さいきょーの主夫   作:樽薫る

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第19話『終息』

 あれから改めて、リョウと文は座って酒を飲んでいた。

 チルノは聖白蓮の膝から既に降りており、幽々子もチルノを弄るのはやめたようで、魂魄妖夢に酒を注いでもらいつつ団子を食べている。

 そんな幽々子を横目で見つつ、リョウは“湖で上がったエイ”のエイヒレを齧り、飲む。

 

「よく団子で酒が飲めますね」

「んー?」

 

 幽々子が団子を頬張りながら首をかしげる。

 

「くっ、かわいい」

「ありがとぉ」

 

 自身の言葉にニコッと笑う幽々子にリョウはついつい、押し倒しちゃっても良いぐらい好感度溜まったかな? とも思ったが従者が刀を抜きかねないので思い留まる。

 息をついて落ち着くと、聖と目が合う。

 

「ど、どうしました?」

 

 なんだが邪な気を感じたとか言われては事実故に否定もしにくい。

 そもそもリョウはそういう方向に関して人畜無害と思われがちではあるのだが、普通に性欲もあるしおっぱいが好きだ。

 ちなみに性癖は一般的だと―――本人は自負。

 

「一人で天狗に勝ったと聞きました」

「ああ、そっち」

「そっち?」

「いやなんでも!」

 

 危うく自分からボロを出すところだったが、どうにかなった。

 聖の隣の星はなんとなく察しているのかジト目でリョウを見ていたが、とりあえずセーフと判断して一つ咳払いをするリョウ。

 

「能力も“発動してた”んで正直まっとうな死合いとは言えないっすけど」

「その能力を含めての貴方でしょう?」

「そう、ですかね」

「ええ、それに立派なことを成し遂げました」

 

 笑顔を向けてくる聖に眩しさを感じて目を反らすのは先ほどまで邪な想像をしていたせい、だけではないだろう。

 話を変えようと、リョウは再び咳払いをするのだが、先に口を開くのは聖の方だった。

 

「リョウさん、今度お手合わせ……どうですか?」

「……へ?」

「マジですか鬼とかち合うってのもおもしろそうだったけどやりましょうよリョウ」

「おい」

 

 楽しそうに笑う文を睨んでから聖の方に目を向けるが、決して他意はない純粋な眼を向けられている。

 チルノは楽しみと言わんばかり、星は口を半開きにして驚いているし、幽々子と妖夢も興味ありげ。

 そして聖に再び目線を向けて感じるのは純粋さ。まぁ確かに純粋は純粋なのだが……。

 

(純粋な格闘家……)

「どうしました?」

「ああいや、なんで俺なんて?」

「んー、自分を過小に評価しすぎるのもよくはありませんよ?」

「そのつもりは、ないんですけど」

 

 聖白蓮はリョウと同じく本気の戦いは“ガチ”なタイプである。

 スペルカードルール自体に適応して、その強さもかなりのものだが本気は別で、実際にはリョウが同じタイプと言うには“烏滸がましい”ほどに強い。

 鬼たちも聖も、なぜ自分なんかとやりあいたがるかわからなかった。

 

「ねぇリョウ!」

「え、チルノさん?」

「あたいは知ってるよ! リョウは凄いって!」

 

 満面の、そんな笑みを見せられて、リョウとてさすがにこれ以上は遠慮し続けることもできない。

 そもそもリョウとて仕合自体が嫌いなわけでもなく、聖のような強者相手ならば気持ちが昂らないでもないのだ。

 聖の方を向いて頷くと、嬉しそうに笑顔を浮かべて頷いた。

 

「それじゃあその、今度?」

「はい、盛大にやりましょう」

「文々。新聞も一面に乗せますよ!」

「ちなみになんて書く?」

「もちろん無様に死ぬ人間と」

「死ぬかっ!」

「事実しか書かない射命丸です!」

「なおたち悪いわ!」

 

 リョウと文が取っ組み合いを始めそうな勢いで睨み合うので、妖夢が止めようか悩んでいるとそこに新たに一人加わってくる者がいる。

 緑色のチャイナ服を身に纏った“格闘のプロ”がそこに座った。

 

「あ、美鈴さん」

「お疲れ様ですリョウ」

 

 紅魔館の“本気を出さない門番”が笑みを浮かべる。

 

