さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第14話『闘争』

 あの日、“タタリ”が起こるとされてから2日が経った。

 つまりタタリ発生の当日、八雲紫に“タタリ”の発生時間まで割り出され、リョウたちはそこに立っている。

 

 所謂、草木も眠る丑三つ刻。

 現代風に言うならば、おおよそ午前一時。

 そんな深夜に人里の門前に立っているのはリョウ、チルノ、大妖精、慧音、魔理沙、はたて。

 昼間に十分眠ったお陰か、チルノはハッキリと意識を覚醒させて腕を組んで待つ。

 

 腕を組んだチルノの両隣にリョウと大妖精、リョウの背後にはたて。

 後ろにいた慧音が静かに息をつくと、背後の人里が“隠される”。

 魔理沙がそんな面々を集めて苦笑した。

 

「チルノぉその並びだとなんか強そうに見えるな」

 

 そんな言葉に、チルノとリョウと大妖精が同時に口を開く。

 

「なに言ってんの魔理沙、あたいはさいきょーよ!」

「なに言ってんだ魔理沙、チルノさんはさいきょーだ」

「なに言ってるんですか、チルノちゃんはさいきょーです!」

 

 三人の言葉に驚いたような表情を見せる魔理沙と、呆れたようなはたて、慧音は苦笑しつつ前方を見据える。

 次の瞬間、背筋にピリッとした感覚を覚えて魔理沙は慧音が見ている方を見て帽子をスッと押さえた。

 はたては翼を広げ、大妖精はその手にクナイを持つ。

 

「くるらしいよ、チルノさん」

「どっからでもかかってきなさい!」

 

 リョウが地面に落ちている石ころを軽く蹴りあげてパシッと手に持つ。

 チルノが体から冷気を溢れ出させ、周囲の風が揺れる。

 

「近づく奴から氷漬けにしてやるわ!」

 

 そして眼前に―――“タタリ”が起きた。

 

 最初からそこに在ったかのように存在する妖魔。

 見覚えのありそうな狼のような奴やコウモリ、蜘蛛やらヒトガタのナニカ。

 全て共通して―――暗い。

 50はくだらないその数を見て、チルノがニッと笑う。

 

「さぁ―――異変解決、開始よッ!!」

 

 その瞬間、動き出す。

 

 瞬間、リョウが握っていた小石を力一杯に投擲。

 鋭く尖ったそれが赤い輝きを宿しながら真っ直ぐ一体の頭を貫いた。

 暗い血液を撒き散らすタタリで産み出された“分身体”。

 

「“弾丸ごっこ”だ」

「遅れんなよチルノ!」

「魔理沙こそね! はたて、けーね先生をよろしくね!」

「やれるだけやるわ!」

 

 そう叫ぶはたてが慧音の隣に立つ。

 別に慧音は弱くはない、だが“最高の実力”ではない慧音にガード役は必要だ。

 慧音(人里)目掛けて走ってくる分身体の前に立つリョウ。

 

「……しっかり頼むわよリョウ!」

「わかってる!」

 

 その手に纏うは紅の気。

 分身体が慧音に走るように、正面から走るリョウはその腕を横に伸ばして走り、振るう。

 ただし拳を叩き込むでもない、それは―――。

 

「ぶっ潰す!」

 

 ―――ラリアット。

 

 分身体の体が地面に叩きつけられる。

 ぐったりとしたその体を、同じく紅い気を纏った脚で蹴り飛ばすと、眼前の数体の敵に両手を向けた。

 それと同時に放たれるのは数十もの“霊力”の弾丸で、それらに被弾した分身体たちが止まる。

 

「ここらでお遊びはいい加減にしろってところを見せてやる」

「その台詞は死ぬわよイキリチンピラ!」

 

 はたての言葉に青筋を浮かべながら振り返った。

 瞬間、リョウを襲おうと狼のような分身体が迫るが、リョウが振り返ると同時に蹴り飛ばす。

 倒れていた狼が起き上がろうとしたその時、上から落ちてきた大妖精がその狼の頭部にクナイを突き刺す。

 

「さすが大ちゃん」

「私、アイツのああいうとこが怖いのよね」

 

 はたての言葉に頷くリョウ。

 顔を上げた鋭い目をした大妖精が、横から近づく蜘蛛型の分身体にクナイを投げつけ、その活動を停止させた。

 すぐに新しいクナイを両手に持ち、大妖精が地上を走る。

 

「うわ、空にもわんさか出てきやがった。魔理沙に頼むか」

「私のドッペルゲンガーはいないみたいねぇ」

「出る前にさっさとこいつら潰す!」

 

