―――忘れられた者たちの楽園、幻想郷。
外の世界とこと幻想郷とを隔離するのは二重の結界。
その一つが博麗大結界であり、それを維持するのに必要なのが博麗神社だ。
その博麗神社。
一つの
境内一杯にシートが引かれ、様々な者たちがそこにはいた。
人間、妖怪、妖精、半人、その他エトセトラ。
ある意味この幻想郷の混沌っぷりの象徴とも言えるし、この幻想郷の平和を体現しているとも言える。
今回の現象、便宜上異変と呼称されるそのタタリはこれまでの異変とは違い生々しい怪我などが多かったりもするのだが、アルコール消毒と言わんばかりに、浴びるように酒を飲む面々。
とは言えやはり飲み方も違い、静かに嗜む者もいれば騒ぎながら飲む者、飲み比べをする者等もろもろ。
「ほれ霊夢! もっと飲め!」
「うるっさいわね萃香! 飲んでるわよ!」
怪我人が多いはずだがそこは人外たち、既に回復傾向にあるようでラフプレーを受けたサッカー選手よろしく“痛いよ~”となってる者は既にいない。
人間の面々も“医者”によってそれなりの治療を受けて既に重症者はいなかった。
そんな混沌渦巻く宴会中。
今回の異変解決の立役者……ではないが確かに被害を減らし活躍したとして、意識を取り戻したチルノはその喧騒の中心にいた。
いつもなら側にいるリョウと大妖精、そして文は離れた場所にいる。
「……うう~チルノさんが遠い所にぃ~私のチルノさんがぁ」
「うるせぇよ、お前のじゃねぇし」
「リョウは良いんですか!?」
「良くないわけねぇだろうに」
そう良いながらグラスを傾け琥珀色のウイスキーを喉に通す。
右足をまっすぐ伸ばし左足は立てており、そんな伸ばされた右足の太ももを枕にして大妖精は眠っていた。
一度は起きたものの、疲労がたまっていたのか一眠りしてしまい、今はこの膝枕というわけだがリョウとしては少しは思うところもある。
「大妖精さんのダイナマイトバディはどーていには刺激強いと思うんですよ」
「誰が童貞だ、犯すぞ」
「私の初めてはチルノさんって決めてるんです!」
瞬間、文の頭に直撃する拳。
「いったぁ」
「大声で変なこと言ってんじゃないよロリコン」
「も、妹紅さぁん」
そこに立っていた藤原妹紅を涙目で見あげる不平不満ありそうな射命丸文なのだが、妹紅は気にせず座るとチルノたちがいる方を見た。
妹紅としては彼女が密かに人気者ということを知っているので微笑ましく見守りつつ手に持った一升瓶から酒を注ぐ。
「たく、射命丸はチルノの側に置いとくには不健全すぎんのよ」
「妹紅さんに同意です」
「先に犯すとか言ったのこいつですよ!」
「テメェが童貞だとか言い出したんだろが!」
どんちゃん騒ぎと言って良い喧騒の中で言い合う二人の声は通常ならば通らないのだろうが、彼らを意識する者は多い。今回はことさら多く、その者たちにはリョウは『
実際にどうかなど、本人のみが知ることだが、そんな言い争いにおもしろおかしく誘われて、新たな顔もやってきた。
「相変わらず楽しそうね」
「幽香さん……」
クスクスと笑いながらやってくる大妖怪『風見幽香』のそんな言葉に、リョウは苦い顔をしながら妹紅にフォローを頼もうと視線を向けるが、なにを言うでもなく酒を飲み進めている。
リョウもなんと返すか考えながら酒を一口、そこで文が幽香に言い返す。
「この“言い争い”見てもそう言いますか?」
「ん、“良い争い”じゃない」
そう言いながらリョウの横に座る幽香。
その意図を理解して、訝しげな表情を同時に浮かべるリョウと文を見るとより一層おかしそうに笑う幽香。
