紅魔館の前へとやってきた面々。
リョウ、文、チルノ、大妖精と館の主であるレミリア、咲夜、フラン。
門前にはもちろん門番がいる……。
いるにはいる……。
「め、
「リョウ、少し傘お願い」
「ああ、うん」
レミリアの日傘を代わりに差すリョウ。
話は代わるが吸血鬼故に陽の光へと弱さがあるので普段から日傘を差しているのだが、一応それをどうにかできる“魔法使い”はいる。
フランドールはその魔法を使ってもらい陽の下で活動しているのだが、レミリアは優雅さが失われるとのことでしていない。
そして話は戻り、美鈴の前に立つ咲夜。
ふぅ、と息を吐くと目に鋭い光を宿すし、眠っている美鈴の前で飛び上がる。
驚愕する面々。そして苦笑するリョウ。
「高い!」
「あれはまさか!」
大妖精と文が声をあげる。
そして咲夜はそのまま、美鈴の顔面に両足を打ち込んだ。
そう―――ドロップキック!
「教えたのリョウでしょ」
「いや、教えた覚えはないです!」
チルノの言葉に首を横に振るリョウ。
教えた覚えはないが、“弾幕ごっこ”で使った記憶がないでもないし、そもそもあの蹴りであれば教えるとか教えないとかではない。
普通に知っていて使っただけかもしれないが……。
「リョウ以外あんなのしないし」
「言葉もない」
だがそこで全員が違和感を覚えた。
綺麗に着地した咲夜、だが顔は苦々しい。
美鈴は寝ている。しかしちゃっかり腕を前に出して……。
「寝ながらガードとかどうなってんですかそちらの門番」
「褒めて良いのかダメなのか……」
「さっすが美鈴!」
文の言葉にレミリアが頭を抱えてフランドールが手をあげて喜ぶ。
リョウも大妖精もなんとも言えない表情をしていた。
咲夜は表情を変えずに直後に―――。
「……はっ!」
「目潰し!?」
「あれは知らんぞ俺も」
だがその手も避けられ、直後にまた手を出すが全て避けられる。
顔をしかめる面々の中、咲夜が指をパチンと鳴らすと次の瞬間には美鈴の頭にナイフが突き刺さっていた。
「うわぁ、手段を選ばなくなった」
「時止め?」
咲夜が『時間を操る能力』を使ったということだろう。
「さ、行きましょう」
「美鈴さん……」
弾幕ごっこの師の見慣れた哀れな姿になんとも言えない表情を浮かべてリョウは咲夜に続いて歩いていく。
門を抜けて件の美鈴が育てていた花を見やり、そのまま館へと入る。
趣味を疑いたくなるほどの紅色の外観と内装、妖精メイドが働いている姿を見て、いつも通りの紅魔館だと頷く。
そのまま廊下を歩き、咲夜とレミリアの案内で面々は大図書館に通ずる扉の前に立つ。
レミリアとフランと咲夜は後で合流するとだけ言って去っていく。
軽くノックすると、扉を無遠慮に開ける。
「どーも」
「清く正しい射命丸とそのフィアンセのチルノさんです!」
「うるせぇよお前は」
「ねぇ大ちゃんふぃあんせってなに?」
「うーん、文さんは頭がおかしいから気にしないで」
いつも通り騒がしく巨大な図書館へと入る。
どういう原理か紅魔館に入っている巨大な図書館の主である少女は巨大なテーブルの前に腰掛けていた。
読んでいた本を閉じるとリョウたちに視線を向ける。
「ん、いらっしゃい」
「どうも、パチュリーさん」
紫色の髪を持つその魔女は軽く立ち上がって背を伸ばす。
チルノと大妖精がパチュリーに近づいていき、文はキョロキョロ記事になりそうなものを探していた。
そして、駆けてくる少女が一人。
揺れる赤い髪、揺れる豊満なバスト、そして悪魔の翼と尻尾も同じく揺れる。
(俺の幻想郷はやはりここか!)
