幻想郷は既に夕刻、空は茜色に染まり、人々も帰路につく。
そしてレインメーカーも閉店時間となり、店の前にリョウ、レミリア、咲夜の三人。
扉についた札を返すと鍵を閉めて、腰をトントン叩いてから伸びをした
「お疲れさま」
「ま、楽な方だったよ今日は、妹紅さんもすぐに帰れたし」
「そうかしら?」
その言葉に頷くリョウ。
同じく咲夜の差した日傘の下でレミリアが頷く。
「さて、フランとチルノを迎えに行って帰りましょうか」
レミリアが無い胸を張って言うのでリョウは一瞬、悲しい目をしてからいつも通りの表情に戻して頷く。
だが、黒い羽が目の前を落ちる。
「カラスと一緒に帰りましょ」
「七つの子はいないけど」
「そりゃそうだ」
そう言って笑うリョウの隣に降りる鴉天狗こと射命丸文。
レミリアと咲夜にも軽く挨拶をするがそれほど歓迎されないのはおそらく、いや十中八九あの『文々。新聞』のせいだろう。
表の世界で言うところの週刊誌じみた記事やもろもろ、嘘は書かないが逆に嘘じゃないので困る場合もある。
「あやや、嫌われたものです」
「嫌いではないわよ?」
「それはなによりで」
ニコニコ話す文を見てリョウが少しばかり息つく。
いつも通りの安堵感もあるのだが、それ以上に文を見ていてハラハラする所もある。
別に彼女が疎ましく思われてることはかまわないのだが……。
「今日はフランドールさんも一緒ですか」
「手ぇ出すんじゃないわよ天狗」
「私はチルノさんにのみ発情するのでお気になさらず!」
「余計ぇ気になるわ! なんなら絞め殺したい!」
文の発言に思わず声を荒らげるリョウ。
「リョウ! 自分だけまともな人間のフリを!」
「お前と比べたら遥かにまともだわ!」
レミリアと咲夜は思った。
文と比べてまともというのは、些かまともじゃない奴の発想だなと……。
そしてやっぱりリョウはまともな人間ではないと……。
歩きながらのその会話、咲夜が片手で頬を押さえる。
「リョウ、一件まともそうに見えてネジが飛んでるのよね」
「お前にも言われたくないわ! おぜうの姿見て鼻血だすようなやつ!」
「失礼ね、妹様の場合もでるわよ」
「変態だぁ!!」
リョウはハッとレミリアを見るが、悟ったような表情をしていた。
見た目だけなら齢15にも満たない少女のそんな表情を見て、リョウはやるせない気分で一杯だ。
ここは忘れ去られた者たちの楽園、幻想郷。
住んでる奴は大体ネジが飛んでおり、ネジ飛んでる奴は大体友達。
まともな奴ほどFeel so badである。
「早く帰りたい」
「チルノさんとの愛の巣に私も帰りたい!」
「そんなもんはねぇ!」
「ていうかリョウさっき私のこと“おぜう”とか言わなかった?」
「文々。新聞ではそれで通りますよ」
「廃版だそんなもん!」
リョウとレミリアがツッコミ倒し文と咲夜はボケ倒す。
どちらかが倒れるまで続くノーガードの殴り合い。
しかし終わりはすぐに訪れる、
「寺子屋に着いたぞ」
「いまの独り言必要あった?」
リョウがホッしながらつぶやいて、息つく。
丁度、寺子屋から出てくるチルノたち。
もちろんルーミアやリグル、ミスティアたちも一緒で他にも三月精とよばれるいたずら三人組等もいるのだが、そこから飛び出してくる影。
「まったくしょうがない妹ね、ほら来なさ」
「リョウ!」
飛び出してきた影がリョウへと飛び付く。
そっと受け止めて苦笑を浮かべつつレミリアの方を見るが、固まっていた。
やるせない感覚を覚えながらも、リョウは抱き止めた“フランドール・スカーレット”に目を会わせる。
「久しぶり、フラン」
「うん!」
そっと下ろすと、チルノがニヤつきながらフランへ近づく。
ハッとしてから恥ずかしそうによそをむくフランの頭を軽く一撫でして、リョウは妙な視線に気づいた。
文がリョウを見ている。ジト目で……。
「なんだよ」
「いえー別にー?」
おおよそ言いたいことを理解して頭を押さえる。
とりあえず切り替えなくては出る……手が。
冷静になりさえすればどうということはないと、頷く。
「ではチルノさん、どうぞ!」
「ん、こう?」
「ぬはぁ! 冷やっこい!」
文がチルノを抱いていた、健全な意味で。
そして文が興奮していた、不健全な意味で。
そしてリョウは思った。
「手ぇ出そう」
「どーしたのリョウ?」
「え、ああ、なんでも」
目の前に浮遊するルーミアが小首を傾げていたので軽く笑いつつ返すと、レミリアに視線を向けるリョウ。
ギリギリと音が聞こえてきそうな悔しそうな顔でリョウを睨んでいる。
「手ぇ出そう」
「やめてくださいレミリアさん、死んでしまいます」
さすがにこんなことで死ねない。
「大丈夫、死にかけるだけよ」
「どこに大丈夫な要素あんの!?」
「死にかけたらリョウを眷属にするわね!」
「フランさん!?」
勝手に改造計画が立てられている。
「あやや、リョウが夜の眷属入りとは見てみたい気も」
「やめろ、属性が渋滞する」
「言うほど属性あります?」
「……」