そんな様子がツボに入ったのか妹紅まで笑いだし、リョウと文が同時に溜め息を吐く。
「また揃った。良いじゃない、仲良くて」
「いや実際、仲良くないですし……幽香さん、からかわないでくださいよ」
「そのつもりは無いけど」
そう言ってリョウの横に座る幽香はどこか疲れているようだったが、大妖怪たちがこぞって疲れた様子を見せるのはやはり“自分自身”という強大な敵を相手にしたせいだろう。
幽香がそっと、リョウの膝の上の大妖怪の頭を撫でる。
「お疲れさま」
そんな慈愛に満ちた表情と優しい声で言う彼女は、巷で恐れられている危険度が高い妖怪とは思えず、ドのつくサディストという話すら疑わしくなってくるものだった。
リョウは近くにあるそんな幽香の顔を見て、ふとチルノの方に視線を動かす。
「チルノさんとは話しました?」
「まだよ、だって中心なんだもの話す隙もないわ」
そう言う幽香はどこか拗ねているようにも見えて、リョウは少しばかり笑みを零し頷く。
今日はチルノが主役のようなもので、鬼たちや妖怪たちもこぞってチルノを可愛がっており、チルノもまた恥ずかしそうにしながらも満更でもなさそうで、そんな微笑ましい姿にリョウは頬を綻ばしている。
「まあ夜は長いし、チルノさんも大ちゃんも幽香さんのこと大好きだから」
「あら、貴方はどうなの?」
「好き……って言って欲しいんですか?」
「そんなわけないじゃない」
なら最初から聞くなと思いつつ文を見るとケラケラ笑っており、妹紅はそのやりとりに驚いたのか少しばかり酒をこぼしていた。
幽香はと言うと元々目的もない質問だったせいか既に興味をなくしており、リョウはそっと息をついて酒を飲む。
「やっぱつまみ無いとすすまないな」
そう呟くと、目の前に差し出されるのは皿。
「鮭とば……海、無いのに」
「海がなくても意外となんでもあるものよ、幻想郷には」
そう言って目の前の女性が頬笑む。
赤と青の二色で構成された服装で銀色の髪を揺らす件の医者。重傷であったリョウの怪我を治した八意永琳がそこに立っていた。
彼女はそっと座ると、鮭とばの乗っていた皿を置く。
「お疲れ様ね、重傷者も少ないようでなによりだわ」
「永琳さんもお疲れ様です。蓬莱人のドッペルゲンガーってどうでした?」
その言葉に肩をすくめる永琳を見て、リョウは小首をかしげた。
「中々大変だったわ、結局“蓬莱人もどき”に過ぎなかったけど」
「“不老不死”ではなかったと?」
「欠片も残さず吹き飛ばすっていう、処理だけなら貴方でもできたことよ……アレが当たればね」
そんな言葉に妹紅を見るが、苦笑しているところを見ると事実なのだろうと思いつつ、思ったより力付くでなんとかなるものだなと感心しながら幽香を見る。
彼女はどうだったのだろうかとも思うが、きっと楽しくやっていたのだろうと自分で結論を出してふと思う。
「俺は無理でしょうけど……チルノさんと相性は良かったかも」
あくまでチルノが“処理のみをするなら”の話ではある。
まともに戦闘となれば戦力から考えて現状のチルノが勝利する可能性はないに等しいだろう。
そう考えると今回の異変では戦力の割り振り等は最も効率的ではあったものの……。
「次があるならもうちょっと上手くやれるか」
「二度とごめんだけど」
「違いないわね」
リョウの言葉に顔をしかめる文と苦笑する妹紅。
幽香はそうでもないのか、次があるなら私も色々試してみたい、だとか言う。
永琳はそんな会話を笑って聞いているが、顔をしかめたまま文は次に肩をすくめる。