不純で正直で下衆な男であった。
そしてリョウの前までやって来る大図書館の司書こと
「あ、やっぱりリョウさん」
「久しぶり小悪魔さん、よくわかったな」
「ノックするのなんてリョウさんぐらいですから」
それはそれでどうなんだ、とも思ったがいつもの幻想郷である。
リョウがパチュリーの方へと向かうと小悪魔もその後を行く。
「で、今日は誰が何のよう?」
「俺が本を借りたくて」
「……まぁ貴方ならちゃんと綺麗に返すし」
そう呟きながらそっとリョウの前に立つ。
身長差は大きく、距離も近いのでパチュリーがグッと顔を上げて見上げる。
さすがにリョウとしてもパチュリーのような少女に至近距離から見上げられれば照れるわけで、顔を逸らす。
「パチュリーさま?」
「……やっぱ首疲れるわね」
「いや今のなんだったんですか」
「なんでもない」
そう言って頷くと首を揉みながら距離を取る。
「で、借りたい本って? 気とか霊力とかの系統のは大体貸したでしょ?」
「まぁそうなんですけど今回は妖力とか神力、神通力なんて、そのへんを」
そんな言葉に頷くパチュリー。
リョウの隣の小悪魔が小首を傾げた。
「でもリョウさんそこらへん使えるんですか?」
「ん、自分のもんとしては使えないが知識としては使えるよ。神様相手にしたりするんならなんかの特効になるかもしんないし」
「なるほど」
ふむ、と頷く小悪魔。
パチュリーは魔法で本の検索に入っている。
チルノと大妖精はのんなパチュリーを見て興味深そうに目を輝かせていた。
「スペルカードルールに結構真剣なんですね」
「まぁここで生きるなら……それに負けっぱなしはカッコ悪いし? それは疎かバカにされるし」
主に文等に、だ。
それに三月精と呼ばれる妖精たちや博麗神社の地下に住むこれまた妖精。
さらには魔理沙やらその他もろもろ。
「あれ、俺バカにされすぎじゃ……」
「私はカッコいいと思いますよ。真剣に努力する人」
フフッ、と頬笑む小悪魔に天使を見た。
(頭のネジが飛んでる幻想郷において唯一のオアシス! 我が世の春がきてしまう!)
自制しなければなにがどうなるなわからない。
頭の中にやってきそうになるなんの罪もない春告精をコブラツイストで極めて追い出す。
息をつき、パチュリーの方を見やった。
「あれで本出せるのにしまうのは小悪魔さんってのも難儀なもんですね」
「まあじゃなきゃ仕事なくなっちゃいますから」
(むしろ俺の専業主婦に来てほしい)
リョウの頭はかなりきていた。手遅れ寸前である。
思っても言わないのでまだ射命丸文よりはマシ程度。
「お待たせ……ってどうしたの」
「ん、なにがですか?」
「いやこう……楽しそうだったから」
「まさか」
ハハハ、と笑いながら目を逸らしてよもや自分がそこまで来ていたとは隣の小悪魔に恐怖を感じる。
これが悪魔の力かとリョウは頷くが、間違いなく違う。
ただ恋愛の無さを拗らせているのみ。
「で、件の本は?」
「結構な数になったからその中でもわかりやすそうなのを数冊ね」
「助かりますよ」
礼を言うとテーブルに置かれた本を軽く手に取る。
「頑張ってくださいねリョウさん、私で良ければお相手もしますから!」
「ありがとう、小悪魔さん……困ったら頼む」
「はいっ!」
笑顔で、両手をグッと上げる小悪魔。
そして両腕に挟まれる豊満なバストにリョウは速攻で視線を逸らす。
直視していれば只ではすまない。
「リョウどーかしたの?」
「ああ、いやチルノさんなんでもないです……俺は情けない男だ」
「どしたの?」
いやしかし、とリョウは冷静さを取り戻すために思考する。
豊満なバストというだけなら大妖精もそうだし、早苗や神奈子もだ。
