アーマード・コア for Answer -mutiny by infinity- 作:銀塩
適当なジョークが不発したために若干不機嫌な篠ノ之博士が案内したのは、彼女の住処となっている特殊な基地だった。警備などの問題は大丈夫なのか、と言いたくなるが、BFFとGA専属のリンクスをして要塞と言わしめるだけの警備なので問題はないだろう。
「さて、ここがオペレータールームだよー!」
何枚かの扉を潜り抜けた先にあったのは、おそらく個人で扱うには世界最高(ただしその個人も最高峰の人間)ともいえる規模のモニターやサーバが置いてある部屋だった。
「これほどのものが……」
五人の中で唯一のオペレーターであるセレン・ヘイズが絶句する。リンクスたちはいまいち理解できていないのか、反応が薄い。
「お、わかるー? この基地の素晴らしさが!」
セレンの反応に気をよくしたのか、篠ノ之博士はセレンに機材の説明をする。セレンもそれを聞き入るため、リンクスたちは手持無沙汰になっていた。仕方なく、周囲にある機材を眺めていたのだが、メイがある写真立てを見つける。
「この写真は……?」
幼い少年と二人の少女の写真。よく見れば、片方の少女には篠ノ之博士の面影がある。
「あの、博士。説明を切ってすいませんが、この写真はなんでしょうか」
「んー?」
せっかくなので、思い切って本人に聞くことにしたメイ。説明を中断してメイの方を見やる篠ノ之博士は、その写真を見て笑みを浮かべた。
「昔の写真だよー。昔の、ほんとに昔の」
と、リリウムが口を開く。
「すいませんが博士、一つお聞きしたいことが」
「はーい、なにかなー?」
「我々のACはどうすればよいのでしょうか」
ある意味当然の質問。いろいろあって失念していたが、ここにきてやっと思い出したのだ。
「AC?」
「はい。我々の乗っていた人型兵器で、正式名称はアーマードコア。他の兵器との差別化のため、次世代兵器という意味のネクスト、などと呼ばれることもあります」
「ほうほう……面白そうだね!」
興味を持ったのか、セレンに説明していた時の数倍のテンションで応じる篠ノ之博士。
「動かすことはできるのですが、ACの絶対的優位性を保つ要素の一つに問題が生じているため、戦闘になればかなりの損失を被るため、できればどこかに隠すことができればよいのですが」
「うーん……とりあえず、この基地まで運んじゃおっか。そしたら検査も修理もできるし」
ということで、AC四機の移動が決まった。
――――――――
「誘導は博士がしてくれるそうなので、早いところ動かしてしまいましょう」
場所は先ほどの場所、博士と出会った場所だ。あの時はさほど気にしてはいなかったが、どうやら砂浜らしく、ストレイドのコックピットから見えていたのは正真正銘の海のようである。
「ほんとに、綺麗な海だな……」
「そうですね。見ることができるとは思いませんでした」
ウィンとメイのうっとりとした言葉。そう、本来であるならば、海も陸地同様にコジマ粒子によって汚染され、とても遊泳などできるようなものではないのだ。それが今や、目の前にまったく汚染されていない海が広がっているのだ。その心境たるや、推して知るべしである。
リリウムのアンビエント、ウィンのレイテルパラッシュ、メイのメリーゲートが特に不自由なく立ち上がるなか、首輪付きのストレイドだけが、立ち上がるのに苦労していた。
「やはり、やりすぎましたか」
「だが、こんな事態は想定外だったからな」
「仕方ないと思います」
そう、ストレイドは彼女らとの戦闘でほぼ大破しており、外装はぼろぼろ、内部装置もかなり損傷を受けていて、歩くことはおろか、満足に立ち上がることもできない。
<おい、大丈夫か>
ストレイドのコックピットへ、無線が入る。篠ノ之博士の案内の手伝いとして各機のオペレートをしているセレンからだ。
「……さすがに動けない。誰かに牽引してもらうことを願う」
<了解した。ではメリーゲート、ストレイドを引っ張ってやってくれ>
<メリーゲート、了解しました。これよりストレイドを牽引して予定ポイントまで運びます>
通信と同時にストレイドにかかる特殊鋼製ワイヤー。その頑強さは篠ノ之博士特製というのだからお墨付きだろう。そしてそのままずるずると引きずられていった。
――――――――
「はい、お疲れ様」
ACを所定の位置に運んだあと、篠ノ之博士がさっそく精密検査のための機械群を起動させる。そのさまはまるで機械の母とでも言うかのようだった。
「さて、これでしばらく待ってれば検査結果も出てくるから、君たちはこっちで身体検査しようか」
そう言って通されたのは、MRIをはじめとする精密検査機器の置いてある部屋だった。
「さーて、誰から行く?」
――――――――
精密検査が終わったあとの男性更衣室。その中で首輪付きは立てかけてある鏡を見つめていた。
赤銅の髪に金色の瞳、幼さを感じさせる顔立ちは、右頬の顎からこめかみにかけて走る大きな傷によって荒々しさを演じている。上背は高く190cmを超え、身体は鍛えてあるゆえに筋肉質で、かつそこらじゅうに傷がある。数多の戦場を潜り抜けた英雄に違わぬ姿、とでも評される姿。
その一つ一つの傷をなぞる。感慨深い傷跡たち。そして首輪付きは再び衣装を羽織った。
――――――――
「さて、検査結果が出たよ」
全員の身体検査が終わって約数分。莫大な検査項目からすると、どこの大病院でもこれほど短時間で検査結果など出ないだろう。
「まず、大前提として、脊髄や脳に特殊なネットワークができていること、全身に人工的な強化措置が施されていることなんかがあるけど、これは大丈夫?」
博士の口から出された言葉、それはACに関わるものにとって、常識の域を出ないものだった。端的に言えばAMS、Allegory-Manipulate-SystemというACを操縦するにあたって必要な技術によってもたらされたものだ。このAMSがなくても操縦こそ可能だが、ACを高速かつ精密に制御したければ必須となる。これがないACなどただの的だ、などと評する者もいるほどの技術だ。また、その高速で精密な操縦に肉体が耐えられるように神経や身体機能にも強化を施される。いまさらな事実なので、これには特に否定も肯定もない。そのことに博士はうなずき、全員に個人の検査結果の書かれた紙を渡した。そこに書かれていたのは、
[至って健康体。留意すべき点なし]
という文字だった。
「おい待て。この結果はありえない!」
ウィンが博士に問う。セレン、メイ、リリウムも同様に博士を見ていた。
「私たちはコジマ粒子をその身に浴びている。あれだけ人体に有害な粒子を浴びていて、汚染していない? ありえないだろう!」
そう、ACはコジマ粒子を扱う機体。ゆえに、そのパイロットであるリンクスたちも汚染され、いつ死ぬのかという恐怖があるのだ。
「検査結果に偽りなし。だけど、どれだけ調べても異常な箇所は見つからなかったよ」
そう断言する博士。戸惑いを隠せないリンクスたち。そして、その場を収めるべく、セレンが声を上げる。
「とりあえず、身体検査の結果、異状がないことはわかった。博士、次は情報の交換を願いたいがよろしいか?」
2017/03/06 句読点を変更