さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第Ⅲ章【東方祟散郷 ~ Unknown curse.】
第12話『怪異』


 あれからまた数日が経った日。

 喫茶レインメーカーは定休日でありリョウはチルノと共にとある場所にお邪魔していた。

 もちろんと言うべきか、大妖精と文も一緒である。

 

「あー眠くなる」

 

 呟いたのはリョウ。

 畳の上で未だ片付けられていないこたつに下半身を突っ込んだまま寝そべっていた。

 そして文も同じくこたつに下半身を突っ込んで転がっている。

 大妖精とチルノは同じ場所に入って隣同士でせんべいを食べていた。

 

「いやあんたらなにしにきたのよ」

 

 そう言って、家主である博麗霊夢はため息をつく。

 

 忘れ去られた者たちの楽園、幻想郷。

 そしてここはその幻想郷の中でも大事な役割を担う『博麗神社』だ。

 

 博麗神社の巫女こと霊夢はお茶をズズッと啜る。

 寝転がっていたリョウが上体を起こして首をコキコキと鳴らす。

 ボケーッとしているのは過ごしやすくなった暖かさ故なのかいつもの疲れが出ているのか……。

 

「霊夢さん」

「なにリョウさん」

「……眠い」

「いや知らないわよ」

 

 本気で寝てしまおうか迷っていると突然部屋の壁が“開いた”。

 そういうギミックが存在する忍者屋敷のようなものではない。

 リボンが端について目が沢山見える空間から現れるのは……。

 

「八雲、紫……」

 

 目を細めて呟くリョウ。

 その女性、八雲紫はリョウたちがいて少し驚いたのか、一瞬表情を変えるもすぐにもとに戻る。

 胡散臭い飄々とした態度と笑顔で、妖怪賢者八雲紫はそこに立った。

 

「紫だ! 久しぶり!」

「ええ、ごきげんようチルノ」

 

 そう言ってニコッと笑う紫に他意は感じられず、今のは純粋にチルノとの再開を喜んだのだとわかる。

 一方、リョウは訝しげな表情を浮かべていた。

 

「異変か?」

「ご察しのとおり」

 

 リョウの言葉に頷く紫。

 文も上体を起こして手帳を出すと、そういうところはしっかりしてるなとリョウは少しばかり感心した。

 霊夢の雰囲気が変わって、紫はリョウたちの方を向いたまま言う。

 

「まぁどちらにしろ各所に伝えて回らなきゃいけないし、いっか」

「私たちが聞いたらなにか不味いとか?」

「いいえ」

 

 そういうと紫がヒトガタの紙を数枚飛ばした。

 こたつの上に置かれたそれに妙な感覚を覚えたリョウは、視線を紫に戻す。

 コホン、と咳払いをして、口を開く。

 

「聞こえてるかしら?」

『もちろん聞こえてるわよ』

「この声は……」

「幽々子だー」

 

 チルノが驚いて声を上げる。

 

『あらチルノ?』

『チルノさんとリョウさんの声ですよね』

『ってことは、天狗と大妖精も?』

 

 数々の声が聞こえてくるがどれも幻想郷における大物の声であり、霊夢や文も驚愕していた。

 白玉楼の西行寺幽々子。

 太陽の畑の風見幽香。

 命蓮寺の聖白蓮。

 永遠亭の蓬莱山輝夜。

 その他もろもろと声もする。

 

「ここまでやるってのはどういうことだ?」

「言ったでしょ、異変が起こる予定があるのよ」

「予定? 大型連休じゃねぇぞ」

 

 口調が荒いリョウに苦笑する紫が、そっと扇子を畳んで畳の上に座った。

 その雰囲気に、霊夢や大妖精はおろかリョウと文もピリッとした表情を浮かべる。

 いや、リョウとてわかってはいるのだ。

 ここまでするということがどういうことか……。

 

「……“タタリ”が起こるわ」

 

 その言葉に、顔をしかめるリョウ。

 意味がわからないが、声のするヒトガタの紙からはざわついた感覚を感じとる。

 レミリアや神奈子たちの声も聞こえていたが、その中でもわからない者達もいるようだった。

 もちろんチルノや大妖精もわかっておらず、文や霊夢すらも然り。

 

「ねぇ紫、それが前言ってた異変とも言い難い異変ってやつ?」

「そう、タタリ……恐怖、最悪、災厄の具現」

『祟りで具現ってことは諏訪子様とかと同じ?』

 