大きさならば小悪魔以上の慧音や最近会った死神もいる。
「どうしました?」
(やはり雰囲気や性格が大事だな)
「ああいやなんでも、それじゃパチュリーさんこれ借りてきます」
そう言って微笑を浮かべると、パチュリーもそっと笑みを浮かべた。
「どうぞ……あんたたちはなんか持ってく?」
「あたいたち?」
「ん」
頷くパチュリーに、考えるチルノ。
最近は勉強等もしている彼女だが、それでも本を読むかと聞かれれば微妙だ。
学ぶ楽しさというのはわかってきたとは思いたいが……と、リョウは大妖精を見る。
「大ちゃんは?」
「私は大丈夫ですよ」
「んーそれじゃあ、パチュリーさん、氷系の魔法や術について乗ってる本あります? 図解つきの」
「そりゃあるけどなんで……ああいや、なるほどね」
頷いてパチュリーがまた魔法を発動する。
なるほど、と小悪魔が手をポンと叩く。
頭に疑問符を浮かべるチルノを見てクスッと笑ったリョウが説明を始める。
「チルノさんの氷系の弾幕に役立つのが書いてあるかもしんないんですよ」
「あたい魔法少女じゃないよ?」
「いやそれはわかってますよ」
苦笑するリョウは『魔法少女チルノちゃんハァハァ』している大妖精を見なかったことにしてチルノに説明を続ける。
パチュリーはチルノにそれを見せて理解できるかは保証できないなとしながらも探す。
「おそらく魔法やら術が理論立てて説明されてるでしょうけどそれは特に見なくて良いです」
「いいの?」
「はい、だからこその図解つきです」
「絵だよね?」
そんな疑問に頭を縦に振る。
「チルノさんは基本天才肌なんで理論で理解するより見て理解した方が早いんですよ。百聞は一見にしかずならぬ、百文より一見ってとこですかね」
「うわ、肉体派の癖にここぞとばかりに理論だててる」
ノリノリで説明していたのに、横槍が入る。
そこにいるのはどこにいたのやら射命丸文で、やれやれと言った表情でリョウの隣に立つ。
気恥ずかしくなったリョウは視線をチルノの方に向ける。
「……ということです」
「ひゃくぶんがなんたらってのはわかんないけど大体わかった!」
「なら良かった」
フッと笑みを浮かべて言うリョウ。
聞いていたパチュリーとしては『チルノを天才肌』と言うのなんて幻想郷広しと言えどリョウと文と大妖精ぐらいのものだろうなと思う。
いやもしかしたら親友であるレミリアもチルノを買ってるというかだいぶ好意的に思っているところがあるので言いかねない。
「さっすがリョウね! さんぼう! こうかつ! うみのりはく!」
「チルノさん、最後は誉めてないです」
「ぐぬぬ、チルノさんの好感度をここぞとばかりに上げている……ッ!!」
「少なからずお前みたい不純な他意はねぇよ」
そう言って文に軽いデコピンをくらわす。
「お待たせ、この一冊で十分かしらね」
「ん、ありがとうございます」
そう言って本を受けとる。
リョウの手元には5冊の本、どれもそこそこ厚みがあるのだが小悪魔がそっと小さなバックを用意してくれた。
そういう所だぞ! と思いながらもいつも通りの笑顔。
「ありがと」
「いいえ、このぐらいでよろしければ」
「このぐらいが嬉しいんだよ」
そんなリョウの言葉に、小悪魔が人差し指を顎にそえる“小悪魔らしいモーション”をする。
少しばかりトキメキかけるリョウ。ちなみに文も少しばかり揺れたそうだ。
「じゃあ今度お店に行ったときは一杯サービスしてくださいねっ♪」
そう言ってウインクする小悪魔。
「もちろん」
後にリョウはこの時、良く平常なふりして返事を返せたなと自分で自分を素直に感心する。
小悪魔は『楽しみにしてますね』とだけ言うと仕事に戻るために巨大で大量の本棚の方に歩いていく。
