さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第15話『大戦』

 ―――忘れられた者たちの楽園、幻想郷。

 

 戦闘は各所で起こっていた。

 それもそのはず、幻想郷に妖魔がいない場所などなく、人里とてまた然り。

 故に、どこもが戦場、あらゆる場所が命をかけた殺戮ショー。

 対等の敵との戦闘という命懸けのギャンブル。

 

 死を恐れる自分と死を恐れぬ自分。

 疲労する自分と疲労も知らぬ自分。

 

 弱いものたちは怯えながら隠れ異変解決(夜明け)を待つ。

 強き者たちは自らを消し去るため、また自らを証明するため戦う。

 どちらでもない者は自らのするべきこともわからない。

 

 そして強者であろうと弱者であろうと普通であろうと、やるべきを理解した者だけが、本当の意味でこの現象と戦う。

 自分の友のためや、自らを“殺し”守るべき者を守るため、この現象は心を殺すタタリ。

 

 だが、それでも折れず戦う者たちが確かにいるからこそ、まだ幻想郷は生きている。

 

 

 

 ―――妖怪の山、地上。

 

 多数の河童たちが兵器を使い戦う。

 タタリの分身体たちにはない武装を駆使して、確実に襲いかかってくる分身体を消す。

 銃撃を行っていた河童たち、調子に乗って前線に出る河童たちの銃が突然、弾詰まりを起こした。

 

 混乱する河童たちがすぐに気づく。

 厄が溢れ出ている。

 

「厄神様か!」

 

 後方にいた河童の一人である『河城にとり』が叫ぶ。

 敵の中でも先頭きって接近してくるのは緑色の髪、赤い服の厄を纏ろう者。

 

「なら、私が」

「っ!」

 

 現れるのは厄神様のオリジナルこと鍵山雛。

 その雛が自身の分身体を掴んで、そのまま押し込んで森の中へと消えていく。

 河城にとりは素早く近場の“トランシーバー”を手に取った。

 

「鍵山雛確認! あと山中で出てない強力なドッペルゲンガーは!?」

『守矢神社の二柱と秋姉妹は確認済み、天魔様や射命丸も……恐らくこれで全部かと!』

 

 それを聞くと同時ににとりは側にあるスイッチを叩くように押す。

 弾幕の数々が襲いかかるも、にとりも持っている銃で応戦。

 そして、にとりたちの背後から轟音と共に上空に向かって放たれたのは真っ赤な照明弾。

 

「リョウ、これで良いのかいっ……」

 

 そう言いながら転がるようにバリケードの裏に隠れる。

 肩で息をしながら上空を見上げるが、色とりどりの弾幕が飛び交っていた。

 

「あんたの作戦信用してないわけじゃないけどっ……」

 

 悪態をつきながら、バリケードから頭を出して銃撃。

 

「奢ってもらうからなぁっ!」

 

 そんな叫びが妖怪の山に響く。

 

 

 

 ―――紅魔館。

 

 門から飛び出る。いや、吹き飛ばされる影。

 

 吹き飛ぶのは暗い色をした紅美鈴。

 吹き飛ばしたのは通常通りの紅美鈴。

 二人とも流血しており、勝負はどっこいどっこいと言ったところなのだろう。

 

 上空ではレミリア、フランドールの二人が己の影と戦っている。

 咲夜とパチュリーは少し離れた森の中のはずだ。

 

 次の瞬間、上から落ちてきたのは装飾された紅の槍で、それは彼女の主人のものに間違いない。

 門前に突き刺さるそれを見て顔をしかめつつ前を見るが、周囲にナイフが展開された。

 

「咲夜さんッ!?」

 

 地面を勢い良く叩くと空気が揺れ、周囲のナイフが弾き飛ばされる。

 だがその隙に接近してくる美鈴分身体が美鈴に蹴りを打ち込んだ。

 両腕でガードしながらも、吹き飛ぶ。

 

「美鈴!」

 

 主の声が聞こえ意図を理解し、両足を着いて門前で止まった。

 真横に刺さっている主人の槍、グングニルを手に取ると回転させて構える。

 迫る自分を槍を振るって吹き飛ばす。

 

「……私が倒れちゃ家族にも弟子にも示しがつきませんからね!」

 

 口元を伝う血を拭って、美鈴は立ち上がる自らの影を睨み付ける。

 自分たちだけが守れても仕方がないのだ。

 一刻も早く終わらせ、助けなければならぬ弟子がいる。

 

 

 

 ―――迷いの竹林。

 

 人里から少し離れた場所にある竹林の中を炎が舞う。

 放たれた炎を別の炎が呑み込む。

 竹を蹴って加速した“影”が、勢い良く着地、スライディングしながら後ろに振り返り手から火を放つ。

 

「いい加減ッ!」

 

 藤原妹紅は悪態をつきながら火を放った方から現れる自身の影を見てため息をつく。

 体の半分が焼失しているように見えるが、やはりそこは妹紅と同じく問題なさそうだった。

 息をついて走りだす妹紅に合わせて、分身体も走りだす。

 