「お師匠登場かぁ」

「いやぁ射命丸さん、私そんな立派なもんじゃありませんって」

 

 ケラケラ笑う門番の“右腕は無くなっていた”のだが、“どうせ生えるので”周囲はそれほど心配する様子はないようである。

 ちなみに先ほどまで咲夜に『あーん』で食べ物をもらっていたのだが、魔理沙にしこたまからかわれて咲夜はその行為を放棄し今では上空で弾幕ごっこ。

 

「美鈴さんも見に来てくださいよ」

「ん、聖さんとリョウの一騎討ち?」

「聞いてたんですか」

「一応ね」

 

 そう言って左手に持ったお猪口から紹興酒を飲む美鈴。

 

「まあ良い機会ですよ。聖さんは私とまた違ったスタイルですからね」

「おー美鈴が言うんだからちょー強いよ!」

「ありがとうございますチルノちゃん」

 

 笑う聖にチルノも笑顔を浮かべた。

 幽々子が少し考える様子を見せて妖夢を見るが、妖夢は『あなたもやる?』という意図を理解し、勢い良く首を左右に振って拒否をアピールする。

 リョウの戦闘スタイルを知っていると相当な実力差がない限り好き好んでやりたいなど思うわけもないし、どうせ主のことだから弾幕なしとか言い出しかねない。

 

「絶対に嫌ですよ、リョウとなんて」

「あらあら、ですってリョウ」

「え、なんで俺は告白もしてないのにふられたの?」

「リョウ、元気出して!」

「だからチルノさん違うって……爆笑すんな文ァ!」

 

 笑い転がる文に怒鳴るリョウ、それを見て笑う周囲の者たちなんていう構図もすっかり見慣れた幻想郷。

 そうしていると、突如背中にドカッと衝撃を感じて振り替える。

 そこには黒い帽子に青い髪。

 面倒そうに視線を反らして美鈴の方を見るが、美鈴はすでに聖たちと話をしている。

 

「なんだよ天子ぃ」

「なんだとはご挨拶ね!」

 

 比那名居天子はドヤ顔でそこに立っており、その後ろには貧乏神こと依神紫苑が浮遊している。

 本来ならば近づく相手と自分を不運にする能力があるもののどうやら天子には効かないらしく最近は常に一緒にいるそうで、ちなみに姉の依神女苑は命蓮寺にいるそうだ。

 

「ワンコとの約束は守ったわよ!」

「約束……ああ、大切な奴は守れって言ったな」

「……えっ、いやまぁ、そうだけど」

「天人さまぁ!」

 

 リョウの言葉に満面の笑みを浮かべる紫苑と、顔を真っ赤にして眼を反らす天子。

 そして座ったままそんな天子を見上げるリョウの肩に文が顎を乗せ、二人の顔は隣同士だが、そんな至近距離でも意識しないのが二人である。

 まったくいつも通りという風に、文が口を開く。

 

「ねえリョウ」

「なんだ」

「天子と紫苑でてんしおん……百合って素晴らしい」

「なに言ってのテメェ」

「百合って良いもんだと思えました」

「そもそもお前ガチレズじゃん」

 

 顔をくっつくまでに近づけつつ、天子と紫苑を見ている二人は真顔。

 

「お馬鹿、レズと百合は違うんですよ。ただ目の前のが百合ということだけはわかります」

 

 わからん、と思うリョウだったが言うと話が長そうなのでやめておいた。

 

「きっと百合はこう、あれなんですよ……友情寄りっていうか解釈次第って言うか」

「お前が気持ち悪いってことだけはわかる」

「心火を燃やして百合応援します」

「燃やしちゃったら百合炎上するな」

 

 結局、口を出そうと出すまいと文の話は続く、そしてリョウはツッコミを我慢できるほどできた人間ではないのである。

 勝手にリョウの手からグラスを取って飲む文。

 

「あ、私百合を肴に酒飲めるタイプです」

「瞬間最大風速吹いてるぞ、悪い意味で」

「いやぁ、まぁ愛してるのはチルノさんオンリーなんですけど」

「真隣の女が百合談義とか俺の人生どこで間違ったかなぁ」

 

 遠いところをみながら呟く。

 

「おいリョウ!」

「ん、にとりさん……」

 

 赤い顔でテンション高めに話しかけてくるのは河童こと河城にとり。

 先ほどまで誰と飲んでいたのかへべれけであり、面倒そうな気配を感じどう逃げようかと思うも状況は最悪。

 真隣のガチレズ、前門の百合、後門の格闘家。

 