「なんかあそこまではしゃいでるこあも珍しいわね」
「おやぁリョウ、案外脈ありじゃない?」
ニヤニヤしながら言う文に顔をしかめるリョウ。
大妖精も“そういうこと”に興味がある年頃なのか目をキラキラさせてリョウの方を見る。
首を横に振ったリョウが恐る恐るパチュリーの方を見てみた。
「パチュリーさん、なにか誤解をされ」
「良いんじゃない?」
「うおい止めてくれ!」
むしろニヤニヤしているパチュリーを見てリョウは頭を押さえる。
これではせっかくレミリアと咲夜を止めたのに余計なことをされかねない危機。
いや別に嫌ではない。嫌ではないのだが……。
「ん、リョウはこあが好きなの?」
「えー」
さらにおかしなことになってきた。
別にそういう意味ではないと思っているのだがどんどん思惑とは違う方に話が進んでいく。
やはりそういう意味で真面目に好きで付き合っていくかと聞かれればハッキリと答えられる感じではない。
そして文は手帳になにか書いているしちゃっかり咲夜とレミリアとフランも合流している。
それを身をもって実感した。
その後、レミリアたちと食事を取ってから一同は紅魔館を出た。
すっかり暗くなり闇が支配する湖から離れ、リョウたちは家へと帰ってくる。
大妖精も一緒なのは今日は泊まるから、だそうだ。
「で、お前は帰るのか……意外だな」
「私は仕事があるんですよー残念極まりないですけど」
家の玄関前でリョウと文が二人立っている。
「余計なこと書くなよ?」
「えー余計なことって言うと小悪魔さんとリョウがまさかまさかな展開とか?」
「だからそーいうんじゃないって」
そう答えるも文はケラケラ笑うのみで、聞く耳持たず。
ただし現状なにもないのが本当だ。
あることないこと書く相手でもないのとはわかっているのでその点は信用はできる。
「それかリョウが妹紅さんと?」
「ねえって、変なゴシップ乗せんな」
「じゃあ紅魔館の大図書館から本が盗まれたーとか?」
ニヤリとしながら言ってバッグから取り出される一冊の本。
その本はリョウがパチュリーに借りたどれとも違う。
手を出してそれを受け取ったリョウ。
「そんなんしょっちゅうだろ」
「まあ白黒魔法使いの場合だけど、それ以外なら中々ないし?」
「まあ確かに、てか盗んでないから」
その言葉に文が首を傾げた。
ニヤリと口角を上げるリョウが、そっとその本に指を這わせる。
「借りたんだよ」
「ハッ……死ぬまで、ですか?」
「死ぬ前には返すさ」
それに“その本”が近々パチュリーに必要になるとも思えない。
そっと本を開いて軽く目を通してから頷く。
「にしてもよく持ってこれたな」
「伊達に最速名乗ってませんよ」
「そりゃそうか」
そう言ってハハッ、と笑った。
文が背中の翼をバサッと広げて宙に舞うと黒い羽が落ちる。
その一枚がふわふわ浮いてリョウの持つ本の上に。
「ではまた明日」
「ん、おやすみ」
その言葉に文は軽く手を振って去っていく。
息をついたリョウが家の中から聞こえてくる話し声に頬を綻ばした。
明日は仕事が終わればどこに行くかと、背を伸ばしながら考える。
扉を開けると、もう少し良く二人の楽しげな声が聞こえた。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
「おかえりっリョウ!」
平和で素敵で刺激的な日々。
そして、いつもの幻想郷の1日。
あとがき
連日投稿!
建たないフラグ、そしてちょっと伏線的なの撒いてここまで
次回からはとうとう異変篇スタートだから盛り上がってくるとこ、たぶん
それでは次回も見てもらえれば嬉しいっす!