「やっぱ二人みたいな戦闘狂にはついてけません」
「誰が戦闘狂だ。幽香さんと一緒にすんな」
「あら、どういう意味かしら?」
「あーえっとその、ほらあれ」
笑顔を浮かべる幽香の手がそっと肩に乗るので、リョウは必死こいて言い訳を考えるのだがどうにも思い浮かばない。
そもそも幽香が戦闘狂は周知の事実ではあるのだし、幽香もそれで通っているという自覚はあるのだからこれは単にからかっているだけである。
そっと手を下ろす幽香にホッとするリョウだが、妹紅は首をかしげた。
「というより店長も戦闘狂で間違いないと思うけど」
「俺はしがない喫茶店のマスターだよ」
「あれだけ戦闘技術磨いておいて?」
「永琳さんまで言いますか」
妖怪たちに比べると強い弱いは置いておいて、それでもなおリョウは戦闘好きだと思う幻想郷の住人はなにかと多い。
大体にして幻想入りから一月でそれなりに戦う技能を叩き込んでスペルカードルールで戦いだすような輩だ。
「そのつもりは無いんだけどなぁ」
「ま、自分で思っていても、よ」
そう良いながら幽香がそっとお猪口に口付けて飲む。
「たまに鬼とかからもやらないかって言われてるしね」
「店長すごいわね」
文が余計なことを言うと、鮭とばを囓っていたリョウは顔をしかめて文を指差す。
「やらねぇよ、こいつはネタになるからやれとか言うけどさすがに死ぬ」
「じゃあ大怪我したとき用に私が見ていてあげましょうか?」
「永琳さん!?」
「おーお膳立ては整いましたね! 萃香さん勇儀さん!」
「ばかッ! 呼ぶなッ……鬼ッ!!」
そんな鬼気迫る表情のリョウを見て、ケラケラ笑う文に拳を振るいたい気持ちになるも膝上の大妖怪を落とすわけにもいかず我慢ぜざるを得ない。
遠くの鬼が文の声に気づいたのか目が合うので、リョウはなんでもないと言わんばかりに首を振ると、小首を傾げて元の話し相手と会話を再開。
「ふぅ、ビビらせやがって」
「ちっ」
「舌打ちすんな! お前が鬼か!」
そんなやりとりをしていると、リョウの膝の上の大妖精がもぞもぞと動くので、五月蝿くしすぎたかとリョウはバツの悪い表情を浮かべる。
すると、幽香がそっと移動して大妖精の頭を持ち上げつつリョウをどかして自身が代わりに座った。
「ん、良いんですか?」
「チルノの方、行ってあげなさい」
「……それじゃお言葉に甘えて?」
そう言って立ちあがり、リョウが背を伸ばしつつ手に持った酒を飲み干す。
チルノの方へと向かおうとするが、服の裾が引かれてそちらを見れば幽香。
「ん?」
「今度は貴方も来なさい。チルノたちと一緒に」
そんな誘いの言葉に、リョウは軽く笑みを浮かべた。
「はい」
「……私も殺りあってみたいわ」
「やだよ!」
思わず強めに答える。
「あら冷たいのね」
「鬼ぐらい怖い!」
「あたしらがなんだってぇ?」
「関係ねぇ座ってろ!」
立ち上がりそうな鬼たちを座らせて、リョウは新しい酒を注いでから溜め息をつく。
「……そのうち」
「約束よ?」
クスリと笑みを浮かべる幽香に少しばかりくらっとくるも、ただの酔いだろうと心の中で納得させつつその場を離れてチルノたちの方へと向かう。
当然のように文も一緒なのだが、突如目の前に現れる二人を見て立ち止まった。
「八雲紫に、藍……」
八雲紫とこの従者、式神の八雲藍。
訝しげな表情を浮かべる藍に苦笑で返して、リョウは隣で少しばかり目を鋭くする文の肩に手を置いてなだめると、紫の方に視線を向ける。
「さっきぶりだけど、人気者ね」
「チルノさんか?」