 早苗の言葉に、見えていないだろうけれども首を横に振るリョウ。

 

「“祟り神”というくくりなら諏訪子さんも妖怪も吸血鬼も違うと言えば違うが、大体似たようなもんだ」

『あっ、そう言えばそうですね……』

「勤勉ねリョウ、その通りよ。ただ、だからこそ問題なのよ」

 

 紫の言葉になんとなく見えてきた。

 頭を押さえる霊夢に同調してリョウも頭を押さえたくなってくるが、まだだ。

 解決策も無しに八雲紫がこの場を設けるはずもない。

 だがまず、やるべくことは“タタリ”というものを完全に理解することが必要。

 

「理解してるみんなには申し訳ないけど、しっかり確認させてもらっても?」

『どうぞ、貴方はここにいる資格がある』

「ありがとう永琳先生」

 

 反対の言葉は出てこない。

 黙ったままの面々は口を出す必要もないと思っているのだろうし、紫も静かに頷いた。

 どちらにしろここにリョウがいて行程を省ける部分もあるのが確かだからだ。

 

「祟り神と同様なら恐怖心や畏れから具現化するんだろう?」

「ええ、具現化は間違いないけれど違う。“タタリ”という現象によって恐怖が具現化する」

「祟り神が祟りを撒き散らすんじゃなく、タタリそのものが祟り神を創る?」

「そうね。そう考えてもらって相違ないわ」

 

 それを理解した瞬間、背筋にゾッと悪寒が走る。

 文を見ても霊夢を見ても深刻そうな表情で、チルノと大妖精も雰囲気を察して静かにしていた。

 おそらく式神の向こうの“理解していなかった者”も同じ状況だろう。

 

「敵は、なんだ……」

「何度でも答えるわよ。タタリ、最悪と災厄と恐怖の具現。現象、そして―――」

 

 答えは同じ。変わることはなく絶望は一つ。

 

「―――祟り神(怪異)を創る怪異(タタリ)

 

 静まる博麗神社。

 能天気な鳥の声も聞こえず、ただ時間を消費するわけにもいかずリョウは真っ直ぐ紫を見据えた。

 危機的状況の理解はでき、あとはもう一つの確認。

 

「敵は、妖怪か?」

「然り」

「天狗か?」

「然り」

「悪魔か?」

「然り」

「吸血鬼か?」

「然り」

 

 質問の応酬に全て応える紫。

 すでに答えを出しているのではなく、ただ応えるのみ。

 

「幽香さんも、レミリアさんも、神奈子さんも、お前もか」

「然り」

 

 止まるリョウが深いため息をつく。

 その程度のリアクションに紫が少しばかり驚いた様子を見せた。

 もっと焦るかと思った、霊夢は深刻そうな表情をしている。

 

「ドッペルゲンガーみたいなもんか?」

「言い得て妙ね。本人を殺しに来るという意味では」

「本人をってことは、お前の分身はお前を狙う?」

「一定以上の力を持った怪異のみらしいけど……」

「本物に成り代わろうとするってか」

 

 つまり逆に雑魚のみを相手にすれば良い。

 リョウ自身、恐怖心を持たれてるわけがないと自覚があるし他の面々もリョウはないと確信している。

 だが力が強い妖怪、例えば幽香対幽香やレミリア対レミリアとなった場合を考えると人里付近でやらせるわけにはいかない。

 

「一部の妖怪を離れた場所に移動させれば……人里は安心か?」

「逆に一定以下の弱い怪異は弱い者を狙うそうよ。タタリを起こした者たち、とかね」

「つまり人里も安全じゃないか……いや、慧音先生はどうだ?」

 

 その言葉に反応したのはレミリアだった。

 

『なるほど、“歴史を隠す能力”か』

「それが絶対と言えるかと聞かれたら、微妙なところね」

「わかってる。慧音さんがやられたらそれまでだしな」

 

 ならばやはり慧音を守るように戦う必要ができる。

 それもタタリで分身が産み出されないような程度の力でタタリの下位妖怪の分身にやられない程度の力。

 

「まず俺、戦力になるかはわかんないが」

『妥当ですね。お願いします』

「はい」

 

 白蓮の言葉に軽く返事を返す。

 恐怖心が生む怪異と戦うならば、自分のように恐怖心を抱かれてない者がそれなりの数で戦えば互角以上の戦いができるということだ。

 そこでリョウは一つの考えに至った。

 

「妖精か」

 

 その言葉に頷く紫。

 

