アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity-   作:銀塩

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超お久しぶりです。


She Is Coming!

 何度目だろうか。その日、1年1組の教室は静寂が支配していた。いつもなら姦しい少女たちが、みな一様に沈黙しているのである。

 

「えっと、も、もうひとり転校生を紹介しまーす、なんて……」

 

 いつも明るい山田真耶すら貼り付けた笑顔に多分に困惑と怯えを含んでいた。それだけ、壇上の少女、眼帯をつけた銀の髪を持つ少女ラウラ・ボーデヴィッヒの雰囲気は鋭いものだった。

 

「ボーデヴィッヒ、お前は挨拶もまともにできんのか」

 

 助け舟を出すように促す織斑千冬の言葉に目を輝かせるかのように反応するラウラ。

 

「織斑教官!」

 

「ここでは先生と呼べ」

 

 必殺の出席簿攻撃にはさすがにひるんだラウラは、再び前を向くと一言、

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 とだけ告げた。

 

「えっと、それだけ……ですか?」

 

「以上だ」

 

「で、では空いている席に……」

 

 山田先生が言い終わる前に、

 

「貴様は……!」

 

 眦をあげて足音を踏み鳴らしながら歩み寄るラウラ。その先には、一組唯一の男性である織斑一夏が。

 

「貴様のせいで、教官は……!」

 

 いい音を鳴らしスナップを利かせたビンタが一夏の頬を捉える。呆然とする一夏が見上げたのは、怒りをその瞳に焼き付けた少女の憤怒の表情だった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 「……それで頬が少し赤いのか」

 

 昼、いつもどおりに集合した一年専用機組、特に一組ではない鳳鈴音、アルバート・ティーア、ウィン・D・ファンション、リリウム・ウォルコット、メイ・グリーンフィールドがその頬に残っていた紅葉におどろき、食事をしながら一夏が経緯を説明していた。

 

「ふむ、きみに彼女との面識はないのか?」

 

「一切ないですね。千冬姉もほとんどISにかかわることは話してくれたことはないので」

 

「となると、ラウラ・ボーデヴィッヒは一夏さんを一方的に知っており、彼女の口ぶりから察するに千冬さんのことに関連してあなたになんらかの恨みがある、ですか」

 

「ただの逆恨みですから、気にするようなことではないでしょう」

 

 リリウムがばっさりと切り捨てたのに一夏が苦笑し、鈴音が声を上げる。

 

「あ、そういえば千冬さんってドイツに行ってたことなかったっけ?」

 

「あー、確かにしばらく行ってたな。ということはそのころに千冬姉と知り合った感じか」

 

「織斑教官がドイツに行かれたのは、たしか第二回モンドグロッソのあと、でしたわね」

 

「なるほど、そういうことだな」

 

 次々と繋がっていく。一応の納得を得られ、そのまま解散となった。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 「・・・・・・さて、どうしたものかな」

 

 その後何事もなく一日が終わり、今はアルバートの部屋。部屋の主であるアルバートは薄型の携帯端末でさまざまな情報を見ながら思わず漏らした。

 

「どうなさいましたか」

 

 優雅に紅茶を飲んでいたリリウムがその言葉を拾う。

 

「・・・・・・例の転校生をな、どう扱うか、と」

 

「邪魔、ということであれば排除いたしまか?」

 

「・・・・・・いや、それはしなくていい。それよりも以後一夏とその周辺に事ある毎に絡むのは確実だからな、どのように扱えば、と」

 

「ふむ。であれば当て馬にするのか?」

 

「でも当て馬にしたところで実力が未知数じゃないですか。それになにか悪い影響があっても困りません?」

 

「むぅ、たしかに・・・・・・」

 

 ウィンの発言にメイが言葉を返す。

 

「・・・・・・調べてみたが、ある程度の実力はありそうだ。見てみろ」

 

 アルバートは携帯端末を操作し、壁一面に備え付けられたディスプレイの一つに携帯端末の画面を表示する。

 

「えーっと、ドイツ軍のIS配備特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの隊長、ですね」

 

「部隊章がかわいいな。眼帯をした黒ウサギか」

 

「通称黒ウサギ隊。ドイツの保有する10機のISのうち、3機を割り当てられた名実共にドイツ最強の特殊部隊、ですか」

 

「・・・・・・だから、腕はある程度は持っているのだろう。問題はそのある程度がどれくらいなのか、感情面が最適とはいえないため当て馬にした場合の影響がわからない、という二点だ」

 

 うーむ、と唸る一行。そこへ遅れてセレンが入ってくる。

 

「すまないな、少し遅れた」

 

「・・・・・・風呂ならもう沸いているぞ、先に入るといい」

 

「では、そうしよう。ところで」

 

 セレンがディスプレイを見る。

 

「これはいったい? 見たところあのラウラだかいう転校生のものみたいだが」

 

「・・・・・・今後どのように扱うか悩んでいてな。生徒である俺たちとは違う情報が入る教師のセレンもなにかアイデアをくれ」

 

「と言われてもな。教師と言えどほとんど情報はないぞ? まぁ、いまは織斑一夏への恨みから態度が悪い、というくらいか」

 

「そうなんですか? では、その恨みを取り除いてあげれば大丈夫そうですね」

 

「あくまで私の見立てでは、だ。保証はせんよ」

 

 そう言って浴室に入るセレン。彼女の言葉がきっかけとなりラウラ・ボーデヴィッヒは現状関わることはない、という結論に落ち着いたのだった。




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