 そう言うと、リョウも敵の軍勢に走っていく。

 分身体は誰の分身がいつ出るのかランダムらしいと、紫には聞いた。故に速攻をかける。

 はたてと慧音も上空から近づく敵に手を向けた。

 

 

 一方、チルノは敵に囲まれた状態。

 だがその顔は不敵な笑みを浮かべており冷気が足元を凍らす。

 放たれる分身体たちの“弾幕”だが、チルノが腕を振るえば、凍る弾幕。

 そしてチルノが両手を広げ必殺技(スペルカード)を使う。

 スペルカードルールに縛られない戦いはスペルカードの枚数や宣言すら存在しないが、それでも必殺技は必殺技。

 違うことと言えば、受ける側の難易度ぐらいだ。

 

 ―――凍符「パーフェクトフリーズ」

 

 そしてお返しとばかりにチルノから放たれる弾幕に被弾していく分身体。

 

「みんな大火傷ね!」

 

 上空から見える地上のチルノの戦いに箒にまたがって飛ぶ魔理沙が笑みを浮かべた。

 その青い少女の周囲の綺羅びやかな氷細工。

 だが、見惚れたままでいられるほど優しい戦場ではない。

 

「やるなぁチルノのやつ、あたしも負けてらんない、かな!」

 

 右手にミニ八卦炉と呼ばれるモノを持つ。

 それを眼前の“敵勢”に向けて、ニッと笑みを浮かべた。

 初っ端から手加減なし。

 魔理沙の性格を表す一直線な技。

 

「マスタァァ……スパァァァクッッ!!」

 

 ―――恋符「マスタースパーク」

 

 放たれる極太のレーザーが敵を撃ち落とす。

 だがまだ敵はいるしむしろ増えてる気すらしていた。

 否、実際に増えているのだろう。

 

「厄介だぜ、まぁ援軍が来るまで持ちこたえられりゃ良いだろうけど……!」

 

 加速した魔理沙が弾幕を散らしながら、空を駆ける。

 

 

 地上のリョウが放たれる弾幕を避けながら素早く人型の敵に走った。

 

 ただの人間にしては強い部類に入るだろう彼の戦闘スタイルは主軸が肉弾戦である。

 弾幕の数はそれほどでもないし、レーザーだって十数秒の溜めが必要で、しかも一発づつ放つのが精一杯。

 故に“気と霊力”というものを学び自力でここまでやれるようにはなったが、所詮は“その程度”という域を出ない。

 

 それでも、効率良く敵を“潰す”方法に関しては頭が良く回り、容赦無用の戦いであればその戦闘力は“弾幕ごっこ”の時とは一線を画する。

 

「ッ!」

 

 人型の分身体が鋭い爪のついた手をリョウの顔に向けて振るうが、軽く体勢を低くして避けつつ加速をつけて跳んだリョウが、両足を揃えてその顔面に蹴りを叩き込む。

 

「ラァッ!」

 

 ―――ドロップキック。

 

 両足がその顔面にぶつかった瞬間、軽い爆発のようなものを起こして吹き飛ぶ分身体。

 蹴りが入った瞬間、脚部に弾丸を生成し爆破する情け容赦なしの一撃。

 ドロップキックによりそのまま地面に落ちつつも、慣れているのがわかるぐらいに綺麗に受け身を取ったリョウは、即座に腕のバネを使って素早く起きあがる。

 波状攻撃の様に次に次にと迫る別の人型分身体に対し、リョウは視線を向けた。

 

「当たるかよッ!」

 

 相手が弾幕を放ちつつ接近してくるがそれらを回避し、気を纏った拳で捌く。

 そして近距離(クロスレンジ)にまで接近した分身体の振るわれる拳を回避し、後ろに回り込むと素早くその胴体に両手を回した。

 リョウが敵をホールドしたまま後ろに体を反らすと、分身体は勢い良く宙に浮く。

 

「シャオラァッ!」

 

 ―――投符「投げっぱなしジャーマン」

 

 その勢いのまま、掴んでいた両手を離すと分身体は真っ直ぐに飛んでいき、別の分身体にぶつかる。

 そして投げ飛ばされたその腹部には、紅い気の弾丸。

 分身体が驚愕の表情を浮かべた瞬間、その気弾が拡散し数十の弾幕となって周囲に撒き散らされた。

 

「やっぱ人型はやりやすいな」

「ちょっとリョウ! あんたまだ全然倒してないじゃない!」

「弾幕は火力だぜー!」

「うるせー!」

 