『けれど妖怪のタタリが出てきたとして、妖精が役に立つの? それともやられるけど出しとく?』

「輝夜さん、俺が妖精たちに肉の壁になれなんて言うと?」

『それは……悪かったわね。確かにあんたはそういうこと絶対言わないでしょうけど、なら?』

「並以上の力を持ちつつ恐れられてない、となればチルノさんと大ちゃん」

 

 そう言って二人を見ると、チルノがグッと手を突き出し、大妖精は不安そうにしながらも頷いた。

 フッと笑みを浮かべて紫を見ると、彼女もこの展開を望んでいたのか微笑を浮かべて頷く。

 あと数人、候補がいる

 

「三月精を呼ぼう、戦闘特化じゃないが使える……いや、あいつらは防衛戦より他のサポートに回すか」

「適当にあたいが話つけてくるわ」

「私も行くよチルノちゃん!」

 

 三月精のライバル(?)のチルノが言うと、大妖精も同調する。

 そちらは問題ないあの三人のサポートがあれば同等の力の敵が現れた場合でもなんとかなるだろう。

 

「それと、魔理沙を呼ぶ」

「……分身出てこない?」

「いや、恐怖を抱かれてるとかそういうのはないだろ」

 

 そんなリョウの言葉に頷く霊夢。

 異変解決組でも正直どうなるかはわからない。

 霊夢はアウト、魔理沙と早苗は恐らくセーフ、咲夜と妖夢は微妙なライン……となれば。

 

「人里、いや慧音先生の防衛に回せるのは魔理沙のみか……早苗は神奈子さんと諏訪子さんの方で、同格二体相手なら多少は戦力増強させた方が良い」

「そうね、弱すぎるのだと瞬殺されて増強にならない場合もあるけれど」

 

 紫の言葉に頷きつつ、さらに思考する。

 被害を最小限で押さえるにはどうするか、同格相手に味方を着けるならそれなりの実力者。

 顔をしかめつつ、考える。

 

 それなりに友好的な人形使いアリスはセーフかもしれない、河童は十中八九アウト。

 冥界も地獄も妖怪の山も総じてタタリによってドッペルゲンガーが出現するだろう。

 

「待て……タタリの終わる条件って?」

 

 勝利条件。

 防衛のことばかり頭に浮かんでそこが抜けていた。

 

「終わる条件らしい条件なんてないわよ」

「つまりは……」

『ドッペルゲンガーと仮称するとして、それを殲滅するまで終わらない。ただ襲ってくるものを倒し続ければ』

「勝てる可能性は充分ある」

 

 永琳の言葉にうなずいて言う。

 防戦一方でも構わない吉報のように思える反面、全て叩かなければ終わらないという凶報。

 舌打ちをしてさらに思考するが、そこでハッとする。

 

「あ、いやすみません、素人が」

『別に良いじゃない。案外的を射たことは言ってるし』

「そう、言ってもらえると助かります」

 

 仙人、茨木華扇の言葉に軽く礼を言ってリョウはさらに紫の方を見る。

 ここまでの面子を集めて、これで終わりということはないだろう。

 

「タタリが起こるのは二日後、明後日よ」

 

 その言葉に、リョウは息をつく。

 あと2日もあるならば対策は練れる。

 故にすぐに立ちあがり、チルノと目を合わせて頷いた。

 

「あたい、ルナたちのとこ行ってくる!」

 

 ルナチャイルド、三月精に協力を求めに行くのだろう。

 リョウは古参でも強い力を持っているわけでもない、しかしそれでも動く必要があった。

 状況と声などを聞いて、人里には繋がっていないこともおおよそ理解はしている。

 紫の方に目をやると、静かに頷かれた。

 

「人里にいく、お前は?」

「妖怪の山に話をつけにいくわ、紙を通してじゃ無礼とか言われて話も通らないでしょうし」

「OKだ、文は?」

「チルノさんに、と言いたいとこだけどリョウと行きましょうか……二日後は山での戦いになるだろうけど」

 

 それに頷くと、すぐに脱いでいた上着に腕を通す。

 やはりやれることは全てやっておく必要があると、異変解決の素人ながらに状況に抗う。

 紫には紫の目的があるように彼にも彼の目的がある。

 

「人里の方、任されても良いですか?」

『人里の方は君と魔理沙に任せる』

「ありがとうございます、神子さん」

 

 豊聡耳神子に礼を言って出ていくリョウ。

 それに続いて文とチルノと大妖精も出ていったのを見て霊夢も動こうとしたが、止まる。

 息をついてからゆっくりと座り直した。

 