言われて、特徴が無いのが特徴みたいなところあるなと顔をしかめる。
モビルスーツならジムカスタム。
一応、なかなか名前は知られている方なのにとやるせない気分にもなった。
「リョウは主夫よね! あたいの!」
「そうか俺は主夫だったのか」
「ななな、なんでリョウがチルノさんの主夫!? なら私は大黒柱です!」
フランは首をかしげる。
「ねぇお姉さま、あれって親子」
「しっ、伝えたらあの二人がショック死する運命が見えるわ」
「しかしあれですね、一見親子に見えるのに母親役が娘に発情しているという倒錯的なシチュに私興奮を隠せません」
この従者どうしようかなとレミリアは一瞬マジで考えた。
「あ、咲夜の代わりにリョウを使えば」
「おぜうさまがリョウをチルノから心変わりさせられるとは……」
「確かに、っておいおぜうやめろ」
従者に死ぬほど舐められていて、同意する妹にも悲しみが溢れる。
確かにあのリョウをチルノからこちら側に引き込むなど無理だとわかっているのだが、レミリア自身やはり気に入りはしているのだ。
フランのお気に入りでもあるし、なにより紅魔館の他の面々からも少なからず友好的に思われているだろう。
「フッ……まぁそれもチルノのおかげか」
「お姉様なんでかっこつけたの?」
「……」
無性に羞恥心を覚え館どころか顔まで赤くなるレミリア・スカーレット。
ふと、透き通った声が響く。
「お待たせチルノちゃん!」
寺子屋から大妖精が出てきた。
小走りでリョウたちの前にやってくる。
ちなみにチルノはすでに文から降りていた。
「おー大ちゃんなにしてたの?」
「ちょっとわからないとこ聞いてたの」
頷くチルノ。
勉強のこと等は大体はリョウか文に聞けばわかるがそうでもないとなると、一つ。
「歴史ね!」
「うん」
「あたいったら名推理ね」
素直に感心してリョウはふむ、と頷く。
そうしていると大妖精がレミリアたちに気づく。
「あ、今日はレミリアさんたちも一緒なんですね」
「ええ、ていうかそうよ紅魔館に帰るのよ」
思い出したように言うレミリア。
リョウは肩をすくめて笑う。
「なんか余計なとこで余計な時間使っちゃいましたね」
「誰のせいよ」
「まぁここは誰のせいでもないということですかね!」
文が頷きながら言ってふとリョウの方を見て目が合うが、リョウは首を傾げるが文がニヤリとするとすぐに理解して首を横に振る。
そんな二人を見て今度は大妖精が首を傾げた。
「どうしたんですか?」
「いやぁ、リョウがなんで紅魔館行きたいのかなーと思いまして」
「だから邪推すんなよ」
おそらくまた小悪魔のことだろうと顔をしかめる。
「そういうのは良いの、今の俺はチルノさんの主夫なんだから」
「んー?」
意味がいまいちわかっていないチルノに微笑みかけると、チルノが満面の笑みを浮かべる。
そしてそんな二人をみて歯軋りする文、そして羨ましそうにしている大妖精。
いつの間にか出てきていた上白沢慧音は微笑を浮かべて頷いていた。
「慧音、年より臭くない?」
「も、妹紅、もっとこう言い方をだな」
慧音の隣に現れる白髪の少女、藤原妹紅。
慧音の相方と言うか、ツレというか、なんとも説明しにくい関係ではあるが“人間のような者”同士なにかしら通ずるところがあるのだろう。
ふとリョウと妹紅の視線があい、リョウが軽く手を振り、妹紅も返す。
リョウがパンッ、と手を叩いた。
「さて、そろそろ行きますか」
「あたいも行く! 久しぶりにパチェとも会いたいし!」
「何人増えても一緒だしいらっしゃい」
優しげな笑みを浮かべて言うそんなレミリアにチルノが抱きつく。
「レミリアって優しいから好きなのよさ!」
「なっ」
顔を真っ赤にするレミリア。そして修羅と化す文と大妖精。
リョウはため息をついてまた足止めを食うなと、腕時計を見た。
隣の咲夜に目線を向ける。
「ロリロリの百合百合」
こいつはもうダメだ。
「もう一人で行っちゃおうかな」
遠目をしてぼやくも、誰も聞いていない。
妙な虚しさを感じていると、服の袖を引かれる。
視線をそちらに向ければそこにはフランドールがおり、リョウを見上げていた。
「ん?」
「いこっ!」
満面の笑みで言うフランに、もうロリコンでも良いかなとか一瞬思ってしまったがすぐに頭を振って考えを掻き消す。
フランと手を繋いで歩き出すと、チルノも駆け足でついてきた。
それにつられて他の面々も然り。
「なんだかお兄様ができたみたい!」
「うん、色々とこわいからそれはやめよ」
「?」
背後から二つの殺意を感じ、冷や汗を流しながら言うがフランが首を傾げた。
早く紅魔館に着きたい。
自分も小悪魔のような従者が欲しい。
しかし、こんな所にまともな者を入れたら頭がおかしくなってしまう。
「待てよ、なぜ俺の頭はおかしくなっていない?」
「あやや、自覚なかったんですか? 貴方頭おかしいですよ?」
手が出た。
もちろん避けられた。
あとがき
なかなか進まない
寺子屋の前で一話食うとは余計な自分も予想外
次回こそは紅魔館、みんな大好き小悪魔
お楽しみにー