「てか、ちゃんと死ぬんでしょうねこいつッ!」

 

 足を振るうが、それを回避した分身体が火の宿った拳で妹紅の胸を貫く。

 だが妹紅の体が炎へと変わり、そのまま分身体を取り込む。

 燃やされる分身体だが、そこと妹紅の分身体。

 

「クッ!!」

 

 炎が妹紅と分身体に戻るが、既にお互いの腕を合わせて組み合っている状態だ。

 妹紅は素早く頭を突き出して頭突きを見舞うと少しはダメージが入ったのか、手の力が緩んだので距離を取りつつ額を押さえる。

 訝しげな表情を浮かべながら眼前の敵を睨む。

 

「痛ぅ~、慧音なら頭突きで一撃だったのに」

 

 そう言う妹紅。

 目の前の不老不死(蓬莱人)を殺すことができるかは、わからないものの、目の前のそれを放置していい理由にはならないだろう。

 故に、疲労は隠せなくても戦う。

 

「どっちが先に死ねるかの勝負か……おもしろい!」

 

 その背中に炎の翼を展開する。

 

「殺してあげるわ!」

 

 そして、蓬莱人が翔ぶ。

 人里には大事な人間たちがいるのだ。

 

 

 

 ―――輝針城、外部。

 

 空にそびえる鉄の城。

 別にスーパーロボットは関係ないのだがそう形容するのが一番正しくあるだろう。

 それにスーパーロボットなど出てきてはどこぞの風祝が真っ先に飛んでくるので作る予定もだす予定もない。

 楽園の素敵な巫女から言わせれば欠陥住宅と名高い、空から反対向きにそびえ立つその城の周囲には弾幕が飛び交っていた。

 

 そしてその中に“空飛ぶ石”に乗る少女が二人。

 青い髪を振り乱し、片手に持った“ビームサーベルの様なもの”で向かってくる弾幕を切り裂きつつ、脇にいる同じく青髪の少女に笑みを浮かべる。

 余裕そうなその表情、だが確かに厄介ではある……敵は己自身だ。

 

「たく、以外とメンドくさいわね」

「て、天人様……すみません、わたしも一緒に」

「いやいや、むしろ放置してたら大変でしょうよ」

 

 天人、比那名居天子が笑って答えると貧乏神こと依神紫苑は不安そうな表情で敵を見た。

 天子と同じく要石と呼ばれる石に乗って飛んでいる分身体と、反対側に挟み込むようにして紫苑の分身体が存在している。

 

 ちなみにもう一人、少名針妙丸という少女がいたのだが“不慮の事故”により分身体と頭をぶつけ合い落ちていった。

 死んではいないだろうが、戦線復帰は無理だろう。

 

 要石同士がベーゴマの如くぶつかりあい、天子が自らの影と剣『緋想の剣』を唾競り合わせる。

 そんな天子の背後で紫苑が背後に弾幕をバラ撒き自身の幻影を妨害するも、着々と接近してきていた。

 それを確認した天子が目の前の自分に蹴りを入れる。

 

「掴まってなさい紫苑っ!」

「えっ、は、はいっ!?」

 

 ふらつく分身体を前に緋想の剣を逆手で持つとそのまま自身の要石に突き刺し、紫苑を引き寄せる。

 それと共にまさにベーゴマの様に回転する要石が、接触していた分身体の要石を吹き飛ばした。

 

「紫苑!」

「ふぁい!」

 

 回転しながらバラ撒かれる弾幕に、二体の分身体が被弾するもまだ倒せてはいない。

 だがそれでも時間稼ぎにはなり、回転を止めた要石の上で天子は軽く舌打ちしつつ紫苑を離し緋想の剣の光刃を消す。

 

「あのワンコが言ってた通りやっぱ影同士のコンビネーションは皆無みたいね」

「えっと……リョウですか?」

「そうそう、あのワンコ」

「ワンコってより狂犬じゃあ……」

 

 立ち上がって帽子の位置を直しつつ、軽く緋想の剣の柄を投げてから順手に持ち直した。

 目の前に存在するのは自分、そして紫苑。

 

「たく、紫苑と同じ姿ってのはやりづらいわ」

「す、すみません天人様……」

 

 接近してくる紫苑分身体を確認して、要石にて距離を取りつつ弾幕で牽制。

 隣にいる紫苑の頭を軽く撫でた天子が静かに首肯く。

 

「私は許すわ……だが緋想の剣(コイツ)が許すかな!」

 

 そう言って要石から飛び出した天子が、紫苑分身体を斬りつける

 

「浅かった!」

 

 そう言う天子の足下に要石が加速して追い付き、要石に着地した天子は再び接近してくる自身の分身体を確認。

 緋想の剣の切っ先をスッ、と向けると紫苑を自身の後ろに下がらせた。

 

「どーなろうが知ったこっちゃなかったんだけど」

「あの……天人様?」

「ワンコに頼まれて約束しちゃったし」

 

 弾幕が放たれるも、輝く緋想の剣が一振され眼前の弾幕がすべてかき消されると、天子はフッと笑みを浮かべながらさらに一振。

 大量の弾幕が撒き散らされる。

 