「貴方も、よ」
そう言って柔らかに笑む彼女に、リョウは後頭部を掻きながら視線を逸らして文の方を見た。
仕事柄、こういう時“人気者になりにくい”傾向にある文を見ていると、自分はそこそこ話しかけられる方かもしれないが、それでも引っ張りだこの霊夢たちを見ているとやはりそういう感じでもないように思える。
もう一度紫の方に視線を向けるが、彼女はチルノに視線を向けていた。
「……本当に、チルノは凄いわね」
「今更ですか? 貴女は知ってるでしょう。知ってて“あんなこと”をしたっ……!」
「文ァ」
ドスの効いたリョウの声に止まる文は、バツが悪い表情でそっぽを向いてリョウの背を軽く押す。
珍しくそんな文を見るので、リョウの方もさっさと切り上げようと紫の方に視線を向けると、彼女も意図を理解したのか頷く。
「チルノに抱きついてよしよししてあげたい気分だけど、鴉や狂犬が怖いからやめときましょうか」
「鴉はともかく狂犬って俺じゃないよな? 椛さん?」
「どう考えても貴方でしょうに」
今日はじめて聞いた藍の言葉に苦い顔をして、リョウは文に押されて歩き出す。
すれ違う間際に、紫がリョウを見てなにかを言おうとするが、すぐにやめて別方向へと足を進める。
歩く紫が、リョウが元々いた場所に移動して座った。
幽香と永琳と紫、大妖怪三人が揃い踏みで、妹紅が場違いな感覚を覚えるも、特に退くこともなく酒を飲む。
紫が、鬼に囲まれている数少ない
永琳が紫と藍にお猪口を渡して、妹紅が雑に注ぐ。
「あら、そんな感じでリョウの店で働けてるの?」
「仕事は仕事だよ……今度来ればいい」
「機会があれば、ね」
そう言って苦笑する紫に、幽香は軽く笑いながら乾杯をする。
続いて妹紅と永琳も紫、藍と乾杯。
全員がお猪口に口をつけてから、最初に口を開いたのは意外にも幽香だった。
「今度一緒に行ってあげましょうか?」
そんな幽香の言葉に、紫は苦笑を浮かべる。
「……いいわよ、子供じゃないんだから」
「あらそう、藍は?」
「私は、その……嫌いでは、ないんだが」
言い淀む藍に今度は永琳が苦笑。
たった一年の間の、色々な事情に翻弄される数千年を生きる大妖怪たちが思い浮かべる“モノ”は満場一致。
―――人と鴉、そして氷の結晶。
苦々しい表情を浮かべる妹紅の肩を、永琳が軽く叩く。
「弾幕ごっこでもして気分晴らせば?」
「冗談、荒事は当分うんざりだ」
永琳がチルノの方にいる蓬莱山輝夜を指差すが、一時は日課とすらなっていた仇敵との戦いでさえも億劫になる気分で、そんな妹紅を見て幽香が笑う。
先ほどまでの表情が一転、紫もおかしそうに笑い藍も安堵した表情を見せた。
一方、リョウと文はチルノの元へとやって来たのだが……。
「あっ、リョウに文!」
「あらお二人とも、お元気そうでなによりです」
前にいるチルノは“聖白蓮”の膝の上に座っており、後頭部をその豊満な胸に預けていた。
無言のリョウと文に、聖は微笑を浮かべて軽く手を振る。
さらに西行寺幽々子もその場にはいて、チルノの頬をぷにぷにと押してくすぐったそうにするチルノとじゃれていた。
聖の隣にいた寅丸星が、いつまでも無言の二人に首を傾げる。
二人の(豊満ボディの)美女に可愛がられるチルノを見て、リョウは顔を押さえて上空を見上げた。
「俺はチルノさんになりたい」
「究極の愛ですね」
星はゴミを見るような目で二人を見た。
あとがき
思ったより長くなって宴会2話になりそう
そしてシリアスが続けられない
まぁ徐々に色々わかってくるはず
それでは次回お楽しみにー