「よいしょっと」

(隣に座られてしまったぜ……)

 

 文とは逆方向の隣に座るにとり。

 つまりは逃げ場なし。

 

「でさーあの照明弾って意味あったのかい?」

「まぁあったよ、タイミングを見計らうには……おかげで状況を動かせ」

「飲んでる?」

「話の最中にそれ聞くか? しかも自分からふっといて」

 

 リョウは顔をしかめて酔っぱらい(にとり)の方を見るがケラケラ笑うのみでまともな反応は帰ってこず、そっとチルノの方を見れば相変わらず聖と幽々子と美鈴と共にいるのだが、さらにそこにパチュリーと小悪魔が投入されていた。

 ますます羨ましくなる。

 

「おーい聞いてるのかよ盟友ぅー」

「おっぱい当たるからやめて」

 

 にとりが自身より高いリョウの肩に腕を回して寄りかかっていると、酔いが回ってきたのかそのまま口に出してしまったリョウ。

 顔をしかめつつにとりの方に視線を向ける。

 

「ん~お姉さんのおっぱいが気になるかぁ、男の子だね~」

「男の子ってかちゃんと男っすよ。二十歳越えてりゃそら」

「全然子供じゃん!」

 

 ゲラゲラ笑うにとりに、それは妖怪にとってはそうだろうと思いつつ、リョウはグラスを傾けて酒を飲む。

 

「てか文はなにやってんの?」

「あややにとりさん、この清く正しい射命丸、百合の良さに目覚めまして! てんしおんを肴に酒を嗜んでます!」

「いつもの文だ」

 

 共通認識というやつである。

 

「ところでリョウ、照明弾と手間賃の分、今度奢ってくれるんでしょ?」

「わかってるよ。店来たときはサービスする」

「おー!」

 

 そう言うとにとりは感嘆の声を上げてニコニコしながらリョウにさらに体重をかけるので、リョウの腕にのしかかる心地良い感触。

 ついつい好きになりそうなので、話を変えようと思ったが目の前の天子が座ってリョウのことを見ていた。

 

「……わかってる、奢るよ」

「やった! あんたの作る御飯おいしいのよね!」

「お褒めに預かり光栄ですよ天人様」

「紫苑の分もね?」

「二人まとめて構わないよ」

 

 その言葉に嬉しそうに笑う紫苑。

 そんな紫苑を見て笑みを浮かべる天子が、そっと顔をリョウに近づけて小声で言う。

 

「ありがとね、紫苑もあんたのケーキとか気に入ってるから」

「そりゃなにより」

 

 ふっと笑って軽く天子の頭を帽子の上から撫でると、満足げに笑みを浮かべてすぐ立ち上がる天子。

 

「今度やりあいましょ、またね!」

「期待してるねー」

 

 去っていく二人を見送ると、リョウはグラスを傾けにとりの方に話を戻そうとするが、反対方向から視線を感じる。

 そちらに視線だけ向けると、そこには文。

 唇すら触れ合いそうな距離、その距離で文はリョウを“睨んでいた”。

 

「……なんだよ」

「百合の間に入るとは、死刑ですよガイア」

「誰がガイアだ」

 

 片手で文の顔を押し退けると、隣で既に“眠っている”にとりをそっと横にしてから立ちあがり、背を伸ばしてグラスに新たにウイスキーを入れる。

 それに気づいたチルノも立ち上がった。

 

「少し涼んでくるけど、チルノさんも来る?」

「うんっ! あたいがいれば最高に涼めるでしょ!」

 

 違いない、と笑うと聖たちに軽く会釈して歩き出すリョウに着いていくチルノ。

 そしてそんなチルノに着いていく文。

 三人を見送って、面々は笑みを浮かべつつ酒を飲む。

 

 リョウたちは、未だけたたましい境内から離れて霊夢の住居の方へと移動し縁側に座る。

 リョウ、チルノ、文の三人で夜空の月を見上げつつ酒を飲む。

 そこで最初に口を開くのは、文だった。

 

「なんでわざわざ離れたんです?」

「なんとなく」

「かっこつけたと」

「なんでそうなる」

「リョウはなにもしなくてもかっこいいよ!」

「うちのチルノさんが良い子すぎる」

 