「美しく残酷にこの幻想郷から往ね!!」

 

 

 

 ―――人里。

 

 本来ならば人里のあった場所、そこには現在人里はなくただの戦場か広がるのみ。

 上空から青い閃光のように、チルノが一体の分身体に蹴りを打ち込むと、吹き飛んだその分身体が塵となって消える。

 そのチルノを背後から襲おうとした人狼、その足にクナイが突き刺さった。

 

「さっすが大ちゃん」

 

 笑うチルノの背後でその人狼の頭にクナイを突き立てる大妖精。

 そんな大妖精も笑顔を浮かべて、上空を見上げる。

 心配もないだろうなと思うのは魔理沙はいつも通り戦うのみ、だからだ。

 

「いっくぜ! 出し惜しみなしだ!」

 

 ―――魔符「スターダストレヴァリエ」

 

 放たれる色彩豊かな弾幕に、避けることもできずに落ちていく妖怪たち。

 倒せていても倒せていなくても構いはしないのは、下の仲間を信頼してのことなのだろう。

 

 地を走るのはリョウ。

 紅い気を纏い、さらに強く地を蹴り数メートルを跳んだ。

 彼は飛行はできない、それは彼を知っていれば当然のように皆知っているのだが、不思議なことに彼は“飛行”できないだけである。

 空中で落ちながら移動はできるし、加速もできるのにも関わらず上昇浮遊ができない。

 

「くっそマジで飛ぶ奴等とか人間かよ!」

 

 そう言いながら魔理沙に近づこうとする妖怪の足を掴み、そのまま地上に加速。

 分身体が暴れだすが、リョウは素早く体勢を組み換えていくと、妖怪の足を上にその足を掴んで足は妖怪の脇に、拘束しつつさらに加速。

 

「潰れろォッ!」

 

 ―――慓壊「グレートクラッシャー」

 

 そのまま地上に頭を叩きつけられる分身体。

 頭が潰れ血液が周囲に飛び散ると、その体を蹴り飛ばして空中の敵を落とす。

 落ちてくる敵の着地地点まで走り、地上につく前に蹴り飛ばす。

 それを見ていたはたてが顔をしかめた。

 

「悪魔みたいな戦い方するわね」

「まったくだ」

 

 げんなりする二人のもとにリョウが戻ってくる。

 見ている方向は妖怪の山の方であり、弾幕の光が見えるがその中でも一際輝く照明弾を見た。

 

「誰が悪魔超人だ」

「いやそこまで言ってない」

「今日は慧音さんとツープラトンもできないしな」

「角が生えてたら別だがか」

 

 苦笑する慧音、呆れるようなはたて、そしてリョウはピリつくような空気を感じて空を見上げ、顔をしかめる。

 黒い翼が舞い、黒い羽が落ち、現れるわ少女の影。

 わかってはいたことだが、やはり“全力の殺し合い”で鴉天狗が出てくれば思うところがあった。

 

「おいはたて、きたぞ」

「なんであたしがあたしと戦わなきゃなのよ」

 

 ため息をつきつつ、はたては前に出ようとするがリョウが手を出して前に出る。

 まったく同じ強さの天狗同士の戦いに人間が手をだす危険性。

 だが、はたては頷いて下がる。

 魔理沙とチルノと大妖精もさがってきた。

 

「あとはたて、念写を頼む」

「え?」

 

 念写の目的を話すと、はたては頷く。

 指をパキパキ鳴らしつつ、顔をしかめつつ、それでも前に出た。

 チルノや大妖精、慧音も心配そうにしているが仕方がないとリョウ自身思っているし覚悟もしている。

 大妖精の方を見ると静かに頷き会う。

 

「いいから、慧音さんは巻き込まれないようにしてください。全員間違っても手を出すなよ」

「りょーかい、雑魚はやっとくよ」

「流れ弾気を付けとけよ」

 

 そう言うと、リョウが息をつく。

 やるべきことは一つ、答えは出ていた。

 そっとチルノを見る。

 

「リョウ、勝ってね!」

「お任せあれ!」

 

 タタリに具現化されたはたてに向かって跳び上がった。

 見送られるリョウ、魔理沙とチルノが再び分身体たちの元へと飛ぶ。

 慧音も両手を構えて弾幕をいつでも張れるようにする。

 

「念写ね、やるわよ……」

 

 そう言った瞬間、リョウが斜め上から吹っ飛んでくる。

 はたてと大妖精の間を通って砂煙を上げながら落ちてはたてはゆっくりとそちらを見て、顔をしかめた。

 

「ハッ……」

 

 笑いながら立ち上がるリョウは頭から血を流しながら歩く。

 ちなみに一撃をもらったにすぎない。

 心配そうなはたてにふらつきながらサムズアップするリョウ。

 

「よ、余裕だよっ……」

「すっごい不安!」

 

 




あとがき

長いけどそろそろ佳境に入ってきました
とりあえずボス戦的なのが始まりつつ、こっからがまた大変
他のキャラクターとの交流とかも書きたいとこです

それではまたー
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