用機体の詳細なスペックはあとで閲覧しておいてくれ」

 

 赤銅の髪の青年がコンソールを操作し、一人の少女についての調査資料を表示させる。

 

「最後は私かな。送受信設備の機能定義とかは終わって、今は設計段階。提供データの解析は終わってるからそれも含めてタイプAの全体進捗は2割かな。タイプBからFについてはデータの改修も終わって、あとはタイプA待ち。アークに関してはまだ手をつけてないよ」

 

 紫髪の女性が報告する。

 

「かつて私が夢見て、でも問題の多さから生きてるうちにできないかも、なんて思ってたことが、君たちのおかげで何倍も早く計画を進められたよ。ほんとうにありがとう」

 

 女性の言葉に一同はただ耳を傾ける。

 

「これからもっと忙しくなる。もっと大変になる。もっと危険な目に合う。打破すべき敵もいる。まだ壁も多いけど、君たちがいれば大丈夫だと思う。だから、これからも私に力を貸して」

 

「・・・・・・言われるまでもない。俺たちは博士のために働く。それぞれが、それぞれの理由で」

 

 青年の言葉に、ひとつ、しかし深くうなずく女性。

 

「ありがとう。だからこそ、私はがんばることができる。この夢を最後まで追い続けることができる」

 

 小さく、しかし多大な熱量の炎を瞳に宿す女性。

 

「だから、これからもよろしく」

 

「「「「まかせろ」」」」

 

 彼らの答えはひとつだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 「じゃ、行こうか」

 

 放課後、一夏に声を掛けられたシャルロットは手早く荷物をまとめるとすぐさま彼らについていった。

 

「一夏くんたちが訓練を始めたのっていつから?」

 

「まだ一ヶ月は経ってないかな」

 

「とはいえ、すごく厳しいから身にはなる」

 

「自分で考えることの大事さってのが身に染みるわよねぇ」

 

「教科書では絶対に理解し得ないものですわ」

 

 口々の言葉に少々不安になってしまうシャルロット。そのまま少し雑談しながら歩みを進めると、件の場所に到着する。

 

「来たか」

 

 そこには5つのシミュレータといくつかのディスプレイが並べられており、その前で端末をいじっているウィンたちがいた。

 

「さて、今回はいつもどおりの内容ではなく一対一の勝ち抜け戦とする。諸条件を設けた上で制限時間内に相手を落とす、もしくは相手よりエネルギーが多いほうを勝利とする」

 

 お互いの力量を把握するためともいえる内容に、シャルロットはひとつだけ疑問を持った。

 

「あの、それだと操縦時間が長い候補生が有利なのでは・・・・・・」

 

「確かに、一般的に言えばそうでしょう。機体の操縦時間それすなわちパイロットの腕前ですから。しかし曲がりなりにも私たちの訓練を受けているのです。そんな無様をさらすことは許されません」

 

 リリウムの言葉を受けて必死で目をそらす日本人約二名の姿に思わず噴出してしまうが、リリウムの言葉通りなら油断がならないということでもある。

 

「でははじめましょう。まずは一夏さんとシャルロットさんです」

 

 

 

 正直に言おう。侮っていた。いくら彼女らの訓練があったとはいえISを、専用機を与えられて一ヶ月と少し、彼女らの訓練は一ヶ月にも満たないくらいしか受けていない。確かに同期間候補生として操縦訓練を受けた場合と比べてうまく扱えるのは事実だがそれでも自分の足元にも及ばない、そう考えていた。そしてその考えは、

 

「ここぉっ!」

 

 あっという間に覆された。いまだ拙いとはいえかつて見た試合の映像をはるかに超える機動力で『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』を使っているシャルロットを追い回す一夏。腕前が及ばないのを理解している一夏は最初から被弾覚悟でRRCⅡを追い回す。しかし被弾覚悟でありながらも決定的な一打は受けていない。つまり、牽制目的の銃弾こそ腕や脚部の装甲で受け止めるが本命の一発は一切被弾させないのだ。しかも受け止める牽制の銃弾も装甲を斜めにするなどして少しでもダメージを軽減させている。それは明らかにISの操縦時間が短いパイロットができる芸当ではない。すなわち、一夏はありえないほどの速度でその技量を上昇させているのだ。

 

「ほんっと、強い!」

 

「これくらいはできないと、な!」

 

 リロードの瞬間を突いて適格に一撃を振りぬく一夏。操縦技術だけじゃない、勝負どころの勘とも呼べる長年の経験で培うはずのものすらどんどん習熟していく。結果、シャルロットはヴェント一丁を犠牲に距離を取ることになった。

 

「っく、さすがに届かないな!」

 

「まだまだ僕も負けてられないからね!」

 

 そのまま攻防を続ける一夏とシャルロット。いきなりの激戦は一夏のエネルギー切れによるシャルロットの辛勝に終わった。

 

 

 

 「さて、どうだったかな、一夏の腕前は」

 

 一息ついたシャルロットに聞くウィン。彼女は端的に、

 

「正直、見誤ってました。あそこまで強くなってるなんて思いももしなかったです」

 

 と答えた。それにひとつ満足そうに笑うとウィンは彼女の顔を見据え、

 

「君も彼のように訓練を受け、その技術を磨くことになる」

 

 と誇らしげに伝えるのだった。

 

「さぁ、次々やっていきますよー!」

 

 なぜかものすごくテンションがあがっているメイに促されてシミュレータに入っていく。こうやって各自の実力を確認して今日は終わるのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 その日の夜、いつものとおりにアルバートの部屋に集合していたカラードの面々は、思い思いにくつろぎながら今日の成果を教えていた。

 

「・・・・・・なるほど。あいつにそれぞれの実力を見せ付けた上で、向上心を引き出せたか」

 

「もともとかなり向上心があるほうみたいだからな。どこまで腕を上げるか楽しみだ」

 

「おそらく指揮官としてはひとかどの人物になるでしょう」

 

「女傑だなんて憧れますよねぇ」

 

「・・・・・・ウィンはブラス・メイデン、リリウムはBFFの女王だけどな」

 

「かく言うあなたは世界に名を轟かせる首輪付きです」

 

「名で言えば一番高名なのはお前だな」

 

「わたしなら持て余しそうですよ」

 

 口々の言葉に頬を掻くアルバート。

 

「・・・・・・明日も早い。そろそろ寝よう」

 

 逃げの一手なのはご愛嬌だろう。

 

 こうしてシャルロットの訓練初参加は、彼女の意識改革という初回最大の成果を持って無事に終わったのだった。


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