 離れた場所から飛んでくるヤジに文句を返してから、溜め息をつきつつ、リョウは次の敵に視線を向ける。

 とりあえず弾幕を展開して敵の動きを妨害しつつ走ると、分身体をラリアットで倒してその頭に気弾を撃ち込む。

 

「仕方ないッ!」

 

 後ろに何度か跳ねて敵と距離を取る。

 両足を開き地を踏み締めると、両手を球を掴むように合わせて脇の方へと持ってきた。

 その姿を見て、チルノは上空へと飛び上がり、同じく意図を理解した大妖精はすぐにリョウの“射線上”から回避。

 そして上空の魔理沙が苦笑を浮かべる。

 

「例のレーザー系か……!」

 

 そう、チャージに十数秒がかかるのは魔理沙も知っていた。

 所謂レーザー系はその他の弾丸と要領がまた変わってくるものであり、習得している者といない者がいるのも事実でリョウは元々弾幕ルールについては“才能が無い側”の人間である。

 だがそれでも彼はそれを一撃とは言え、戦場で十数秒隙を晒すとは言え、撃てた。

 

 離れた場所から慧音が分身体の一体を頭突きで倒し、はたては素早く弾幕を形成し敵を牽制。

 慧音がリョウの方を見る。

 

「……弾幕ごっこはイメージだ」

「え?」

「あれに関しては、少しばかり罪悪感もあるんだ」

 

 いかに密度の濃い弾幕を作るか、なおかつ“避けられる”弾幕を作るか、そして美しい弾幕か……。

 花火の如く美しく、色鮮やか、華麗に優雅に、そんな弾幕を用いて荒事を“ルールに則って”収める。

 それが“スペルカードルール”だ。

 

 

 

 ―――妖怪の山。

 色鮮やかな弾幕が飛び交い、数百数千の天狗の分身体とオリジナルが戦う。

 その中でも一部の者しか捉えられぬような速度で加速し、弾幕を拡散しあう二つの影。

 それがぶつかり、距離を取る。

 

「ハァッ……あやや、さすが私、ですね」

 

 射命丸文の視線の先には射命丸文……その分身体。

 暗い色をした自分を前に苦笑して肩をすくめ、余裕そうな表情を浮かべつつも内心では少しばかり状況の不利さを理解する。

 気づいたこととしては、相手に疲労が見られないということだ。

 

「休憩、でもないですかッ!」

 

 放たれる弾幕を回避していく文。

 文は余裕を保ったふりをしつつもそれなりに疲労が溜まっている。

 分身体も同じように隠している可能性がないでもないが、それにしては文のスピードが少しばかり落ちてきたのに対し向こうは変わらない。

 

「厄介な……」

 

 瞬間、背後からの視線に気付き振り向くと同時に、迫る刃を羽団扇で受け止める。

 振るわれた剣を羽団扇が受け止め、唾競り合う。

 普通の羽団扇ならばそのままサックリだ。

 

「っ!」

「チェストォ!」

 

 目の前の剣を持っていた“犬走椛”が後方へと跳び、文の前に“犬走椛”が立つ。

 先に攻撃してきたのは分身体だろう。

 椛に背を向ける文が自らの分身体に視線を戻す。

 

「今のが分身体ですよね?」

「さて、どうだか……」

「まぁ驚きませんけど」

 

 とは言うものの、お互い犬猿の仲と言えどこの状況は理解ているだろう。

 それに椛とて文の強さを丸々コピーしたモノを相手にするのは厳しいものがあると自覚はしている。

 

「ハッ!」 

 

 文が羽団扇を振るい色とりどりの弾幕を形成し、椛の分身体も自身の分身体も牽制しつつ息を整える時間を稼ぐ。

 椛もさらに波状攻撃的に弾幕を形成した。

 意外にも、椛が口を開く。

 

「綺麗なものだ、貴女の弾幕は」

「私を褒めるなんて珍しい」

「噛みつくな」

「あややこりゃ失敬」

 

 文が再び羽団扇を振るった。

 

「しかし、弾幕はイメージと実力ですから」

「自分はイメージ力と実力が十分と?」

「噛みつかない」

 

 そう返して苦笑。

 

「イメージ力があれば実力がなくてもそれなりの弾幕が作れる。また実力があればイメージ力がなくてもそれなりの弾幕がつくれる」

「双方が揃えば“最強”と、そういうことでしょう」

 

 自慢話を聞いているようで顔をしかめる椛は、自分が発した単語で青い少女を連想した。

 背後の女の“最も大切”な少女。

 文はそのまま話を続ける。

 