「狙ってた?」

「ええ、彼は間違いなく動くと思ってたわ。この一年で充分理解してる」

『彼を買っているんですね』

 

 地底、旧地獄の古明地さとりの言葉にクスッと微笑を浮かべた。

 

「幻想郷は変り者ばかりだけれど、あれは最先端の変り者だから……そりゃ覚えてるし見てるし、買ってるわよ」

「ま、あんたは嫌われてるけどね」

「構いませんわ。私はそういう者でありたいんだもの、それにだからこそ」

 

 そこで止まって苦笑を浮かべた。

 

「いえ、とりあえず私は妖怪の山に行った後に地獄にでも行くわ。他の皆様も準備は怠らぬように」

 

 それだけ言うと式神すべてと自分を“スキマ”に沈めて消える。

 残された霊夢は1人、立ちあがり手をパキパキと鳴らす。

 

「リョウさんも変なのに気に入られるわね」

 

 そう呟くと動き出す。

 伝えなくてはならない友人たちがいるのだ。

 人里はリョウに任せられるからこそ、そういう動きができる部分があるのだが、だからこその心配もある。

 今さらそんなことを考えても仕方ないのだが、と霊夢は思考を切り替え準備を始めた。

 

 

 

 一方、リョウたちは神社の前で固まっていた。

 とりあえずチルノと大妖精は魔法の森に向かい、三月精に協力を求めなくてはならない。

 肉体的な死がない妖精と言えど、痛い思いをして死ぬのはまた違ってくる。

 だからこそしっかりと協力を頼む必要があった。

 

「それじゃ頼みますチルノさん」

「任せてよ! リョウと文も頑張ってね!」

 

 これから危険な戦いが迫っていても、そこ笑顔に曇りは一切無い。

 

「チルノさんの応援があればなんでもやります! 調教しほうだいですよ!」

「お前の口縫ってやろうか!」

「調教って……文、犬とか馬になっちゃうよ?」

「ち、チルノさんに犬と言われるとかもう死んでも良い!」

「良かったな良い機会だぞ」

「えっと、それじゃあ行きますね」

 

 大妖精がそう言うと、チルノが大妖精の二の腕あたりに手を添えると少しばかり気になったのかピクッと反応して、文は羨ましそうにしている。

 その大妖精が額に片手の人差し指と中指を当てて目を瞑る。頭に浮かべるのは魔法の森。

 

「それじゃあお願いします」

「またね!」

 

 そう言うと二人が消えた。

 大妖精の瞬間移動の能力による移動。

 残されたリョウと文の二人が、動き出す。

 

「さて、行くぞ、ついでに作戦会議だ」

「戦場が違うのに?」

「だからこそだよ、八雲紫が俺を利用してこういう風に仕向けたなら俺もこの状況を上手く使っておきたい」

「そういうことですか」

 

 その言葉に頷いたリョウ。

 文も少しばかり楽しそうにしていて、リョウの意図は理解しているようだった。

 口角を上げたリョウが掌を前に出してから、握りしめる。

 

「タイミングは悪くない」

「まぁ確かに……」

「さて、行くか」

 

 そう言うと両手を出す。

 

「運べと」

「飛べないからな」

「……はいはい」

 

 不服そうな顔をしながら翼を翻して飛ぶ文が上からリョウの手を取る。

 そのまま飛んではかなり腕に負担がかかるので風の力も使ってふわっとリョウを浮かせつつ飛ぶ。

 

「このまま直接人里に?」

「ああ、俺はな……ただ文に頼みたいことがある」

「チルノさんのためになるならなんでもどうぞ」

「そりゃなにより」

 

 そう言って笑うリョウに、文は苦笑をこぼした。

 言いなりになるのは癪ではあるのだが、彼の提案に乗らないわけにもいかないし、乗った方が間違いないとも理解している。

 飛びながらそんなことを考えていて、ふと思い出したかのように文は言う。

 

「……チルノさんに犬って呼ばれたの羨ましい?」

「んなわけあるか、この色ボケ鴉」

 

 深いため息をつくリョウの視線の先には、人里が見えていた。

 

 

 




あとがき

初(?)のシリアスパート
最終決戦みたいな異変のようなもの
色んなキャラに台詞あげたかったけど無理でした

とりあえず次回はこの続きからで少しばかり色々見えてくる、はず
それでは次回もよろしくです
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