 呟き、酒を飲む。

 チルノも弱い酒をチビチビと飲んでおり、文は強めの酒をリョウと似たようなペースで飲み進めており、縁側に三人で雑談しつつ、落ち着いてゆっくりと過ごす。

 そんななんでもないような中、チルノがグラスの中を飲み終えて横になる。

 

「えへへっ今回、あたい大活躍だったわね!」

「ほんとさすがチルノさんです!」

 

 チルノの言葉に同意して笑みを浮かべる文。

 

「これもリョウのおかげだね」

「俺はなんもしてないですよ。チルノさんが頑張ったから」

「リョウも頑張ったよ。あたい、みんなに褒められたけどリョウだって褒められたでしょ?」

「……まぁ」

 

 気恥ずかしくなり、顔をそらす。

 

「みんな知ってるよ、リョウが頑張ったって……だからみんなリョウが大好きだよ」

「そう、ですか……?」

「うん!」

 

 ニコッ、と笑うチルノに自身を過小評価しがちと言われたリョウは、素直に彼女の言葉を信じてみようと頷いて笑った。

 風が吹いて、彼の黒い髪が揺れる。

 

「文ぁ」

「ん、どうしましたチルノさん」

「文もがんばったね、えらいよ」

 

 そんな言葉に、息を飲む文。

 少しの沈黙の後にチルノの方を見ずに文は口を開く。

 

「結婚しましょう」

「なに言ってんのテメェ」

「別にリョウは関係ないんだから黙ってて」

「大いにあるわ」

 

 そう言ってリョウは普段ならば『誰と誰が結婚するの?』とか聞きそうなチルノが無言なのに気付き、文と同時にチルノを見る。

 静かな意味を理解し、二人して笑う。

 

「チルノさん、そっちの座敷に運ぶわ……」

 

 そう言って縁側から足を投げ出して眠るチルノを抱き上げると座敷に移動させ寝かせると、近くにあった“霊夢の昼寝用のタオルケット”をチルノにかけた。

 文の方に戻ると、文が先程のチルノと同じように横になっていたのだが、目が合う。

 

「私も眠いから連れてって」

「ほう……」

 

 手を出す文の片手を掴んで―――引き摺る。

 

「痛い痛い痛い羽折れる!」

「折れろ、いっそ」

「ひどいっ」

 

 手を離すと、文はのそのそと這ってチルノの隣に移動するのでリョウはグラス片手に、文とは反対のチルノの隣に座る。

 文が思いの外すぐに眠るが、酔いつぶれて博麗神社に泊まる者は少なくないので別に構わないだろうと、リョウは納得して頷くとチルノの頬を撫でた。

 

「……ありがとな、チルノ」

 

 グラスを傾けて琥珀色のウイスキーを流し込み、リョウは息をついた。

 

 

 

 宴会が落ち着き、神社の主こと博麗霊夢は酔っぱらいそこらで寝ている連中を起きている連中に適当に押し付け、持ち帰ってもらい、持って帰ってもらってない連中を適当に運ぶ。

 そこでいつの間にやら消えていたリョウたちが気になる。

 

「……あっちか」

 

 自宅の方へと歩いていき、靴が置いてある所を見て縁側へ上がり襖を開けると思わず笑みが零れる。

 酔い潰れているのかと思ったが、安らかに眠る三人がそこにはいた。

 チルノを真ん中にリョウと文も、三人で一枚のタオルケットを使って眠っており、その姿は微笑ましいと表現する他なく、柄にもなくそんなことで笑いつつ掛け布団を押し入れから出して三人にかける。

 

「おやすみ」

 

 そう言って“親子のようにも兄妹のようにも見える”三人に微笑みかけそっと立ち去ろうとするも、縁側に立つ女性を見て苦笑を浮かべ襖も閉めずに去っていく。

 そして残された女性こと八雲紫は、三人を見て笑みを浮かべ頷くと、そっと襖を閉じた。

 

 

 ―――おやすみなさい。

 

 

 こうして、“タタリ異変”は終了を迎えた。

 

 




あとがき

これにてタタリ編終了!
急ぎすぎて雑になってなきゃ良いけども(メソラシ

なんとかここまで漕ぎ着けたんで次回からは日常編
伏線ばらまきつつ、ギャグパートとか入れつつ
チルノさん伝説はまだ終わらない

それでは次からもお楽しみにー
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