「いえ、早い話が弾幕……ひいてはスペルカードなんかは“私たち”や“この現象(タタリ)”なんかと似たようなものでしょ」

「……そういう意味では、な」

「だからこそ“純粋な力(最強)のみ”をイメージして作られたスペルカードは、美しさも華やかさもない技。しかし、それでもそのメッセージ性だけは、確かに理解できる」

「今日はやけに詩人臭いな」

 

 椛の皮肉を聞いているのかいないのか、聞いていても届いていないのか、文はそのまま話を続ける。

 思い浮かべるのは一つの無骨なスペルカードと使用者たる男。

 まともな弾幕も作れるはずなのに、絢爛華麗なイメージはできるはずなのに彼が生んだ高火力(レーザー系)スペルカードは、武骨なものだった。

 

「それでも、アイツらしいとか、思っちゃったんですよ」

「……ああ、そういうことか」

 

 しかし、レーザーというものを自分が出すイメージをしろと言われたとき一体どういう風なイメージをするだろう。

 文は既に初めて撃ったときのことなど覚えていないし、もしかしたらイメージなんて対してせずともできたかもしれない。

 彼は気を扱うことだって霊力を扱うことだって割りと無難に覚えたが、それだけはかなりの苦戦を強いられていた。

 曰く『俺からレーザーが出るイメージなんかできねぇ』だった、そこである半妖は言った。

 

 ならば、誰かが撃っている姿を想像しろと……。

 

 そして、そのスペルカードは“破壊光線(純粋な力)”を成立させた。

 作法(ルール)無視の無骨で力のみのスペルカード。

 なまじそのイメージで完成されたせいでそのスペルカードは彼自身が好きな“頭を使う(搦め手)”作戦では使う機会を大幅に失い、レーザーはその撃ち方以外で撃てないだろう。

 

 だがそれでも彼の“嫌い(得意)”なガチンコ勝負で使う姿は似合っているし、なによりも……。

 

綺麗(カッコイイ)とか思っちゃったんですよ。そのスペルカード」

 

 そう言いながら、自分自身の分身体に三本のレーザーを放つ。

 風を纏い、木の葉と黒い羽が舞い散る美しい光線。

 さらにその間を加速し文は自らの分身体に蹴りを叩き込む。

 

 

 

 ―――そして、リョウたちの戦場。

 

 眼前の敵をしっかりと睨み付けながら必殺技(スペルカード)を発動する。 

 イメージするはただ一つの“照射(レーザー)であり必殺技(ビーム)であり”気の波。

 

 射線は空いた、避けようとももう遅いし、幻想郷広しとて今さら間に合う奴なんてそうはいない。

 合わせた両手の中に輝く紅い光。

 球を持つように合わせた両手の指の隙間から溢れ出る輝き。

 そしてその両手が、突き出される。

 

 ―――闘符「懐古の気功波」

 

「波アァァッ!!」

 

 紅い光と共に、破壊の閃光が放たれた。

 

 その一撃は妖魔を呑み込み伸びていく。

 その一撃は地を削る。

 その一撃はただの一撃で十分だった。

 

「っ……ハァッ、はあっ……」

 

 閃光が消えると、リョウは手を下ろして肩で息をする。

 射線上の敵は消え失せたが、まだ全滅には遠い。

 ここでの消耗は押さえたかったが速攻で決めるにはここで使うのが正解だ。

 

「たくっ……」

 

 軽く髪をかきあげつつ、前方を見据える。

 放った一撃は魔理沙の“全力の必殺技(マスタースパーク)”にすら匹敵することだろう。

 しかして、リョウと魔理沙の違いは放って仕留められなかった後のリカバリーだ。

 

「相棒いなきゃマジで無理だな、これっ……」

 

 目の前には凍りついた狼。

 それが上から降ってきた少女の蹴りで粉々に砕け散る。

 キラキラと星のように輝くダイヤモンドダスト。

 

「だからあたいがいるのよさ」

「さすが、チルノさん」

 

 前に立つその姿はまさに“さいきょー”だった。

 少なからず彼等(リョウたち)にとっては彼女こそが“さいきょー”なのだ。

 だから遠く、だから離されないように着いていき、隣に立てるように……。

 

「シャァッ! まだまだいきましょうチルノさん!」

「あたいに任せなさい! 無敵のパーフェクトフリーズでキラキラにしてやるわ!」

 

 なんかメイクアップしそうだな、と思うが言わずにリョウは再び拳を構えた。

 

 

 ―――戦いはまだ終わらない。

 

 




あとがき

本文がここ一番で無骨になってしまった
カッコ良く見えてたら良いな
それと必殺技は思いっきりアレ

戦闘はそこまで長引かないと思います
そんじゃまた次回
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